ソラ色の嘘

松田エルナ

ソラ色の嘘(脚本)

ソラ色の嘘

松田エルナ

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ソラ色の嘘
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〇黒背景
  暗闇──
  どこまで行っても光のない世界
  それが私の人生
  『あの人』が・・・
  現れるまでは・・・

〇見晴らしのいい公園
ソラ「先生」
ソラ「今日は何が見えますか?」
しわがれた声「やあ、ソラくん」
先生「今日もいい天気ですね」
先生「それにしても・・・」
先生「よく足音だけで私だとわかりますね」
ソラ「眼は見えないけど、耳だけはいいから」
ソラ「それに、先生の足音って独特だし」
先生「はは・・・私は足が悪いですからね」
先生「特に、今日みたいに一段と 冷えた日は足が痛んでね」
ソラ「身体いたわってね 歳なんだから」
先生「はは・・・」
ソラ「でも、ホント今日は寒いですね〜」
ソラ「まあ、暖かい日なんてないけど」
先生「でも、こんな冷えた日は 空がこんなに澄み切って、まさに・・・」
ソラ「美しい『空色』」
ソラ「・・・でしょ?」
ソラ「先生のイジワル!」
ソラ「私が生まれつき 眼が見えないのわかってて・・・」
先生「すみません・・・ そういうつもりでは」
ソラ「あー、私もホンモノの キレイな空色が見たいなぁ!」
ソラ「ね、私の眼もうすぐ見えるように なるかもしれないんだって!」
ソラ「そしたら、やっぱり最初は 晴れた日の青空が見たいな!」
先生「・・・」
先生「眼が見えるからといって・・・」
先生「キレイな空が見られるとは 限りませんよ」
ソラ「えー、なんで!? 何それ!?」
先生「同じ空を見ても 美しいと感じるか・・・」
先生「はたまた見飽きた 日常の背景と感じるか」
先生「人しだい、心の持ちようですよ」
先生「そういった意味では ソラくんもすでに美しい青空を見ている」
先生「いつも、僕の言葉を通じて・・・ね」
ソラ「ふーん・・・ そっかぁ」
ソラ「・・・って」
ソラ「私、なんか言いくるめられてる?」
先生「バレましたか」
ソラ「ちょっとぉ!! 先生!!」

〇黒背景
  私は生まれつき眼が見えない
  この病院に閉じ込められて育った
  私の世界は・・・
  病室と、この庭だけ
  たとえ眼が見えたとしても
  私はどこへも行けない
  光なんかいらない──
  どこまでも暗闇の人生──
  そんなとき・・・
  先生と出会った

〇見晴らしのいい公園
しわがれた声「おや、先客がいらっしゃいましたか」
先生「こんにちは 今日は良い天気ですね」
先生「となり、よろしいですかな?」
ソラ「・・・」
ソラ「天気なんか・・・ 私には関係ない」
ソラ「ただ・・・クスリ臭い病室に いたくないだけ」
先生「・・・」
先生「おや・・・」
ソラ「え?」
先生「鳥たちがあんなに群れに」
先生「もう渡り鳥の季節ですか」
先生「今日の深い紺碧色の空には 白い羽と朱色のクチバシがよく映えます」
先生「ああやって長い旅路をゆくのですね」
先生「僕たちが見たこともない異国の地へ・・・」
ソラ「・・・」

〇黒背景

〇見晴らしのいい公園
しわがれた声「おや、今日もまた会いましたね」
先生「今日もいい天気ですねぇ」
ソラ「医者って・・・ヒマなの?」
先生「・・・なぜ、姿が見えないのに 僕が医者だと?」
ソラ「病室で『先生』って呼ばれてたから」
先生「・・・耳がいいですね」
ソラ「それだけが取り柄だからね」
先生「たとえ忙しくても・・・」
先生「こんな美しい星空の日に 空を見上げないなんて勿体ない」
ソラ「星・・・?」
ソラ「空に浮かぶ光の粒・・・」
先生「そう、とても美しい夜ですよ」
先生「想像してごらんなさい」
先生「キミにも見えるかもしれませんよ?」
ソラ「そんなの見えるわけ・・・」
ソラ「・・・」
ソラ(私の目の前にあるはずの景色が どんなものか・・・)
ソラ(最近は想像しようともしてなかったな)
ソラ「・・・え、何の音!?」
先生「・・・」
先生「おや、花火ですね」
先生「向こうの町のお祭りでしょうか」
先生「夜空が虹色に染まっていますよ」

〇宇宙空間

〇見晴らしのいい公園
ソラ「それって・・・」
先生「はい?」
ソラ「どんな色なの?」

〇空
  先生の話に出てくる色を・・・
  ホンモノの『空色』を見てみたくなった

〇黒背景
  でも・・・
  それは叶わなかった

〇見晴らしのいい公園
ソラ「あ、先生! 今日は・・・」
先生「・・・」
ソラ「先生・・・泣いてるの?」
先生「すまない・・・ 一人にしてくれませんか?」
ソラ「どうしたの・・・?」
先生「・・・」
先生「私の故郷が焼かれて・・・」
先生「大切な人がたくさん死んだ」
ソラ「え・・・?」
ソラ「なんで・・・どうしてそんなこと」
先生「・・・」
先生「本当はキミもわかってるんでしょう?」
先生「この空に・・・」

〇空
  『空色』なんてないってことを──

〇見晴らしのいい公園
ソラ「先生・・・?」
先生「昔から続く戦争のせいで 陽の光も差さない・・・」
先生「ずっとこの濁った赤黒い空です」
先生「戦争が終わりでもしない限り・・・」
先生「この空は死んだままです」
ソラ「でも・・・」
ソラ「渡り鳥や花火の話を・・・」
先生「・・・」

〇荒廃した市街地
  渡り鳥は・・・
  僕たち市民を監視する偵察ドローン
  花火は・・・
  向こうの町に降り注ぐ空爆の音

〇見晴らしのいい公園
先生「すべて・・・僕の嘘です」
先生「すまない、僕は嘘つきなんだ」
ソラ「嘘・・・」
先生「せめて、現実の光景を映さない ソラくんの『眼』には・・・」
先生「美しかったころの空を 『見て』いてほしかった」
ソラ「先生・・・ひどいよ」
先生「すみません・・・」
先生「もう・・・ここへは来ません」
ソラ「え・・・?」
先生「僕は医者でも何でもない」
先生「足をケガした、ただの療養中の負傷兵・・・」
先生「元、小学校の『先生』のね」
先生「このしわがれたような声は 戦場の炎で焼かれたんだ」
先生「キミにとってみれば 老人のように聞こえたかな」
ソラ「え・・・!?」
先生「僕は明日・・・ 戦場に戻ります」
ソラ「・・・!!」
ソラ「そんな・・・!」
先生「もう・・・戻っては来れないでしょう」
先生「キミと空を見るのも これが最後になりますね」
先生「すまなかった」

〇空
  ソラくんの『見て』いる空色さえ──
  僕は守ることができなかった

〇黒背景
  あなたは最後まで優しい嘘つきだった
  でも・・・
  一つだけ本当のことを言ってた
  だって、ほら・・・
  私の眼に映る最初の色は──

〇空
  こんなにキレイな『空色』──

〇見晴らしのいい公園
しわがれた声「やあ・・・」
しわがれた声「今日こそ本当に・・・」
しわがれた声「いい天気ですね」

〇空
  でも、やっぱりあなたは・・・
  うそつきです。

コメント

  • どの作品も心にしっかり食い込みます
    今回は戦争や目が不自由だったり喉が焼かれていたり
    悲しみや辛さの中でそれでも生きようとする人間ドラマでした

    まさか戦争中だとは
    まさか先生じゃないとは
    だから第一声の声主がしわがれた声、だったんですね

  • 遅くなりましたが読ませていただきました!
    すごく綺麗に流れるような、とても考えさせられる内容でした。奪われてしまった日常の世界を、彼女の目には見ていてほしい。「先生」らしい優しい嘘は、争いに対する本音なのかな、と。
    エルナ様のどんでん返し、どれもはっとさせられますが、これは名作ですね!

  • ソラちゃんと一緒に読者も見ていた穏やかな日常が、ガラリと変わる瞬間にハッとさせられました。
    救いのあるラストでよかった😭✨ キャラクターにぴったりの素敵なお話でした✨

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