知らない(脚本)
〇美容院
チョキチョキチョキチョキ──
慶「はい!こんな感じです!!」
まり「ありがとうございます・・・」
慶「すごい良い感じですよ、ロングほんと似合いますよね!」
まり「ほんとですか・・・」
慶「はい、めちゃめちゃ綺麗です」
まり「え・・・」
すず「あの、先輩、ちょっとお願いします!・・・」
慶「ん?あ、あとで行くから待ってて」
すず「はい!」
慶「すいません、最近入ってきた子で、まだ慣れてなくて・・・」
まり「いや、全然大丈夫ですよ」
慶「そうだ、、何か気になるところとかありますか?」
まり「大丈夫です、ありがとうございます」
慶「いいな〜、これで旦那さんもメロメロですね!」
まり「そ、そんなお世辞やめてください、こんなおばさんに」
慶「そんなお世辞とかじゃないですよ」
まり「・・・」
慶「てか、全然おばさんじゃないし」
慶「・・・俺、年上の人の方がタイプだし」
まり「・・・・・・」
顛末
〇オフィスのフロア
愛莉「まり髪切った?」
まり「うん・・・」
愛莉「良いじゃん、似合ってるよ」
まり「ありがと・・・」
愛莉「また、あのイケメンに切ってもらったの?」
まり「え!?・・・やめてって、違うから、そういうのじゃないから」
愛莉「すごい焦ってるじゃん」
まり「なに焦ってないから、全然・・・」
愛莉「浮気、とか考えてないよね?もうアラサーなのに」
まり「だから違うって!だって慶さん23とかだよ!そんな、そもそも無理に決まってるし・・・」
愛莉「そっか、そりゃそうだよね、かっこいい旦那さんもいるわけだし」
まり「うん・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
涼「ただいま」
まり「お帰りなさい」
涼「・・・お前、もうちょっと愛想良く振る舞えないのか」
まり「え?」
涼「いつも思ってるけど、旦那が帰ったら妻は快く迎えるものなんじゃないか」
まり「迎えてるじゃない」
涼「態度ってものがあるだろ、そんな無愛想に話されてもな、せっかく家でくつろごうたって、そんな気にもなれないな・・・」
まり「何よ・・・私だって疲れてんのよ仕事で。何もわかってないくせに、よくそんなこと」
涼「お前とは労力が違うだろ・・・お前と俺の仕事を一緒にするな、わかってないのはお前だよ」
まり「・・・私、髪切ったの気づいた?」
涼「ん?」
まり「ついこの前髪切ったの。そんなことにも気づかないで快く迎えろって・・・何様なのよ」
涼「そんなちょっと切ったくらいで気づくかよ、お前・・・・・・」
まり「もういい」
まり「ご飯、よそって食べといて」
涼「・・・はぁ」
〇アパレルショップ
まり「・・・・・・」
〇美容院
慶「・・・俺、年上の人の方がタイプだし」
〇アパレルショップ
まり「あの、すみません、これ、試着してみても良いですか?・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
涼「お前、今度は服買ったのか」
まり「いいじゃない」
涼「なんだよ、またそんな若作りして」
まり「あなたには関係ないでしょ」
涼「あるだろ、旦那なんだから・・・、お前ももう30なんだから年相応の格好をしろよ」
まり「都合のいい時だけ旦那なんてこと言って・・・普段ストレス溜まってるんだからおしゃれぐらいさせてよ」
涼「だからな、お前、自分だけがストレス溜めてると思うなよ、俺だってな、昨日だって上司に・・・」
まり「もう分かったから、あなたのことは・・・」
まり「私なんていらないでしょ?自分ひとりで生きれるんでしょ?」
涼「おい、なに言い出すかと思ったら、そんなアホらしい」
まり「アホらしくていいわよ、もう、いいから」
涼「は?」
まり「ひとりで生きてみなさいよ」
玄関へ向かうまり
涼「おい!・・・おい!」
〇開けた交差点
まり「・・・・・・」
プルルルルルル──
まり「・・・あの、もしもし、今から、予約できますか?」
まり「はい、今からです・・・1時間ぐらいで、着くと思います・・・はい・・・お願いします・・・」
〇オフィスビル前の道
まり「何も考えたくなかった、ただ、会いたかった、ただ会って、話したかった」
まり「あ、ちょっと早く着きすぎちゃった・・・」
まり「まあ、いっか」
〇美容院
カランコロンカラン──
まりが店に入る
まり「え・・・・・・?」
そこにはスタイリングチェアに座るすずと、その後ろに立ち、すずの頬にキスをする慶が
すずの足元には髪が散らばってある
すず「け、慶さん、後ろ」
鏡に映るまり
慶「え!?」
慶「え?あ、まりさん!早かったですね!・・・ちょっと彼女に色々教えてて、あの、新人なんでまだ、実際に切っ・・・」
ッカン
慶の腰のシザーケースから落ちるハサミ
慶「あっ」
ハサミは、まりの足元に
それをゆっくりと拾うまり
慶「あ、ありがとうございます・・・」
まりの震える手
刃の方を慶に向け、慶に近づいていく──
慶「まりさん?大丈夫ですか?」
震え続ける手
慶「まりさん・・・?」
慶の一歩先まで近づくが、突然ハサミを手放し
ッカン
と慶の足元へ落ちていく
それをゆっくり拾う慶
慶「・・・ありがとうございます」
すずが焦って椅子から立ち上がると、そこにまりが座る
背中が温かい
慶はハサミを腰にしまうと
慶「あの・・・今日は、どうされますか?」
まり「・・・・・・」
まり「・・・バッサリ、お願いします」
緩急が巧みで次の展開が気になるストーリーでした。クライマックスで落ちたハサミを持って慶の方に歩み寄るシーンの緊張感がすごかったです。その短い時間でのまりの心の葛藤は凄まじいものがあったでしょうね。
日々の鬱屈とした不満が徐々に蓄積していく姿と、それが決壊した様子がひしひしと伝わってきますね。まさに静かなる恐怖ですね。
端的に明確に主人公のまりの心の動きがよく伝わりました。女性と髪、男性美容師の甘い言葉、色々な展開を想像させられるとても刺激的なストーリーだと思います。