殊歌~ことか~

咲良綾

【読切】殊歌~ことか~(脚本)

殊歌~ことか~

咲良綾

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〇店の休憩室
佐々山「殊歌。開示請求の結果が出たが、 難しいことになった」
殊歌「え?」
佐々山「お前をネットで誹謗中傷していたのは、 沙耶良だ」
殊歌「!?」

〇音楽スタジオ
沙耶良「殊歌姉の歌、大好き!」
沙耶良「沙耶良の目標だよ」

〇オフィスの廊下
沙耶良「沙耶良の歌、初登場1位だって!」
沙耶良「殊歌姉のおかげだよ☆」

〇店の休憩室
  最高に可愛い、事務所の後輩。
  懐いてくれて、妹のように思ってた。
  アイドルとして人気も出て、
  順風満帆に見えるのに・・・
殊歌「本当に沙耶良? 何かの間違いではなく?」
佐々山「本人が認めてる。 内密に示談で済ませたいと申し入れがあった」

〇SNSの画面
  綺麗事ばっかでウザい
  自分に酔っててキモい
  この曲パクりじゃね?
  枕やってるらしいよ
  豊胸ヘソ出しビッチ
  死ねばいいのにw

〇店の休憩室
  あの苦しみが終わると思っていたのに

〇応接室
殊歌「沙耶良・・・ 私の歌が好きっていうのは嘘だったの?」
沙耶良「・・・嘘じゃない。大好きだったよ」
殊歌「じゃあ、どうして」
沙耶良「殊歌姉は沙耶良のこと、 ライバルとして気にもとめてない」
沙耶良「沙耶良が勝っても涼しい顔で祝福して、 ジタバタするのは沙耶良だけ」
沙耶良「惨めなの! 何をしても報われないの!」
沙耶良「努力して可愛くして 愛されるパフォーマンスを研究して」
沙耶良「特典で釣ってファンに大量購入させて 数字だけは追い抜いたけど」
沙耶良「気づいたらファンの欲に振り回されてるだけ。 歌いたかった歌は殊歌姉が歌ってる」
沙耶良「愛想笑いもせずに、みんなの心を奪ってく」
沙耶良「もう見たくなかったの! 殊歌姉が幸せそうに歌ってる姿を」
殊歌「・・・!」
  好きな歌を歌うだけで傷つけるなんて
  嫉妬しないことが残酷だなんて
  思っても いなかった

〇黒
  そして私は
  
  歌えなくなった

〇水の中
  声が出ないわけじゃない。
  
  ただ、歌えない。
  歌おうとすると
  お腹から力が抜ける。
  
  喉が詰まる。
  曲も作れない。
  
  何も出てこない。

〇音楽スタジオ
佐々山「少し休もうか。殊歌」
殊歌「・・・はい」

〇お台場
  歌わないなんて初めてで
  それでも世界は素知らぬ顔で回る

〇見晴らしのいい公園
  私が歌わなくて困る人は
  案外いないと痛感する
  代わりはいくらでもいる

〇森の中
  なんかもう 終わりたい
  痛いのや苦しいのは嫌だな
  ここでずっと寝てたら終われるかな
殊歌「!」
???「あっ、ごめんなさい」
殊歌「いや、別に・・・」
瞳子「大丈夫ですか?」
殊歌「!」
瞳子「あ、びっくりしますよね。 この目」
殊歌「・・・ケガ?」
瞳子「はい。事故は2年前だけど、 何度か整形手術をしていて」
殊歌「・・・痛くない?」
瞳子「はい。傷自体は、もう」
瞳子「この子、盲導犬なんですけど 何か失礼なことはしませんでしたか?」
殊歌「大丈夫。私が寝ていたから、 倒れてないか心配したんだろう」
殊歌「賢い子だな」
瞳子「そうなんです、リュウは賢くていい子です」
瞳子「いつも私を助けてくれて・・・ 役立たずな私とは大違い」
殊歌「自分をそんな風に言うのは良くない」
瞳子「でも私、漫画家だったんです」
殊歌「えっ」
瞳子「しかも名前は瞳子。瞳に子。皮肉みたいでしょ」
瞳子「描くのが好きで、それだけ夢見て やっとデビューして連載取れたのに」
瞳子「全部なかったことになって、大事なキャラたちの未来も暗闇に閉ざしてしまった」
殊歌「・・・つらかったな」
瞳子「はい。もう生きられないと思いました」
瞳子「でも、リュウが来てくれた」
瞳子「リュウは毎日、私が生きるために一生懸命で 私が拗ねてても荒れてても全然関係ない」
瞳子「だから死ぬのはやめたけど・・・」
瞳子「私、ひどいんですよ。 人を羨んで何度薄汚く呪ったかわからない」
瞳子「やっぱり思ってしまう」
瞳子「リュウは私の何がそんなに大事なの? 生きてていいの?って」
殊歌「生きてていいに決まってる」
瞳子「・・・ありがとうございます」
  薄っぺらい言葉だ。
  私がこの子の何をわかっているのか。
  もし私の耳が聴こえなくなったらどうだろう。
  物理的に歌えなくなったら?

〇水の中
  考えただけで苦しい。酸素が足りなくなる。
  好きだから。
  歌が好きだから。
  私の声はなくなったわけじゃない。
  自ら手放していいはずがない。
  歌いたい。
  歌いたい・・・!

〇森の中
殊歌「♪役に立てなくて 特別じゃなくて」
瞳子「!」
殊歌「♪うつむく痛みを あなたは知ってる」
殊歌「♪濁った涙さえ 大事だと伝えたかったの」
殊歌「♪罪を越えた先で 歌える歌がある」
殊歌「ごめん、突然歌ったりして」
瞳子「いいえ。 とても・・・とても素敵」
殊歌「私、歌えなくなってたんだ」
殊歌「瞳子の話を聞いてたら、曲が降りてきた」
瞳子「私の話で?」
殊歌「続き、歌ってもいい?」
瞳子「うん、聴きたい」
殊歌「♪誰かより価値が あるからじゃなくて」
殊歌「♪あなたの歴史が 人を温める」
殊歌「♪愛される理由(わけ)など 本当は誰もいらないの」
殊歌「♪あなたは抱き締める 身体を持っている」
瞳子「優しい歌。 あなたの歌を聴いてると、なんだか・・・」
瞳子「色が見える。私のキャラたちが見える」

〇川沿いの公園

〇森の中
瞳子「まだ生きてる、あの子たち生きてる」
瞳子「私の絵じゃなくていい」
瞳子「届けたい」
瞳子「私の物語はまだ、死んでない」
殊歌「うん、私も読んでみたい。 瞳子の物語」
瞳子「あなたの声、知ってる気がするの」
瞳子「・・・名前、聞いてもいい?」
殊歌「殊歌」

〇見晴らしのいい公園

〇お台場

〇音楽スタジオ

〇テレビスタジオ

〇渋谷駅前

〇渋谷の雑踏

〇コンサートホールの全景

〇コンサート会場

〇ホールの舞台袖
殊歌「沙耶良、聴いてくれた?」
沙耶良「うん・・・」
殊歌「あなたがどんなに淋しくても、 私は一緒に堕ちてあげたりしない」
殊歌「綺麗事を信じて、歌って待つよ」
殊歌「全部許したくなるような沙耶良の歌を」
沙耶良「!」
沙耶良「・・・っ」
沙耶良「沙耶良がどうして淋しかったのかわかったよ」
沙耶良「愛されたがるばかりで 沙耶良の歌も ファンも 愛してなかった」
沙耶良「・・・ごめんなさい」

〇店の休憩室
佐々山「本が届いてたぞ」
殊歌「ありがとう」
  『原作:瞳子』
殊歌「届いたよ、瞳子。おめでとう」

〇ライブハウスのステージ
  愛されるためじゃなくて
  愛するために歌うんだ。
  歌を愛してる。
  私が一番、私の歌を愛してる。
  Fin.

コメント

  • 嫉妬しないことが人を傷つける…って気付いて書けなくなる主人公は天才であり優しい人なんだと思いました。

  • 作詞までされていてスゴい!✨
    ぜひ声優さんに歌ってもらいたいですね😊
    前作コラボもよかったです!

  • 優しいお話でした😆BGMにぴったり合っていて、歌声が今にも聞こえてきそうです✨殊歌、カッコ良かった❗
    後輩ちゃんも自分の行いを振り返って、本当の意味でライバルになれるように頑張って欲しいなぁ。気持ちは分かるから😭

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