第十九話『間奏曲Ⅶ』(脚本)
〇黒背景
瀬田彩名に関する評価は、クラスでも二分するだろう。
可愛らしい見た目で鈴が鳴るような声、上品なお嬢様――それは間違いない。
ただ、セタデンキの跡取り娘というプライドゆえなのか、やや横柄な物言いをすることも少なくはない。
簡単に言うと、人にマウントを取るようなことを言ってしまうことも珍しくないということだ。
特に、奏音が亡くなる前。晴翔からすると、ちょっと気になるやり取りがいくつかあったのは事実である。例えば。
〇学校の廊下
奥田奏音「晴翔、すげえじゃん!小学生で英検三級取ったのか!」
去年のことだ。英語が好きな晴翔が、英語検定の資格を取った時。奏音は手放しで、晴翔のことを褒めてくれたのだった。
奥田奏音「俺、英語は全然できないし」
奥田奏音「日常会話できるくらい英語わかったら、SNSとかでも外国の人とかお喋りできて楽しそうなんだけどなあ」
北園晴翔「ありがとう、奏音君。でも、そんなに難しくないよ。今度、なんなら一緒に勉強する?」
奥田奏音「え、教えてくれるのか?そりゃありがたい、テスト勉強になるし!」
珠理奈と晴翔、そして奏音。三人は一年生の時に同じクラスになってから、ずっと仲良しであったのだ。
去年は同じクラスではなかったが、それでも隣の教室ならば廊下でお喋りすることも珍しくはない。
そんな話をしていた、まさにその時だった。
瀬田彩名「英検三級程度で、人に教えるなんて言ってはいけませんわ。恥をかくだけでしょう?」
北園晴翔「え」
通り魔的に、そんなことを言ってきた女がいたのだった。あの、瀬田彩名である。
瀬田彩名「駄目ですわよ、そんなくらいのことを自慢して回っては。みんなに恥ずかしい人だって思われますわ」
瀬田彩名「わたくしのように、せめて準二級は取ってからにしないと、ね?」
流れるようなマウントと己の自慢。気分が良いはずがない。
そもそも、この時、瀬田彩名とは二人とも同じクラスではなく、正直“誰こいつ”くらいの認識しかなかったのである。
それが、廊下で通りがかっただけでこんな言い方をされなければいけないとは。
奥田奏音「晴翔は自慢なんかしてないし、俺は純粋に凄いと思うぞ。自分にできないことができるやつは、凄いだろ」
ショックを受けて固まる晴翔を庇って、奏音は言ってくれたのだ。
奥田奏音「お前、可哀想な奴だな。誰かを貶めないと、自分に誇りを持てないタイプか?」
瀬田彩名「――!」
あの後、彩名はキレて奏音に平手をかましてきたのだったか。
いずれにせよ、彼女の第一印象はそんなかんじで――お世辞にも、イメージが良い相手ではなかったのである。
〇モヤモヤ
第十九話
『間奏曲Ⅶ』
〇教室
村井芽宇「あ、あの、その・・・・・・」
芽宇は、まるで怯えたように後ずさる。彩名はにっこりと笑って、晴翔に告げたのだった。
瀬田彩名「ごめんなさいね。この子には、わたくしからよーく言ってきかせますわ。いけないですものね、いじめなんて」
北園晴翔「あ、う、うん・・・・・・」
瀬田彩名「ほら、村井さんも。悪いことをしたらちゃんと、ごめんなさいって言わないといけないでしょう?」
彩名は笑っているが、妙にその笑顔には威圧感がある。
芽宇は金魚のように口をぱくぱくさせながら、あ、あ、と意味のない言葉を繰り返している。
村井芽宇「わ、悪いことなんて、芽宇、芽宇は・・・・・・っ」
彼女の眼に、一瞬怒りに近い色が浮かんだ。
村井芽宇「そ、そもそも!海砂ちゃんと芽宇が、奥田君に絡んだのは全部っ・・・・・・」
瀬田彩名「全部、何かしら?」
村井芽宇「――っ!」
彩名の圧力にたじろいで、村井芽宇はそれ以上何も言えなくなる。そしてそのまま、怯えたように逃げ去ってしまった。
瀬田彩名「もう、謝罪するように言いましたのに。あの子、気が弱いから。北園君、迷惑かけてごめんなさいね」
北園晴翔「べ、別に・・・・・・」
瀬田彩名「それじゃあ」
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黒幕登場ですね!この年齢にしてエゲツナイ行動をとりますね。。そして奏音くんにかかる人間関係が少しずつ浮き彫りになってきて、関心とともに寒気を覚えます。。