第1話 失恋にひよりません!(脚本)
〇ケーキ屋
私の恋人・市原大吾は現在フランスの有名店でパティシエの修業している。
頑張る大吾の影響から私も派遣社員から一念発起して正社員になろうとした。
そこで私は大手商社・大帝物産の正社員の中途採用試験を受けた。そして今日採用通知が届いた。
私は自分へのご褒美として大好きなイチゴのケーキを購入した。
〇二階建てアパート
私は今アパートで独り暮らしをしている。私の部屋はフランスに行く前に大吾が借りていた部屋だった。
入れ替わりで私が大吾の部屋に住み、私は大吾の帰りを待ち続けていた。
〇綺麗な一人部屋
一ノ瀬こはる(さすがにホールケーキはやりすぎだったかな?)
と、思いつつ私はホールケーキをペロリと平らげた。
一ノ瀬こはる「あ~美味しかった!」
それは大吾からのメッセージだった。
一ノ瀬こはる「えっ!」
世界的パティシエのロラン・ソレルがイベントで来日することになり、彼の弟子である大吾も同行するとのことだった。
一ノ瀬こはる(大吾が帰ってくる!)
〇空港の外観
私は大吾を迎える為に空港へやって来た。
〇空港のロビー
到着ロビーにはたくさんの人が待機していた。その多くがロラン・ソレルの来日を出迎える人たちであった。
ロラン一行が到着口から出て来た。私はその中に大吾の姿を見つけた。
一ノ瀬こはる「大吾!」
市原大吾「こ、こはる」
一ノ瀬こはる「大吾、お帰りなさい!」
市原大吾「た、ただいま」
一ノ瀬こはる「ふふ、驚いた?」
市原大吾「う、うん。迎えに来るって言ってなかったから」
「大吾!」
市原大吾「あっ」
シャルロット「(フランス語)大吾、何しているの?」
一ノ瀬こはる「大吾、この人は?」
市原大吾「あっ、その・・・」
シャルロット「初めまして、ワタシはシャルロットです」
一ノ瀬こはる「シャルロットさん?」
シャルロット「はい。私は大吾のfemmeです」
一ノ瀬こはる「femme?」
シャルロット「(フランス語)行きましょう大吾、みんなが待っているわ」
一ノ瀬こはる「femmeって・・・あっ」
市原大吾「そ、それじゃ」
一ノ瀬こはる「ちょっと大吾!」
市原大吾「こはる・・・ごめん」
一ノ瀬こはる「え? え? え?」
〇黒
一ノ瀬こはる「femme・・・妻!?」
〇空港のロビー
一ノ瀬こはる「大吾の妻・・・」
私は現実を受け入れられず頭の中が真っ白になってしまった。
「ねえ、ちょっといいかしら?」
誰かの呼ぶ声で私は我に返った。
一ノ瀬こはる「は、はい?」
宇崎美海「あなた、あの二人とどういう関係?」
一ノ瀬こはる「あの二人?」
宇崎美海「あの夫婦の知り合いなんでしょ?」
一ノ瀬こはる「あんな夫婦、私は知りません!」
宇崎美海「・・・」
〇ケーキ屋
空港から帰宅する途中、私は無意識に洋菓子店を訪れていた。
私は最悪なことがあると大好物のイチゴケーキを食べて憂さ晴らしするのであった。
一ノ瀬こはる「ああ~」
帰宅まで待ちきれず、私は店内のイートインスペースでホールケーキを平らげた。
〇二階建てアパート
私は満腹感で気持ちを紛らわせ、重い足を引きずるようにして帰宅した。
一ノ瀬こはる「あっ」
市原大吾「や、やあ」
一ノ瀬こはる「何か用ですか?」
市原大吾「これ、うちの店の焼き菓子なんだけど」
一ノ瀬こはる「それ、予約待ちで手に入らないやつだ!」
市原大吾「良かったら食べて」
一ノ瀬こはる「うん・・・あっ」
一ノ瀬こはる「・・・」
市原大吾「こはる?」
一ノ瀬こはる「ふん、せっかくだから貰ってあげるわ。それでご用件は何?」
市原大吾「ああ。荷物を取りに来たんだけど」
一ノ瀬こはる「荷物・・・」
市原大吾「ご、ごめん」
一ノ瀬こはる「ごめんって何が?」
市原大吾「その・・・結婚してしまったこと」
一ノ瀬こはる「確かに『留学して一人前になって』とは言ったけど・・・」
一ノ瀬こはる「まさか結婚することが一人前になることだと思った?」
市原大吾「う、うん」
一ノ瀬こはる「は?」
市原大吾「いや、これには訳があって」
一ノ瀬こはる「訳?」
市原大吾「俺は運よくロランの弟子になることが出来た。でもビザの関係で留学は一年間だけだった」
市原大吾「もっと長く滞在して修行をしたいと思っていた時、シャルロットに提案されたんだ」
一ノ瀬こはる「提案?」
市原大吾「配偶者ビザを取得すれば長く滞在できるって」
一ノ瀬こはる「配偶者ビザ? もしかして長期滞在するために彼女と結婚したの?」
市原大吾「う、うん」
一ノ瀬こはる「『うん』じゃないでしょ!」
市原大吾「長期滞在することが一人前のパティシエになる近道だと思ったんだ」
一ノ瀬こはる「呆れた。でもそんな理由で結婚する相手にも呆れる。あのシャルロットって人、何者なの?」
市原大吾「シャルロットはロランの孫娘なんだ」
一ノ瀬こはる「えっ」
〇黒
〇二階建てアパート
一ノ瀬こはる「・・・」
市原大吾「シャルロットの提案には続きがあって」
一ノ瀬こはる「もう、いい」
市原大吾「えっ」
一ノ瀬こはる「・・・」
市原大吾「こはる、聞いてくれ」
一ノ瀬こはる「結婚おめでとうございます!」
市原大吾「こはる・・・」
一ノ瀬こはる「それじゃ」
市原大吾「こはる、待って!」
市原大吾「・・・」
〇綺麗な一人部屋
一ノ瀬こはる(大吾のバカ・・・ずっと待っていたのに)
私と大吾は幼なじみだった。しかし9歳の時私が親の転勤で引っ越した為、大吾とは音信不通になってしまった。
4年前、偶然大吾と再会できた。私はそれを運命だと感じていた。
一ノ瀬こはる(どうしてフランスに留学したのよ・・・)
一ノ瀬こはる「私が留学させたんだった」
〇綺麗な一人部屋
3年前のある日のことだった。
市原大吾「俺、パティシエ辞めるよ。自分の店も全然うまくいっていないから」
一ノ瀬こはる「そんな・・・私、大吾が作るケーキが一番好きなのに」
市原大吾「これからも作るよ。こはるの為だけに」
一ノ瀬こはる「大吾」
私は大吾のパティシエとしての素質を感じていた。
でもこのまま私と一緒にいることで大吾がダメになってしまうと思った。
市原大吾「こはるが喜んでくれれば俺はそれでいい」
一ノ瀬こはる「良くない!」
市原大吾「え?」
一ノ瀬こはる「私を喜ばせたいなら一流のパティシエになって!」
市原大吾「こはる・・・」
一ノ瀬こはる「大丈夫、大吾なら絶対なれるから!」
市原大吾「わかった。俺頑張るよ!」
〇綺麗な一人部屋
一ノ瀬こはる(私はふられたんじゃない。私が大吾をふったのよ!)
一ノ瀬こはる(私は大吾ではなく、パティシエの大吾を選んだんだ!)
〇綺麗な一人部屋
私はそう思い込むことで吹っ切れた。
一ノ瀬こはる「前に進まなきゃ! よし、明日からの仕事、頑張ろう!」
一ノ瀬こはる「美味しそう! いただきます!」
こうして無理やりに気持ちを前向きにした私は大帝物産の出勤初日を迎えた。
〇大企業のオフィスビル
私の配属先は食品事業部の営業推進課であった。
〇オフィスのフロア
一ノ瀬こはる「おはようございます、今日からこちらでお世話になります一ノ瀬こはるです」
澤井野乃花「初めまして。宜しくお願いします」
工藤圭織「いきなり修羅場に立ち会うなんて気の毒ね」
一ノ瀬こはる「修羅場?」
工藤圭織「今日の朝礼、女子社員が一致団結して課長に立ち向かうのよ」
一ノ瀬こはる「課長さんと何かあったんですか?」
澤井野乃花「うちの課長、かなりクセが強い人でみんなに嫌われているの」
工藤圭織「シッ! 課長が来たわ」
一ノ瀬こはる「おはようございます、今日からこちらでお世話になる一ノ瀬こはるです」
宇崎美海「あら、あなた確か空港にいた・・・」
一ノ瀬こはる「あっ、あなたは!」
第1話『失恋にひよりません!」完
美海が空港にいた理由も気になるし、大吾が「この話には続きがあって」と言ったのに小春に遮られたままになっていることも気になる。フランスの事実婚は日本の結婚とは違いますしね。こはるのショックもわかるけど、もう少し冷静に話してほしかったな。今後の展開に期待です。
たとえ滞在許可証の為とはいえ、彼が巨匠の孫娘と結婚したと聞いた時点で潔く身をひいた彼女にとても好感がもてました。信じて待っていたから本当に辛いとは思うけど、彼女なりの目標もクリアしている前向きな人なので、きっと本当の幸せを掴めると思います!