22/死体(脚本)
〇シックな玄関
「・・・・・・僕を見ても、大丈夫なのか」
久野フミカ「うん、そうみたい」
久野フミカ「多分その指輪と、カチューシャのおかげ」
そうは言ってもまだ少し警戒しながら、久野がゆっくりと玄関に入ってきた。
改めて指輪を見るが、正直あまり、高そうには見えない。
「これって・・・・・・何なの?」
久野フミカ「コクノからもらった」
久野フミカ「この二つをコハクにつけてもらえれば、私が暴走せずに済むからって」
「・・・・・・コクノは、生きてるの?」
僕の聞き方で、その事実を確信したらしい久野が、肩を落とした。
そして辛うじて聞こえるか聞こえないかの声で告げた。
コクノが自分の目の前で、死んだことを。
「・・・・・・」
わかっていたことではあった。
僕が久野のアンドロイドである世界は、コクノが作っていた、いや、再現していたとコクノ自身がそう言っていた。
世界が元に戻ったということは、その創造主が、力を使い果たしたということ。
結局コクノの言っていたことも、コロンの言っていたことも、正しかった。
コロン「おはようございます・・・・・・久野フミカ」
コロン「念のため、コクノが死んだという根拠をお聞かせ頂いても、よろしいですか?」
いつの間にかコロンが、玄関に入ってすぐの階段の手すりに寄り掛かっていた。
そして当たり前のように、久野に向かっていつもの銃を構えている。
「ちょっとコロン!」
コロン「そいつは、いつお兄様に襲い掛かってもおかしくありませんから」
「で、でも、今こうして普通に会話できてるし・・・・・・」
コロン「だからです先輩」
コロン「つまり普通に会話できている理由が、コクノの力の可能性があるということです」
コロン「久野フミカさん、正直に答えてください」
コロン「本当に、コクノは死んだのですか?」
「え・・・・・・?」
どういう、ことだ?
コロンはコクノが、まだ生きていると思っているのだろうか。
勿論そうであってほしいのはやまやまだが、そもそもコクノが死んだと初めに言い出したのは、他でもないコロンのはずだ。
久野フミカ「・・・・・・わかった。それで何か、わかるかもしれないなら」
コロン「・・・・・・」
久野は俯いたまま、僕と別れた後のことを少しずつ話し始めた。
コロンは変わらず銃を構えたまま、久野を睨んでいる。
久野フミカ「あの後、コハクと別れてスマホを取りに家に戻った時、」
久野フミカ「玄関の扉を開けたら、リビングの方から、銃声みたいな音がして・・・・・・」
僕は咄嗟にコロンを見てしまった。
それを見たコロンが、目をまんまるにする。
コロン「ひどいですよお兄様。銃と言えば私ですか?」
「あ、ごめん・・・・・・」
でも今現在、僕の中で銃といえばコロンだ。
コロン「でもあの時、私はずっと先輩と一緒にいたじゃないですか」
「それは、確かに・・・・・・」
久野フミカ「コロンじゃなかったと、思う」
久野フミカ「背の高い、女の人だったと思うから」
久野に庇われる形になったのが気に入らなかったようで、さらにコロンがご機嫌斜めになった。
コロン「じゃあそれってもしかして、あなた自身だったんじゃないんですか?」
コロン「久野フミカさんは、私よりもちょっと背が高いようですし」
「いやいやコロン、そんなわけないでしょ」
コロン「・・・・・・」
コロンがそっぽを向く。
この悪魔は、さっきから一体何がしたいのだろうか。
僕はひとまず、話を進める。
「じゃあ久野は、コクノを撃った犯人を見たってこと?」
久野フミカ「うん、誰かはわからなかったけど」
久野フミカ「私がリビングに入った時、ベランダから飛び降りて逃げるところを見ただけだから」
「そっか・・・・・・」
背の高い女の人・・・・・・。
僕には心当たりが無かった。
恐らく久野も、知らない人だったのだろう。
久野フミカ「それでリビングを見たら、コクノが、血を流して倒れてて・・・・・・」
久野の声が、段々小さくなっていく。
「・・・・・・」
久野フミカ「その時はまだ、話もできて・・・・・・その時に、その指輪とカチューシャをくれて」
久野フミカ「これをコハクにつければ、今まで通りに戻れるって・・・・・・」
「今まで通りに戻れる・・・・・・?」
久野フミカ「あの時は何のことかよくわからなかったけど、今日目が覚めた時には記憶が戻ってて」
久野フミカ「だからもしかしたら、今まで通りっていうのが、私がコハクを見ても、変な風にならずに済むってことなのかと思って」
それでやってみたら、その通りだったというわけか。
久野がゾンビにならずに済んでいる原因は、コクノが託したこの指輪とカチューシャのおかげと見てまず間違いはなさそうだ。
コロン「そうですか。それでその後、コクノは死んだんですか?」
コロンが遠慮なく問い詰める。
久野フミカ「・・・・・・うん。その後急に視界が真っ暗になって」
久野フミカ「それで気が付いたら、指輪とカチューシャを握ったまま、布団の中にいて」
久野フミカ「もう、朝になってた」
「・・・・・・」
そして今に至る、と言うことなのだろう。
真っ暗になってからの流れは、僕と大体同じな気がする。
コロン「そうですか」
コロン「それで今、コクノの死体はどこに?」
「死体・・・・・・?」
コロン「ええ。死んだら死体が残るはずですよね?」
それは、確かに。
でも天使みたいな神秘的なものは、命が尽きたら光になって消えるイメージが僕の中にはあった。
コクノやコロンも、そういうものなんだと思っていた。
久野フミカ「でも、私の家にはもう、コクノはいなかったけど・・・・・・」
するとしばらく考え込んでいたコロンが、釈然としない様子だったがこう断言した。
コロン「やはりコクノは、死んではいないようです」