自由の女神(3)(脚本)
〇ナイトクラブ
蝶子「ほう。なかなか踊れるじゃないかい」
ダリア「そ、そう?」
蝶子「ちっとばっかトウは取ってるけど、ヒナの代役には申し分ないよ」
ダリア「ひとこと余計」
ダリア「それに私は踊り子になるつもりなんて」
蝶子「活動家の真似事してるよりゃマシだと思うけどね」
蝶子「本業の方も滞ってんだろ?」
ダリア「その分、暴行事件とか多発してるって言うから健全な婦女子にとっちゃ戒厳兵様サマだろうけど」
蝶子「けど・・・これだろ?」
蝶子「事件の犯人をひとからげに貧民達に押し付けてるところが気に入らないね」
ダリア「アタシらの商売が暴行を助長させてるって言い分もどうかと思うわ」
ダリア「むしろアタシらの仕事こそ男どもの鬱憤を身体張って受け止めてやってるのよ」
蝶子「ああ、誇っていいさ」
ダリア「まあ、食わせてかなきゃいけない子たちがいるから丁度よかったわ。頑張ってみるね」
蝶子「男頼ったり親に泣きついたり、みんな帝都から出ちまってさ」
蝶子「店開けるにはアンタみたいな気合いの入った夜の女が必要なんだ。宜しく頼むよ」
ダリア「ヒナもこのまま夜の女に育てるつもり?」
蝶子「どうだろうね」
蝶子「あの娘が大人になる頃には、踊り子や芸人がお天道様の下で道の真ん中歩けるようになってりゃいいなとは思うよ」
蝶子「そういう新しい時代なら大歓迎さ」
ダリア「うん?何これ?」
蝶子「ラジオだよ」
ダリア「ええーっ!?これが噂のラジオ?」
ダリア「ちょ、ちょっと!つけてみてよ!」
蝶子「べつにいいけど」
ダリア「何も聞こえないんだけど・・・」
蝶子「当り前だろ。レコードじゃないんだから」
蝶子「きっと震災の影響で放送局がまだ機能してないんだよ」
ダリア「ホーソーキョク?なにそれ?」
蝶子「あんたラジオって何か分かってんのかい?」
ダリア「音の鳴る箱でしょ」
蝶子「・・・」
蝶子「こんなもんがこの国に根付くもんかね?」
ダリア「あ、何か音、鳴ってるよ」
蝶子「そういう時はこのダイヤルをひねるんだ」
『・・・続きましては帝都放送局より被災された皆様に歌の贈り物です』
『松音未来子(マツネミクコ)でティアラの唄』
『うつくし黒髪輝くティアラ。どうか夕日が落ちぬ間に、この恋続けとルルル~願いましょう♪』
ダリア「伝説の歌姫松音未来子か。結婚して表舞台から消えたみたいだけど、今なにやってんだろうね」
ダリア「幸せに暮らしてりゃいいけど」
蝶子「ふん、どうだろうね」
ダリア「なに、その含みのある言い方」
蝶子「芸能の世界は百鬼夜行。身体売ってる方がまだ真っ当って連中もいるってことさ」
ダリア「知ってるの?松音未来子のこと」
蝶子「聞きたいかい?」
ダリア「別に」
蝶子「そう。みんな自分の人生で手一杯。それでいいのさ」
蝶子「知る必要のない噂話を垂れ流すのは、娯楽としちゃあ下品すぎる」
蝶子「新聞だけで沢山さね」
蝶子「さて練習練習」
ダリア「はいはい・・・っと」
〇廃倉庫
最上「踊り子の命とも言える足を怪我してなお、その心は折れてなどいない」
最上「むしろ動けぬ体を奮い立たせるように書を読み知識を膨らませ闘志を漲らせる」
最上「そんな純度100パーセントの」
最上「ヒロインの中のヒロイン」
最上「でてこいや!」
最上「・・・」
最上「踊り子の命とも言える足を怪我してなお、その心は折れてなどいない」
最上「むしろ動けぬ体を奮い立たせるように書を読み知識を膨らませ闘志を漲らせる」
最上「そんな純度100パーセントの」
最上「ヒロインの中のヒロイン」
最上「でてこいや!」
最上「・・・」
同じシーンが繰り返されておりますが入力ミスではありません
最上「踊り子の命とも言える足を怪我して・・・」
ヒナ「何だようるせーな近所迷惑だろ!」
最上「いや、そろそろ約束の時間だから」
ヒナ「誰が一緒に行くっつったよ」
ヒナ「場所は教えてやったんだから、手前一人で行きゃいいだろ」
最上「たくさん褒めてやったじゃないか」
ヒナ「どんな褒め方だドアの前で100パーセント100パーセントって」
ヒナ「頭おかしいんか」
最上「じゃあこれをやろう」
ヒナ「だから舐めんな!」
ヒナ「舐めるけど」
最上「そろそろ主治医から改善療養を勧められていると聞いたぞ。運動がてらどうだね?」
最上「目的地はそんな遠い場所でもない。私が付き添ってやろう」
ヒナ「運動はともかく、精神衛生上よくねえ」
ヒナ「誰があんなヤツなんかに・・・」
最上「遺恨はさておき命を救ってもらったのだ。礼のひとつくらい言っても女の価値は下がらんだろう」
最上「その後でぶん殴るなり唾を吐きかけるなり靴を舐めさせるなりすればいい」
ヒナ「いや別にそこまではしねえけど」
最上「では行くぞ」
ヒナ「・・・」
ヒナ「リハビリに付き合うんだろ!さっさと歩くんじゃねえや!」
ヒナ「こっちは松葉杖なんだぞコノヤロウ!」
〇おんぼろの民宿(看板無し)
玉大人「ほ~ほ~ほ~」
玉大人「晩上好、天竺牡丹(こんばんは、ダリア)」
ダリア「大人(ターレン)」
玉大人「戒厳警備兵の取り締まりが鬱陶しくてね、なかなか会いに来れなくてゴメンね~」
玉大人「奴らときたら帝都の犯罪行為を全て儂らの仕業と決めてかかっているんだから。もう困っちゃうよ」
玉大人「まあ儂の息のかかった者を入れてせいぜい帝都犯罪の二、三割といったところかな」
玉大人「ほほほ!冗談冗談!共和ジョーク!」
玉大人「でだ、そろそろ帝都も復興の兆しが見えてきたようだし」
玉大人「『お仕事』再開させるアルネ~」
玉大人「などと多少言いにくい事を話すときだけ、あからさまに大陸感を出す」
玉大人「ほほほ!共和ジョーク!」
ダリア「借金はちゃんと返すよ。儲かる仕事を紹介してもらったんだ」
玉大人「ほほ~。この黒蓮団(ブラックロータス)が斡旋するお仕事より儲かるお仕事があるとはね~」
玉大人「笑わせるなよ。遊び女」
ダリア「・・・」
玉大人「お前が御堂組と繋がりだしたのは知ってんだよ。ああ?」
玉大人「奴隷にデモクラシーなんてねえんだから、お前は四の五の言わず黙って身体だけ売ってりゃいいんだ」
玉大人「・・・なにがダンスだ。ぶち殺すぞ雌ブタ」
ダリア「す、すみません。大人」
玉大人「分かればいいアルネ~。お客さんどんどん取って来るアルネ~」
玉大人「それじゃあ、新しいPLAYの予行練習といくアルネ~」
〇手
玉大人「今度のお客サン、かなりの上得意サマ~」
玉大人「ただ少々、御趣味の方がVIOLENCE」
玉大人「ちょっとだけTRAININGアルネ~」
ダリア「・・・!」
ダリア「・・・」
玉大人「さあさ、新しい技身につけるアルネ~」
『おい貴様ら!何をやっとるか!』
〇おんぼろの民宿(看板無し)
玉大人「か、戒厳兵?」
最上「憲兵だ!最近少々影が薄いが、帝都秩序の要である!」
玉大人「ちょ、ちょっと悪い下女を躾けていただけアルネ~」
最上「芝居がかった口調はやめろ。異人の兇徒、黒蓮団の情報を知らぬと思っているのか」
玉大人「クッ・・・官憲の犬風情が。あまり調子に乗ると痛い目をみるぞ」
玉大人「そのお顔、覚えたアルネ」
最上「くそ。あの余裕。やはり財界あたりと繋がっているとみた」
ダリア「ありがとう。と、言いたい所だけど」
ダリア「私の家、誰に聞いたの?」
最上「・・・」
最上「び、尾行は憲兵の技能である」
ダリア「何か用?」
最上「家宅調査だ。新生美しきけものの一派を、虱潰しに調べる」
ダリア「・・・正直言うと、私あんまり革命とかに興味ないんだよね」
ダリア「ただ雰囲気合わせとかないと、何されるか分かんないからさ」
最上「やはりセクト化が始まっていたか」
ダリア「雰囲気だよ雰囲気。実際蓬莱街のみんなは悪い連中じゃないし」
ダリア「流行り風邪で熱ふいてるみたいなものよ、きっと・・・」
最上「とりあえず家の中を見せてもらえるかな?」
ダリア「・・・」
最上「面倒をみなければならない子がいるという話も知っている。あまり職権を発動させないでくれ」
ダリア「可愛い盛りなんだけどね」
最上「紳士に振る舞う。約束しよう」
ダリア「・・・」
ダリア「分かったわ」
ダリア「帰ったわよ。ただいま」
最上「引き戸にノックとは・・・」
最上「どうやら当たりだな」
最上「どうする?このまま帰るか?」
ヒナ「考え中・・・」
つづく