自由の女神(4)(脚本)
〇西洋風の部屋
最上「これはこれは・・・」
最上「外観と違って随分明るいご家庭ですな」
ダリア「貧民窟のニオイは持ち込まないようにしてるのよ」
ダリア「こんな場所でも私にとってはたった一つの安らぎなんだから」
最上「申し訳ない」
ダリア「見たいものとかあったら何でも言ってくれればいいけど、静かにね」
ダリア「あの子、もう寝てる時間だから」
最上「分かった」
「う~ん。帰ったの~?」
「だれ~?お客さ~ん?」
最上「ははっ!起こしちゃったかな?」
最上「よーし坊や!お兄さんが、ちょっと遊んであげよう!」
燕「・・・」
最上「・・・」
ダリア「ただいま」
燕「お帰り」
最上「・・・おい、面倒みなきゃいけない人って」
ダリア「ジュン君で~す。可愛い盛りでしょ~」
最上「ヒモではないか!」
燕「し、失敬な!いきなりなんだ君は!」
最上「なんだチミはつったか!ヒモの分際でなんだチミはつったか!」
燕「ヒモではない!」
燕「彼女は僕の才能と将来性を信用して金銭的に援助してくれているのだ!」
最上「それをヒモと言うんだ!」
ダリア「燕(つばくろ)純君。詩人で小説家なの」
最上「また文系崩れか。帝都にはまともに働く気のある若者はいないのか」
最上「閣下や天粕の粛清思想が理解出来てきたぞ」
燕「ねえ、なんで憲兵がここにいるの?」
燕「ま、まさか僕の才能を危険視して・・・」
最上「誰が売れない詩人など捕まえるか!税金の無駄だ!」
ダリア「あ、あっそ」
ダリア「じゃあ用が済んだところでそろそろ・・・」
最上「あんたのヒモに説教をするために来た訳ではない!」
最上「ここにいるのは分かってるのです!来栖川義孝閣下!」
ダリア「ちょ、ちょっと何言ってるの?意味わかんないんだけど」
最上「引き戸をノックする者はいない。あれは、中の人間に対する合図だ」
最上「仮に子供だとしてもそれくらい出来る」
最上「まあ、全然子供ではなかったが」
ダリア「じゃあなんで私の家だけ調べるのよ!あの男を知ってるヤツなんて蓬莱街に幾らでもいるじゃないの!」
ダリア「他の連中の家も当たった後なら調べさせてあげるわよ!」
最上「あなたは私と一緒にいた猪苗代女史を帝都日報の記者と間違えた」
ダリア「誰それ?どこにでもいる様な特徴のない女の顔なんていちいち覚えちゃ・・・」
ダリア「特徴まみれだったから覚えてるわ・・・」
最上「しかも『帝都日報の女狐』と呼んだ」
最上「それは帝都日報女性記者三島女史の蔑称。その呼び方をするのは来栖川閣下のみ」
最上「閣下はきっと私が自分を探して再び蓬莱街に現れると予測して私に関する情報を全部あなたに教えていた」
最上「ただ猪苗代女史の存在だけは知らなかったんです」
最上「だからあなたは猪苗代君を三島女史と間違えて女狐と呼んだ。閣下しか使わない蔑称で・・・」
ダリア「そんな・・・女の記者を二人も飼っていただなんて」
最上「い、言い方!」
ダリア「それを見越した上でグレードの低い方の女を連れて来たのね」
猪苗代(最上の背後霊)「言い方!」
ダリア「あ~あ。バレちゃ仕方ないか」
ダリア「本当、憲兵って怖いお仕事なのね」
ダリア「小鹿みたいな顔してても、常にそうやって人の顔つきを見逃さず口にした言葉を聞き逃さず、ネチネチ疑ってかかってんだから」
ダリア「どうせ私の事もさんざん調べ上げた上で、ボロを出させるように偽女狐さんを連れ立って来たんでしょ」
最上「私はそんな策士でも予知能力者でもない。ほとんどただの偶然だ」
最上「ただ・・・閣下」
最上「神様の見えざる何かが、あなたの居場所に導いてくれたとは思っています」
最上「私ではありません」
最上「あなたが命懸けで守り抜いたあの娘に」
ヒナ「・・・邪魔するぜ」
ダリア「ヒナ・・・」
ヒナ「悪い。この家教えたのオイラなんだ」
ダリア「そう、アンタじゃ仕方ないね」
ダリア「ねえジュン君~たまには外でどう?」
燕「やぶさかでない!」
ダリア「じゃあ私達が終わるまでこの家自由に使っていいよ」
ヒナ「・・・」
最上「教育上!」
最上「さあ閣下。追い詰めましたよ」
ヒナ「観念しろよ。男爵サン」
『いいだろう・・・お前達の勝ちだ』
「・・・」
「服装!」
つづく