第7話 商売敵、現る!④(脚本)
〇オフィスのフロア
上司「ちょっと! 前に言わなかった?」
上司「どうして同じミスするの?」
ミホ「す、すみません・・・」
上司「はぁ・・・もういい、私がやるから」
同僚「あの子、また失敗したんだ」
同僚「要領悪いよね」
同僚「顔がいいだけのポンコツでしょ?」
同僚「顔採用ってやつ? 人事もいい加減だよね」
同僚「この間結婚したんだっけ?」
同僚「旦那さんも可哀そう、ギャハハ!」
同僚「あんな子を嫁にとるんだから 旦那さんも物好きってことでしょ」
同僚「言えてる! ギャハハハハ!」
ミホ(我慢しないと)
ミホ(こんな私でも働かせてもらってるんだから)
???「──我ニ委ネヨ」
〇おしゃれなリビングダイニング
ゴロウ「いいんじゃないか?」
ゴロウ「子供も授かったことだし 産休と育休もらって、そのまま退職すれば」
ミホ「だけど、もらってばっかりじゃ・・・」
ゴロウ「ミホはずっと働いてきたじゃないか」
ゴロウ「何も気後れすることはない」
ゴロウ「お金のことなら心配いらないよ」
ゴロウ「今後のことは無事子供を産んでから考えよう」
ゴロウ「それまでは・・・ゆっくり、休むといいよ」
ミホ(私が負担になってるんだ)
ミホ(私が・・・ゴロウ君の未来を奪ってる)
???「奪ウバカリノ生ニ意味ナドアロウカ ──イヤ、ナイ」
???「人生ノ価値ハ自ラ以テシテ証明スルノダ」
〇広い公園
ヒカル「おかーさーん!」
ミホ「もう、あんまり走ってると危ないよ」
ミホ「足元に気を付けてね」
ヒカル「はーい!」
近隣住民「ええ!? あのお宅の子、私立受かったの!?」
近隣住民「そうなのよ!」
近隣住民「あんまり頭良くなさそうに見えたけど 毎日塾に通わせて、相当努力したみたい!」
近隣住民「大学までエスカレーターでしょ? いいわね~!」
近隣住民「思春期に受験なんてあったら 反抗期どころの話じゃないものね」
近隣住民「うちも受けさせようかしら?」
ミホ(中学受験・・・)
ミホ(ヒカルには関係ない話だと思っていたけど)
ミホ(ヒカルやゴロウ君の苦労を減らせるなら──)
???「人ノタメ──甘美ナ響キダ」
???「他者ノタメノ行動ヲドウシテ責メラレヨウカ」
???「善意ト悪意ハ表裏一体──」
〇綺麗な一戸建て
ミホ「また遊びに行ってたの!?」
ミホ「ダメじゃない! 宿題溜まってるよ!」
ヒカル「ごめん、なさい」
ミホ「お母さんはヒカルのためを想って 言ってるの、わかる?」
ヒカル「う、うん・・・宿題、やるね」
ミホ(そうよ、全部ヒカルのため)
ミホ(今苦労しておけば、後々楽できるんだから)
ミホ(楽・・・一体、誰が──)
???「振リ返ルコトニ意味ナドナイ」
???「積ミ重ネタモノノ先ニコソ安寧ガアル」
???「イズレ理解スルダロウ、感謝スルダロウ」
???「ソノタメニ泥ヲ被ロウトモ抵抗ナド アロウハズガナイ」
〇おしゃれなリビングダイニング
ゴロウ「なぁミホ、もういいんじゃないか?」
ゴロウ「ヒカルは・・・疲れてるよ」
ミホ「今やらないと後悔するよ!?」
ミホ「今のうちに苦労すれば大学まで楽できる!」
ミホ「将来のこと、貴方は何も考えてない!」
ゴロウ「・・・考えているよ」
ゴロウ「それでも、ヒカルの顔を見たら 無理強いできない」
ゴロウ「笑顔を奪ってまでやることなのかな?」
ミホ「その考え方が甘いの!」
ゴロウ「ッ!」
ゴロウ「ねぇミホ、まさかヒカルには 手を上げたりしてないよね?」
ミホ「何!? 私のやり方に文句あるの!?」
ミホ「私はこんなにがんばってるのに!」
ミホ「貴方が仕事に行っている間、私がどれだけ 苦労しているか・・・!」
ゴロウ「・・・ごめん、俺が非協力的だった」
ゴロウ「一緒にがんばろう」
ミホ(どうしてみんな否定するの?)
ミホ(私のやり方がおかしいの?)
ミホ(私はただ、みんなのためを想って──)
???「戯言ニ耳ヲ貸ス必要ハナイ」
???「誰モ大局ヲ見据エテナドイナイノダ」
???「否定スルノハ羨望ノ現レ」
???「現実ニ裏打チサレタ真実への反感」
???「イツダッテ非ヲ被ルノハ聖者ナノダ」
〇おしゃれなリビングダイニング
ミホ「あれ? 洗い物は?」
ゴロウ「やったよ」
ミホ「洗濯は?」
ゴロウ「やったよ、さっき外に干してきた」
ミホ「・・・そう」
ゴロウ「ずっと任せきりでごめんね」
ゴロウ「3人分の家事ってかなり大変なんだね」
ゴロウ「至らない部分があったら言って」
ゴロウ「ミホの負担を減らしたいからさ」
ミホ「わかった・・・ありがとう」
ミホ(どうして私の役目を奪うの?)
ミホ(私に働いてほしいの?)
ミホ(専業主婦はイヤなの?)
ミホ(私に・・・愛想を尽かしたの?)
ミホ(がんばらないと・・・)
ミホ(もっと、私にできることをやらないと──)
???「足ラナイナラ足セバイイ」
???「認メラレナイナラバ認メサセレバイイ」
???「ソノ『力』ヲ持ッテイルノダカラ──」
〇おしゃれなリビングダイニング
ミホ「ここは・・・?」
ゴロウ「おはよう、ご飯できてるよ?」
ミホ「そう」
ゴロウ「・・・・・・」
ゴロウ「ヒカル、ご飯だよ」
ヒカル「はーい!」
ヒカル「いっただっきまーす!」
ヒカル「わぁ、ハンバーグだ~!」
「いただきます」
ゴロウ「どう? 口に合うかな?」
ミホ「うん、少ししょっぱいかも」
ミホ「でも、大丈夫」
ゴロウ「良かった〜!」
ゴロウ「うまくできてるか不安だったんだよね」
ミホ「ハンバーグに美味いも不味いもないでしょ?」
ゴロウ「あると思うけど・・・」
ゴロウ「ま、いっか」
ゴロウ「・・・・・・」
ゴロウ(大丈夫、俺たちは家族だ)
ゴロウ(何度だってやり直せる)
ゴロウ(何度だって──)
〇おしゃれなレストラン
タダシ「おー! 美味そうじゃねぇの!」
タダシ「何日ぶりの肉だ!」
タダシ「ほら、リカもお食べ」
リカ「不要です」
タダシ「そう言わずに」
タダシ「さあさ、ハルコもお食べ」
タダシ「お前さんが稼いだ金なんだからよぉ」
ハルコ「・・・師匠、本当にあれで良かったの?」
タダシ「俺たちは仕事をしたまでだ」
タダシ「初仕事にしちゃ上出来だよ」
ハルコ「・・・・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
ゴロウ「戻れないって、どういうことですか!?」
タダシ「奥さんはずっと前から──」
タダシ「そう、お子さんが産まれるよりも前から【鬼】に心を支配されていました」
タダシ「【鬼】が心の奥底にまで侵食を 進めていたのです」
ハルコ「・・・・・・」
タダシ「その【鬼】を祓えば、拠り所となっていた 心もまた祓われるのは道理」
タダシ「抗えぬことなのです」
ハルコ「心が・・・ゼロになる」
ハルコ(ルミは【鬼】になったばかりだから 大丈夫だった)
ハルコ(クナミさんも【鬼】の芽を摘んだだけ)
ハルコ(でも──)
タダシ「心を失えば人格はリセットされます」
タダシ「今までの奥さんとは別人になるでしょう」
タダシ「ですから、元のご家族には──戻れません」
ゴロウ「そ、そんな・・・!」
ゴロウ「一体、どうしてそんなことに・・・!」
タダシ「奥さんが依頼したことです」
ゴロウ「妻が・・・!?」
ハルコ「師匠、それは──」
タダシ「隠しても仕方がない」
タダシ「真実を告げてやるべきさ」
ハルコ「・・・うん」
タダシ「先ほどお話ししたように 私たちは奥さんに雇われました」
タダシ「奥さんは旦那さんが変わったと その原因に浮気が絡んでいると 考えていたようです」
タダシ「ですが、自力では証拠を掴めない」
タダシ「そこで我が不可思議相談事務所『賀茂塾』 に依頼してきたんです」
タダシ「旦那さんが悪いものに憑かれているのでは ないかと疑っていたのでしょう」
タダシ「旦那さんがご自分でそう感じられたように」
ゴロウ「妻が・・・」
タダシ「ですから、私どもは旦那さんに 【鬼】が宿っていることを疑いました」
タダシ「奥さんにもその可能性を伝えました」
タダシ「そして【鬼】が宿っている場合に その心を祓う危険性についても」
タダシ「奥さんは承諾しました」
タダシ「それは仕方がないことだ、と」
ゴロウ「・・・・・・」
タダシ「ご確認されますか?」
タダシ「書面でも音声でも残しておりますが」
ゴロウ「・・・いえ、賀茂さんの言葉を信じます」
ゴロウ「確かにここ最近、妻の監視は厳しく なったように思います」
ゴロウ「・・・すみません、取り出してしまって」
タダシ「いえ、問題ありません」
タダシ「ご心中、お察しします」
ハルコ「・・・・・・」
ハルコ「・・・大丈夫ですよ」
ゴロウ「え・・・?」
ハルコ「だって、生きてるじゃないですか」
ハルコ「だからきっと・・・大丈夫です」
ハルコ「みんな同じ気持ちだったって アタシ知ってますから」
ハルコ「ね、ヒカル君?」
ヒカル「・・・うん!」
ヒカル「よくわからないけど・・・僕 お母さんが好き、大好き」
ヒカル「お父さんのことも・・・みんな、好き」
ゴロウ「・・・そう、か」
ゴロウ「そうだね」
ゴロウ「お父さんも、ヒカルが・・・お母さんが 好きだよ」
ゴロウ「さて、それじゃあ夕飯の準備でもしようか」
ヒカル「うん!」
ゴロウ「・・・俺は、妻に寄り添っていきます」
ゴロウ「あの日、俺を好きだと言ってくれた妻の 心に【鬼】はきっといなかったから」
ゴロウ「アベノさん、俺の心に【鬼】は 宿っていますか?」
ハルコ「とても綺麗な心ですよ」
ハルコ「羨ましいくらいに」
ゴロウ「ありがとうございます」
ゴロウ「俺のこの気持ちもウソじゃないなら ・・・うん、大丈夫」
ゴロウ「妻の良いところは俺も、ヒカルも たくさん知っています」
ゴロウ「それが妻の本当の姿ですから」
ゴロウ「1度失っても、またやり直せばいいだけ のことですよね」
ゴロウ「・・・今度は3人で、はじめから」
ハルコ「・・・・・・」
〇通学路
ハルコ「師匠はずっとこーゆうことしてきたの?」
タダシ「ずっとじゃねぇさ」
タダシ「しがねぇ星詠み師のかたわら 細々と続けてきたに過ぎねぇ」
タダシ「1人でやるにゃ世界は広すぎるからな」
タダシ「・・・人の心も、な」
ハルコ(【鬼】の心を見出し、語りかけ、心をほぐす)
ハルコ(それが星詠み──陰陽師)
ハルコ「・・・うん!」
ハルコ「アタシ、やっぱり世界最強の陰陽師になる!」
タダシ「その心意気だぜ!」
タダシ「そんなハルコに朗報だ!」
タダシ「軍資金が溜まったぜ!」
ハルコ「わぁ~、本当に報酬弾んでくれたんだ~!」
タダシ「目的地は【星の楔(ほしのくさび)】 ──ハワイだ!」
ハルコ「きゃっほー! ワイハー!」
ハルコ「・・・・・・」
ハルコ「ただのヴァカンスじゃないよね?」
タダシ「はっはっは!」
ハルコ(コイツ)
リカ「いいではありませんか」
リカ「バカンスついでに【星の楔】を 解放すればいいのですから」
ハルコ「逆じゃね?」
ハルコ「ま、いっか!」
ハルコ「水着買わないとな~!」
ハルコ「・・・・・・」
ハルコ「金がねぇよぉ~!」
リカ「これが魂の叫び」
ハルコ「てかリカさ、年いくつ?」
リカ「不詳です」
ハルコ「あ、それ自分で言うんだ」
ハルコ「ならちょうどいいや」
ハルコ「これからタメ口でよろしく」
リカ「何故でしょうか?」
ハルコ「敬語だとツッコミのテンポ悪いから」
タダシ「おーい、こんなところ突っ立ってねぇで さっさと帰るぞ?」
ハルコ「はーい!」
ハルコ「リカも行くよ?」
リカ「・・・・・・」
リカ「急かさないでちょうだい」