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きせき

エピソード37-夕色の刻-(脚本)

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〇森の中
  彼女と初めて出会ったのは8年ほど前のことだった。
  ガサっ。
  ガサっ。
「君は?」
???「・・・・・・」
???「いきなり君は? なんて、失礼じゃないかしら? 明石家の嫡男さん?」
  彼女の言い分も十分、失礼なものだったが、
  確かに名乗らなかったこちらにも非があった。
  彼女の指摘ももっともだと思い、名乗ると、
  彼女の言葉を一つ、否定した。
明石朝刻「嫡男・・・・・・だなんて、そんな器ではないけどね」
  そう、明石家での跡継ぎ事情は多少、他とは違う。
  力なきものは候補者にすらなれず、
  当主には1番力のあるものが選ばれる。
  そして、その当主にだけ禁呪とも言える、秘術を
  継承できる権利が与えられる。
???「そう・・・・・・まぁ、どっちでも良いことね」
明石朝刻「どっちでも良いことって・・・・・・」
???「あら? だって、そうでしょ? あと、100年も経てば、貴方だって土に還る」
明石朝刻「・・・・・・」
明石朝刻「それは君もでは?」
???「そうね、近い将来、そうなるかもね」
明石朝刻「・・・・・・」
???「・・・・・・」
???「また3日後に2人とも生きていたら、会いましょう」
明石朝刻「待って、3日後って? それに、君はどこの誰なんだ?」
???「私? 私は二夕菜(ふゆな)」
来見二夕菜「来見(くるみ)家の者・・・・・・とでも言えば良いかしら。朝刻さん」
明石朝刻「来見・・・・・・二夕菜・・・・・・」
  ガサっ。
  ガサっ。

〇宮殿の門
  過去に干渉できる力を持つ和蝋燭を作れる一族である
  明石家。
  その一族に生まれた俺は何となく生きていた。
エマ「朝刻様」
明石朝刻「やぁ、エマさん・・・・・・」
  彼女は仙代永魔さん。母の専属使用人だ。
明石朝刻「(母が当主になる前から仕えていると聞いていたけど、何歳なんだろうな。この人)」
明石朝刻「(まぁ、どうでも良いけど・・・・・・)」
  俺はそんなことを思うと、笑ってみせた。
  いつもどこでも誰にでもにこやかな明石家の長男。
  そんな仮面・・・・・・を被れば生きやすかったから。
エマ「あの、食事会までにはまだ間がございますが?」
明石朝刻「あぁ、すみません。間に合わないと思って、出先からそのまま来たんですけど」
明石朝刻「確かに、ちょっと早く着きすぎたみたいですね。少しこの辺りを歩いて時間を潰しますよ」
エマ「左様でございますか」
明石朝刻「あ、そうそう。これ、今日、店で見つけていつか皆と飲むのはどうかと思って」
エマ「ワインでございますね」
明石朝刻「希少なものではないらしいけど、当たり年のものらしい」
明石朝刻「あと4年もすれば東刻も20歳だし、春刻や青刻もいつかは成人するでしょう」
明石朝刻「ワインなんてすぐすぐ飲まないといけないってものではないですしね」
エマ「そうですね・・・・・・では、お預かりいたします」
  そう言うと、エマさんはワインセラーのある方へ向かう。
  俺はエマさんを見送ると、目的の人物を探すことにした。
明石朝刻「(さて、早く見つけなきゃな。食事会が始まる前に)」

〇黒
  俺は幾つか、彼女のいそうなところを探す。
明石朝刻「(まぁ、小夜子さんにも言ったから会えなかったら会えなかったで良いんだけど)」

〇城の廊下

〇貴族の応接間
明石朝刻「(ここにもいない。しかし、この部屋って・・・・・・)」
明石朝刻「(まぁ、良いか。あ、あそこにいるのって・・・・・・)」
  俺は窓の外に彼女らしき影を見ると、庭の方へ回った。

〇大樹の下
  ザッ、ザッ、ザッ。
明石朝刻「良い夕暮れですね」
明石朝刻「マリさん」
マリ「これはこれは朝刻様。Good Eveningですね」
明石朝刻「えぇ、本当に・・・・・・」
  彼女は柘植真理さん。俄には信じられないが、
  いかなる真実もこの上なく、正確に告げるらしい。
マリ「私に何か、Requestがあるのでしょう。そう。例えば、来見二夕菜様のこととか?」
明石朝刻「・・・・・・」
明石朝刻「(もしかして、俺がここへ来ることも知っていたのか?)」
  俺は内心、かなり驚いたが、すぐに持ち直して言った。
明石朝刻「流石、マリさん。そこまで知られているなら話が早い」
明石朝刻「彼女の情報をいただけますか?」
明石朝刻「できるだけ正確に」
マリ「Certainlyです」
マリ「但し、来見家の人間はRerearchするのに多少、時間がかかるかと」
明石朝刻「ああ、急ぎではないです。あ、後ろ暗くはないですが、内密によろしく頼みます」
マリ「勿論。では、Right away!!」
明石朝刻「・・・・・・来見家か」
小夜子「朝刻様。皆様がお集まりになりました」
小夜子「少し早くなりますが、始めましょうと奥様がおっしゃっております」
  ふいに小夜子さんに声をかけられ、俺は時間を確認する。
  確かに、時計は食事会が開始する10分前を告げていた。
明石朝刻「もうそんな時間だったんだ・・・・・・すみません、面倒をかけましたね」
明石朝刻「行きましょうか」
小夜子「いえ、参りましょう」

〇城の会議室
  部屋に着くと、小夜子さんの言うように俺は最後で
  俺は詫びを入れた。
明石朝刻「すみません、遅くなりまして」
明石刻世「別に良いわ。じゃあ、始めましょうか、エマ」
エマ「はい、当主様」
  当主を囲んだ食事会。
  堅苦しい感じがするこの会が俺は苦手だった。

〇黒
明石朝刻「(どうせ、俺は当主なんて向かないだろうし・・・・・・)」
  だが、その考えはあの時までのものだった。

〇森の中
  彼女・・・・・・来見二夕菜と出会った3日後。
  俺はまた彼女に声をかけられた場所に来ていた。
明石朝刻「(・・・・・・いる訳ないか。こんな天気だし)」
  俺はマリさんからもらった彼女の情報を読んだ。

〇祈祷場
  来見家は元々、明石家や物部家と
  祖を共にする一族だったらしい。
  だが、その一族には
  過去へ干渉する秘術を扱える者はなく、代わりに
  未来を僅かに視る能力が備わっていたという。

〇森の中
明石朝刻「(ただ、彼女は全ての未来が見えているわけではないらしい)」
明石朝刻「(断片的な未来。だが、必ず覆ることのない未来)」
  明石家の過去に干渉する秘術と
  来見家の絶対覆ることのない未来を見通す能力。
明石朝刻「まるで・・・・・・」
「まるで、出来の悪いオカルトのような話ね」
明石朝刻「やぁ、また会ったね」
来見二夕菜「えぇ、生きていれば会えると思ってた」
  飄々と耳を通り抜ける彼女の言葉。
  俺は「他にも何か見えてるの?」と聞いた。
来見二夕菜「大したことは見えていないわ。この雨があと少しで上がることや」
来見二夕菜「何故かは分からないけど、貴方と私がつき合うようになること」
来見二夕菜「そんなところかしら?」
明石朝刻「え?」
  彼女はサラッととんでもないことを口にすると、
  確かに空は次第に晴れていく。

〇森の中
明石朝刻「本当に晴れた・・・・・・」
来見二夕菜「本当に晴れるわ。見たもの」
  それまでの彼女はどこか諦観しているような
  感じだったが、その時は無邪気に笑っていた。
  それから、俺と彼女は時折、2人で会うようになった。
  正直、つき合っているかは分からないが、

〇黒
  彼女はかけがえのない存在だと俺は知った。
  知った時にはかなり遅かったけれど・・・・・・。

〇昔ながらの一軒家

〇昔ながらの一軒家

〇雑踏
明石朝刻「・・・・・・」
  彼女はある日、突然、この世から消えてしまった。
明石朝刻「(原因はとある家事で人が死ぬのを視てしまい、)」
明石朝刻「(自分が死ねばなかったことにできるかも知れないと彼女からの手紙には書かれていた)」
明石朝刻「(当然、その家事は起こり、1人の女性と彼女の子どもが亡くなってしまった)」
明石朝刻「(これから、どうすれば良いのだろう・・・・・・)」
  思えば、彼女は近いうちに自分は死ぬかも、と
  初めて会った時に言っていた。
明石朝刻「(確かに、この世界は素晴らしいことばかりじゃない)」
明石朝刻「(退屈なことや窮屈なことだってある)」
明石朝刻「(彼女といる時はそんなことが嘘みたいに紛れたっけ・・・・・・)」
  俺はそんなことを思うと、
  最後に彼女とあった日のことを思い出していた。

〇山の展望台
明石朝刻「ここ、なかなか良い場所だろ」
明石朝刻「最近、結構嫌なことが多くてさ。でも、ここに来ると、まぁ良いかってなるっていうか」
来見二夕菜「えぇ、そうね・・・・・・」
来見二夕菜「最期の景色にしてはなかなか良いわ」
明石朝刻「最後? なんで? また来れば良いじゃない」
来見二夕菜「・・・・・・そうね。また来ようかしら。貴方も私も生きていたらね」
明石朝刻「・・・・・・」
来見二夕菜「今までありがとう。また会いましょう」
明石朝刻「ふゆ・・・・・・」
  どうして、俺はもっと彼女に聞かなかったんだろう。

〇森の中
  彼女の視ていた未来のこと。
  彼女の考えていたこと。

次のエピソード:エピソード38-朝色の刻-

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