第八話「北の大地 明治札幌④」(脚本)
〇田舎駅の改札
「クラーク先生、先生! 行かないで。クラーク先生!」
女子学生達は、クラーク博士の周囲を囲み、涙を流しながら島松の駅舎まで見送りに来ていた。
一方では、官憲がその様子を木陰からじーと、隠れて見てもいた。
長崎からきた「鈴(スズ)」「根性なしの男どもは、誰も見送りにこなかっただ!」
鈴は涙を流しながらクラーク博士に述べた
クラーク博士「責めるな。誰も責めることはできないのだ」
クラーク博士は少しだけ悲しそうな表情で答えた。
クラーク博士「何人にも悪意を抱かず。全ての人に慈愛の心を持て」
そう述べると、クラーク博士は見送りに来ている女学生達に、優しい眼差しを向けながら馬に乗った。
クラーク博士「「Both」 be ambitious(「ボース」・ビー・アンビシャス)!」
クラーク博士「「両性」よ、大志を抱け!」
クラーク博士「性別なく、芽を咲かせるじゃがいものように、男子学生、女学生に関係なく、貧者のためにあれ!」
クラーク博士は、見送りに来た女学生達にそう言い残し、去っていった。
見送りに来ていた女学生達は、その後ろ姿をいつまでも、いつまでも見守っていた・・・。
〇湖畔の自然公園
「お姉さま」と慕われる女性「なんで見送りに来なかったの!」
姉貴分の女学生は、兄貴分の男子学生の服を掴みながら、悲しそうに言った。
「お姉さま」と慕われる女性「クラーク教頭はこう述べられたわ」
姉貴分の女学生は、涙ぐみながら話を続けた
「お姉さま」と慕われる女性「Both, be ambithions(ボース・ビー・アンビシャス)と」
「お姉さま」と慕われる女性「男であれ、女であれ、大志を抱け!」
「お姉さま」と慕われる女性「そして、世のため、人のため、貧しいものたちのために働きなさいと」
「お姉さま」と慕われる女性「貧者のための食べ物である、じゃがいものように」
「お姉さま」と慕われる女性「同時に、種芋から目をだすジャガイモのごとく、性別の区別や貧富なく大きな志を持て!とね」
姉貴分の女学生は、泣きながら兄貴分の男子学生を責めた
兄貴分の男子学生は、地面にガクと膝をつき、その場で伏せて大いに泣いた。
〇豪華な部屋
「クラークは国外追放。女学生達は全員退学させました。今回の不祥事が漏れることがないよう、手もうってあります」
従者が、元老と呼ばれる男に、恭しく頭を下げ報告をしていた。
「それで良い。耶蘇(ヤソ)と女を入れれば、国が弱くなる」
元老は立ち上がると、窓の方に立った。
「ヤソと女は桜にしがみつく、小うるさいセミだ。それは、堤防を穴だらけにしてしまう」
「これから日本は、アジアの一等国として、是が非でも力を付けなければいけない大切な時だ」
「農学校は、一等国家の大日本を担う大切な堤防だ。その堤防に、ヤソも女も必要ない!」
そう言うと元老と呼ばれるその男は、机をドンと強く叩いた。
従者は深く深く頭をさげていた。