23/記憶(脚本)
〇シックな玄関
コロン「やはりコクノは、死んではいないようです」
「・・・・・・え?」
コロン「死体が発見されていないからという理由もありますが、一番の理由は、先輩方が覚えているからです」
コロンがようやく、久野に向けていた銃を下ろした。
久野フミカ「・・・・・・どういうこと?」
コロン「そもそも我々悪魔や天使は、肉体が生きているかどうかよりも、名称が覚えられているかどうかが重要になります」
「名称・・・・・・?」
よくわからないが、多分難しい話が始まるのだろう。
しかし久野は僕と違って、コロンの話についていこうとしているようだった。
久野フミカ「それって、誰からも忘れられた時、人は本当の意味で完全に死ぬ、みたいなこと?」
しかしコロンは相変わらず、久野に冷たい。
コロン「いえ、逆です」
コロン「例えばコクノがもし本当に死んだら、死んだ瞬間、先輩方の彼女に関する記憶が消えます」
「記憶が、消える・・・・・・?」
コロン「コクノが死んだことも、生きていたことも誰も覚えていない」
コロン「つまり、コクノという天使を誰も知らなかった時の状態に戻るということです」
久野フミカ「・・・・・・」
コロン「でも先輩方は、今でもコクノのこと、ご存じですよね?」
その一言に、久野の声が大きくなる。
久野フミカ「知ってる。知ってるし、覚えてる!」
「・・・・・・」
久野フミカ「全部、作り物だったのかもしれない、けど、でも、覚えてる・・・・・・」
僕が久野のアンドロイドで、コクノが久野の妹である世界。
あれがコクノが再現した世界、つまり作り物の世界であることを、どうやら久野も知っているようだった。
恐らく最後に、コクノから聞いたのだろう。
「久野・・・・・・」
するとコロンが、またニッコリと笑った。
コロン「それが答えです」
コロン「先輩方がコクノのことを覚えている以上、コクノは今もどこかで存在していることになる」
「・・・・・・」
久野は、コロンの言葉に胸をなでおろした。
久野フミカ「良かった・・・・・・」
コロン「理論上は、です。我々悪魔は人間と違って、他の悪魔が死んだことも覚えているという例外はありますから」
その時ふと僕を見た久野が、なぜかくすりと笑った。
「・・・・・・な、何だよー?」
久野フミカ「あー、いや、ごめん」
久野フミカ「改めて見たら、うさ耳つけてるコハクが何かシュールで」
「・・・・・・ていうか、今後久野と会う時って、ずっとこの格好ってこと?」
久野フミカ「それは、そうなる、けど・・・・・・」
久野フミカ「でもそのカチューシャ・・・・・・学校でもつけてくれるの?」
この指輪とカチューシャをつけているから普通に会話ができているのだとしたら、
カチューシャを外した僕を見たら久野はゾンビになってしまうということ。
それは良くない。
しかしだとしたら、これから久野と会う時はずっと、うさ耳のカチューシャをつけたままということになる。
それは流石に、恥ずかしい。
コロン「それなんですが、恐らくその装備、他の人間には見えませんよ」
「え、何で?」
コロン「それは・・・・・・そういうものだとしか、私からは言えませんね」
久野フミカ「そういう、もの・・・・・・」
今日のコロンはよく言葉を濁す気がする。いや、元からそんな感じはあったっけ。
コロン「試しに今日、その格好で登校してみては?」
「えー・・・・・・」
久野フミカ「・・・・・・あ、私も着替えて来よ」
時計を見ると、ゆっくり朝ご飯を食べていられるような時間ではなくなっていた。
コロン「そうですね」
コロン「久野先輩はもう帰って良いですよ」
コロン「あんまりのんびりしていると、学校に遅れてしまいますからね」
久野フミカ「あ、うん・・・・・・」
「もうこんな時間か。じゃあ、また学校で」
久野フミカ「え」
「・・・・・・え?」
久野は、僕の方を見たまま、何か言いたげな顔で立ち止まっている。
「・・・・・・え、今日は学校、来るよね?」
「この指輪とうさ耳があれば、もうゾンビになることも、無いわけだし」
久野フミカ「それは、うん・・・・・・」
「良かった。じゃあまた、学校で」
それでも久野は、何か納得が言っていないようで歯切れが悪い。
久野フミカ「コハク、えっと・・・・・・」
「ん?」
久野フミカ「いや、その・・・・・・」
何でも割とはっきり言う久野が、珍しくどもっている。
どうも様子がおかしい。
疑うわけではないが、本当に久野はちゃんと、ゾンビになっていないのだろうか。
コロン「はい、ゾンビにはなっていません」
見兼ねたコロンが、僕の心を読んでからため息を一つついた。
「コロン・・・・・・」
コロン「ですが久野先輩」
コロン「お兄様がその装備を外すとどうなるか・・・・・・覚えていますか?」