愛され少女は愛されない

セブン

一話 少女は愛されたい(脚本)

愛され少女は愛されない

セブン

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  夢を見た。幼いあの日の夢。

花梨(幼少期)「私!大きくなったら蓮くんのお嫁さんになる!」

  隣の家に住んでいた一つ年下の女の子。名前は、なんだったか。忘れてしまった。場所は恐らく家の近所の公園。

  小学生の頃などはよくそこで遊んでいて今でも通学時に見るので覚えている。しかし、少女の顔は靄がかかっていて思い出せない。

蓮(幼少期)「ーーーーー」

  夢の中で俺が何かを言うと少女は頬を膨らませて怒った。

花梨(幼少期)「何それー!そんな目で女の子を見るなんてサイテー!」

  当時の俺が何を言ったのかは覚えていない。が、ろくでもないことを言ったのだろう。怒られてるし

花梨(幼少期)「分かった。じゃあ」

  公園の砂場から立ち上がった少女は砂まみれの足から砂を払うと天に向かって叫んだ。

花梨(幼少期)「私がーーーーー子になったら!結婚してもらうんだから!」

  少女はそう言い残して公園から全速力で走って行く。あの時、少女はなんと言ったのだっただろうか。

  その時、返事をすることは出来ていたのだろうか。
   少女はこの約束を、まだ覚えているのだろうか。

〇男の子の一人部屋
寧々「蓮、蓮!いつまで寝てんの!?早く起きなさい!」

「ぐはぃっ!?」

〇男の子の一人部屋
  聞き慣れた声の主に叩き起こされた少年、奥田蓮は突然の痛みを感じて目を覚ました。

〇男の子の一人部屋
寧々「蓮ってばお寝坊なんだから。毎朝起こしに来るこっちの身にもなってよ」
蓮「うるさいな。姉ちゃんが夜に騒ぐから眠れなくてこんなことになってるんだろ?」
寧々「はぁ!?あんた推しがライブしてんのに黙ってろって言うの!?」
  深夜の騒音騒ぎを反省もせず弟を怒鳴りつけてくる姉に蓮は耳を塞ぎながら階段を降りる。
  奥田寧々。蓮の三つ上の姉で現在は大学二年生。バイトで稼いだお金をアイドルのグッズやイベントなどに全てつぎ込んでいる。
  所謂アイドルオタクである。
蓮「さて、歯磨きして学校行くか」
寧々「は?あんた朝ごはんどうするのよ?コンビニでも寄ってくの?」
蓮「朝飯くらい抜いても問題ないだろ」
寧々「はー信じられない。ほら、これあげるわ」
  寧々が蓮に食べかけのメロンパンを投げつける。気持ちは嬉しいが食べかけはやめてほしい。
蓮「あいてっ」
  メロンパンのキャッチに失敗した蓮の顔面にメロンパンが直撃。寧々の笑い声が響くが蓮は気にせず家を出た。

〇学校脇の道
蓮「はぁ。学校だるいな」
  今日は蓮の通う私立愛立(あいりつ)高校の始業式だ。桜の舞う通学路を蓮は愛用のイヤホンを着けながら歩く。
「れーん」
  今日の始業式は心底だるいが、イヤホンから流れる音楽を聞くとなんだか癒されるし、楽しい気分になる。
  そうだ。せっかくの高校生活。楽しまなければ損だ。
「あれ?おーい蓮?俺の存在見えてる?」
蓮「今日は蝉がうるさいな」
蝉丸「セミって言うな!俺にはれっきとした名前があるんだよ!!」
  新学期初日に面倒臭いのと出会った。夏野蝉丸。中学から一緒の学校に通っている、いわば悪友というやつだ。
  派手な金色の髪の毛を揺らし楽しそうに笑う男で、悪い奴ではないのだが。
蝉丸「セミ呼びは本当にやめてくれ」
  蝉丸はクラスの中心核であり、いつも誰かと話している男だ。しかし、そんな蝉丸に悲惨な事件が起こる。
  そのあまりの声の大きさに堪忍袋の切れた女子生徒達が蝉丸を「セミ」と呼んで罵倒し始めたのだ。
  当時はほとんど会話などしたことが無かった蓮ですらこの話は実に印象に残っている。
蓮「それだけならまだいいけど。その後一週間しか生きられないだの、おしっこかけられるだの」
蓮「授業中に寝てると近づいたら急に鳴き出すぞ、とか言われて友達みんないなくなっちゃったんだもんな」
蝉丸「やめろって。泣けてくるだろ」
  当時はただのクラスメイトだったので無視していたが、蝉丸からは何故か友達だと思われてたらしくそれ以降話しかけられる様に。
  そしていつの間にか悪友と化していた
蝉丸「思い出したくない過去だ。お前も過去なんて忘れ去りたいだろ?」
蓮「いや、そうでもない」
  久しぶりに過去の夢を見たが、その夢は何故か鮮明に残っている
蓮「たまには過去を思い出すのも悪くない」
  そんな他愛のない話をしながら二人で学校に向かった。

〇大きな木のある校舎
蓮「二組か」
  学校に着いた蓮はまずクラス一覧に目を通した。奥田蓮という名前は2年2組にあった。
蝉丸「奇遇だな。俺もだ」
蓮「嬉しくねー」
  口ではこう言いつつも誰も知り合いがいないよりは少し嬉しい。まあ、口には出さないが
  それから退屈な始業式を終え、クラスメイトの自己紹介なども終えて本日の学校は終了だ。
蓮「蝉丸は部活か?」
蝉丸「おう。きぃーつけて帰れよ。また明日な」
  蝉丸はバスケ部に所属しており毎日忙しくしている。蓮は見たことはないがバスケをしている蝉丸はかっこよく見えるらしい。
  到底信じられない話なので信じてはいないが。
蓮「帰ろ」
  帰宅部の蓮はまたしてもイヤホンを耳に入れて家に向かって歩き出す。
  帰ったら何をしようか。ゲーム。いや、溜まっているアニメを消費しようか。

〇一戸建て
  色々考えている間にもう家だ。蓮は歩くのが早いとよく言われるが、共に帰る友もいないので問題ない。
  あ、今のはダジャレではない。偶然である。
「蓮くん!」
  家に入ろうとドアノブに触れた瞬間、音楽とは違う音声が蓮の耳に入った。
蓮「ん?」
  その声に聞き覚えはない。しかしどこか懐かしい様な雰囲気を感じた蓮はイヤホンを外す。
花梨「久しぶり、蓮くん」
  そこにいたのは息切れをした綺麗な女子生徒だった。赤茶色の長い髪をツインテールに纏め、黒い瞳を輝かせて蓮を見つめる女の子。
  着ている服は愛立高校の制服で、息切れをしていて肩で呼吸をしているところを見ると、
  もしかしたら学校から付いてきていたのかもしれない。その愛立の制服を着た女の子に蓮は見覚えがあった。
蓮「花梨か?」
  何となくふと彼女の名前が脳裏に浮かぶ。
  桜沢花梨。蓮が小学生の頃に隣の家に住んでいた一つ年下の女の子。
  恥ずかしがり屋で人と話す事が苦手だった花梨を蓮はよく面倒を見て、一緒に遊んでいた。
花梨「良かった!覚えててくれたんだ!」
  そういえば中学生となった夏、花梨は東京へと引っ越してしまったのだった。
  確か、夢を追うために東京へ行くと聞いたのを今思い出した。
花梨「えへへ、久しぶり」
  出会ったばかりの頃からは考えられない程可愛らしい笑顔で笑う花梨を前にして、蓮は少し視線を逸らす。
  こんなに喜んでいると言うのに今の今まで顔も名前も忘れていたなどとは絶対に言えない。
花梨「えっと、その、ね」
花梨「私、約束叶えたの!」
  約束?不味い。何かの約束をしたのは覚えているが内容を覚えていない。
花梨「だから、だからね」
  何か恥ずかしそうに言葉に詰まっている花梨。蓮は必死に頭を回転させるが思い出せない。
花梨「私!約束叶えたから、蓮くんのお嫁さんになりたい!!」
蓮「・・・ん?」
蓮「はぁぁぁぁ!?」

次のエピソード:2話 少女は話したい

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