戸惑い(脚本)
〇大きな日本家屋
茂木 兵吾 「引田さ〜ん!いらっしゃいますか!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茂木 兵吾 「野菜をお裾分けしようと伺ったがどうやら留守みたいだな!玄関先にでも置いておくか!」
茂木 兵吾 「よし帰ろう!」
「そこの者!待たれよ!」
茂木 兵吾 「はい?」
片岡 鉄男 「貴様が引田か?・・・渡す物がある」
茂木 兵吾 (あ、あの手紙は!(もしや・・・))
茂木 兵吾 「は、はい!わ、私が引田です!」
片岡 鉄男 「貴様に渡す物がある、受け取れ!軍人の私が自ら来たのだから、意味は解るはずだ!」
茂木 兵吾 「ありがとうございます!後で読ませてもらいます!」
茂木 兵吾 「あの、配達人が居ないほど、人材が、不足しているのですか?それにこの手の配達は夜に行われるのでは?」
片岡 鉄男 「うるさい!余計な詮索をするな!」
茂木 兵吾 「す、すみません」
片岡 鉄男 「ふんっ!失礼する!」
三井 雫 「あっ?茂木のおじちゃん!今日やってる、お祭り参加しないの?」
茂木 兵吾 「こ、こら・・・」
片岡 鉄男 「なに!貴様!引田昇ではないのか!」
茂木 兵吾 「あ、え、その・・・」
片岡 鉄男 「嘘を吐くとは許せん!」
茂木 兵吾 「うぐっ!」
片岡 鉄男 「この!無礼者めがっ!」
茂木 兵吾 「うっ!」
片岡 鉄男 「この!」
三井 雫 「やめて!おじちゃんが死んじゃう!」
片岡 鉄男 「・・・これで勘弁してやる!その手紙を引田に渡しておけ!わかったな!」
三井 雫 「大丈夫?おじちゃん?」
茂木 兵吾 「ハハッ大丈夫だよ!それよりお祭り行かなくていいのかい?」
三井 雫 「う、うん!」
茂木 兵吾 (・・・さて、どうしたものかな・・・)
〇神社の石段
引田 昇 「それって・・・・・・・・・・・・」
茂木 兵吾 「・・・・引田さんこの手紙の内容は私が処理しますので・・・ご安心下さい・・・」
引田 昇 「・・・その手紙・・・臨時招集令状・・・ですよね?」
茂木 兵吾 「・・・はい・・・・引田さんを行かせる訳には行きません!なので一人身の私が引田さんの代わりに行きます!」
引田 昇 「・・・茂木さんの気持ち分かりました・・・ですが、僕の身代わりになるような事しなくても大丈夫です、手紙渡して下さい」
茂木 兵吾 「いけません!引田さんは守るべき人の側に居るべきです!若い貴方達二人の笑顔を守るためなら、こんな私の命なんて安いものです」
引田 昇 「・・・茂木さん何故そこまでして、僕を庇うのですか?」
茂木 兵吾 「16年前も今日と同じくお祭りがあり、みんな家を留守にしてしまうので、私は物取りが入らないよう各家を巡回する役割でした」
引田 昇 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
茂木 兵吾 「ですが連日の祭りの準備で疲れた私は家で夜まで眠ってしまい、巡回は引田さんのお父様が代わりに行う事になりました」
引田 昇 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
茂木 兵吾 「しかし、引田さんは巡回中に運悪く物取りと鉢合わせてしまい、争ったあげく胸を刺されて亡くなってしまいました」
引田 昇 「・・・そうなんですね・・父の亡くなった真相をはじめて知りました、誰も教えてくれませんでしたから」
茂木 兵吾 「あの日、私が眠りさえしなければ、引田様のお父様は生きていたはず!あの日亡くなるのは私だったはず!なので今度は私の番です」
引田 昇 「・・・それは茂木さんが悪い訳ではありません。自分を責めないで下さい、私は恨んだりなどしませんから」
茂木 兵吾 「・・・なので手紙は渡したくありません」
引田 昇 「・・・茂木さん・・・本当にありがとうございます・・・けれどその手紙は私に届いた物、私が招集に向かいます・・・」
茂木 兵吾 「ぐっ・・・・・・」
引田 昇 「・・・手紙をこちらに・・・」
茂木 兵吾 「ううっ・・・・・・・・・・・」
震える手で手紙を渡す茂木
引田 昇 「茂木さんお願いがあります、僕が戦争から帰るまでの間、文代をできる範囲でいいので気にかけてやって下さい、お願いします!」
茂木 兵吾 「わ、分かりました!」
引田 昇 「ありがとうございます!それなら僕も安心して戦地に赴く事が出来ます!」
茂木 兵吾 「・・・非力で申し訳ない」
〇古民家の居間
吉川 文代 「あ、夕飯出来ましたよ!」
引田 昇 「いい匂いですね!食べましょう!」
〇古いアパートの居間
引田 昇 「お蕎麦ですか!いいですね!」
吉川 文代 「はい!頑張って材料を手に入れて作りました!冷めないうちに食べましょう!」
引田 昇 「おいしい!」
吉川 文代 「良かった〜!」
引田 昇 「本当にお料理が上手ですね!」
吉川 文代 「ありがとうございます!」
〇古民家の居間
・・・8日後
吉川 文代 「おはようございます!昇さん!」
引田 昇 「おはよう!文代!」
吉川 文代 「やっと自然に呼んでくれましたね、嬉しいです!今日も朝のお散歩ですか?」
引田 昇 「日課だからね!行って来るよ!そうだこれを渡して置きます!」
吉川 文代 「御守り?」
引田 昇 「ええ祭りの日に買っていたのですが、渡し忘れてました、いつまでも健康でいて欲しくて」
吉川 文代 「ありがとうございます!大切にします!」
引田 昇 「そうだ、お茶を入れて欲しいのですが」
吉川 文代 「分かりました!お待ち下さいね!」
吉川 文代 「はい!どうぞ!」
引田 昇 「ありがとうございます!・・・とても美味しいです!」
吉川 文代 「そんな、普通のお茶ですよ!」
引田 昇 「ハハッ!それではちょっと行ってきますね!」
吉川 文代 「はい!」
〇大きな日本家屋
〇大きな日本家屋
吉川 文代 「昇さん遅いなぁ・・・何かあったのかしら」
茂木 兵吾 「・・・どうも」
吉川 文代 「あっ!茂木さん!昇さん見かけませんでしたか?」
茂木 兵吾 「・・文代さん驚かないで聞いて下さい・・・」
吉川 文代 「何です?」
茂木 兵吾 「実は・・・昇さんは臨時招集令状で指定された地に赴きました・・・」
吉川 文代 「えっ!それって!」
茂木 兵吾 「・・・・・・・・・・・・・・・はい」
吉川 文代 「それでは、昇さんは、いつ、いつ帰って来るのですか!」
茂木 兵吾 「・・・きっとすぐに戻って来ます!私達は昇さんの帰りを待ちましょう」
吉川 文代 「そ、そんな!いきなり居なくなるなんて・・ううっ」
茂木 兵吾 「心配させたく無かったのと同時にいつも通りに見送って欲しかったのでしょう・・・きっと笑顔で戻って来ます、泣かないで下さい」
吉川 文代 「ううっ・・・・・・」
・・・2年後に終戦を迎える
〇古民家の居間
茂木 兵吾 「昨日とれた野菜です、ここに置いておきますよ!」
吉川 文代 「ありがとうございます!茂木さんの作った野菜、とても美味しいですよ」
茂木 兵吾 「そうですか!そう言ってもらえると嬉しいですよ!悪くならないうちに食べて下さいね」
吉川 文代 「はい!」
トントン
吉川 文代 「誰か来たみたいですね」
茂木 兵吾 「私が出ましょう」
戸をあける茂木
茂木 兵吾 「あ、貴方は!」
片岡 鉄男 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
茂木 兵吾 「確か2年前に令状を届けに来た・・・・・・」
片岡 鉄男 「片岡と申します」
茂木 兵吾 「片岡さん?どうなさいました?」
片岡 鉄男 「申し訳ありませんでした!」
膝を折り、頭を下げる片岡
茂木 兵吾 「何をです?」
片岡 鉄男 「・・・2年前の招集令状を私は改ざんしました!」
茂木 兵吾 「何ですって!」
片岡 鉄男 「本当に招集されていたのは私の弟である片岡満でした!」
茂木 兵吾 「じゃあ引田さんは招集されていなかったという事ですか?」
片岡 鉄男 「・・・はい。2年前名前を記される前の令状を見る機会があり、そこで偶然弟の名前に付箋が貼られている住所名簿を見つけました」
茂木 兵吾 「はっ!も、もしかして付箋を!」
片岡 鉄男 「・・その通りです、付箋を貼ってある場所を引田さんの所に移し、住所は自分で書き入れそれを直接渡しに来ました」
茂木 兵吾 「な、何て事を!」
吉川 文代 「そ、それで昇さんは?どうなったのですか?」
片岡 鉄男 「・・・・・・それは・・・・・・・・・」
吉川 文代 「・・・聞かせて下さい」
片岡 鉄男 「・・・これを・・・・・・・・・・・・」
茂木 兵吾 「これは!!」
片岡 鉄男 「引田さんの遺留品です」
吉川 文代 「う、うそ・・・」
片岡 鉄男 「誠に申し訳ありません!」
茂木 兵吾 「謝って済むとおもうな!」
片岡 鉄男 「どんな責任も取ります・・・ううっ」
吉川 文代 「そ、そんな、昇さん・・・・・・」
吉川 文代 「・・・すいませんが、帰って下さい」
茂木 兵吾 「しかし、文代さん」
吉川 文代 「すいません、茂木さん・・・1人になりたいのです」
茂木 兵吾 「・・・・・・わ、分かりました」
家を出て行く2人
吉川 文代 (昇さん、私また1人になってしまった・・・また昇さん会いたい)
御守りを握りしめ泣き崩れる文代
吉川 文代 「うっうっ──」
表紙が時代物のようで素敵だったので、拝見しました😊
中々趣のある話ですね。
戦時中の話を描くのは大変でチャレンジングですが、空気感がよく出てると思いました‼
招集令状を使った展開が二転三転するのが凄いですね‼ すり替えていたというのも面白いです。
昇のお茶のように温かい人柄が、よく出ていて感動的な物語でした。この後、馬鈴とどう繋がっていくのかとても気になります😃
セリフ以上の心情と、当時の空気感が、ひしひしと伝わってきます。そして昇さん、出頭姿ひとつ取っても不思議な温かみがある人柄が伝わりますね!