エビフライの呪い

五十嵐史

第1話:戦いの果てに(脚本)

エビフライの呪い

五十嵐史

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〇闇の要塞
  史上最凶最悪の魔王。
  そして、その魔王に率いられた魔王軍。
  ヤツらを倒すため、多くの仲間が傷つき、散っていった。
  一人、また一人・・・
  ついに、俺ひとりが残った。
  魔神軍の手勢はどれも強敵だった。
  しかし俺はボロボロになりながらも立ち向かった。
  今や魔王も部下の全てを失い、満身創痍だ。
魔王「勇者よ、よくぞここまで私を追い詰めた」
魔王「残念だが、私の体もここまでのようだ・・・」
魔王「だが、私もただでは死なない・・・」
魔王「お前の命までは無理でも心を道連れにして死んでやろう」
魔王「今からお前の体に『解けない呪い』をかける」
魔王「本当の恐怖を知るがいい・・・」
  言い残すと、魔王の体はその場に砕け散った。
勇者「ぐっ・・・」
  苦難の末、俺はとうとう魔王を倒すことに成功した。
  しかし俺は、散り際の魔王の呪いを受けてしまった。

〇宮殿の門
  魔王を倒し、街に戻ってきた俺は、大勢の民衆に歓迎された。
町娘「勇者さん、ありがとうございます!!」
町人「アンタのおかげで、世界は救われた!!」
町人「これからこの国は永遠に平和になる。あんがとな!!」
  しかし、俺は魔王の呪いを受けてしまっている。
  それがどんな呪いかはわからないが
  魔王の散り際に、命に変えてまでかけた呪いだ。
  きっと生きるのが嫌になるくらいの、恐ろしい呪いなのだろう。
  魔王を倒したものの、俺の気分はまったく晴れなかった。

〇謁見の間
  城では、俺のために宴が開かれていた。
国王「勇者よ・・・」
国王「こたびの働きは、まことにもって見事であった」
勇者「もったいなきお言葉・・・」
国王「お主らの活躍で魔王とその軍勢はすべて滅んだ」
国王「これでようやく世界に平和がもたらされるであろう」
国王「今夜は存分に飲んで食べて、戦いで疲れた体を充分にいたわられるとよろしい」
勇者「ありがたく、頂戴させていただきます」
  テーブルには豪華な料理の数々が並ぶ。
  それらを口に運びながら、俺はある奇妙なことに気がついた。
勇者「あ、ちょっと、君・・・」
ウエイトレス「はい。なんでございますか?」
勇者「あの・・・これなんだけど・・・」
ウエイトレス「はい?」
勇者「料理も酒も、全部同じ味がするんだけど、これってこの城の伝統の味付けなの?」
ウエイトレス「え・・・!? どういう事でございますか?」
勇者「うん・・・あの・・・どの料理を食べても・・・」
勇者「エビフライのような味がするんだ」
ウエイトレス「え、まさかそんなはずは・・・」
ウエイトレス「ちょっと失礼しますね」
  ウエイトレスの娘が、いろいろな料理を端っこから少しづつつまんで口に入れる。
ウエイトレス「はむはむ・・・」
ウエイトレス「ごっくん・・・」
ウエイトレス「う~ん」
ウエイトレス「普通に見た目通り、ステーキはステーキ、煮物は煮物の味がしますが・・・」
勇者(え、まさか・・・)
  俺は再び料理に口をつけた。
勇者(やはりすべてエビフライの味がする)
  そのとき、魔王の言葉が頭をよぎった。
  今からお前の体に『解けない呪い』をかける
  本当の恐怖を知るがいい・・・
勇者「もしかして・・・これがその、呪いなのか!?」

〇おしゃれな食堂
  それから俺は、荒れた・・・
  飲んでも飲んでも、酔えない。
  酒ですらエビフライの味がした。
  『お前の命は無理でも心を道連れにしてやろう・・・』
  魔王の言葉が脳裏に何度もよみがえってくる。
  すさんだ俺を見て、周りのヤツラは潮が引くように去っていった。
勇者「くっ・・・」
店員「もう、そのくらいになさっては?」
勇者「うるさい!! いいからもっと違う酒を持ってこい!! 強いヤツだ!!」
勇者「・・・・・・」
ウエイトレス「はい、もっと強いの、お持ちしましたよ」
勇者「あれ、君は・・・!?」
ウエイトレス「あら!? お客さん・・・」
勇者「君は確か、城で働いていたんじゃなかったか?」
ウエイトレス「ああ、あのときはお城で人手が足りなくて、かりだされていたんです」
ウエイトレス「あれから、その、お口の・・・味覚の方は大丈夫ですか?」
勇者「覚えていてくれたのか・・・」
勇者「あれから、世界中のいろんな美味や珍味を取り寄せて試してみたが、すべてだめだった」
勇者「何を食べても、すべてがエビフライの味になるんだ・・・」
ウエイトレス「そう・・・」
ウエイトレス「勇者さん、かわいそう・・・」
ウエイトレス「あ、そうだ!!」
ウエイトレス「私も、もうそろそろ仕事終わりの時間なんです」
ウエイトレス「このあと、よかったら、うちにお寄りいただけませんか?」
ウエイトレス「世界を救った勇者さんに、なにかごちそうしたいです」
勇者「ああ、いいが・・・」
勇者(どうせ何を食べても、同じだと思うが・・・)

次のエピソード:第2話:絶望の果てに

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