エピソード1(脚本)
〇マンション群
その日は、予定より早く仕事が終わって
〇玄関内
同棲してる彼氏を驚かそうと、こっそりと玄関のドアを開け
彼氏の部屋に近づいた時だった。
〇部屋の扉
「うん、俺も、好きだよ──」
部屋から漏れ聞こえてきた声
聞き覚えのある優しいトーンで、聞き慣れていたはずの言葉は
私ではない誰かに向けてのものだった。
〇電脳空間
”私もゲーマーになって
お前を撃ちぬいてやる”
〇居酒屋の座敷席
ミィコ「そんで?」
矢内 サオリ「そのまま家から追い出した」
ミィコ「は~~~、まじか~」
ミィコ「彼氏、前に会ったときは浮気するタイプには見えなかったけどな~」
矢内 サオリ「彼氏じゃない。もう元彼」
ミィコ「はいはい。でも実際聞くよね、ネットゲームで恋人寝取られたみたいな話」
矢内 サオリ「よくあることなのぉ!?」
ミィコ「わりと見かけるかも、ゲーム界隈の炎上ネタ」
矢内 サオリ「私がさぁっ! 汗水鼻水垂らしながら働いてる間もさぁっ!」
矢内 サオリ「あいつら部屋で通話つないでイチャイチャしやがってたんだよ!」
ミィコ「うんうん。そりゃあ許せないねぇ」
矢内 サオリ「どうせ一日中部屋にこもってゲームしてるような女でしょ! そんな奴にさぁっ!」
ミィコ「あんたの彼氏、いや元彼がやってたゲームさ、あたしもたまにやるよ。けっこうハマるんだよね~」
矢内 サオリ「ゲーマーがさあ! こっちは現実で戦ってるっつーのにさあ!」
矢内 サオリ「外にも出ずに画面の中でぬるま湯に浸かってるだけのくせにさァ!!」
ミィコ「だんだん偏見入ってきたな」
ミィコ「いや、あたしもたまに遊んだりするからね。ゲーマー全てを憎むのやめな?」
矢内 サオリ「ミィコもネトゲで男漁ってんの!?」
ミィコ「ほんと悪い酒だわ」
ミィコ「まあ今日は聞いちゃるよ、好きなだけ発散しな」
矢内 サオリ「ミィコぉぉぉ!」
〇並木道
矢内 サオリ「なんかさぁ、このまま結婚すんだと思ってたんだよね」
ミィコ「でもさ、元彼ってプロゲーマー目指してるただのプーじゃなかったっけ」
矢内 サオリ「そーなんだよね~」
矢内 サオリ「すぐには芽が出ない職業だけどさぁ、それまで私が支えてあげられればいいかな~とか思ってたの」
ミィコ「ダメ男製造機だ」
矢内 サオリ「なんかやっぱさぁ、ゲーマーなんてクズよクズ」
矢内 サオリ「よく知りもしない相手に声だけで惚れたりすんだろあいつら!」
ミィコ「それはゲーマーに限らずね、最近じゃフツーでしょ」
ミィコ「もう吹っ切ってさ、サオリも新しい人みつけりゃいいじゃん」
矢内 サオリ「また誰かとよく知らない関係から始めるのしんどい・・・」
矢内 サオリ「素の自分を出せるようになるまでの期間がしんどい・・・」
ミィコ「まあ、わかるけどぉ」
矢内 サオリ「わたしゃもう仕事に生きるよ」
ミィコ「Webマガジンのライターだっけ。よく続いてんね」
そう。わりと気に入ってるのだ今の仕事は
ミィコ「明日も仕事あるんでしょ」
矢内 サオリ「うん・・・」
そうだ、私には仕事がある
ミィコ「今日はもう帰りな~」
ミィコ「辛くなったらまたいつでも話聞くからさ」
矢内 サオリ「ありがと・・・ミィコ」
当分はゲーマーを憎みながら、そのエネルギーを仕事にぶつけよう
〇オフィスのフロア
矢内 サオリ「おはようございまーす」
向井デスク「あ、矢内さん」
向井デスク「急で悪いんだけど、木場君がいく予定だった取材お願いしていいかな」
矢内 サオリ「え! 相手方の資料とかあるんですか?」
向井デスク「ああ、うん。これこれ、軽く目を通しておいてね」
紙面の文字に愕然とする
矢内 サオリ「プロ・・・ゲーマー・・・」
向井デスク「インタビューね、プロゲーマーのポメ助さん」
なんだそのふざけた名前は
向井デスク「聞いたことある? SNSのフォロワー6万人だって」
矢内 サオリ「いや、聞いたことないですけど。ゲーマーですか・・・・・・」
よりによって・・・
向井デスク「プロだよプロ。いいよなー、ゲームしててお金もらえるんだから」
今もっとも偏見で接してしまいそうな職種
向井デスク「どしたの・・・怖い顔して」
向井デスク「まあとにかくよろしくね!」
向井デスク「いってらっしゃい!」
矢内 サオリ「いって・・・」
どうしよう・・・
矢内 サオリ「きます・・・」
手が出ちゃうかも・・・
私は世代もありますが、ゲームを趣味にする男性って敬遠します。きっと沙織さんより偏見きついと思います。ただそれを職業として生計を立てている方は、逆にすごいと思いますね。彼女も、元カレをそういう目で見ていたのかなあ?