真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

16/コクノ(脚本)

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不安狗

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〇明るいベランダ
コクノ「あら、もうシーツの洗濯が終わったのね」
  コクノは僕の手元のシーツを見ると、ベランダの隅に置いてあったいわゆるミカン箱の様な物を持ってきて、物干し台の傍に置いた。
  「はい。オーナーから、あなたは自分で洗濯物を干すのが好きだと伺いました」
  シーツを差し出すと、コクノは受け取ってミカン箱の上にぴょんと飛び乗った。
  真っ白なワンピースが、初夏の風になびく。
コクノ「ええ。何だか、生きてるって感じがするの」
  コクノは背伸びしながらも、慣れた手つきで物干し竿にシーツをかけシワを伸ばしている。
  「・・・・・・どういう意味ですか」
  コロンはコクノのことを、堕天使と言っていた。
  それがそのままの意味を持つのか、何かしらの揶揄に当たるのかはわからない。
  ただ、コロンが悪魔なのだとしたら、コクノが天使であったとしても最早、不思議ではない気がしていた。
コクノ「どういう意味って・・・・・・、そのままの意味よ?」
コクノ「アンドロイドの普及した科学の世界に、非科学的な天使を登場人物にすることは、できなかったの」
  「えっと、僕にもわかる言葉で、お願いしても?」
  コクノはミカン箱からまたぴょんと飛び降りて、僕の正面に立った。
コクノ「わかったわ。でも、何がわからないのかは、私にはわからないわ」
  「いや・・・・・・全部、だよ」
  「昨日コロンは、この世界が夢の世界で、僕が欲しかった世界だと言っていた」
  「つまり僕は今・・・・・・夢を見ているってこと?」
  楽しい夢はたくさん見てきた。だがこんなに長い夢を、僕は今まで見たことが無い。
  これが夢だとしたら、僕は一体何時間眠り続けていることになるのだろう。
  そもそも、いつまでが現実で、いつからが夢なんだ?
コクノ「悪魔の言うことは無視してれば良いの」
コクノ「でも、お兄ちゃんが誤解したままなのは良くないわ」
  「・・・・・・誤解?」
コクノ「あの時あいつは、お兄ちゃんにだけ話しかけてたわけじゃなかったの」
コクノ「ここは確かに夢の世界だけど、それは夜に見る夢のことじゃなくて、お兄ちゃん達が、小さい頃に憧れていた夢のことなの」
  「小さい頃・・・・・・」
コクノ「そう。もう覚えていないかもしれないくらい、お兄ちゃんも小さかった頃の話」

〇狭い畳部屋
  コクノが横目で、家の中の久野の方を見た。
  久野は相変わらず、こたつの中で寝息を立てている。
  「こんな世界を・・・・・・望んだっていうのか?」

〇明るいベランダ
  「僕は、久野に命を救われた」
  「・・・・・・え?」
  コクノの口から、僕の声が聞こえた。
  「だから残りの人生は、久野のために使う」
  「もうそうするしか、僕には無い」
コクノ「夕方の公園で、二人でブランコに乗っていた時に言ってもらったあの言葉」
コクノ「お姉ちゃんは、今でもしっかり覚えてるの」
  いつの間にか、コクノの声は元に戻っていた。
  「・・・・・・」
コクノ「お兄ちゃんも、覚えてるでしょ?」
  そしてコクノが演じた僕のセリフ。
  一言一句、僕は覚えていなかった。
  僕には今、元の世界の記憶しかない。でも昔の記憶に関してはなぜか、思い出そうとしてもかなりあやふやな部分が多かった。
  つまりコクノの言っていることは、本当である気も、嘘である気もする。
  「・・・・・・じゃあ僕が、アンドロイドになる理由は?」
コクノ「それは私にもわからないの」
コクノ「私は、世界を再現しているだけだから」
  「再現・・・・・・?」
  「まさか君が、この世界を作ってるっていうのか」
コクノ「そうよ! すごいでしょ?」
  「まあ、確かに・・・・・・」
  勿論本当に彼女が作っているのだとすれば、だが。
コクノ「それにこの世界、楽しいでしょ?」
  「・・・・・・」
  僕が言葉に詰まると、きょとんとしたコクノが不服そうに首をかしげる。
コクノ「・・・・・・楽しくないの?」
  「久野が家にこもるようになったのも、僕のせいなのか」
コクノ「大丈夫。あれはお兄ちゃんのせいじゃないわ」
コクノ「それを選んだのは、お姉ちゃんだもの」
  でも、それじゃあ・・・・・・。

〇飾りの多い玄関
久野フミカ「コハクー、買い出し行くよー」
  玄関の方から久野の声がした。多分荷物持ちか何かだろう。

〇明るいベランダ
  するとコロンの様に僕の心を読んだらしいコクノが、つぶらな瞳で尋ねる。
コクノ「でも、それじゃあ?」
  「このままじゃいつか、独りで死ぬことになってしまう」
コクノ「・・・・・・」
  「・・・・・・久野には、独りで死んでほしくない」
コクノ「それはあの時お兄ちゃんが、お姉ちゃんに看取ってもらったから?」
  「・・・・・・ああ」

〇病室
  あの時僕の死ぬ恐怖を打ち消してくれたのは、最後までそばにいてくれた久野の存在、未来ある人の手の温もりに他ならなかった。
  久野のお陰で僕は、自分の人生にも意味はあったような気がしたまま、眠りにつくことができた気がした。

〇明るいベランダ
コクノ「でも、それじゃあ人間と同じでしょ?」
  「に、人間・・・・・・?」
コクノ「この世界には、独りで生きることを望む人がいるように、独りで死ぬことを望む人も大勢いるの」
コクノ「それをかわいそうだと思ってしまうのは、かわいそうな人間のすることだもの」
  「・・・・・・何が言いたいんだ」

〇飾りの多い玄関
久野フミカ「ちょっとコハクー?」

〇明るいベランダ
  「あ、はい、今行きます!」
  玄関の方から、また久野の声がした。
  コクノは一応、彼女なりに色々教えてはくれたのだろう。でも結局のところよくわからなかったが。
  するとまた僕の心を読んだらしいコクノが、しゅんと俯いて答えた。
コクノ「ごめんなさい、説明が上手じゃなくて」
  「ああ、いや・・・・・・アンドロイドになっても、僕の頭の良さは変わらないみたいだ」
  いずれにしても、一日ゆっくり考える時間は欲しい。
  時間をかければ僕でも理解できるかもしれない、多分。
コクノ「・・・・・・でも、私がこの世界を再現したのは本当なの」
コクノ「だから、私が死ねば、世界は元に戻る」
  「・・・・・・え?」
コクノ「そしたらお兄ちゃんはアンドロイドじゃなくなって、お姉ちゃんはゾンビになる」
コクノ「お姉ちゃんがゾンビになるのは、人間のお兄ちゃんを見た時なの。それだけは、忘れないでね」
  「・・・・・・」

〇飾りの多い玄関
久野フミカ「コーハークー? 早くー」

〇明るいベランダ
  また久野の命令に反応して、勝手に足が動き出す。
  僕の意思に反して、身体が玄関の方へ向く。
  「い、今行きますから! ・・・・・・コ、コクノ!」
コクノ「・・・・・・何かしら? お兄ちゃん」
  もう、コクノの方に振り返ることもできない。この話は、また今度だ。
  「・・・・・・留守番を、お願いします」
コクノ「任せて! でも、早く帰ってきてね」
  「・・・・・・はい」

〇飾りの多い玄関
  僕の身体が、勝手に久野の後を追う。
久野フミカ「来た来た。どうしたのコハク?」
  「あ、いや、オーナー、あの・・・・・・」
  久野は大きめの、白いパーカーだけ羽織っていた。
久野フミカ「ん? 何?」
  「いえ、その・・・・・・」
久野フミカ「・・・・・・」
  「・・・・・・」
久野フミカ「あー・・・・・・、すぐ、そこだから」
  元の世界でも、この格好で現れて悶々としたことがあった気がする。
  このパーカーは、元の世界では僕が死ぬ前、小さい頃にプレゼントしたもの。この世界では誰からもらったのだろうか。
  アンドロイドである僕が、プレゼントしたとは考えにくい。普通に、自分で買ったのかもしれない。
  僕は玄関の壁に掛けてあったエコバッグを右手に掴んでから、久野の後を追って扉を開けた。

〇スカイフィッシュの群れ
  「お・・・・・・」
  見上げると、真っ白なドローンの群れが空を覆いつくしていた。

〇一戸建ての庭先
久野フミカ「え、いつものことじゃん」
久野フミカ「何やってるかは・・・・・・知らないけど」
  後で久野に聞いてみたところこの世界では、このドローンはいつもの光景らしかった。
  真っ白なドローンの群れは互いにぶつかることなく、器用に進路を変えながら各々が目指す方向へと飛んでいく。
  そしてそのおびただしい数のドローンは、一台が飛び去ればまた次の機体がどこからか現れを繰り返し、空を埋め尽くし続けていた。

〇スカイフィッシュの群れ
  「・・・・・・」
  どうやらこの世界では、自称入道雲の町、ニュウ都シティでさえ入道雲がきれいに見えることは無いらしかった。
  元の世界では、この町へ来てもうニ年経つ。
  それでも未だにこの町に慣れることができていない僕にとっては、この景色は少しだけ、ありがたいことなのかもしれなかった。

次のエピソード:17/ハエトリグサ

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