怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード26(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

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〇木造校舎の廊下
  8月某日。
  俺は薬師寺に呼び出されて、夏休みだというのに旧校舎の図書室に向かっている。
  大抵こういうときはろくなことではないと分かっちゃいるものの・・・こんなことに慣れつつある自分が怖い。

〇古い図書室
  図書室に足を踏み入れ奥へと進むと、ソファに腰掛けた薬師寺と向かい合って見知らぬ人が座っていた。
薬師寺廉太郎「あ、やっと来たね」
茶村和成「ああ・・・」
  見知らぬ男性は大学生くらいのいでたちで、俺を見て軽く会釈をする。
  会釈を返しながら、なぜこんな場所にと不思議そうな表情を浮かべてしまった。
薬師寺廉太郎「依頼だよ」
  俺の表情に気付いたのか、薬師寺が言う。
  その答えに納得して、俺は薬師寺の隣に座った。
茶村和成「えっ・・・と、はじめまして、茶村和成です」
坂口透「はじめまして、平京大学4年の坂口透です」
坂口透「助手のかた、ですよね」
茶村和成「じょっ・・・」
  坂口さんの言葉に「助手じゃないです!」と反射的に返しそうになったのをなんとか飲み込んだ。
  今否定しても話がややこしくなるだけだ、そう思って拳をぐっと堪える。
  薬師寺はそんな俺を見てニマニマと楽しそうにしていた。
  じと、と薬師寺を横目でにらむ。
  すると俺の視線から似るように、薬師寺は坂口さんに向き直った。
薬師寺廉太郎「じゃあ、そろそろ話してくれるかい?」
坂口透「・・・はい」
  坂口さんは返事をして、話し始める。
坂口透「2週間前のことです」
坂口透「オレたちは大学のバトミントンサークルの旅行で、東北のある村を訪れました」

〇暗いトンネル
  大学最後の昼休みの思い出づくりにと集まったメンバーはオレを含めた同期5人。
  唯一の免許持ちであるオレは、カーナビを頼りに、バイト代を貯めて買った中古車を運転していた。
  山道をすいすいと走っていると、助手席に座っていた梨香子が「うわ」と不満げな声を上げる。
鈴木梨香子「ここ圏外じゃん、最悪〜」
坂口透「もろ山の中だもんな。 そろそろ高速降りて1時間くらいか」
  向かっている村は電波もろくに通らない場所にあるそうだ。
  後部座席に座っている3人もスマホが圏外になったようで、ブーブーと文句を言っている。
相馬加奈「ねー、なんでこんなとこにしたの?」
清水哲平「お前が古民家っぽいところに泊まりたいって言ったんじゃん!」
相馬加奈「なにその言い方!」
瀬見雄大「お前ら俺を挟んで言い合うなって!」
  騒がしい後部座席のやりとりが聞こえる。
  オレはバックミラーで3人を見て笑った。
坂口透「まぁまぁ。 せっかく田舎に来たんだし、スマホくらい使えなくてもよくね?」
鈴木梨香子「まあね。カメラは使えるし」
坂口透「おっ、そろそろみたいだぞ」
  あまり準備されていない道の横に、ボロボロな状態の看板が立っている。
  看板には、かすれてしまい見えなくなっている【◯◯村 あと5キロ】という字と、こけしの絵が描かれていた。
  看板に従い、そのまま道なりに進んで行くと山と山に挟まれた小さな家が見えてくる。

〇集落の入口
  視界がひらけた瞬間、目に入ったのは茅葺(かやぶ)き屋根の家々が立ち並ぶ風景だ。
  旅行雑誌の写真で見るような風景に、オレたちは「おお〜」と歓声をあげる。
  徐行運転をしながら村の中を進んでいき、予約していた民宿を探した。
  ほどなくして目的の民宿の前に停まり、オレたちは車を降りる。
  梨香子はさっそくスマホを手にして、周りの風景を撮っていた。
鈴木梨香子「やばー、テンション上がるね! っていうか村まで圏外だわ」
相馬加奈「いまだにあるんだね〜こんなところ」
清水哲平「俺、絶対住みたくねえ〜」
  各々そんなことを言いながら、荷物を持って民宿の入り口へと向かう。
  民宿の看板が下がる古民家の中から、優しそうなおばさんが出てきた。
  たぶん、この民家の女将だろう。
女将「遠いところから来ましたねえ〜」
坂口透「予約していた坂口です。 今日から3日間、お世話になります」

〇古民家の居間
  女将さんの案内で民宿へと足を踏み入れる。
  玄関にずらりとこけしが並んでいた。
  どうやらこの村の名産品らしい。
鈴木梨香子「それっぽいね」
瀬見雄大「だな」
女将「ここは150年前に建てられた建物を補強して宿にしたから、そのまんまのところも多いのよ」

〇古めかしい和室
  靴を脱いで2階に上がる。
  広々とした部屋に通され荷物を脱いだオレたちは村を散策することにした。

〇集落の入口
  見慣れぬ田舎にテンションが上がったオレたちは、女将さんに教えてもらった展望台や土産物屋を回った。

〇集落の入口
  村に着いたのが午後4時くらいだったので、すぐに日が落ち、宿に戻ることにする。

〇古めかしい和室
  宿に戻ってからしばらくしばらくのんびりとしているとオレたちを呼ぶ女将さんの声がした。

〇古民家の居間
  1階の居間で食事をするらしい。
  居間の中央にある居間の中央にある囲炉裏(いろり)には、魚の塩焼きが刺してある。
  それだけではなくたくさんのおかずが並んでいて、食欲をそそるにおいが鼻腔をくすぐった。
  オレたちは「ご飯のおかわりあるからね」という女将さんの言葉を聞いて、笑顔で手を合わせた。
「いただきます!」
清水哲平「うわ、うま!」
鈴木梨香子「おいし〜! 田舎って感じ!」
  新鮮な素材と素朴な味付けが美味しい料理に舌鼓(したづつみ)を打つ。
  そんなオレたちを見て、女将さんはニコニコと笑顔を浮かべている。
  食べながらオレたちと女将さんはいろんな話をした。
鈴木梨香子「そういえば、女将さんって全然訛りないですね」
瀬見雄大「たしかに。 東北のほうって訛りがすごくて聞き取れないイメージあるっす」
女将「私は生まれが東京なんよ。 この村には嫁いできたから、訛りはほとんどないねえ」
  女将さんの言葉に全員なるほどと頷(うなず)く。
相馬加奈「でも東京から来たならいろいろ不便なんじゃないですか?」
女将「若い頃はそりゃあもう。今はもう慣れたよ」
  女将さんは穏やかに笑う。
  オレたちはたくさんおかわりしてご飯を食べ終えた。
「ごちそうさまでした」

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