11/人間(脚本)
〇コンビニのレジ
山河店長「虎丸ちゃん、意外とハーレム系なんだね」
「・・・・・・え?」
七月九日、夜の十時前。校則違反のバイト中。
僕はバイト先のコンビニで、そこそこ仲の良い山河虎論店長に、これまでのことを相談していた。
ちなみに店長の名前は動物の虎に論語の論と書いて、トラノリと読むらしい。
山河店長「で、虎丸ちゃんはどの子がタイプなのさ」
「いや、え?」
ゾンビとか悪魔とか、もっと気になるべきことはちゃんと言ったはずだ。
僕の怒涛の一週間、何なら怒涛の一日の話を聞いた直後の一言目が、虎丸ちゃん意外とハーレム系なんだね、なのか。
山河店長「みーぽん、ショコちゃん、ナコちゃんに久野ちゃん、ユキちゃん」
山河店長「より取り見取りだと、俺は思うんだけどね」
「いや、もっと大事な話をしたつもりだったんですけど」
まさか、話題作りのための出任せと思われているのだろうか。
確かに、知り合いがゾンビになって悪魔が僕の弟になったなんて、普通に考えたら信じられない気がする。
そもそも店長は話を合わせてくれただけで、最初からまともに聞いてなかったのかもしれない。
山河店長「金と女以上に大事な話なんて無いんだから」
山河店長「虎丸ちゃん、いい加減な八方美人やって、女の子泣かせちゃダメだよ?」
確かに、店長が金と女性の話以外の話をしているところを見たことが無い。多分、それ以外の話に興味が無いのだろう。
金と女性の話以外の話にフィルターがかかった結果、僕のクラスメイトのことだけが耳に残ったのかもしれない。
「・・・・・・そういう意味ではその、もう、久野さんは、泣かせちゃったことになるんですけど」
山河店長「そうか・・・・・・」
「・・・・・・僕は、どうすれば良かったんでしょうか」
思わず呟いていた。
赤の他人にこんなことを言うなんて、僕は思ったよりも疲れていたらしかった。
山河店長「そうだなあ・・・・・・。それはまず、久野ちゃんに聞いてみないとな」
「・・・・・・久野さんは気を遣える人だから、本音を言ってくれるとは、思えないんですよね」
山河店長「確かにな。でもそれは、久野ちゃんに限った話じゃない」
「・・・・・・」
山河店長「この世界は、優しい嘘でできてるんだろ?」
コロンが昨日言っていたこの言葉。
意味はよく分からない。
でもどうやら店長は、僕の話をちゃんと聞いてくれていたらしかった。
「神の試練を塗り潰した、悪魔の優しい嘘・・・・・・」
山河店長「嘘は、相手のためについているように見える時もあるけど、実は自分の気持ちを満足させるためだけでしかなかったりする」
山河店長「だから気を遣わせてると感じても、君が気にする必要は無いんだよ」
山河店長「気を遣うことを選んだのは、そうしたいと思い行動に移すことを望んだのは、久野ちゃんの方なんだからね」
「・・・・・・そうじゃなくて、僕は」
山河店長「・・・・・・」
「本音が知りたいんです」
「久野さんが、本当はどう思っているのか」
山河店長「そうか・・・・・・。でも大丈夫さ」
山河店長「久野ちゃんなら、これで良かったって言ってくれるよ」
これで、良かった・・・・・・。
本当にそうなのだろうか。いや。
「それは、気を遣ってるから、本音じゃないんです」
山河店長「ああ、そうだろうな」
山河店長「だからこそ、久野ちゃんが人に気を遣えなくなるほど追い詰められている時、そのサインを、虎丸ちゃんは見逃しちゃいけない」
「え・・・・・・?」
山河店長「嘘でできた世界は必ず綻ぶ」
山河店長「その一瞬の隙間から、真実を見るんだ」
山河店長「真実を見ることを、もし君が選ぶのならね」
「・・・・・・」
山河店長「久野ちゃんも人間だ、完璧じゃない」
山河店長「完璧じゃないんだから、いつか必ず綻びが出る時は来る」
山河店長「その綻びを目の当たりにした時、それでも久野ちゃんを必要としてあげられるかどうかは、虎丸ちゃん次第だよ」
「人間、ですか・・・・・・」
山河店長「そう、久野ちゃんも、虎丸ちゃんも、人間だ」
山河店長「・・・・・・ん、いらっしゃいませー!」
「い、いらっしゃいませー・・・・・・!」
客が来たようで、背後の自動ドアが開いた。
その後そこそこ忙しくなってしまったため、これ以上店長と話すことは無かった。
〇小さいコンビニ
そして僕の考えがまとまることも無いまま定時となり、僕はタイムカードを押してからコンビニを出た。
「ふう・・・・・・」
一息ついたその直後、僕は誰かに呼び止められた。
星木ミウ「おつかれさま」
「・・・・・・え、副、会長?」
店の外で腕組みをして壁に寄りかかっていたのは、右目に眼帯を付けた生徒会副会長、
つまり昨日のコンビニ強盗犯、ミウさんだった。