エピソード3(脚本)
〇広い公園
和馬「・・・・・・」
美羽が和真を探し回ってる頃。
当の和真はというと、公園のベンチに一人、雨に打たれながら、力なく座っていた。
和馬「・・・・・・」
和馬(まいったなあ。何も起きる気がしない・・・・。サッカーの練習にも全然集中できなかったし)
和馬(監督に、調子が戻るまで練習に来なくていいと出禁されてしまった・・・)
和馬(・・・俺、もう生きてる意味もないんじゃ・・・)
「おや。早々に帰らされた我がエース殿が、こんな所で何やってるんだ?」
和馬「・・・わだ、つみ・・・・・・」
〇川に架かる橋
緑の鳥「トゥッ・・・!」
緑の鳥「トゥートゥートゥートゥートゥー!!!!」
美羽「ど、どうしたのですかっ!?突然!」
緑の鳥「トゥー!!!」
道案内役の緑の鳥は、突然忙しなくなり、「早く!早く!」と急かすように、前の道を羽根で指し示した。
美羽「ほぇ?」
緑の鳥「トゥートゥー!」
美羽「な、なんだか、よく分かりませんが、早く和真さんのところに向かえと言ってる気がします!」
緑の鳥「トゥー!」
美羽「分かりました!早く行きましょう!」
〇広い公園
和馬「・・・俺に、何か用か?」
海神「"何か用か?"か・・・。意気消沈していても、相も変わらず上から目線だなあ、飯沼」
和馬「・・・別に、そんなつもりじゃあ、」
海神「ふっ。いいさ。お前のその態度は、今に始まったことじゃない」
和馬「・・・・・・」
海神「・・・なあ、我がチームのエースさんよ。暇なら、俺にちょいと、サッカー指南してくれよ」
和馬「・・・悪ぃ。今は、そんな気分じゃないんだ・・・。他の奴らに、頼んでくれ」
海神「・・・・・・」
和馬「っが・・・!!!」
おもむろに海神からサッカーボールを顔に当てられ、なす術もなく和真はベンチから派手に落ちた。
海神「・・・こうして見ると、なんともまあ惨めな姿だなあ、飯沼。 鼻から血まで出して。大丈夫か?」
和馬「・・・・・・」
海神「なあ、飯沼。 俺はさ、ずっと疑問に思ってたことがあるんだ。なんだと思う?」
和馬「・・・・・・」
海神「何で能力的にもパフォーマンス的にも中の下のお前が!期待の新人エースだとか褒め称えられ、」
海神「特級Aクラスの俺が、その他大勢の中のモブ扱いなんだっ!?」
海神「なぁ!俺とお前、何が違うのか、教えてくれよ!!!期待の新人エース!!!」
和馬「っか、はっ・・・!!」
今度は腹を蹴られ、思わず和真は腹を押さえ、踞った。
和馬「・・・っ、」
海神「だけどな、今の弱ってるお前を見て、思いついたことがあるんだ」
海神「今、お前を潰せば、俺が脚光を浴びれる!注目される!評価を得られる!!」
和馬「・・・・・・」
海神「なあ、素晴らしい考えだろ?」
和馬「・・・だから・・・・・・なんだってんだ・・・・・・」
海神「あ?」
和馬「皆からの評価が欲しい欲しいって・・・・言う・・・だけで・・・お前は、ちゃんと・・サッカーに向き合ってんのか・・・・・・」
海神「・・・・・・」
和馬「海神・・・・・・、今の俺とお前は似てるよ・・・・・・サッカーと、ちゃんと・・・・・・向き合えてない・・・・・・・・・」
海神「あ"ぁ?」
和馬「お前は、脚光を浴びたいことしか頭になくて・・・・・・・・・俺は・・・・・・・・・・・・」
和馬「・・・俺は、」
和馬(あ。そうか。今、わかった・・・・・・。 俺は・・・・・・・・・美羽のことを・・・・・・・・・・・・)
海神「"俺は"、なんだってんだよ!!?」
気が付くと、和真は海神に胸ぐらを掴まれていた。
和馬「・・・っ!!」
海神「おい、飯沼・・・・・・。 俺とお前が似てると言ったこと、訂正しろ・・・・・・」
海神「さもないと、てめぇを今ここで、本気でぶちのめす・・・」
和馬「・・・・・・」
海神「・・・・・・それは、"ぶちのめされてもいい"という答えで、いいんだな?」
和馬「・・・・・・」
海神「!!!?」
海神(何なんだ、この飯沼の目・・・・・・。さっきとまるで・・・・・・。 こいつ、何考えてやがる・・・・・・)
和馬「どうしたんだよ?俺をぶちのめすんじゃないのか?」
海神「!!!・・・そんなにお望みなら、ぶちのめしてやるぁ・・・!!!!」
和馬(美羽、俺はホントに馬鹿だな。 こんな状態になってから、やっと自分の気持ちに気付くなんてさ)
和馬(・・・もう、会えないだろうけど、最期に、一度だけお前に会いたかったな)
和馬「美羽」
和真さぁぁーーーーーん!!
海神「なんだっ!?」
緑の鳥「トゥー!!!トゥー!!!」
緑の鳥が突然飛んできて、海神の頭をおもむろに突つき出した。
海神「うわっ!なんだこの鳥!!!?クソッ!!」
和馬「・・・何が、どうなってんだ・・・・・・?」
「和真さぁぁーーーーーん!!!」
和馬「は、」
〇空
・・・・・・和真さん・・・・・・
〇広い公園
美羽「和真さん!!やっと、やっと会えました!!」
和馬「・・・み・・・う・・・・・・?」
美羽「はい!!美羽です!!」
和馬「・・・そんな・・・・・・だって・・・・・・」
美羽「和真さん」
すると、美羽は和真を優しく抱きしめた。
和馬「!!」
美羽「すみません。あの時は、あんな別れ方をしてしまって」
美羽「迷惑をかけないようにと、あなたと別れたのですが、やっぱりダメでした。 私は、あなたがいないと、やっぱりイヤです」
美羽「こんなこと言う資格は、私にはないですが、」
美羽「・・・私と、どうか一緒にいてくれませんか?」
和馬「っ・・・・・・・・・・・・」
美羽「・・・って!和真さん!!血!!鼻から血が出ていますよ!!!?」
美羽「わ、私っ!!?私のせいですかっ!!?これ!!突き飛ばしたからっ!!?きゅ、救急車!いや、えっと、ここは消防っ!!?」
美羽「あわわわ・・・!!ど、どうしましょう!?これ!どうしたら・・・!!?」
和馬「・・・・・・・・・」
と。離れようとする美羽の腕を掴んで、今度は和真が美羽を抱き留めた。
美羽「・・・!かずま、さん・・・?」
和馬「美羽。俺も、こんなこと言う資格ないんだけど」
和馬「・・・俺と、一緒にいてほしい」
美羽「・・・・・・」
美羽「・・・はい」
美羽「もちろんです!」
和馬「・・・・・・」
すると、和真はそれを聞いて安心したのか。
徐々に力が抜けていき・・・・・・
美羽に膝枕をしてもらう形で、静かに眠りについてしまった。
美羽「・・・・・・」
「このクソ鳥!!!もう容赦しねぇ!!」
美羽「!!!」
緑の鳥「トゥッ・・・・・・」
見ると。海神が、緑の鳥の首を掴んでおり、捕まれている鳥は苦しそうに羽根をばたつかせていた。
美羽「鳥さん!!!!!!」
美羽「その鳥さんを離してください!!これは、立派な動物虐待ですよ!!?」
海神「あぁ?うるせぇ! そもそも、急に現れたてめぇらは、一体何なんだ!?」
海神「もう少しで、飯沼の野郎をぶちのめせてたっつうのによぉ・・・!!!!」
怒る海神の手に力が込められ、ギリギリギリッ・・・と鳥の首がしまっていくのが、美羽にも分かった。
緑の鳥「トゥッ・・・!」
美羽「・・・鳥さん!!! 止めて!止めて下さい!!!鳥さんが死んじゃいます!!」
海神「・・・ふんっ。 そんなに、この鳥の命が大事か?なら、取引しようぜ」
美羽「・・・取引?」
海神「あんたの膝の上で呑気に寝てるそいつと、この鳥を交換だ。 そいつをこっちに渡してくれたら、この鳥は解放してやるよ」
すると、美羽は和真を庇うように、上に覆い被さった。
美羽「和真さんは渡しません!何があっても!あなたになんか渡しませんから!」
海神「〜〜〜っ!」
海神「じゃあ、この鳥の命はねぇなあ!?」
緑の鳥「トゥッ・・・!!!!!」
美羽「!!!!鳥さん・・・!!!!」
そこまでだ。
突然現れた男は、鳥の首を絞めている海神の手首を掴み、その手に、徐々に力を込めていく。
─そしてやがて、
海神「・・・っ、いてててて!」
海神は、鳥を離してしまった。
緑の鳥「トゥー!!!」
自由になった鳥は、美羽の肩にとまり、頬を擦り付け、無事を報告する。
美羽「あ!鳥さん!」
海神「・・・くそがっ!次から次へと・・・!」
伊藤「よぉ。雨の中、傘も差さないでフラフラしてた女。 探しもんは見つかったか?」
美羽「ほえ?」
そして。美羽の膝の上ですやすや寝ている和真を見つけると、男、伊藤はニヤリと笑った。
和馬「・・・・・・」
伊藤「なるほどな。探しもんは、それだったか」
伊藤「しかも、こいつは驚きだ。 サッカー界の今後の活躍がめざましいと噂の、飯沼和真じゃねえか」
そして、伊藤は和真と美羽の顔を交互に見て、得心した顔をした。
伊藤「ほほう。そういうことか」
伊藤「おい、爺!こりゃぁ、面白いぞ!なんと、期待のエース飯沼和真が熱愛発覚だ!!」
伊藤家の執事「はい。坊っちゃま。どうやら、そのようで。・・・それよりも、」
伊藤家の執事「飯沼和真氏は、かなりの憔悴のご様子。早目に処置をした方がよろしいかと」
伊藤「おお、そうだな。 では。飯沼和真をうちの車に乗せて、知り合いの病院に運ぶぞ。爺、手伝ってくれ」
美羽「・・・あ、あのっ、あなた方は一体・・・」
伊藤「あぁ?俺達のことは気にすんな。ただの通りすがりのもんだ」
美羽「で、でもっ、ここまでご親切にしてくださってるし、何かお礼をっ・・・」
伊藤「・・・そうだな」
伊藤「ま、"伊藤企業"を今後とも御贔屓に。とでも、言っとくわ」
海神「・・・伊藤・・・企業だと・・・?」
伊藤「何だお前。まだいたのか」
海神「・・・おい、まさかあんた、あの有名なスポンサー企業の伊藤か?」
伊藤「・・・だったら?」
海神「・・・っマジかよ。こんなに若い奴なんて、聞いてねえぞ」
伊藤「ま。正確には、伊藤企業の社長の息子だがな」
伊藤「だが、いずれ、俺は親父よりももっと、でかい企業にする」
伊藤「もちろん、お前たちが心血を注いでるサッカーにも、俺なりに全力で力を注ぎ、今よりももっと強力なものに変えていくつもりだ」
海神「・・・っ、もしかして、さっき見たことを公にして、俺を解雇するつもりか?」
伊藤「残念ながら、今の俺の立場ではそれはできない」
伊藤「だが。女と小動物を虐めてるってのは、無視できない案件だよな」
海神「・・・・・・」
海神「・・・ふっ」
海神「ふはははははは!!!!ははははは!!!」
海神「なんでだろうなぁ・・・、いつもあいつだ・・・いつもあいつがおいしい思いをする・・・・・・」
海神「運も何もかも、あいつの味方か・・・・・・ふふっ、おもしれぇ・・・・・・なら、とことん俺はそれに刃向かってやる・・・・・・」
海神「楽しみだよ!俺がぶっ潰す未来がなぁッ!!!」
そして、海神は大声で笑いながら、その場を去っていった。
伊藤「あ、おい!お前も、飯沼和真を運ぶの、」
伊藤が去っていく海神を引き留めようとした時、後ろから美羽が、伊藤の袖を掴んで止めた。
伊藤「あ?なんだよ?」
美羽「・・・・・・」
しかし。美羽は、ふるふると首を横に振るだけで、それ以上は何も言わなかった。
伊藤「?」
伊藤家の執事「坊っちゃま。急ぎましょう」
伊藤「あ?ああ、そうだな」
伊藤「おい、飯沼和真の女。お前も一緒に来い。んで、一度医者に診てもらえ。雨の中、走り回ってたせいか、顔色が悪い」
美羽「・・・え、でも、私、ここまで協力してくださった皆様に、きちんとお礼をしに行かなくては・・・」
伊藤「そんなのは、俺と爺に任せとけ。お前たちを病院に送り届けた後、しっかり伝えとく」
伊藤「だから、もう休め。正直、今立ってるだけで、もう限界だろ?」
美羽「・・・なにから、なにまで・・・・・・、ありがとう、ござい、ま・・・・・・」
美羽は、そして前に倒れたが、すんでのところで、伊藤が受け止めた。
伊藤「お疲れさん」