エピソード1(脚本)
〇黒
――このセカイを生きる上で、1番素敵な事。
それは、誰かを愛する事。
そして、誰かから愛される事よ。
〇謁見の間
放してっ! 放してよっ!
兵士「うるさい! おとなしくしろ! このネズミめ!!」
シュリ「うぐっ! うう・・・・・・」
兵士「カルム様! 侵入者を連れて参りました」
カルム「ご苦労だったな」
シュリ「・・・・・・げほっ」
カルム「・・・・・・で? なんだ、おまえは」
カルム「いったいどこから忍び込んだ?」
カルム「この城の警備は、いつからこれほどまでに甘くなったのだろうな」
兵士「もっ、申しわけございませんっ!!」
カルム「まあいい」
カルム「いずれにせよ、おまえ。 無事でここから出られるとは思わぬ事だな」
シュリ「・・・・・・っ」
シュリ「わたしは・・・・・・。 絶対にあなたを許さない」
シュリ「あなたのせいで・・・・・・。 あんたのせいで! アイシャは死んだのっ・・・・・・!」
カルム「その顔・・・・・・そうか。 おまえ、アイシャの妹か?」
カルム「そのふてぶてしい表情、姉にそっくりだな」
カルム「はははっ! 姉妹そろって、馬鹿なやつらだ!」
カルム「下賤の分際で私に楯突くなど、実に愚かだな!」
カルム「ははっ、はははっ!」
シュリ「・・・・・・さない」
シュリ「絶対に許さない!!」
シュリ「殺してやる・・・・・・!!!」
兵士「キサマッ! どこまで無礼を重ねれば気が済むのだっ!!」
シュリ「うぅっ・・・・・・」
カルム「火刑の準備をしておけ。 午後、すぐに始めるぞ」
兵士「はっ!」
兵士「──おら、さっさと歩けっ!!!」
〇黒
・・・・・・神様。
わたしは、なんの取り柄もない、ちいさな人間です。
でも、アイシャは違います。
アイシャはやさしくて、あたたかくて。
誰からも好かれる、花のような存在でした。
・・・・・・だから。
そのアイシャを死に追いやったあの男の事を、
わたしは死んでも許す事が出来そうにありません。
誰かを恨んでも、誰も救われない。
分かっていても、この黒々とした気持ちは、
消えそうにないのです。
だから、どうかお願いです。
この身はどうなってもかまいません。
もしこの願いが届くなら・・・・・・神様。
どうか、アイシャの魂をお救いください。
そして願わくば、あの男に天罰を・・・・・・。
〇黒
「・・・・・・シャ」
「アイシャ」
「いつまで寝ているの。起きなさい」
〇可愛らしいホテルの一室
シュリ「・・・・・・ん・・・・・・」
???「ア イ シ ャ!!!」
シュリ「・・・・・・? ここは・・・・・・?」
シュリ「あなた・・・・・・誰?」
???「寝ぼけているの? しっかりしてよ」
???「ほら、時計見て! もう5時半よ?」
???「掃除、洗濯、朝食の準備! やることは山積みなの!」
???「さっさと顔洗って着替えなさい、アイシャ!」
シュリ「アイ・・・・・・シャ?」
シュリ「・・・・・・!?」
シュリ「ちょっと待って、鏡っ・・・・・・!」
???「はあ・・・・・・???」
シュリ「う、そ・・・・・・」
シュリ(この姿・・・・・・アイシャ? どういう事・・・・・・?)
シュリ(どうして、わたしがアイシャになってるの!?)
シュリ「ねえ! 今、何年!? 何月何日!?」
???「ねえ、あんた大丈夫? ボケたの?」
シュリ「いいから、教えて!」
???「○年×月△日」
???「これでいい?」
シュリ(・・・・・・。 1年前だ・・・・・・)
???「ねえ、アイシャ。ホントに大丈夫? 体調悪いの?」
シュリ(わたし、あの時確かに火あぶりにされて・・・・・・死んだはず)
シュリ(なのに、生きてる。 しかも、アイシャの姿になって)
シュリ(これは夢? それとも現実?)
シュリ(・・・・・・ううん。 そんなの、どっちだっていい)
シュリ(このセカイで、アイシャは、まだ生きてる)
シュリ(生きてるんだ・・・・・・!)
シュリ「・・・・・・う」
シュリ「うぇぇえ・・・・・・」
???「ちょっと、アイシャ・・・・・・」
???「・・・・・・」
???「いいわ。 よく分からないけど、とりあえず今日は休みなさい」
???「みんなには、あたしから説明しておく」
シュリ「う、ん・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
シュリ「ありがとう、 ・・・・・・ええと・・・・・・」
リラ「『リラ』よ。 あたしの名前」
シュリ「ごめんね、頭混乱してて・・・・・・」
シュリ「あじがと、リラちゃん・・・・・・。 ずるっ・・・・・・」
リラ「『ちゃん』・・・・・・??? 気持ち悪・・・・・・」
リラ「これは、本当に重傷かもね・・・・・・」
シュリ「うっ・・・・・・うぐう・・・・・・」
〇黒
その後、ひとしきり泣いて。
わたしは部屋で、1度頭の中を整理する事にした。
今、分かる事と分からない事をはっきりさせるために。
〇黒
〇児童養護施設
アイシャは、血の繋がった、わたしのたったひとりの家族。
面倒見がよくて、いつもやさしくて。
本当に、大好きだった。
〇西洋の街並み
やがて、ふたりとも大きくなって。
わたしは近くの食堂で、アイシャはお城の使用人として働く事になった。
お金をためて、将来はふたりでレストランを経営する事が夢だったんだ。
〇西洋の城
ただ、国王様が死んでしまってから、この国の状況は一変してしまった。
──病気で亡くなった国王を継いで次の王になったのが、王子のカルム。
でもカルムは、やさしかった国王とは正反対の暴君だった。
最初の頃こそいろいろと頑張っていたみたいだけれど、そのうち暴力をふるう独裁者になってしまった。
気に入らない者、異を唱える者は躊躇なく排除される。
そんな世の中になってしまった。
〇黒
──そして。
アイシャも、その犠牲となった。
〇黒
〇可愛らしいホテルの一室
シュリ(でも、分からないな・・・・・・)
シュリ(どうしてわたしが、アイシャになっているのか)
シュリ(死んだ後、わたしの魂が過去に遡って、アイシャの身体に憑依した、とか?)
シュリ(そんな事ってあるのかな??)
シュリ(──でも、もし本当にそうなら、チャンスかも)
シュリ(アイシャが生きている今のうちに、カルムを殺せば。 歴史を変えられるかもしれない)
シュリ(アイシャが死なない未来に変わるかもしれない!)
シュリ(・・・・・・でも、いったいどうやって?)
シュリ(どうすれば、アイシャの事を護れるのかな・・・・・・)
シュリ「・・・・・・。 誰・・・・・・?」
〇城の廊下
シュリ「っ!!」
シュリ(――カルム・・・・・・!?)
カルム「アイシャ・・・・・・」
シュリ「・・・・・・」
カルム「アイシャ・・・・・・!!」
カルム「具合いは大丈夫なのか・・・・・・!?」
シュリ「・・・・・・」
シュリ「・・・・・・はあ?」
カルム「怪我したのかっ!? それとも、何か悪いものでも食べたのかっ!?」
カルム「お腹が痛いのかっ!?」
シュリ「ちょっ、ちょっと、触らないでっ・・・・・・!」
カルム「あっ・・・・・・ご、ごめん・・・・・・。 でも俺、心配で・・・・・・」
カルム「リラも、「アイシャの様子がおかしかった」って言ってたし・・・・・・」
シュリ「大丈夫だから少し離れて!」
シュリ「多分、ちょっと休めばよくなるからっ・・・・・・!」
カルム「そっか、よかった・・・・・・」
カルム「もしかしたら、日々の疲れが急に出たのかな」
カルム「・・・・・・」
カルム「・・・・・・ダメだな、俺。 いつもアイシャに無理ばかりさせて」
シュリ「・・・・・・」
カルム「とにかく、念のため今日はゆっくり休んでほしい」
カルム「あと、もし欲しいものとかがあれば、遠慮なく言ってくれよ」
カルム「出来る限り、用意するからさ」
カルム「──いつもありがとう、アイシャ」
カルム「感謝してる」
シュリ「・・・・・・」
シュリ(な ん じ ゃ こ れ)
シュリ(どうなってんの?)
シュリ(このへらへらした、威厳のカケラもない、指で押したら倒れそうな優男が、1年前のカルム?)
シュリ(ありえない。 まるで別人みたい・・・・・・)
シュリ「・・・・・・」
シュリ「ねえ、訊いていい?」
カルム「ん?」
シュリ「あなた・・・・・・本当に、カルム?」
カルム「・・・・・・」
カルム「・・・・・・はは、ホントだ。 アイシャが、いつもと違う」
カルム「俺の事、初めて名前で呼んでくれたね」
シュリ「・・・・・・」
カルム「・・・・・・」
カルム「逆に訊いていい?」
〇黒
カルム「キミは・・・・・・本当に、アイシャなの?」