エピソード1 ー ワカメオジサンと秘密の部屋(脚本)
〇立ち食い蕎麦屋の店内
都内某所。
チェーン店のその蕎麦屋は朝から相変わらずにぎやかだった。
通勤がてら立ち寄る人も多く、そう広くない店内はたくさんのお客であふれている。
お客「すみませーん、ざる蕎麦ひとつ!」
暁「かしこまりました〜!」
俺、南見暁はこの店でバイトをしている。
つい2か月前に働き始めたばかりなのだが、
何を隠そう、この店には一風変わった店員がいる。
ミコト「ラッシャイヤセ〜!」
ミコト「お好きな席ドウゾ〜!」
見た目は完全に寿司屋の板前。
自前の仕事着を持ちこみ、仕事は調理かと
思いきやホールがメイン。
そしてカタコトの日本語。
すべてが謎に満ちている・・・。
お客2「ミコトちゃん、かけ蕎麦一つね」
ミコト「ハァイ、ただいま〜!」
お客3「ミコトちゃーん、俺はいつもので!」
ミコト「アイヨッ!」
そして、不思議とお客さんにも人気である。
誰も変だと思わないんだろうか・・・。
新人バイトの俺にとっては甚だ疑問だった。
ミコト「アカツキくん、伝票ここ置いとくネ〜」
暁「あっ、はい。わかりました」
ミコト「ヤットすこし落ち着いて来たネ〜。お客さん」
暁「そうですね。これで昼まではゆっくりできるかと」
ミコト「ジャ、交代で休憩シヨ!」
暁「いいですね。お先どうぞ」
店長「ふたりともお疲れ〜」
店長「休憩ちゃんと取れよ。暑いから水飲め〜」
ミコト「アリガトゴザイマス、店長!」
ミコト「アノ・・・」
ミコト「実は・・・チョット気になるコトアリマス」
店長「どうした?何かあったか?」
ミコト「今日、スズキサン来ないデス!いつも来る 常連のヒト」
店長「あー。いつもわかめ蕎麦頼む人?」
ミコト「ソウデス!ワカメオジサンです!」
いや、その言い方はどうかと思うが・・・。
ミコト「あのヒト、365日蕎麦食べマス。 蕎麦食べないと・・・死ンジャウ!!」
ミコト「私、心配デス!店長! 出前のトキに見に行きマス!」
まぁ、蕎麦1食食べないくらいで死なないとは思うけど・・・
でも、たしかに1年以上ずっと店に通い続けているお客さんが来ないのは変だった。
店長「ん〜そうだな・・・でも、家がどこか知ってんのか?」
ミコト「ハイ!出前行きマシタ!オフィス外からデモ見えマス!」
店長「そっか。じゃあ、安心だな」
店長「南見、一緒に行ってやってくれるか?」
暁「わかりました!」
〇森の中のオフィス(看板無し)
ミコト「アカツキくん! ここデスヨッ」
ミコト「スズキサンのヤサです!!」
暁「ヤサじゃなくて家ね、早乙女さん」
暁「(どこでそんな日本語習ったんだよ・・・)」
ミコト「ヤサは家デスカ! 勉強にナリマス!!」
暁「って、中は誰もいないみたいだけど・・・」
オフィスと聞いてはいたけど、どうやら自宅兼事務所みたいな所らしい。
ミコト「た、大変デス!! アカツキくん!」
ミコト「スズキサン倒れてる!!!」
暁「わっ、本当だ!!」
暁「急ごう!!!」
鍵は空いていて、俺たちは急いで中に入った。
〇店の事務室
ミコト「スズキサン!!!」
暁「大丈夫ですか!!?」
鈴木「あれ、ミコトちゃん・・・」
鈴木「いったい、どうしてここに・・・」
ミコト「今日スズキサン蕎麦食べに来ませんデシタ」
ミコト「ダカラ私、ワカメ蕎麦持って来マシタ!!」
ミコト「お腹空きマス、良くないデス!」
鈴木「ありがとう、ミコトちゃん・・・」
鈴木「でも、すまない・・・ 今すごい腹痛で動けないんだ」
鈴木「悪いけど、救急車を呼んでくれないか?」
ミコト「・・・わかりました!」
ミコト「アカツキくん、110番ネ!!」
暁「それは警察・・・」
ミコト「ジャ、104番ネ!」
暁「それ、番号案内な・・・」
もはや、わざとやっているとしか思えない・・・。
俺たちはそれでも何とか救急車を呼ぶと、
救急隊員に事情を説明し、搬送される鈴木
さんを見送った。
〇立ち食い蕎麦屋の店内
店長「おー、大変だったな」
店長「鈴木さん、無事でよかったよ」
どこまでも軽いノリの店長に迎えられ、
俺たちは店に戻った。
救急隊の人にも話を聞いたが、命に別状は
ないらしい。
ミコト「よかったデス!人命救助できマシタ!!」
店長「南見もありがとうな」
暁「いえ、僕は何も・・・」
その後、他のアルバイトの人たちが応援に来てくれることになり、
俺と早乙女さんは、すこし早めに退勤する
ことになった。
〇公園のベンチ
帰り道、俺たちは公園に立ち寄った。
何となく、すぐ帰りたい気分じゃなかったからだ。
ミコト「今日はアリガトネ、アカツキくん」
暁「いえ・・・俺は本当に何もできなかったから」
暁「早乙女さんが行くって言わなかったら」
暁「鈴木さんの様子を見に行くなんてこと、 きっと考えもしなかった」
俺は、ずっと気になっていたことを聞いて
みた。
暁「早乙女さんって、どうしてここで働き始めたんですか?」
ミコト「ん? う〜ん・・・」
ミコト「私『一杯のかけそば』の話、感動シタカラ」
ミコト「ズット、蕎麦屋で働くの夢デシタ」
ミコト「あ〜、デモ・・・」
ミコト「マダ店長に秘密にしてるコトあるネ」
暁「えっ、何ですか? それ」
はたから見ても謎の多い彼女のことだ。
何かもっと大きな秘密があるんだろう・・・
ミコト「実は、私・・・・・・」
ミコト「蕎麦ヨリうどん派ネ!!」
・・・。
意外と、どうでもいい告白だった。
ミコト「チョット蕎麦アレルギーもあるヨ」
暁「それ、蕎麦屋向いてないんじゃ・・・」
ミコト「アカツキくんの秘密は?」
暁「俺は特にないですよ」
ミコト「ふぅん。残念ネ」
そう呟いて、彼女は楽しそうに笑った。
ミコト「ダッテ、秘密はフタリを仲良くシマス! デショッ?」
ミコト「私、アカツキくんと仲良くナリタイネ!」
ミコト「私の舎弟にナッテクダサイ!」
暁「そこは友達って言ってくれ・・・」
まったく、ツッコミどころが多すぎて追いつかない・・・。
でも、少なくとも悪い人じゃないことはわかったし、
こんな日も悪くないのかな、とそう思った。
ミコトちゃんかわいいですね。
ひとつの物語から、日本でそば屋のアルバイトを始めてしまうあたり、すごく行動的な子だなぁと思いました。
ちょっと変わっているけど、しっかり見るところは見ている。
冴えわたる感も、素晴らしく、愛されている彼女。
最後の告白は微笑ましかった
変化にいち早く気付く人っていますよね。
それは才能だと思います。
こうして変化に気づいて命を助けることも実際にもあるかもしれない!と思いました!