第2話:絶望の果てに(脚本)
〇中世の街並み
彼女の家は、低所得者層の住む地域のアパルトメントだった。
娘「こちらです・・・」
〇西洋風の部屋
娘「せまいところですが、くつろいでくださいね」
弟「あ、お姉ちゃん、おかえりー!!」
妹「おかえりなさーい!!」
妹「あっ、お客さんだー!!」
弟「いらっしゃい!!」
娘「弟と、妹です」
娘「さわがしくてごめんなさいね・・・」
娘「今、ご飯の支度をしますから、少しお待ち下さいね」
勇者「ああ、ゆっくりでいいぞ・・・」
弟「ぼく、お兄ちゃんのこと、知ってるよ!」
弟「世界を救った勇者さんなんだろ!?」
妹「ええっ! そうなのー!?」
妹「すっごぉぉーいっ!!」
妹「お話、聞かせて聞かせてー!!」
勇者「ああ、いいとも・・・」
俺は、これまでの戦いの旅のことを話し始めた。
二人とも、食い入るように俺を見つめ、身を乗り出して話に聞き入っている。
勇者(こんなふうに純粋に話を聞いてもらうのは、いつぶりだろうか・・・)
勇者(だいたい、俺の話を聞きに来る大人は、何かしらの下心を持っているヤツがほとんどだったからな・・・)
話も佳境に入ってきたころ、台所からいい匂いが漂ってきた。
娘「はいみんなー、ご飯ができたよ!!」
弟「わーい!!」
妹「食べよ食べよー!!」
娘「こらこら、お客さんが先よ」
娘「さあ、勇者さん、どうぞ」
勇者「ああ、ありがとう・・・」
勇者(どうせ、何を食べても同じだろうがな・・・)
料理は、肉と野菜を煮込んだだけの質素で素朴なものだった。
スープを一口すする。
勇者「こ、これは・・・」
娘「どう・・・お口に合いますか?」
勇者「驚いた・・・うまいよこれ!!」
味自体は今までと変わらない、エビフライっぽい味だった。
しかし、なんというか、これまでの『砂を噛むような』感じではなく・・・
しっかりとした『味わい』を感じられるのだ。
久しぶりに『料理』を味わった気がして、不覚にも鼻の奥がジンとなった。
勇者「うん、うまい。うまいなこれは・・・」
娘「おかわりも、どんどんありますよ・・・」
弟「勇者の兄ちゃん、本当においしそうに食べるねー!!」
妹「お姉ちゃんの料理、本当に好きになったみたいだねー」
勇者「ああ、これなら毎日でも食べたいぐらいだ・・・」
娘「えっ!?」
勇者「えっ!?」
妹「あれあれー!?」
弟「もしかしてー!?」
娘「こっこら!!」
娘「大人をからかうんじゃありません!!」
娘「ゆ、勇者さんが困ってるじゃないの!!」
勇者「いや、俺は別に・・・」
弟「困ってるのはお姉ちゃんのほうじゃないのー!?」
娘「も、もう!」
妹「あはははっ・・・」
こんなふうに暖かい団らんの中で食事をしたのは本当に久しぶりだった。
食事が美味しく感じられたのも、彼女の料理に家族への愛情がこもっていたことに加え、
一緒にいて気持ちの安らぐ人たちと食卓を囲むことで、落ち着いて食事を楽しむことができたのが大きかったのかもしれない。
こうして俺は、ときどき娘の家で夕食をごちそうになり・・・
彼女の弟と妹に昔の話を語ったりして、ゆったりした時間を過ごした。
〇教会の中
そして時は流れ・・・
僧侶「・・・病めるときも健やかなるときも、お互いを愛し、敬い、」
僧侶「共に助け合うことを誓いますか?」
勇者「誓います」
娘「私も、誓います・・・」
結局あれから俺たちはつきあい、今日、晴れて結婚式の日を迎えた。
妹「今日のお姉ちゃん、とってもきれいだよ!!」
娘「ふふっ、ありがとうね・・・」
弟「今日からはお兄ちゃんが、ぼくたちの本当のお兄ちゃんになるんだね!!」
勇者「ああ、これからもよろしくな・・・」
王宮や街のみんなも、お祝いにかけつけてきてくれた。
国王「おめでとう勇者どの」
勇者「わざわざのお運び、ありがとうございます」
国王「いやいや・・・一時は荒れておられて、どうなることかと心配しましたぞ」
勇者「王・・・そのことはあまり・・・」
国王「はっはっは。めでたい席で話すことではなかったな。失敬失敬・・・」
町人「勇者さん、奥さん、おめでとう!!」
町人「おめっとさん!! 自分の事のようにうれしいぜ!!」
町娘「おめでとうございますぅ・・・」
町娘「でも、ちょっと悔しいなぁ」
町娘「勇者さんのこと、ちょっと『いいな』って思ってたのにぃ」
町人「がはは、何言ってやんでぇ・・・」
町人「勇者さんがちょっと荒れてたときにゃあ、『あの荒れ方はちょっと無いわぁ』って呆れてたくせによ」
町娘「あっちょっ・・・なんでそういう事ばらしちゃうのよぉ!!」
町人「まあでも、さっきの神父さんの言葉じゃあ無いが・・・」
町人「病んでるときに支えになってくれた人のところに行くようになってんだよな、人間ってもんは・・・」
町人「だから奥さん、アンタはえらいよっ!!」
娘「いえ・・・全然そんなことは・・・」
勇者「いやあ、おっしゃるとおりですよ」
勇者「だから俺は、妻のことを一生、大事にします」
おおおーーーーっ!!
来客のみんなから歓声が上がった。
俺は、暖かな幸せの中に包まれていた。
勇者(しかし、食べ物がエビフライ味になる呪いがなければ、彼女と出会って結婚することもなかっただろう)
勇者(ある意味、魔王の呪いが結んだ縁かもしれないな)
しかし、この幸せは長くは続かなかった。