第7話(脚本)
〇大水槽の前
愛川菜々美「あ・・・」
愛川菜々美「すみません、ちょっと席を外します」
愛城しずく「はい、お気になさらず・・・」
愛川菜々美「もしもし?」
愛川菜々美「えっ? 倒れたって・・・!」
愛城しずく(今倒れたって言ったよね? さっきの感じから電話の相手はお母さんだと思うけど・・・)
愛川菜々美「うん・・・うん、お金は振り込むから それより体は大丈夫なの?」
愛川菜々美「ダメじゃない病院から戻ったりしたら! 検査は? ・・・すぐそっちに帰るよ」
愛川菜々美「いいって、ダメだよ すぐ行くから」
ピッ
愛城しずく「愛川さん・・・」
愛川菜々美「すみません、急遽実家に帰らなくてはならなくなりまして」
愛城しずく「ゴメンなさい、さっきチラっと聞こえたんですが倒れたのって・・・」
愛川菜々美「ええ、母です 一度病院に運ばれて何事もなかったから帰ったと言っていたのですが心配なので・・・」
愛城しずく「緊急事態ですからすぐに行ってあげてください」
愛城しずく(愛川さんの手、震えてる・・・)
愛川菜々美「すみません、また今度一緒に出掛けましょう」
愛城しずく「ちょっと待ってください!」
愛川菜々美「愛城さん?」
愛城しずく「出過ぎた真似なのはわかります でも・・・私も、一緒に行ってもいいでしょうか?」
愛川菜々美「え?」
〇走る列車
数十分後
愛城しずく「正直驚きました 半分くらい勢いで言ってしまったところがあったので」
愛川菜々美「いえ、逆に助かりました 愛城さんが一緒に行ってくれるとおっしゃってくれて」
愛城しずく「やはり不安ですもんね」
愛川菜々美「それはありますがそれより・・・」
愛川菜々美「・・・・・・」
愛川菜々美「母が倒れたと聞いたとき、私少しホッとしてしまったんです」
愛城しずく「どうして・・・」
愛川菜々美「もう母の面倒をみなくていいんだと、この生活から抜け出せるんだと思ってしまったんです」
愛川菜々美「そんな自分が許せなくて・・・」
愛川菜々美「母に来るなと言われても行くと言い切ったのも少しでも自分はそんな人間じゃないと肯定化させたかったのかもしれません」
愛城しずく「私は愛川さんとお母さんの関係性がどういったものなのかは分かりませんが、愛川さんは自分をそこまで卑下する必要は」
愛川菜々美「私と母の関係性・・・」
愛川菜々美「愛城さんは折角一緒にここまで着いてきてくれたんです 話しましょう、私と母について」
〇古い畳部屋
幼い頃に父が他界し、私は母一人に育てられました
決して裕福な生活ではなかったけれど田舎というのもあってご近所さんも私によくしてくれて、私は幸せでした
そんなある日、うちにやってきたのが北野という男でした
北野「初めまして菜々美ちゃん、よろしく」
北野は母の勤め先のお客さんでしたが、仲良くなって付き合うことになったそうです
北野は最初は明るくて、母にも私にも優しくて、いつかお父さんになってくれるとすら思っていました
二人の関係は親密になり、同棲を始めるため以前よりも広いマンションに引っ越しました
北野の収入は母の倍近かったため目に見えて生活は豊かになっていきました
でも、数年が経ってもうそろそろ2人は結婚するのかなと思っていた頃、そんな日常は崩れたんです
〇女の子の部屋
北野「菜々美ちゃん 簡単にお金が稼げるバイトがあるんだ 知りたい?」
愛川菜々美(中学生)「私まだ中学生だよ? バイトできるのって高校生になってからじゃないの?」
北野「お店とかで働くならそうだね でもそうじゃない仕事もあるんだよ」
見せられた携帯の画面に映っていたのは一面裸体の女性の画像が並んでいるサイトでした
愛川菜々美(中学生)「な、これ・・・ダメだよ エッチな奴じゃん」
北野「あはは、ゴメン ちょっと驚かせちゃったね」
北野「でもこれは違法なサイトじゃなくて自分から裸の写真を売ってる人が集まるところなんだ」
愛川菜々美(中学生)「え、自分で・・・? 何で・・・?」
北野「そりゃあ簡単にお金が稼げるからだよ 可愛ければ買ってくれる人も沢山いるしね」
北野「それこそ菜々美ちゃんはまだ中学生だから いっぱい売れると思うよ」
北野「それじゃあ服脱いでみよっか」
愛川菜々美(中学生)「え、北野さん何言ってるの?」
北野「大丈夫、売り方は俺が教えてあげるから 最初はブラしたままでいいからさ」
私の意思も聞かず北野は私に手を掛けて、服を脱がせ始めました
愛川菜々美(中学生)「ちょっと、止めて!」
北野「何嫌がってるんだよ 小学生の頃は一緒にお風呂に入ったこともあっただろ?」
愛川菜々美(中学生)「や・・・だ・・・!」
北野「ダイジョブダイジョブ 何も怖くないよ」
愛川菜々美(中学生)「止めてよ!」
北野「!」
北野「何で俺の言うことが聞けないんだ! 俺のおかげで今の生活が出来てるって分かってんのか?」
愛川菜々美(中学生)「北野さん・・・?」
北野「黙って俺の言うことを聞けよ」
愛川菜々美(中学生)「キャッ!」
北野「黙って言うこと聞いとけば何もしねぇんだからよ ジタバタするなよ」
北野「楽して稼げて生活も豊かになるんだぞ? いいことしかないだろ」
愛川の母「何してるの、真澄さん・・・?」
愛川菜々美(中学生)「お母さん・・・」
北野「あれ、今日は仕事のはずじゃ」
愛川の母「忘れ物をしたから取りに戻ったの それより菜々美に何をしてたの?」
北野「いや、まだ何も──」
愛川の母「まだって何よ! 菜々美は私の大事な娘なのよ!」
愛川の母「大丈夫菜々美? 怪我はない?」
愛川菜々美(中学生)「う、うん 大丈夫」
愛川の母「真澄さん、まさか菜々美にそうゆう感情をずっと抱いていたの?」
北野「そんなわけないだろう 裸の画像をネットで売れば簡単に儲けられるって教えてただけだ」
愛川の母「そんなの許すわけないでしょ! 貴方のやってることは性犯罪よ」
北野「はぁ? 何言ってんだ」
北野「今裕福な生活が出来てんのは俺のおかげなんだぞ それに報いるのは当然だろ」
愛川の母「何言って・・・」
北野「低収入のまま菜々美を育てて俺なしでこんな生活が出来たか?」
北野「今こうして裕福な暮らしが出来てるのは俺のおかげだろ? だったら俺に報いるのは当然だろ」
愛川の母「だからって菜々美に乱暴していい理由にはならないでしょ! あまりにも横暴すぎるわ」
愛川の母「警察にも通報するから 自分のしたことがどれだけ愚かしいか反省しなさい」
北野「いいのか? そんなことしたらもうここには住めなくなるんだぞ」
愛川の母「は?」
北野「また貧乏で惨めな生活に逆戻りするんだぞ 耐えられるのか?」
北野「一度吸った甘い汁を忘れられるとは俺には思えないけどな」
愛川の母「あんた、この期に及んで・・・頭おかしいんじゃないの?」
北野「いいや、俺は正気だぜ それに、菜々美だってただじゃ済まないぞ」
愛川の母「あんたを野放しにしておく以上に危険なことなんてあるわけないでしょ」
北野「それはどうかな?」
北野「もし俺が逮捕されれば菜々美は「性被害にあった可哀想な女子中学生」というレッテルが貼られるだろう」
北野「表面的には普通の態度で接されても、どこか遠巻きに「可哀想な子」と腫物扱いをされて嫌煙されるだろうな」
愛川の母「そのくらい、私が守るわよ!」
愛川菜々美(中学生)「お母さん・・・」
北野「本当に守れるのか?」
北野「進学や就職のときにもそのレッテルのせいで敬遠されて高校大学、会社にも入れてもらいずらくなるんだぞ?」
愛川の母「そ、そんなこと・・・あんたの主観的な考え方でしょ」
北野「でも今「もしかしたら」って気持ちが頭をよぎったよな? 顔に出てるぞ」
北野「そして忘れちゃいけないのはメディアだ こいつらが一番怖い」
北野「あいつらは数字が取れればいいからな 悲劇性を高めるためにあることないことを報道するだろう」
北野「そしたら世間には「そうゆうことをされた子」として認識されちゃうだろうな」
愛川菜々美(中学生)「お、お母さん・・・」
愛川の母「だ、大丈夫よ菜々美 アイツは嘘ついて怖がらせてるだけだから」
北野「おぉゴメンゴメン怖がらせちゃったか でも本番はここからだぞ」
北野「最近はインターネットが発達してるからな メディア以外も菜々美のプライベートを調べ始めて個人情報をどんどん公開していく」
北野「わかるか? 飽きるまでネットの玩具として常に監視され続けるんだ」
北野「そしてどこの高校に行ったとか大学に入ったかも調べられてネットに張り付けられる」
北野「もし通報すれば今の生活を失うだけじゃなくてそんな地獄が待ってるんだよ」
北野「これでもまだ通報しようっていうのか?」
愛川の母「・・・っ!」
愛川の母「分かった・・・通報はしない」
愛川菜々美(中学生)「お母さん・・・!」
北野「物分かりがよくて助かるよ まぁそのくらいの頭はあると分かっていたから君と付き合っていたんだけど」
愛川の母「あ、あんた・・・!」
北野「なんか文句あるのか? 俺みたいなクズを見抜けなかった君にも責任があると思うけど」
愛川の母「・・・!」
愛川の母「分かった 何も文句は言わない」
愛川の母「ただし、今後一切私たちに関わらないで ここからは引っ越すから」
こうして唐突に私たちの幸せな日々は終わりを告げました
でも本当の地獄はここからだったんです
しずくさんの行動力!
そして語られる菜々美さんのおぞましい過去。彼女がどう辛い環境から生き抜いたのか、そして克服できたのか、気になるストーリーですね!