06/日常の崩壊(脚本)
〇コンビニのレジ
久野フミカ「あー・・・・・・いや、ごめん。わかんない」
七月八日、夜の十時前。校則違反のバイト中。
僕はバイト先のコンビニで、同じく校則違反を現在進行中の生徒会長、久野フミカに、
昨日のコートと靴と折りたたみ傘と拳銃を撮った写真をスマホで見せていた。
あれから、コロンと名乗った強盗犯は姿を消したままだ。
置いてかれたコートが邪魔くさいだけで、その後の生活に支障は無い。
ただ、だからと言って気になってないというわけではなかった。
「そうか・・・・・・。あの店なら似たようなコートがあったとか、この靴ならあの店で見た気がするとか」
「この銃ならここに売ってる、とか無い?」
久野フミカ「ここ、日本なんだけど。拳銃を売ってる店なんて知らないし」
拳銃はともかく、コートや靴がもし最近買ったものなら、買った店を張っていればまた現れるかもしれない。
そう考えた末、僕はバイトが終わる寸前で、久野に相談することに決めたのだった。
「そうか・・・・・・。ちなみに拳銃なんだけど、ネット見ながらやったら弾、取り出せたんだよね」
たまたま、だけど。
久野フミカ「え、何でそんなことしたの」
「暴発したら危ないかと思って」
「弾は置いて来たけどさ、本体は鞄に入れて持って来てるんだけどさ、久野も後で見てみる?」
久野フミカ「ねえコハク、もしかして何か浮かれてる?」
僕は別に銃火器について詳しいというわけではない。
とは言え、実物を生まれて初めて手にしてしまった今、舞い上がってしまっているというのは事実な気がする。
久野の方は、そんなに興味は無さそうだったが。
「いや・・・・・・、だって、銃だよ?」
久野フミカ「あー・・・・・・、うん、そうだね」
久野フミカ「で、話を戻すけど」
久野フミカ「コートと折りたたみ傘はわかんないとして、こんなローファー、ここら辺の店ならどこにでも売ってるからね?」
「ローファー?」
久野フミカ「ローファーっていうのは・・・・・・、この写真の、靴のこと」
「ああ・・・・・・」
久野はローファーの説明をしようとはしたが、言葉に詰まり断念したようだった。
レジカウンターから身を乗り出しスマホの画面をこちらに向ける。僕はレジ前の在庫処分コーナーを整理しながら画面を見た。
どうやらローファーとは、昨日の強盗犯が履いていた靴の種類の名前のことのようだ。
コートと折りたたみ傘の方も、久野に心当たりは無いらしい。
久野フミカ「・・・・・・」
「・・・・・・」
特に話が広がることも無く、また元の沈黙に戻った。
別に沈黙が気まずかったから強盗犯の話を振った訳では無いが、話題作りのための出任せと思われてないかが心配になってきた。
確かに昨日家で強盗に襲われたなんて、普通に考えたら信じられない気がする。
そもそも久野は話を合わせてくれただけで、最初からまともに聞いてなかったのかもしれない。
こうなったら、金の銃を持って来て見せるべきか?
久野フミカ「・・・・・・あ、いらっしゃ」
客が来たようで、背後の自動ドアが開いた。
振り返って挨拶をしようとしたが、僕はそのままの勢いで客の方に引っ張られ、そしてその客に捕まった。
目線を落とすと僕の首元には、包丁が突き付けられていた。
強盗「さ、さっさと金を出せ! こいつがどうなってもいいのか!」
それは、強盗だった。
久野フミカ「マジ・・・・・・?」
というかこの強盗犯、覆面をしていて顔はわからなかったものの、声に関しては聞き覚えがあるような・・・・・・。
強盗「レジの金を、全部出せ!」
それを聞いた久野が、僕に目配せをする。
久野フミカ「あー・・・・・・、それなんですけど、その人質の、制服のポケットの中です、レジの鍵」
勿論、僕の制服のポケットの中にレジの鍵なんて無い。
強盗「だ、だったら早く出せ!」
強盗犯が僕の首元で包丁を揺らす。
久野はゆっくりと、消火器のある隅の方へ近づいていく。
ひとまず僕は、久野のでたらめ通りに話を進める。
「も、勿論です。ただ・・・・・・無くさないように、鍵は上着の内ポケットに入れているんです」
「だからちょっと、この体勢だと取り出しづらいんで、どけてもらえますか? その包丁」
「ほんと、一瞬で良いので・・・・・・」
強盗「・・・・・・さ、さっさとしろ!」
首元の包丁が少し離れる。
その一瞬で、僕がしゃがんで久野が強盗犯に消火器を投げつける、はずだった。
しかし今、背後の強盗犯を殴り飛ばしたのは、僕の胸から生えてきた人間の腕だった。
「えっ」
最初僕は、強盗犯の右腕が僕の心臓を貫通したのかと思った。
そう、見えた。
胸から腕が生えてきたなんて、初見ですぐには思いつかない。
しかし後ろを振り返ってみると、強盗犯は気を失って床に転がっている。
すると僕の胸から出ていた腕は少しずつ伸び、次に上半身が現れ、下半身も出てきて、最後には人間の形となってその姿を現した。
そしてその金髪の男は、僕の目の前で静かに立ち上がる。
「お前・・・・・・」
つまり今、僕の中から人間が出てきた。
そして彼はわざとらしく手を後ろで組んで、今日もニッコリと微笑んだ。
コロン「またお会いできて光栄です」
コロン「私はコロン」
コロン「あなたの力を、借りに来ました」