F.S.S〜ファンタジー.ショート.ストーリー~

Jakki_TNM_account

幻想世界小噺 _1(脚本)

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〇屋敷の書斎
ヘレン「中等2級冒険者ハイド。これまでの貴方の行動、発言、その他の告発を加味し、降格処置並びに、報酬減額処分を申し付けます」
  春の陽射しが窓から差し込むギルドの一角で、可愛らしい、しかし厳しい声が聞こえている。
  その声の主の少女は長い金色の髪をかきあげながら書類を見ていた目を目の前の男に向ける。
ヘレン「また、この処置を受けた貴方は一月に一回の口頭による話し合いで、心からの反省が見られるまで続きます」
ヘレン「また、この処分の最中に似たような告発を受けた場合は、最悪冒険者登録抹消、活動ができなくなる可能性があります」
ヘレン「・・・宜しいですね?」
  と彼を見ていた目を険しくする。
  それはそうだ。
  こんな処分、余程酷い行動がない限り、このギルドでは下されない。
  それだけ目の前にいる彼「ハイド」と呼ばれた冒険者はギルドの管轄内で暴れたのだ。
ハイド「・・・」
  しかし、その視線を受けてなおこの青年、ハイドは足を組みながら目を浅く(そう見える)閉じ、椅子に座っている。
ヘレン「・・・聞いてるんですか!?ハイドさん!?」
  その様子に怒った少女、ヘレンは机をバンッと叩きながら声を荒げる。
  全く反省の様子が見られない。
  何を考えているのだ、この男は?
ハイド「ん〜〜?あ〜。聞いてるよ」
ハイド「降格とクエスト報酬減額。あと月イチの口頭弁論だろ?」
ハイド「聞き飽きてるよ。そのセリフ。眠っちまうわ」
  と閉じていた目を開きつつ、そのくすんだ金髪を掻き上げる。
  その目は眠たげで、気怠げそうにこちらを睨んでいる。
ヘレン「・・・!?いいですか!?こんな処分、このギルドでは滅多に出ることはありません!!」
ヘレン「それを何度も受ける貴方はハッキリ言いますと・・・!!」
ハイド「あ~はいはい分かった分かった。それも聞き飽きたって」
ハイド「ギルドに入ってから5回は聞いた」
ヘレン「7回!!この弁論で7回目です!!聞き飽きたと言うなら、いい加減にその態度を直してください!!」
ヘレン「なんで7回もこの処分を受けながら全く直る様子が無いんですか!?」
  全く反省の色がないハイドに今日一番の大声を出しながら机に身を乗り出し詰め寄る。
  そう7回。
  本来はあまり受けない処分をこいつは7回も受けているのだ。
  何なんだこの冒険者。
ハイド「あ~OKOK」
ハイド「んで?今回はどんぐらい等級下がって、どんぐらい報酬引かれんの?」
ハイド「等級はどうでもいいけど、カネはあんまり引かねぇでほしんだけど?」
ヘレン「・・・・・・ッ!?」
ヘレン「・・・はぁっ!もぅっ・・・!」
ヘレン「今回は報酬の3分の2!こんなに引かれたら何も残らないでしょう!?冒険者ってお金がかかるのよ?」
ヘレン「どうするの?」
  やや落ちいたのか、呆れて諦めたのか、後半は諭すような言い方になった。
  このギルドで働き始めた時から冒険者になった彼と、彼とコンビを組んでいる彼の兄は今では昔馴染みのような感覚になっている。
  無論、だからといって職員としての役目をやめるわけにはいかないが、それでも同時期にこのギルド所属になったのだ。
  多少、というか大いに気にかけていた。
ハイド「ほ~ん。3分の2カットねぇ・・・」
  しかし当の気にかけられてる本人はそんなことに気にしないかのように、いや、気にしてないのだろう。
  報酬カットの方に意識を向けている。
ハイド「・・・まぁ何とかなるか」
ハイド「で?他になんかあんのか?」
ハイド「無ぇんなら帰っていいか?」
  そう。これである。
ヘレン「・・・貴方本当に反省してる?」
  と、もはや敬語をかなぐり捨て話すヘレン。
  こいつに敬語で話しても無駄だと悟ったのだろう。
  実際賢明な判断だ。
ハイド「ああしてるしてる。すっげぇしてる」
ヘレン「ウソ。絶対反省してない」
ハイド「おお。よくわかってんじゃん。ヘレンちゃ~ん」
ヘレン「はぁ・・・」
  ヘラヘラしてるハイドに溜息をつき、頭を抱えながら着席したヘレンの顔には、明らかに目の前の男に対する苦労見え隠れしていた
ヘレン「・・・というより。なんで毎回私が貴方の処分を伝えないといけないの・・・」
ハイド「知らねぇよ。俺達と同時期に所属すっからじゃねえの?」
  だとしたら理不尽過ぎる。
  いや目の前のこいつのせいなのだが。
ヘレン「・・・そもそもなんで今回は処分を受けることになったの?」
ハイド「酒飲んでたら酔っ払い絡まれたんだよ」
ヘレン「どうせ『そいつに色々言われてムカついた。』とかの言い訳来るんでしょう?」
ヘレン「聞き飽きたわよ」
ハイド「わかってんじゃん~」
  さっきのハイドのマネをして言ってもヘラヘラと笑いながら言うハイド。
  それを見て頭を抱えながら溜息をつくヘレン。
  この二人のこの景色は、最早このギルドの風物詩になりかけていた。
ハイド「ま、何言われても俺には響かねぇよ」
ハイド「そんで?念の為聞くけど今回はどんぐらい等級下がってんだ?」
ヘレン「念の為って・・・」
ヘレン「はぁ・・・」
ヘレン「・・・マイナス2等級で、えーと?」
ヘレン「うわ。低等1級だって」
ヘレン「大分依頼の質と報酬下がるわね」
ハイド「ほ~ん」
ヘレン「はぁ・・・」
  全く気にする様子のないハイドに何度目かの溜息をつくヘレン。
ヘレン「全く・・・」
ヘレン「とにかくこれ以上騒ぎを起こしたら、本当に冒険者を続けられなくなるから気を付けなさいよ」
ヘレン「じゃあ今日のところは以上です!」
ハイド「ヘ〜い」
ヘレン「なにか質問はありますか?」
ハイド「ん〜?」
ハイド「・・・あっ」
  すぐにギルドの職員としての顔に戻ったヘレンの言葉に対し気のない返事をするハイドだったが、ふと思い出したように声を上げる。
ハイド「そういやさ。俺とアイツ、コンビ組んでるよな?」
ハイド「その場合あいつがあいつの等級相当の依頼受けたら、それに参加できるのか?」
  と質問するハイド。流石に冒険者として気になる部分だったのだろう。
  珍しくちゃんと聞こうとしている。
  態度はどうこうとして、だが。
ヘレン「え?ああ」
ヘレン「それはコンビとかパーティでの話し合いになるわ」
ヘレン「依頼に対して実力不足だとリーダーやメンバーが判断したら受けれないし。申し分ないと判断したら参加できるって感じね」
ハイド「なるほどねぇ」
  質問されたことが意外だったのか、ついついいつもの調子に戻ったヘレンに目もくれず、一人納得してるハイド。
ハイド「じゃあその場合、報酬は分割、俺の場合はさらにそっから3分の2、と?」
ヘレン「そうね」
ハイド「・・・」
ハイド「あれ?結構ヤバい?」
ヘレン「だから最初からそう言ってるでしょうが!!!!」
  『今更気づいたのか!!』と再び今日一番の大声を更新したヘレンを無視しつつ、今更頭を抱えるハイドであった。

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