真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

15/新たな我が家(脚本)

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〇狭い畳部屋
  「学校には、行ってないんですね」
  七月十日、朝の八時過ぎ。
  僕は久野の家のリビングの掃除をし終え、久野の話し相手になっていた。
久野フミカ「行っても、話す人いないし」
  「・・・・・・そうなんですか?」
  久野が脱ぎ捨てた寝間着を拾って、脇に抱えていた洗濯カゴに入れる。
  なぜか寝る時は、ちゃんと服を着るらしい。
久野フミカ「・・・・・・ねえコハク、ほんとに大丈夫?」
久野フミカ「昨日からメモリーの調子が悪いみたいだけど・・・・・・他のに買い替えるなんて嫌だからね?」
  数時間アンドロイドとして生活してみてわかったことだが、
  アンドロイドが普通に存在している世界の割に、それ以外は元の世界と特に変わり無い気がした。
  久野の家での恰好は予想外だったが、洗濯機や掃除機などの家電は何なら、ちょっと旧型位の性能だった。
  「ああ、いえ、昨夜少しプログラムの更新がありまして」
  「メモリーのダウンロードが、まだ済んでいないんです」
  ひとまず適当な嘘で誤魔化す。
  今日、久野に電源をつけてもらった時点で、僕の記憶は元の世界の、人間だった時のものだけになっていた。
  つまりこのアンドロイドが普及した世界で、アンドロイドとして、久野に仕えていた記憶は一つも無い。
久野フミカ「プログラムの更新? そんなのあったっけ?」
  七月になってもなお出しっぱなしになっているこたつに、久野は首まで潜りこんで目を瞑っている。寒いなら服着ればいいのに。
  「はい・・・・・・たまに」
  「それでもう一つ確認したいのですが、僕は、あなたのことを何と呼んでいましたか?」
  まさか、持ち主のことを呼び捨てということは無いだろう。
  それにここには、久野という苗字を持つ人物が他にもいる。
  ベランダを見ると久野の妹、コクノが背伸びをしながら洗濯物を干していた。
久野フミカ「え、アンドロイドって、買い主のことを呼ぶときはオーナー、なんじゃないの?」
  飼い主・・・・・・。少なくとも久野は、アンドロイドのことをペット感覚で認識しているようだ。
  「まあ、はい・・・・・・ただ最近は、ニックネームで呼ばせるオーナーも増えてきていますので」
  また適当な嘘で誤魔化す。
  とにかく、この世界のアンドロイドは主人のことを、オーナーと呼ぶようだ。
久野フミカ「それが更新プログラムの一つ? んー、でも私はオーナーでいいや」
久野フミカ「渾名とか、あんま馴染みないし」
  「そうですか、わかりました」
  「それでオーナー、その、身体の調子はいかがですか?」
久野フミカ「身体の調子?」
  久野が、眠そうな目でこちらを見た。
  「そうです。例えば皮膚がただれたりとか、肌が灰色になったりとか・・・・・・」
久野フミカ「え、いや、別に大丈夫だけど・・・・・・」
久野フミカ「ていうか私の体調のことなら、コハクの方が詳しいよね? 何なら今、スキャンする?」
  久野がこたつから這い出てきて、気を付けの姿勢で目を瞑った。
  スキャンする時の体制なのだろうが、僕は慌てて背を向けた。
  「あ、でも、僕を見ても、何も問題無いんですよね?」
久野フミカ「コハクを見ても・・・・・・? えっと、ぱっと見じゃよくわかんないんだけど、何か見た目もアップデートされた?」
  「あ、いや・・・・・・」
久野フミカ「え、ちょっとよく見せてよ」
  久野がそう言うと、僕の身体は勝手に久野の方に向いて動けなくなった。
  音声認識によるものだろうか。久野は顎に手を当てて、僕の身体をまじまじと見ながら僕のそばを一周した。
  僕はその間、指一本動かすことができない。
  「お、オーナー・・・・・・?」
久野フミカ「あー・・・・・・いや、ごめん。わかんない」
  僕を直視しても、久野はゾンビになる様子も、暴走する素振りも見せなかった。
  その時、洗濯機の洗濯終了音が聞こえた。
  「いえ、もう、大丈夫です。その様子なら・・・・・・」
久野フミカ「ほんとに大丈夫? 一応スキャンしてよ」

〇数字
  その一言で、僕の視界は大量の数値で埋め尽くされた。
  久野の体温や心拍数だったのだろう。そして最後に、正常の文字が表示された。
  これがいわゆる、アンドロイドの持つ人体スキャン能力なのだろう。
  皮膚の腐敗や自我の喪失の形跡も見られない。どうやら本当に、久野は正常らしい。

〇狭い畳部屋
  「あ、いや、ほんと、問題無いようなので、では、僕は洗濯物を干してきます」
久野フミカ「あー・・・・・・・・・・・・、それも、説明し直さないとダメなんだっけ」
  久野はこたつに戻り、伸びをしてからベランダのコクノの方を向いた。
  「説明、ですか・・・・・・?」
久野フミカ「洗濯物を干すのはコクノの日課」
久野フミカ「生活してる感じがして、好きなんだって」
  「・・・・・・生活してる感じ、ですか」
久野フミカ「うん。まあ洗濯物を持って行ってあげるくらいなら、喜んでくれるかもね」
  そして久野はまた、こたつに潜ってうたたねを始めた。
  「・・・・・・・・・・・・」
  この世界なら、久野がゾンビにならずに済む可能性はある。
  というか現時点で、僕を見てもゾンビになってしまうことは無いようだ。
  僕がアンドロイドになってしまっていることに関係があるのかはわからない。
  とは言え、そもそも僕はまだこの世界のことについて知らなすぎるはずだ。

〇明るいベランダ
  僕はリビングを後にし、確実に色々知っているであろう久野の妹、コクノのいるベランダへ向かった。

次のエピソード:16/コクノ

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