RiversideBaron~最終章~

山本律磨

シロとクロの狭間(脚本)

RiversideBaron~最終章~

山本律磨

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〇ゆめかわ
「うっふ~ん」
猪苗代「あっは~ん」
猪苗代「汗ばむわ~ん」
猪苗代「一ヶ月のご無沙汰でした」
猪苗代「山の手先生こと猪苗代ちゃんです」
猪苗代「おまたせ~ん」
猪苗代「・・・」
猪苗代「・・・よし。お色気作戦で掴みは完了」
猪苗代「さて、ここでお読みいただく婦女子殿方にひとつご注意させて頂きたく存じますです」
猪苗代「このお話は『RiversideBaron~蓬莱番外地~』の完全なる続編でありますです」
猪苗代「これは作者がA○azonのポイント商品券欲しさに、前作を無理やり途中で完結せてしまった結果の惨状でありますです」
猪苗代「ヤツなりにカッコいい感じのエンディングを装って誤魔化していたようですが、何となく気づかれていたとは思います」
猪苗代「いち出演者として、姑息な作者に成り代わりお詫び申し上げます」
猪苗代「というわけで、次のシーンはいきなり前作の完全なるネタバレから始まります」
猪苗代「よって皆様におかれましてはお手数ですが『蓬莱番外地』を読了いただいて後、今作をお読み頂くことを推奨・・・」
猪苗代「いや、お約束して頂きたいと思います」
猪苗代「無論、ここで私めがこれまでのあらすじをささっと説明するという方法もなくはないですが」
猪苗代「それは前作においての私の獅子奮迅の活躍とドッキリお色気シーンを堪能する機会を皆様から奪ってしまう事となります」
猪苗代「而してそれは、皆様の人生の思い出作りにおいて重大な損失となるでしょう」
猪苗代「ゆえに配慮!まさに配慮なのです!」
猪苗代「というわけで、重ねて前作『蓬莱番外地』をお読み頂いた上で今作を見届けて頂きたく申し上げ奉り候」
猪苗代「ではこれより『最終章』を開幕致します」
猪苗代「ご清聴ありがとうございました」
猪苗代「・・・」

〇黒
  RiversideBaron
  ~最終章~
  『そうだ。私が殺した』

〇取調室
伝八「動機は?」
  『国家に仇なす者だからだ』
  『最早、害虫と言っていい』
伝八「どっちの被害者について言っている?」
伝八「反政府活動家オオスギアマネか?」
伝八「それとも元憲兵司令来栖川義孝男爵か?」
  『無論、双方である』
  『テロリスト逆木理も付け加えて貰おう』
  『もとより国家に捧げたこの命、極刑など恐れてはおらん』
伝八「オオスギは分かる。帝都震災のどさくさに紛れて不穏分子の粛清と言った所だろう」
  『帝都震災のどさくさに紛れ、政府転覆を目論んでいたからだ』
伝八「逆木理もまあ納得はできる。実行犯の口封じだろう」
  『帝都大学随一の秀才といえど所詮は承認欲求にまみれた青二才だ。生かしておけば早晩己が口より犯行を吹聴するはず』
伝八「分からんのは来栖川義孝」
伝八「お前達陸軍の精神的権化の様な男を、何故暗殺した?」
伝八「オオスギや逆木のごとき無政府主義者を、誰よりも弾圧した憲兵司令だぞ。どうして廃する必要があったんだ?」
伝八「矛盾してるだろ」
  『・・・』
伝八「これは『お前の裏で糸を引いている男』の存在を疑うのに至極真っ当な理由になると思うがな」
伝八「憲兵司令大泉吾一」
伝八「来栖川とは水と油だったそうだな」
  『全ては私の一存だ』
伝八「じゃあ聞こうじゃねえか。トカゲの尻尾の言い分を」
  『角袖程度には理解できまい』
伝八「まあ、そこは頑張って勉強させてもらうよ」
  『私が目指しているのは、あくまでもデモクラシイだ』
  『つまりは民主主義的帝政』
  『全てはヤマトの昔、王権に寄生する豪族を存続させたことが間違いだったのだ』
  『この国の未来に貴族はいらんのだ。侍はいらんのだ』
  『臣民の全てがミカドの下で平等に一つとなり国家に命を捧げねばならん。富や財によって例外が作られてはならん』
伝八「ははは!こりゃいいや!」
伝八「結局お前さんの頭ん中は途中までオオスギ達と同じだったという訳か」
伝八「みんなで国家に盾突くか、みんなで国家の言いなりになるか。つくづく極端から極端な連中だよな。インテリってヤツは」
伝八「もうちょっとゆるく生きようぜ」
  『その緩さが我が国最大の弱点である!』
  『ここが和の国であるかぎり、いつの日か列強に喰われ骨も残らぬであろう』
  『上層と末端、二つのカリスマを消し去り新たな時代を切り開く。私はその人柱となったのだ。悔いはない』
  『更に言えばこの震災こそ我が国を根底から改革する天意であろう!デモクラシイとは富国強兵にこそ使われるべきものなのだ!』
  『立てよ臣民!その富も財も帝国に捧げるべし!大儀万歳!ミカド万歳!』
伝八「あーあ」
伝八「狂人を手駒に使われちゃしょうがねえ」
伝八「結局、大泉まで届かなかったか」
軍人「時間です」
伝八「あいよ」
伝八「で、こいつはこれからどうなる?」
軍人「軍法会議にかけられます」
伝八「そいつは分かってるさ」
伝八「どの道フーテン病院で一生を終えるんだろ」
伝八「聞いてるのは今の話だよ。どっちに身柄を預けられる?憲兵隊か?それとも・・・」
伝八「戒厳司令部か?」
軍人「そちらにお教えする理由はありません」
伝八「あっそ」
伝八「それじゃあ、もう二度と会う事もあるめえ」
伝八「来栖川義孝暗殺及び実行犯逆木理の殺害。そして無政府主義者大杉天射殺事件犯人」
  『森田慶次憲兵曹長の身柄を、帝国陸軍に引き渡す』

〇荒廃したショッピングモール
  『九月一日、午後五時五十九分三十二秒。マグニチュード7.9の直下大地震が帝都を襲った』
  『全壊一万六千余戸。半壊二万余戸。下町を中心に起こった火災は完全鎮火まで三日を要し三十万余戸が焼失』
  『被災者三百三十万人』
  『避難民の大半はひと月の間に縁故を頼り各地へ散っていったが、身寄りのない者は設立されたバラック街へ留まっている』
  『目下の問題は気力を失った避難民の一部による配給頼りの流民化である』
  『その日暮らしの賭博生活や、自暴自棄による強盗などの凶悪犯罪が恒常化』
  『とりわけ世間を震撼させたのは現役軍人による有名活動家の殺害だった』
  『無政府主義を掲げ労働者のカリスマとも呼ばれたオオスギアマネが、憲兵曹長森田慶次に射殺されたオオスギ事件である』
  『犯行後帝都警視庁に出頭した森田曹長は更に驚くべき自供を始めた』
森田「先の憲兵司令来栖川義孝男爵を暗殺したのは私であります」
森田「反政府活動家にして帝都大理工学部の生徒逆木理を手なづける一方来栖川司令を芸能博検閲へとおびき寄せ爆殺致しました」
森田「そして実行犯隠滅の為逆木もまた泥酔させ穢土川に突き落とし殺害致しました」
森田「全ては、軍部の古き体質の象徴たる者と、反政府の新しき思想の象徴たる者の打倒」
森田「カリスマこそが国家を腐敗させる要因!」
森田「カリスマこそが真の平等を妨げる要因!」
森田「これがデモクラシイであります!我が国の国防はミカドの下デモクラシイを以て刷新されるべきであります!」
森田「ミカド万歳!平等万歳!富国強兵万歳!」
猪苗代「こんな茶番でも記事にしないといけないなんて、全くもって平社員は辛いものです」

〇荒廃したショッピングモール
チンピラ浮浪者「おいおいおいおーい。随分身なりの整ったお嬢ちゃんじゃねえか」
チンピラ浮浪者「こんな所で遊んでいたら危ないオジサンに誘拐されちゃうよ~」
チンピラ浮浪者「僕達善良なオジサンが保護してあげようね」
チンピラ浮浪者「もちろんお父さんやお母さんにたっぷりとお礼を請求させてもらって・・・」
猪苗代「いやああああああん!」
猪苗代「この私をどうするつもりですかあああ!」
チンピラ浮浪者「い、いやだから、保護して家族にお礼を払ってもらってだね」
猪苗代「そう言いながら本心ではこの豊満な肉体を弄ぶつもりなのですかああ!」
チンピラ浮浪者「いや別にそこまでは・・・」
猪苗代「いやああああん!やめてええええん!」
チンピラ浮浪者「やかましいわ!」
チンピラ浮浪者「とっととこのガキ捕まえるぞ!」
  『貴様ら!何をやっておるか!』
チンピラ浮浪者「ああ、いえこれは・・・」
  『騒乱罪適応!直ちに捕縛せよ!』
チンピラ浮浪者「ぐあっ!」
チンピラ浮浪者「ひいっ!」
猪苗代「か、戒厳兵・・・」
猪苗代「助かりました。有難うございます」
戒厳警備兵「貴様もだ、女」
猪苗代「へ?」
戒厳警備兵「こんな人気のない場所で一人何をしていた」
戒厳警備兵「不穏分子の仲間か?」
戒厳警備兵「同行してもらう。手荒な真似をさせるな」
猪苗代「わ、わたし・・・」
猪苗代「いなわしろまろみ。10さいでーちゅ♪」
戒厳警備兵「逮捕だ」
猪苗代「・・・チッ」

〇刑務所
  陸軍帝都戒厳司令部
最上「川原町第四分駐所憲兵少尉最上である」
戒厳警備兵「どうぞ。戒厳司令がお待ちです」
最上「・・・」

〇祭祀場
最上「失礼します」
天粕「久しぶりだな最上」
天粕「とは言え震災以来だから五十日くらいか」
最上「そ、その。何というか。急な出世だな」
最上「何階級特進だ」
天粕「面倒だが十日かけて一階級ずつ昇進しようやく少将、である」
天粕「とはいえ戒厳司令部はあくまでも臨時的なもの、であり軍事参議のままでいられるか否かはこれよりの働き、にかかっている」
天粕「ところで随分厳めしい顔つきだがこの恰好が可笑しいなら一度思い切り笑って構わん」
最上「そうか!助かる!」
最上「わはははははははは!何だその軍服は!」
天粕「前司令の趣味だ。混乱した臣民の統制には分かりやすい英雄的装束、が好ましいとの実に下らん発想である」
天粕「その前司令、も大した働きもせずオオスギ事件の責任を取って辞職・・・」
天粕「・・・」
天粕「笑い過ぎだ」
最上「ああ、すまんすまん」
最上「で、かの女史は?」
天粕「監視付きだが食堂で控えてさせている」
天粕「お前の名、を出されたのだ。監禁する訳にもいくまい」
最上「全くとんだ不良記者だ。いっそ二三日ぶち込んだ方がいい薬になると思うけどな」
天粕「薬を飲ませるのは貴様の役目だろう」
最上「ははは。何で俺が」
天粕「オオスギの殺害現場をうろついていた」
最上「・・・」
天粕「何を調べさせている?」
最上「知らん。あの女が興味本位で動いてるだけじゃないのか」
天粕「森田憲兵曹長の狂気的犯行とその自供、を以てオオスギ事件そして来栖川前司令暗殺事件は解決されたのだ」
天粕「これ以上の調査は無意味、どころか陸軍に対する反逆と見られても仕方ないぞ」
最上「だから俺は何も・・・」
天粕「猪苗代麻呂美を拷問すれば済む話だ!」
最上「・・・」
天粕「来栖川司令を追い落とした大泉を憎む気持ちは分かる。だがここまでだ」
天粕「森田は大泉派の筆頭。命を賭してトカゲの尻尾になった」
天粕「相手が上手だったのだ。敗北という現実を直視しろ」
最上「・・・分かったよ」
天粕「猪苗代麻呂美は引き渡す。だが今回限りだ」
最上「ああ・・・すまん」
最上「失礼致します。戒厳司令閣下」
天粕「もうひとつ・・・」
最上「・・・?」
天粕「近々本格的に『あの街』を制圧する」
最上「そうか・・・」
天粕「『新生美しきけもの』と『自由の女神』」
天粕「そして亡き来栖川司令を騙る『道化師』」
最上「・・・」
天粕「あの掃き溜めは汚れ過ぎている」
天粕「『ユートピア―ド計画』の大きな障害となるは必定」
天粕「距離を置け最上。友人としての忠告だ」
最上「分かったよ。天粕」
天粕「情けをかける、のはこれで終わりだ」
天粕「次はないぞ・・・最上」

〇黒

〇炎
最上「早いんだよ俺の名前出すの!」
猪苗代「だって捕まったんだから仕方ないじゃありませんか!」
最上「真実を追い求めるジャアナリストとしての気概はないのか!官憲なにするものぞ的な精神はないのか!」
猪苗代「相変わらずのクソっぷりですね!だから、女性にも逃げられるんです!」
最上「そういう調査だけは綿密だな!」
猪苗代「お褒めにあずかり光栄ですわ!」
伝八「だあああああ!うるせえええええええ!」

〇崩壊した噴水広場
伝八「ったく・・・酒くらい楽しく飲ませろや」
伝八「下町どころか、被害の少ねえ山の手ですら自粛自粛でお通夜みたいになっちまってよ」
猪苗代「仕方ないでしょう。みんな生活立て直すので一杯一杯で飲み歩くどころじゃないんですから」
最上「今は帝都全体が貧民窟になったようなものだからな」
伝八「それにしたって一杯飲み屋くらいそろそろ開けてもいいじゃねえか」
猪苗代「誰もが戒厳警備兵を目を恐れてるんです」
猪苗代「それでなくても、その日暮らしの住所不定無職は増える一方。遊興施設再開など時期尚早であるとの戒厳司令閣下のお達し」
最上「天粕の言いそうなことだ」
伝八「逆だろ」
伝八「こういう時こそ世の中の連中に生きる楽しみを与えるのが政治ってもんじゃねえか」
伝八「取り締まるのは当然だ。だが、締め付けてどうする。そのうちバーンと弾けちまうぞ」
最上「あの街が、その火薬庫になると天粕は恐れている」
最上「いや、望んでいるのかも・・・」
猪苗代「帝都の火薬庫、蓬莱街」
猪苗代「そして・・・自由の女神」
最上「・・・」

〇川沿いの原っぱ
トラ「畜生・・・忌々しい灯りだぜ」
トラ「なんでこっちばかりがぶっ壊れて山の手は無傷なんだよ」
デンキ「世の中、神も仏もないのかな」
トラ「だから十字架ごとぶっ倒れたんだ。所詮はその程度の神様だったんだよ」
トラ「やっぱ蓬莱街は瓦礫の教会がお似合いだぜ」
デンキ「山の手は相変わらず平和そうだね」
デンキ「あれだけあったかい灯りがあるんだから、少しはこっちにも分けてほしいよ」
トラ「川の向こうの連中がそんな真似するか」
トラ「世界中の金銀財宝手に入れたって、手前と手前の家族のためだけに使い果たすんだ」
  『それは貴族の為すことではありません』
トラ「あ、いや『姫』の事言ってる訳じゃ・・・」
デンキ「そうですよ!姫はいつも僕らと一緒にいてくれてるんだから」
  『noblesse oblige』
  『この国には富める者としての責務を果たさぬ人間が余りにも多すぎます』
  『帝都大震災はそれを証明しました』
  『この後に及んでなお、あの者達は被災者を装い国の財をむしり取ろうとしていると聞きます』
  『年の初め、帝都臣民は一年をどう過ごすかではなく一年をどう遊ぶかを考えていました』
  『そして年の終わり、帝都臣民はこの一年何を為したかでなくどう楽しんだかを振り返っていました』
  『それが・・・それこそが、帝都浪漫なるものの実体』
桜子「私は・・・来栖川家は違います」
桜子「今こそ持てる富の全てを世に還す時」
桜子「それでも足りぬとあらば」
桜子「それでも空虚な浪漫に溺れるならば」
桜子「この帝都ごと・・・」
ヒナ「・・・」
  つづく

次のエピソード:自由の女神(1)

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