第6話 商売敵、現る!➂(脚本)
〇広い公園
ヒカル「お母さん、最近怖いんです」
ヒカル「いつもイライラしてるし 僕やお父さんにもキツく当たって・・・」
ヒカル「きっかけは・・・わからないです」
ヒカル「僕も、お父さんも、いつもどおり やってただけなのに・・・」
ヒカル「いつもどおりがダメだったのかな・・・?」
ヒカル「お母さん、ずっと辛かったのかな・・・?」
ヒカル「僕の成績が悪いから、僕が悪い子だから、 イヤになっちゃったのかな・・・?」
ヒカル「なんでこうなっちゃったんだろう・・・!」
ハルコ「ありがとう、ヒカル君」
ハルコ「辛いのに教えてくれて」
ヒカル「あ・・・」
ハルコ「ヒカル君は昔のお母さんに戻ってほしい?」
ヒカル「・・・・・・」
ヒカル「ううん」
ヒカル「お母さんが辛いなら、戻らなくていいです」
ヒカル「でも、やっぱり・・・笑ってた頃の お母さんが1番・・・好き」
ヒカル「好き、だった・・・!」
ハルコ「じゃあ、お姉ちゃんが魔法をかけてあげる」
ヒカル「魔法?」
ハルコ「ヒカル君も、お母さんも、お父さんも、 みんな笑顔になれる魔法」
ヒカル「そんなの──」
ハルコ「魔法はね、信じないとかからないの」
ハルコ「アタシはゼッタイにウソをつかない」
ハルコ「ヒカル君の信じる気持ちに応える」
ハルコ「だからまず、ヒカル君にかかってほしい」
ヒカル「笑顔になる、魔法」
ハルコ「それはね──笑顔だよ」
ヒカル「笑顔・・・?」
ハルコ「笑顔がね、相手を笑顔にする魔法なんだよ」
ハルコ「だからもう、ヒカル君はかかってる」
ハルコ「もう──笑えるよ」
ヒカル「・・・・・・」
ヒカル「・・・うん、笑える」
ヒカル「僕、お父さんにも、お母さんにも、 笑ってほしい」
ハルコ「うん、ゼッタイに叶えよう」
〇綺麗な一戸建て
ミホ「ヒカルは主人をかばっているだけです!」
ミホ「昔からお父さん子だったから・・・!」
ハルコ「もう、いいんです」
ミホ「え・・・?」
ハルコ「ガマンしなくていいんです」
ハルコ「ずっとガマンしていたから、全て他人の せいにしたくなってしまうんでしょう?」
ハルコ「旦那さんも、そう言っていました」
〇祈祷場
ゴロウ「・・・俺が、悪いんです」
ゴロウ「家のこと、ずっと妻に任せてきましたから」
ゴロウ「子供が産まれる前から 妻は仕事を辞めたがっていました」
ゴロウ「だから家庭に入ることを勧めました」
ゴロウ「仕事よりも家事に専念していたほうが 精神的に楽だと思ったんです」
ゴロウ「現に、妻は主婦になってから肩の荷が 降りたような顔になりました」
ゴロウ「ですが、妻は子育てに苦労していました」
ゴロウ「平日は夜遅くまで業務がありますから 妻に任せきりになることが多かったんです」
ゴロウ「それはいけないと思って 残業時間を減らすようにしました」
ゴロウ「足りない部分を補い合うように──」
ゴロウ「ですが、日に日に妻の具合は悪くなる 一方でした」
ゴロウ「俺のやり方が良くなかったんでしょう」
ゴロウ「とかく甘い性格と言われますから」
ゴロウ「ヒカルにはのびのびと育ってもらえれば それだけでよかったんです」
ゴロウ「ですから、最近になってヒカルに中学受験させると聞いた時には驚きました」
ゴロウ「ですが、それがヒカルのためを想って いることはわかりました」
ゴロウ「ヒカルも理解していたようです」
ゴロウ「だから、家族一丸となってがんばろうと 誓いました」
ゴロウ「ですが──」
ゴロウ「・・・やはり、暴力は見過ごせませんでした」
ゴロウ「その点を指摘すると、妻は俺に暴言を 吐かれたと言うようになりました」
ゴロウ「止めようと腕を掴むと暴力を振るわれたとも」
ゴロウ「何が良くなかったのでしょう?」
ゴロウ「俺はもう・・・疲れました」
ハルコ「それでも、諦めたくないのでしょう?」
ゴロウ「え・・・?」
ハルコ「貴方の目はそう言っています」
ハルコ「2人を愛していると──」
ゴロウ「・・・当たり前です」
ゴロウ「俺たち、家族ですから」
〇綺麗な一戸建て
ミホ「あの人はいつも調子のいいことを 言うんです!」
ミホ「私がご飯の後片付けしているときにも 『俺がやるよ』『休んでて』なんて!」
ミホ「私が間違って必要なものを捨てた時にも 『大丈夫』『また揃えればいい』なんて!」
ハルコ「それは・・・悪いことなんですか?」
ミホ「そ、それは・・・!」
ミホ「うっ・・・!」
ハルコ「師匠! ミホさんが!」
タダシ「結界を張れ! 【鬼門封じ】だ!」
ハルコ「キモ・・・え、何てっ!?」
リカ「ハルコ、九字護身法(くじごしんぼう)を 唱えなさい」
リカ「既に敷地内には護符を貼っています」
ハルコ「え、あ、うん・・・!」
右手で刀印を結ぶ──
ハルコ「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 (りん ぴょう とう しゃ かい じん れつ ざい ぜん)」
左手の鞘から右手を取り出し
横に5回、縦に4回、交互に九字を
切ってゆく
ハルコ「オン キリキャラ ハラハラ フタラン バソツ ソワカ」
ハルコ「破邪の法──【結】」
〇綺麗な一戸建て
ハルコ「ここは・・・?」
タダシ「結界の中だ」
タダシ「ここでなら思い切り暴れても構わねぇ」
ミホ【鬼】「主人は・・・とてもイイ人」
ミホ【鬼】「でも、だからこそ・・・苦しい」
ミホ【鬼】「私の至らないところもカバーしてくれる」
ミホ【鬼】「だけど、私は・・・それができない」
ハルコ「きゃっ!」
リカ「ハルコ、平気?」
ハルコ「あ、ありがとう」
リカ「『陰陽五行』を使いなさい」
ハルコ「う、うん」
右手で刀印を結ぶ──
ハルコ「破邪の法──【解】」
格子状の紋様──九字が【鬼】に放たれる
ミホ【鬼】「四柱推命──【甲(きのえ)】」
ハルコ「破邪の法が・・・!」
タダシ「リカ!」
リカの右手がアタシのうなじに触れる──
ハルコ「リカ・・・?」
ミホ【鬼】「あの人は何でもできる、何でもしてくれる」
ミホ【鬼】「でも、そしたら、私のやることが、 私の、存在意義が・・・!」
リカ「クライアントの【鬼】は根が深いようです」
首筋から頭に向かって、冷たいものが
伝ってゆく──
ハルコ(頭に何かが流れ込んでくる)
ハルコ(強大な【鬼】の負力)
ハルコ(そこから放たれる── 四柱推命(しちゅうすいめい))
ハルコ(破邪の法は【鬼】を祓うための術)
ハルコ(四柱推命に対抗するには──)
ミホ【鬼】「私がいなくても、完結しているなんて そんなの・・・!」
ミホ【鬼】「私は、必要とされたい・・・!」
ミホ【鬼】「私も、家族の一員なんだから・・・!」
ハルコ「何かすることが家族なんですか?」
ミホ【鬼】「え・・・?」
ハルコ「ミホさんは家族に尽くしてきました」
ハルコ「家のことも、子育ても」
ハルコ「そうして尽くしてきた旦那さんのことを 家族ではないと思いますか?」
ミホ【鬼】「思うわけないじゃない!」
ミホ【鬼】「私は主人のことも、ヒカルのことも 愛しているの!」
ハルコ「だったら同じですよ」
ハルコ「旦那さんも家族のために何かしたいと 思っているんじゃないですか?」
ハルコ「愛しているから」
ミホ【鬼】「う、ううう・・・それは・・・!」
ミホ【鬼】「うがああああああああああああ!!」
ミホ【鬼】「わからない分からないワカラナイ!!」
ミホ【鬼】「主人が望んでいることも!! ヒカルが望んでいることも!!」
ミホ【鬼】「私が望んでいることも、私が何をすべき なのかも・・・わからない・・・!」
ハルコ「愛しているから、何かしてあげたい・・・ それは、みんな同じ」
ハルコ「ならいっそ、自分がやりたいことを してみたらどうですか?」
ミホ【鬼】「やりたい、こと・・・?」
ハルコ「自分が楽しいと思えることを 自分が幸せだと感じられることを 探してみるんです」
ハルコ「それがきっと、ミホさんの進むべき道に なると思います」
ハルコ「アタシも自分がやりたくて こうしてお金を稼いでいるんです」
ハルコ「辛いけど・・・続けたいんです」
タダシ「・・・・・・」
ミホ【鬼】「幸せ、やりたい、こと、私、の・・・」
ミホ【鬼】「がぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
右手で刀印を結び、胸の前にかざす──
ハルコ「早術──【黄金の節(こがねのせつ)】」
無数の刃が木の斬撃を切り裂く──
ミホ【鬼】「あがぁっ!」
リカ「今です、ハルコ」
ハルコ「破邪の法──【解】」
格子状の紋様──九字が
ミホの身体を突き抜ける
ミホ【鬼】「ぎゃああああああああああああ!!」
ハルコ「ミホさん!」
タダシ「気を失っているだけだ」
タダシ「結界を解除する」
タダシ「ハルコ、ご苦労さん」