真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

17/ハエトリグサ(脚本)

真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

今すぐ読む

真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇田舎町の通り
  「オーナー、その・・・・・・」
  「寂しいと、思ったことはありませんか?」
  七月十日、コンビニに向かう近道の途中。
  干上がる寸前の浅い川、砂利がたまっている足場を飛び移りながら、結局僕は久野の現状について、久野に相談してしまっていた。
久野フミカ「・・・・・・寂しい?」
  「はい・・・・・・。何をしても、誰にも何も言われることの無い、長い毎日の中で、です」
  水面に映っているのは雲一つない青空ではなく、無数の真っ黒なドローンの影。
  その隙間から届く太陽の光が、さながら木漏れ日のようにきらめく。
久野フミカ「あー・・・・・・、何か、安心した」
  「・・・・・・安心?」
久野フミカ「その回りくどい感じ、いつものコハクだ」
  「うぐっ・・・・・・」
  誰にでも何事にも、結局びしっと言えない回りくどい僕の性格は、こちらの世界でも相変わらずのようだ。
  というか、人間をやめてアンドロイドになっても変わらないとは。
  このどうしようもない性根は、死ななきゃ治らないということなのだろう。
  いや、本当は一度もう死んでいるのだから、死んでも治らないということらしい。
久野フミカ「・・・・・・寂しい日もあるよ?」
久野フミカ「でも、コハクとコクノがいるし」
  久野は向こう岸まで辿り着くと振り返り、諦めているような、困っているような笑顔を見せた。
  「・・・・・・妹さんとは、仲が良いんですね」
  遅れて僕も、ようやく岸まで飛び移る。
  その拍子に少しよろめくと、久野が慣れた手つきで僕の手を取ってくれた。
  情けないが、元の世界ではいつものこと。だがこの様子だと、この世界でもいつものことらしい。
  僕が人間の男であれアンドロイドであれ、本来手を取るのは僕の役割のはずなのに、
  僕は相変わらず、いつも通りだ。
久野フミカ「まあその、コクノとは、仲が良いって言うか・・・・・・私の気が楽なだけなんだけど」
久野フミカ「でも、コクノは結構気にかけてくれてるんだと思う。コハクをもらってきてくれたのも、コクノだったし」
  「そう、ですか」
  ただその記憶は、全て作られたものだ。
  コクノとの思い出も、アンドロイドとしての僕との思い出も、あの天使が見せた、夢。
  現実でも、真実でも無い。それに。
久野フミカ「・・・・・・」
  「・・・・・・でも、寂しいとは感じているんですよね?」
久野フミカ「・・・・・・」
  「だったら・・・・・・」
久野フミカ「ヤバ、家にスマホ忘れたかも」
久野フミカ「ちょっと先行ってて!」
  「え・・・・・・。あ、はい・・・・・・」
久野フミカ「すぐ追いつくから!」
  久野は大慌てで来た道を引き返し、あっという間に見えなくなった。
  「・・・・・・」
  久野には今、元の世界の記憶は無い。
  学校のマドンナとして生徒会長にまで当選した記憶も無い。
  いつかは僕のように、思い出す時も来るのだろうか。
  残された僕は、そんなことを考えながらしばらく川沿いを進んだところで、ふと気づいた。
  「・・・・・・あれ?」

〇店の入口
  最寄りのコンビニであり、僕と久野のバイト先があるはずの所には、見たことの無い物が建っていた。
  いわゆるレトロな喫茶店のような見た目の建物の扉の上に、大きな木製の看板が掛かっている。
  「山河、工房・・・・・・?」
  山河って、まさか・・・・・・。
山河店長「おー、コハクちゃん。おつかい中かい?」
  中から出てきたのは、いつも通りの山河店長だった。
  「店長・・・・・・!」
山河店長「そうだ。ちょっと見て行ってくれよ」
山河店長「うち、ついに改装しちゃったんだよねー!」
  「あ、はい・・・・・・!」
  店長がいつも通りの強さで僕の背中を叩きながら、いつも通りの得意げな顔を見せる。

〇カウンター席
山河店長「どうよ!」
  中に入ると、半分は喫茶店のような待合室。
  そしてもう半分のスペースには、人間そっくりの姿をしたアンドロイドが、所狭しと並べられていた。

〇近未来の手術室
  奥には、手術台の様な作業台の様なものも見える。
  いわゆるアンドロイドの販売や修理をするお店。
  この世界での山河店長は、コンビニではなくアンドロイド専門店の店長をしているらしかった。
  恰好もコンビニの制服ではなく、いわゆる整備士とか消防士とかが着ているような作業着だ。
  「お・・・・・・」
山河店長「なかなかそれっぽくなったでしょ!」
  「は、はい・・・・・・!」
  でもそんなことより僕は、店長が生きていたことに一安心していた。
  僕は昨夜、ゾンビになっていたとはいえ店長の頭を銃で撃った。
  世界が元に戻れば店長も元に戻るとミウさんは言っていたが、それでも、心配なものは心配だった。
山河店長「どしたのコハクちゃん、そんな死体でも見るような顔して・・・・・・」
  「・・・・・・」
山河店長「・・・・・・」
  「店長、実は・・・・・・」

〇カウンター席
  僕は昨日店長に話したことを、もう一度話した。
  そしてさらにその続き、店長がゾンビになってしまったことや、この世界が変わってしまったことも。
  勿論この世界ではアンドロイドである僕がこんな話をしても、故障したとしか思われない可能性もあった。
  それでも、山河店長なら信じてくれるのではないかと、僕は思ってしまった。
山河店長「ああ・・・・・・確かに、そんなことがあった気もするな・・・・・・」
  「え・・・・・・覚えてるんですか?」
  しかし店長は疑うどころか、元の世界のことをうっすらと覚えているようだった。
山河店長「今回は、結構はっきり記憶に残ってる気がするんだよな」
山河店長「確かにあの時、俺の身体はゾンビになってたらしい」
山河店長「だけど意識はちゃんとあったし、人を食べたいとも別に思わなかったからな」
  「・・・・・・」
山河店長「・・・・・・」
  ・・・・・・え?
  「え、いや、じゃあ何であの時、ミウさんを襲ったんですか」
  「つまり、食人衝動は、無かったんですよね・・・・・・?」
山河店長「・・・・・・それは勿論、お兄様に言い寄ってくるコバエを食べるため、ですよ」
  「・・・・・・お兄様?」
山河店長「私は先輩の、ハエトリグサですから」

次のエピソード:18/正体

成分キーワード

ページTOPへ