第9話 こんにちはミメイ(脚本)
〇システムキッチン
エラ「ミメイ」
ミメイ「ひさしぶり。ほんとうにひさしぶりだね。私のシンデレラ」
ビストライト(・・・ミメイだとわかるのか? 容姿も知らないと言っていたのに)
ミメイ「たまには食材を取り寄せて料理してみようと思ったけど、なかなか難しくてね」
ミメイ「みんなはできることが、私にはできないのさ」
ビストライト(でも、ほかの誰にもできないことを、あなたはできる)
エラ「ミメイ。お前を殺しに来た」
エラ「間違いなく、寸分の狂いもなく、確実に、お前の息の根を止める」
ミメイ「・・・そう」
エラ「自爆したいところだが、これは使わない。わたしの意識も消えてしまう」
エラ「お前を殺し、死亡を確認してから、感情を開放する。自爆してすべてを終わらせる」
ビストライト(エラは今、感情をコントロールできているようだ・・・ 俺らと接したことで「成長」したのか?)
ミメイ「ところでどうでもいいのだけど一応確認させてくれ。この若者は誰?」
ビストライト「あ、どうも、俺、治安部隊の者で・・・ずっとミメイ博士のこと探してまして」
エラ「こいつのことはどうでもいい構うな!」
ビストライト「俺のことになると急にキレない!?」
エラ「ミメイ。お前を殺す前に──」
エラ「聞きたいことがある」
ミメイ「なに? 私のシンデレラ」
エラ「どうしてわたしを創った?」
ミメイ「・・・」
エラ「お前は天才的な知力を持て余し、ほんの軽い実験のような気持ちで、遊び半分で私たち戦闘人形を創ったのだろう?」
ミメイ「私は、真面目に創ったよ。シンデレラは知らないだろうけど」
ミメイ「よかったら、最期に聞くかい? あなたの出生の秘密を──」
ビストライト(エラが、いや、シンデレラS01が作られた理由? あるのか? そんなものが。軍事用ではないのか・・・?)
ミメイ「むかし、むかし・・・」
〇華やかな裏庭
幼い頃──
〇部屋の扉
ミメイの母「ミメイ。お隣にミメイと同じ年の女の子が越してきたんですって」
ミメイの母「親御さんが、遊びに来ていいって言ってくれてるのよ。お庭で遊んでらっしゃい」
「いい。いそがしい」
ミメイの母「・・・はぁ」
ミメイの母「困った子よ。近所のお友達と遊びもしないで、ずっと一人でおもちゃを解体して・・・」
〇オタクの部屋
私は、幼い頃から”天才”だった
そして同時に変人と呼ばれていた
幼いミメイ「おもちゃを解体するのも飽きたな。構造はだいたいわかったし、組み立ててみようか」
幼いミメイ「そうだ、ロボットや車じゃなくて、私と同い年の「女の子」をつくろう。話し相手がほしかったし」
幼いミメイ「材料が足りなければネットで買い足して・・・」
人間は嫌い。みんな勝手に動くし、思い通りにならないもの。でも、お人形なら。
私が創った、私のお人形なら、ぜーんぶ思い通り。理想の親友になれる
初めてつくった、機械人形。それが――シンデレラ。
ロボット工学や人工知能の本しか読まない私が、唯一気に入っていた物語の本。
学習できる人工知能を組み込んで、私と一緒に育っていけるようにした。
シンデレラ「こんにちは、ミメイ。はじめまして」
ミメイ「私のシンデレラ。私たちはずっと一緒よ」
シンデレラ「もちろん。ずっと友達。つくってくれてありがとう、ミメイ。ずっと会いたかった」
当然こんなセリフ、学習で言わせているだけ。人工知能が最初からこんなこと「思う」わけない。
こうして、私は自分の手で友達をつくり、話し相手を得た。人間の友人は一人もつくらなかった。
〇華やかな裏庭
私が成長していくにつれて、シンデレラの外見も少しずつ作り変え、成長させていった。
友達だけ幼いままだとさびしいから。彼女には永遠に同い年でいてもらう。
16歳になった頃、世界情勢はだいぶ雲行きがあやしくなって──
戦禍の足音がすぐそこまで、ひたひたと近寄っていた。
〇屋敷の書斎
ある日、軍人の父に呼び出された。
ミメイの父「お前に戦闘人形をつくってほしい。予算はいくらでも用意する。敵国よりも強いものを作れ」
ミメイ「人を殺す兵器?」
ミメイの父「違う、敵の機械を倒すだけだ。人は殺さない」
そんなわけないだろうと思ったが、私は承諾した。
飛び級で博士課程を終えたあとは、研究室に所属するでもなく部屋にこもっている私は、両親から見放されていた。
でも、初めて父に能力を見込まれ、頼まれたのだ。
〇オタクの部屋
高揚して、すぐに仕事に取り掛かった。
私は、戦闘用機械人形を作りまくった。つくって、つくって、つくった。誰にも負けない技術だ。
〇荒廃した街
私のつくった優秀な機械人形は、たくさんの町を破壊した。人々の生活を破壊した。
「河瀬未明」は、地元では英雄となり、敵にとっては悪魔となった──
〇オタクの部屋
気がつけば私は26歳。シンデレラはまだ10代の姿なのに。忙しくて、彼女に構う時間がなかった。
ネットを見れば、私は神格化されて神扱いされ、同時に別の人々には悪魔と罵られていた。
私にはわかっていた。この卓越した技術が、この戦いを激化させたことを。
私の作った戦闘人形の技術は、すぐに敵側にも研究され、模倣された。
戦いは長引き、この町が、惑星が、日常生活が壊れていった。
私は、もう生きていたくなかった。この状況に耐えられない。
・・・でも。
私の行動は世界中に報道される。私が罰を受けることもなく、罪から逃げたと、人々が知ったらどうだろう。
ああ・・・だめだ。
私は、死ねないのだ。
シンデレラ「ミメイ? どうしたの? 私にはなんでも話してよ」
・・・・・・
その時、ひらめいたのだ。
あたかも神の「天罰」を受けたように死ねる方法を。
たったひとつの冴えた方法を。
シンデレラ「ねえミメイ──」
ミメイ「シンデレラ。久しぶりに、あなたをアップグレードさせるね」