エピソード5(脚本)
〇応接室
有島孝雄「山木さん、相手弁護士の口車に乗らず、冷静に対応してください」
山木俊介「わかってますよ。 ピンチなのは相手のほうだ。 こっちは堂々といきますよ」
コンコン
伊吹香奈「失礼します」
三倉聡子「どういうことですか? 今日は美奈さんもいらっしゃるはずでは?」
伊吹香奈「急な体調不良によるものです」
山木俊介「ふん、土壇場で逃げたんだろ」
三倉聡子「山木さん」
伊吹香奈「精神的苦痛で夜も眠れないそうです。 体調不良もストレスから来るものだと思われます」
山木俊介「ふざけるな! こっちの台詞だ」
三倉聡子「山木さん、落ち着いてください」
〇応接室
伊吹香奈「美奈さんの主張としましては、どうしても離婚は認めたくないとのことです」
山木俊介「向こうは浮気をしたんだぞ!」
伊吹香奈「ではお聞きします。 美奈さんの話では、山木さんはほとんど身体を求めなかったと言います」
伊吹香奈「それは本当ですよね?」
山木俊介「!」
有島孝雄「・・・山木さん、本当のことを言って頂いても構いません」
山木俊介「彼女との間に性交渉があったのは結婚して最初の1年くらいだ」
「・・・・・・」
伊吹香奈「なぜそれがなくなったんですか?」
山木俊介「・・・出来ないことがわかったんだ」
有島孝雄「!?」
山木俊介「美奈は子供が出来ないんだよ!」
有島孝雄「・・・っ」
山木俊介「当時は今ほど不妊治療が盛んではなかったし、美奈もおばあちゃんが一人じゃ心配だからってな」
山木俊介「子供はいいって話になったんだ。 そしたら、そのまま自然に、なくなっていった・・・」
伊吹香奈「なるほど。 それで山木さんは彼女を求めなくなったと」
山木俊介「・・・・・・」
有島孝雄「伊吹さん、仮に、山木さん夫婦がセックスレスだとしても、それで美奈さんが不貞をしていい理由にはなりません」
有島孝雄「こちらは裁判でその点を争点にしたいと思っています」
三倉聡子「裁判!? 有島さん、裁判まで進めるつもりですか?」
有島孝雄「当然だろう。慰謝料なんか問題じゃない。 向こうが別れないと言うんだから」
伊吹香奈「わかりました。 では、今後はその方向で進めさせて頂きます」
〇応接室
テレビ画面では、レポーターが弁護士の伊吹香奈に質問をしている。
「では、このまま裁判になるという形でよろしいのでしょうか?」
「はい、そうなります」
「一部報道では、美奈さん夫婦はセックスレスだったという内容もあります」
「間違いないですね」
伊吹の言葉にざわつく記者たち。
さらに伊吹は続けて言う。
「女性として、夫から求められないというのは察して余りある苦痛です」
「私は美奈さんが味わってきた苦痛を少しでも取り除けるように、全力を尽くし——」
聡子が忌々しげにテレビを切る。
プルルルル・・・
有島孝雄「もしもし。ええ、ええ。大丈夫です。 裁判に有利なのは変わりありませんから。 ご安心ください」
電話を切る有島。
三倉聡子「山木さんですか?」
有島孝雄「ああ、八つ当たりだ。 セックスレスのこと、なんで正直に言わせたんだってな」
三倉聡子「それにしても、もうマスコミが嗅ぎつけているなんて」
有島孝雄「当然だ。 俺がFAXを流したんだから」
三倉聡子「・・・!? どういうことですか?」
有島孝雄「裁判には勝つ。それが仕事だ。 不倫は決定的だし、証拠もある」
三倉聡子「だけどそれは、山木さんによる捏造かもしれないって・・・」
有島孝雄「それは確証があるわけじゃない。 どうやったって、山木さんが有利なのには変わりない」
三倉聡子「・・・・・・」
有島孝雄「だがそのままだと、美奈さんが悪者になってしまう」
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