配信譚~俺と先輩はホラー系底辺ストリーマー~

東北本線

配信と、丑の刻参り(晩夏(脚本)

配信譚~俺と先輩はホラー系底辺ストリーマー~

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〇学校の廊下
「ちょっとぉ!太郎くんっ」
「うぉ・・・、なんだ。ピー子か・・・」
「なんだじゃないでしょう!?掃除当番またサボって。どこ行くつもり!?」
「うっせーなあ。関係ねーだろ?」
「また変なバイト!?」
「また、とは何だよ。聞き捨てならねえな。あのな、金もらって、タダで芸能人に会えるんだぞ?」
「あのねえ、この学校はバイト禁止だし、掃除当番はやんなきゃダメでしょ?」
「会員制だって聞いたけど、あの店、悪い噂しか聞かないよ?」
「・・・・・・・・・」
「なによ?」
「小さい頃は、ピーピー泣いてたピー子のくせに・・・」
「幼稚園の時の話でしょ、それっ!いつまで言ってるのよ!?」
「・・・・・・・・・」
「・・・分かった」
「とか言って逃げるんでしょ」
「いや、本当に忘れてただけなんだ。・・・すまん」
「・・・・・・・・・」
「あ・・・、うん。忘れてたなら、仕方ないね」
「そういや、お前・・・」
「なぁに?」
「小さい頃、アイドルになりたいって言ってなかったっけ?」
「そうやって、また幼稚園の時の話するっ。やめてよ、恥ずかしいっ」
「ほら、先に行ってるからね!」
「・・・・・・・・・」
「・・・マジでやめとけよ。アイドルなんてさ」

〇豪華な社長室
髭切左衛門「つまりよ。芸能人のYが、ネット配信者のMって子を妊娠させてバックレたわけ!」
  榊原トム:暴露の次回予告か
  superZ:その情報はヤバそうww
  天道天:ソースはよ。
  ララバイ@india:配信終盤まで飛ばしてんねえ!
  暴露系ネット動画配信者、髭切左衛門(ひげきりざえもん)の今日のライブ配信。
  同時接続数、つまりライブ配信の視聴者は4万人を超えている。
髭切左衛門「ということで、次の配信も楽しみにしてもらえると、俺は嬉しい」
  いつも通り、ノリノリな調子で配信を行い、次回の暴露予告も放言した彼。
  そんな彼の目に、視聴者のコメントのひとつが目にとまった。
  阿頼耶識:前に言った、バーチャル配信者関連の暴露は、いつなん?
  口を開きかけた彼。
  眼瞼反射で、彼の眉根がぴくりと動いた。
  それを、鼻でせせら笑って。
髭切左衛門「じゃあ、また次のライブ配信も見に来てくれよな?」
  それだけ言って、彼はマウスをクリックして配信を終えた。
髭切左衛門「・・・・・・ちっ」
  ひとつ、舌打ちをする。
髭切左衛門「ユア・・・、お前、なにやってんだよ・・・」

〇廃ビルのフロア
  夏の終わり。秋の始まり。
  そんな季節だった。
  夏休みも残りわずか。大学の講義もそろそろ始まろうというところ。
  今日も今日とて、ホラー系動画配信者で大学二年目のヤクモは、いつもの廃墟のような使われてない学内の建物にいた。
  相棒で大学一年目のハルアキは、今日も来ていない。
  一週間前の妖怪退治に失敗したことが、予想以上に堪えたようだ。
ヤクモ「・・・はぁ」
  思わずため息が出てしまう。
ハルアキ「どうしたんです?溜め息なんかついて」
ヤクモ「・・・・・・・・・」
ヤクモ「いや、この間のことが相当ショックだったのかもしれない・・・と、君のことを心配していたんだ」
  驚かされたのを隠そうと、ヤクモは努めて、表情を変えないように口を開いた。
ハルアキ「あー、アレですか」
  照れくさそうに、ハルアキは頭を掻いている。
ハルアキ「そもそも、怪奇現象に関わらず、他人の意思は尊重されるべきです」
ハルアキ「俺には、怪奇現象やオカルト現象を解決する能力はありますが、」
ハルアキ「他人の意思を変えてやろうと思うほど、まだ俺は思い上がってませんよ」
ヤクモ「・・・・・・・・・」
ハルアキ「その人の運命に逆らうことは、自然じゃないですから」
ヤクモ「すまない。よく分からない」
ハルアキ「目には見えない怪奇現象と同じように、目には見えない理(ことわり)ってのが、あるんです」
ヤクモ「・・・そうか」
  おおよそのことは理解できるヤクモでも、その言葉の真意はよく分からなかった。
  それこそ、平安時代の陰陽師になら、理解できるのかもしれないが。
ヤクモ「じゃあ、この一週間、君は配信もせずに何をしていたんだ?」
ハルアキ「あれ?言ってませんでしたっけ?」
ハルアキ「夏休み中に特別講義があったんですよ」
ハルアキ「一週間、朝から夜まで拘束されるんですが、それだけで二単位もらえるんです」
ハルアキ「出席だけで、テストもなかったんで申し込んでたんですよ」
ヤクモ「・・・・・・・・・」
ヤクモ「私の杞憂、ということか・・・」
ハルアキ「キユー?ビリヤードの?」
ヤクモ「なんでもない。自然の理がどう、とか言うわりに、君は語彙が貧弱だな」
ハルアキ「そうなんですよ。それ、ホント気にしてるんです」
ハルアキ「ビリヤードのキューじゃなかったら、なんなんです?」
  君は一生、球でも突いてろ、という言葉を、ヤクモは飲み込んでおいた。
ヤクモ「まあいい。実は、少し困っているんだが」
ハルアキ「ヤクモ先輩が困るなんて、なんの怪奇現象です?」
ヤクモ「うん。怪奇と言えば怪奇なのだがね・・・」
  怪奇現象、オカルトと決めつけられたことに対して、なんの疑問もヤクモは抱かない。
ヤクモ「暴露系動画配信者、という人種を、ハルアキ氏は知っているか?」
  暴露系配信者、とは、配信者や芸能関係の噂やゴシップを中心に配信を行う者のことだ。
  ハルアキが知らないわけもない。
  ちょっと前に、その一人が国会の選挙なんぞに立候補して当選したりしたものだから、
  世間への認知度が、無駄に上がってしまった。
ヤクモ「その一人から、怪奇現象というか、ゴシップの延長のような相談が来たんだ」
ヤクモ「ちなみに私は、他人の人生を無駄に嘲(あざけ)るようなゴシップや根も葉もない噂話なんぞは、大っ嫌いだ」
  見えない者には信憑性が一切ない、怪奇現象やオカルトをメインに配信している自分たちと、どう違うんでしょうか。
  という言葉を、今度はハルアキが飲み込んだ。
ヤクモ「なんでも、その子と関わると、必ず卒業や引退に追い込まれる、というバーチャル配信者がいるんだそうだ」
ヤクモ「その謎を、究明してほしい、とのことだ」
ハルアキ「それは・・・、なんだかホントに、ゴシップくさいですね」
ヤクモ「だろう?」
  律儀に相談せずに、嫌なら断ればいいのに、とハルアキは思う。
  しかし、それを相棒に相談してから決める、というヤクモの筋を通す気持ちも、悪い気はしない。
ヤクモ「報酬ははずむ、とは言われたが、やはり断ろう」
ハルアキ「・・・・・・・・・」
  先ほどの夏季集中講義終了後、参加した学生同士の打ち上げに誘われた。
  しかし、財布が心もとないために、泣く泣く断ったハルアキである。
ハルアキ「やりましょう」
ヤクモ「そうだな。先方には私が・・・」
ヤクモ「ぃ?」
ハルアキ「ヤクモ先輩。どんなに心がさもしい人でも、困っている人を見捨てることはできません」
ヤクモ「さ、さもしいって、君の語彙力には、ずいぶんとムラがあるんだな」
ハルアキ「語彙の話なんてどうでもいいんです。いま、すぐに、先方にメールをして下さい」
ハルアキ「我々の力で、この怪奇現象を解決に導くんです。絶対に、ですよっ!」
ヤクモ「いや、怪奇現象かどうかも怪しいんだが・・・」
ハルアキ「お金がほしいっ!」
ヤクモ「ええい、正直者め!」

〇廃ビルのフロア
  ──────────────
髭切左衛門「・・・あの」
髭切左衛門「この度は、私の相談に応じてもらって、ありがとうございます」
ヤクモ「ハルアキ氏。なにか視えるか?」
ハルアキ「いや、ヤクモ先輩。挨拶を返しましょうよ」
ハルアキ「俺が挨拶しないと、あんなに怒るのに・・・」
ヤクモ「どうなんだ?」
ハルアキ「い、いえ。なにも視えませんけど・・・」
  態度を改めないヤクモに、ハルアキは代わって相手の視線に応じた。
ハルアキ「ご相談ありがとうございます。ぼ、僕がハルアキで、こちらがヤクモ先輩です」
ハルアキ「よろしくお願いします」
髭切左衛門「ええ、存じてます。こちらこそ、よろしくお願いします」
  自身の配信内では、乱暴な言葉が多い暴露系動画配信者の髭切左衛門だったが、
  現実世界での、とても柔和で慇懃(いんぎん)な態度に、ハルアキは面食らってしまっていた。
ハルアキ「そ、それで、ご相談というのが、バーチャル配信者関連のこととお聞きしましたが・・・?」
髭切左衛門「・・・そうなんです」
髭切左衛門「『京橋ひめ』って、バーチャル配信者のことはご存知ですか?」
ハルアキ「え、ええ。なんというか・・・、よく視ています」
  京橋ひめ。
  バーチャル配信者の事務所に所属するバーチャル配信アイドルで、その事務所の3期生だ。
  ヤンデレ系のバーチャル配信者で、模写なのか本来の性格なのか、その言動はかなり艶めかしく蠱惑的。
  その分、熱狂的なファンも多い。
  一例ではあるが、一緒に死のう、とか、簡単に言っちゃう配信者だ。
  事務所(ハコ)推ししているハルアキには、音声付きで思い出すことができた。
髭切左衛門「ここだけの話なんですが、その子ってね」
  髭切左衛門の目が、微かに細くなる。
髭切左衛門「紅白にも出たSOULって歌手と、交際してるんですよ」
ハルアキ「・・・・・・・・・」
  誰しもそうであるように、ハルアキにも配信視聴スタンスがある。
  彼の場合、バーチャル配信者の中身については、微塵も興味がない。
  中身、というのはアバターに声をあてている人物のことだが、
  配信者の中身が、誰と付き合っていようがいまいが、ハルアキには関係はない。
  本人がそれで幸せであるならば、それに越したことはない。
  本人が健康であって、望む視聴者が一人でもいる限り、長く活動を続けてもらえていれば、それでいいのだ。
  つまり、依頼人ではあるものの、髭切左衛門が暴露したその情報は、
  透明な水に落としたインクのようなもの。
  懸命に風呂場を掃除したあとに見つけた、小さな黒カビのようなものだった。
ハルアキ「・・・続けて下さい」
  ハルアキの眉間に、皺も寄ろうというものだ。
髭切左衛門「SOULってのが、これが天然の女たらしとでも言いますかね?」
髭切左衛門「京橋ひめと交際してはいるんですが、共演者の女性と食事したり、事務所の後輩のバーチャル配信者を家に連れ込んだりしていて」
ハルアキ「・・・・・・・・・」
髭切左衛門「ご存知ないですかね?そのバーチャル配信者ってのが、こないだ引退した荒吐メイって子で」
  ヤクモの言う通り断るべきだった、とハルアキは後悔し始めている。
  おそらく、本人には悪意がないのだろう。
  その情報が、相手を喜ばせているとすら、思っているのかもしれない。
  その引退したバーチャル配信者は、高校時代のハルアキの後輩の女の子だ。
  夏の初めに、ヤクモと共に、彼女に向けられていた呪いを解いた。
  後輩だった彼女の苦悩や葛藤、辛さや苦しみを、ハルアキは思い出していた。
髭切左衛門「共演者だった女優は深夜にマンションから飛び降りて大ケガ」
髭切左衛門「荒吐メイは体調不良で急に配信者を引退しちゃったんですよ」
髭切左衛門「偶然、だとは思うんですがね?」
髭切左衛門「この関連性を、私は調べてるんです。しかしながら、どうも配信で伝えるには・・・」
髭切左衛門「憶測、推測の域を出ないんです。それこそ、偶然、としか言いようがない」
髭切左衛門「そこで、お二人に調査を依頼した、という次第です」
  真剣な表情を、髭切左衛門は崩さなかった。
  知らなくていい世界の話だ、とハルアキは心を閉ざす。
  後輩の明日香ちゃんの呪いはもう、彼女に届くことはない。新しい道を、彼女も歩み出している。
  もう、自分には関係がない。
  さて、どう断ったものか、とハルアキは口を開きかける。
ヤクモ「・・・彼女の、なにを見た?」
  ヤクモだった。相談を受ける気はない、と話していた彼女。暴露配信など、唾棄すべきものだ、とまで言っていた彼女が、
  急に髭切左衛門に問いかけた。
髭切左衛門「なにを・・・って、急に言われましてもねぇ・・・」
髭切左衛門「私は、暴露配信はしても、身辺調査は仕事じゃないですから」
ヤクモ「だったら、探偵なり興信所なりで調査を依頼すればいい」
ヤクモ「我々に調査を依頼することが、まずお門違いというものだ」
ヤクモ「しかし、髭切氏は我々を頼った。なぜだ?」
髭切左衛門「・・・・・・・・・」
ヤクモ「答えるつもりがないなら、帰っていただいて結構」
ヤクモ「そもそも相談を受けたのも、ハルアキ氏のたっての希望があったからであって、」
ヤクモ「私は、ゴシップで儲けようという魂胆が、そもそも大嫌いだ」
  常々、はっきり言ってしまうヤクモを止めるのが、自分の仕事であると思っているハルアキだが、
  この時ばかりは、止めることはしなかった。
髭切左衛門「・・・・・・・・・」
  二人に睨むように見つめられ、観念したのか髭切左衛門はため息を吐いた。
髭切左衛門「さ、先に言っておきますけどね、私は偶然、それを見たんであって・・・」
髭切左衛門「けして日常的に・・・、その、なんというか・・・」
ヤクモ「髭切氏が、京橋ひめの中身をストーキングしていたかどうか」
ヤクモ「その点は、面倒なので端折っていただいて構わない」
ハルアキ「す、ストーカー・・・!?」
髭切左衛門「いや・・・、配信内容を精査するために・・・・・・」
ヤクモ「興味がない。なにを、見たんだ?・・・真夜中に」
髭切左衛門「・・・・・・・・・」
髭切左衛門「ま、参りました。なるほど。やはり、この分野に関しては確からしい」
ヤクモ「世辞はいらない」
髭切左衛門「・・・・・・・・・」
髭切左衛門「ある夜のことです。京橋ひめの中身がね・・・」
  ここにきて、ハルアキは思い至る。
  後輩の佐藤明日香は、なんの呪いを受けていたのか。
ハルアキ「あ、丑の刻参り・・・!」
ヤクモ「おそいっ!気が付くのが遅すぎるぞ、ハルアキ氏!」
  ヤクモの叱責が飛ぶ。
ハルアキ「す、すみません・・・・・・」
  とりあえずハルアキは、謝っておくことにした。
  つまり、夏の初めに会った佐藤明日香や、SOULなる歌手と食事をした女優を呪ったのが、京橋ひめ。
  深夜に、その京橋ひめの中身が、丑の刻参りに興ずる姿を、髭切左衛門は目撃した、ということ。
  事象同士に、繋がりが生まれる。
  廃学舎の外では、ひぐらしが夏の終わりを告げていた。

〇古びた神社
  東京。午前二時過ぎ。ある神社。
  靴音もたてずに、鳥居をくぐったのは、御手洗優愛(みたらいゆあ)だった。
  バーチャル配信者アイドル『京橋ひめ』の中身である。
  いまや自分の本名も忘れてしまいそうになるくらい、バーチャル配信が板についている。
  配信中のアバターこそが、自分の本当の姿なんじゃないかと思うことすらある。
  さきほどまで行われていた深夜過ぎまでのライブ配信は、最高同時接続数9万人を超えていた。
  事務所(ハコ)は、ソーシャルゲームやフィギュア、果てはコンビニ商品まで、
  様々なコラボグッズを、彼女のアバターや声を使って、世に送り出している。
  そんな、バーチャル配信の第一線を走り続けているのが、彼女だった。
  境内を通り過ぎ、御神木へと彼女は向かう。
京橋ひめ「・・・・・・・・・」
  交際しているはずのSOULは、同じ事務所の後輩である女の子と、未だに食事を繰り返している。
  それを、彼女は本人から、笑顔のままで聞かされている。
SOUL「バーチャル配信者だったんだけど、引退しちゃってさ・・・」
SOUL「歌手として再デビューするから、先輩としては、応援しなきゃいけないだろ?」
  優しい。
  優し過ぎる。
  きっと、相手はそんなふうに受け取らない。
  そんなわけないのに。
  彼は私しか見ていないのに。
  彼の好意が向いている、と勘違いしてしまう。
  そんなのはイヤで嫌で仕方がないのだけれど、
  それを伝えたら、きっと自分は彼に嫌われてしまうだろう。
  彼は、自分が動画サイトの中じゃなく、現実の世界に生きる人間であるということの証明。
  スターである彼が、彼女自身の本当の姿を照らしてくれる。本当の彼女を、示してくれる。
  だから、彼女はいつも、笑顔を張り付けて、
京橋ひめ「そうなんだ」
京橋ひめ「そうだね」
京橋ひめ「優しいんだね」
京橋ひめ「そんなあなたが、大好き・・・」
  そう、言い続けるしかなくて。
  縋って、縋って、縋り続けるしかなくて。
  彼女はカバンから、
  藁人形を取り出す。
???「徒労だな」
  ビクリ、と身体が跳ね上がった。
  女性の声。
  慌てて、京橋ひめは振り返る。
  黒髪ポニーテールの女性が、厳しい視線をこちらに向けていた。
  逃げ出そうと駆け出す方向に、
  軽薄そうな、男が一人。
ハルアキ「ご迷惑はおかけしません。お話だけ、伺ってもいいですか?」
ハルアキ「その、藁人形について、です」
  そんなことを、自信なさげに、彼は告げた。

〇ファミリーレストランの店内
  三人が入った深夜のファミレスは、客も片手で数えるほどしかいなかった。
  隣同士でホラーバスターズ、向かいに、京橋ひめが座っている。
ヤクモ「鬼・・・か」
京橋ひめ「・・・はい?」
  そんな会話とも言えぬ言葉が、会話の始まりだった。
ハルアキ「申し遅れました。ホラー考察系動画配信者のハルアキと、こちらはヤクモ先輩です」
  ハルアキが自己紹介する。
ハルアキ「その・・・、僕は佐藤明日香の友人でして・・・」
ハルアキ「彼女を呪うのを、やめていただきたいな、と思って、神社で待ってたんです」
京橋ひめ「・・・・・・」
京橋ひめ「帰っていい?意味がわからないんだけど?」
ヤクモ「まあ、そうなるな」
ハルアキ「先輩・・・・・・」
ヤクモ「ハルアキ氏。無駄だからやめろ、と包み隠さず言ってやればいいんだ」
ヤクモ「呪いは自分が解いて、二度と降りかからないように対応している、と」
ヤクモ「届きもしないのに、藁人形相手に一人相撲をしているのは、滑稽以外の何物でもない、と」
ヤクモ「どうしてはっきり言わない?」
ハルアキ「いや、滑稽とか思ってませんし・・・」
ハルアキ「そんなの、絶対信じてもらえないじゃないですかぁ・・・」
ヤクモ「相手は、毎晩のように、神社で深夜、奇行に走る女だぞ?」
ヤクモ「自身の感情に振り回されて、嫉妬のあまり自分が鬼になってしまうのも厭わない」
ヤクモ「埋まらない愛欲を満たすためだけに、他人を不幸にする人間だ」
ヤクモ「はっきり伝えなければ・・・、いや伝えたとしても、気が付けない可能性すらある」
京橋ひめ「帰ります」
  京橋めいが立ち上がる。
ヤクモ「待て」
  制止したのはヤクモだった。
ヤクモ「SOUL氏と関係した女優の某や、佐藤明日香氏だけじゃない」
ヤクモ「オーディションや、同じ事務所のアイドル、同期のバーチャル配信者、競合他社の配信者・・・」
ヤクモ「不審な事故、急な体調不良が多過ぎる」
ヤクモ「何人呪えば気が済むんだ?」
ヤクモ「呪いの残滓も、こちらは確認している」
ヤクモ「調べはついている。信じてもらわなくて、構わないがね」
ヤクモ「なぜ、そんなに固執する?・・・なぜ、呪う?」
  帰ろうとしていた京橋ひめ。
  空を裂くように、きっ、とヤクモを睨んだ。
京橋ひめ「呪いなんてバカバカしいこと言ってる貴方たちには、分からないでしょうけど」
京橋ひめ「他人を蹴落とさなければ辿り着けない場所っていうのが、世の中にはあるの」
京橋ひめ「学生気分で、配信者の真似事をしてる人間には、きっと考え及ばない」
京橋ひめ「鬼がなに?悪魔がなに?」
京橋ひめ「売れるためなら、お金を稼ぐためなら、愛情を・・・、得るためなら」
京橋ひめ「なんにだって、私はなってやる」
京橋ひめ「なんだって、私はやるわよ」
京橋ひめ「それが、夢を追うってことじゃないの!?」
ヤクモ「・・・・・・・・・」
ハルアキ「・・・・・・・・・」
ヤクモ「かわいそうに」
京橋ひめ「・・・黙ってろっ!」
  そう叫ぶように言って、
  京橋ひめは駆け出すように、ファミレスを後にした。
ヤクモ「・・・・・・・・・」
ヤクモ「と、いうわけだ。・・・髭切氏」
髭切左衛門「・・・・・・・・・」
  ホラーバスターズ二人の背後の席で、頭をテーブルに突っ伏していた客が立ち上がる。
  いまにも泣き出しそうな表情の髭切左衛門に、
  二人は、背を向けるばかりだった。

〇警察署の食堂
  ──────────────
  夕方の学生食堂。
  相変わらず、ハルアキは八〇〇円のカツカレーを我慢して、二五〇円のわかめうどんを啜っている。
  隣から、他の学部の学生たちの声が聞こえている。
学生「なあ。昨日の髭切左衛門のライブ配信、見た?」
学生「あーっ、見た見た。引退配信だろ?」
学生「ついにネタが切れましたって感じの内容だったな」
学生「だよなー!人気のバーチャルアイドル配信者が、紅白歌手と付き合ってるって・・・」
学生「そこまでは良かったっていうか、そんなのネットニュースにも週刊誌にも載ってんのに」
学生「なんだっけ?その配信者が、他人を不幸にする呪いをかけてる、だっけ?」
学生「ウケるよな。配信見ながら笑っちまったよ!」
学生「そんで、コメントが荒れだしてさ」
学生「何をトチ狂ったのか、そのアイドル配信者が、高校の時の同級生とか言い出して」
学生「ははっ、なんか急に泣き出してな?」
学生「笑えたよなぁー。自分は、他人を泣かせて飯食ってきたんだろっての・・・っ」
学生「暴露系配信者が泣きだしたら、そりゃあオシマイだよ」
学生「引退も納得ってな!」
学生「最高につまんなかったな。さーて、次は、どの暴露系配信者を追う?」
学生「俺はもう、カリカリのチャンネル登録してっから」
学生「え、誰だよそれ。教えてくれよ」
  どんぶりを下膳台に下げて、ハルアキは食堂を出た。

〇廃工場
  迷いなく、彼は廃れた学舎に向かう。
ハルアキ「・・・・・・・・・」
  もう数少ない、余命幾ばくもない蝉の音だけが、
  まるで、この世の全てを嘆くかのように、
  届かぬ思(のろ)いを、遮二無二、叫び続けるように、
  ただ寂しく、泣いているだけだった。

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