私は名探偵

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇洋館の廊下
ライリー(私の名前はライリー。名探偵と呼ばれて、早、半世紀が経った)
ライリー(数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた。そんな私もようやく引退をすることができたのだ)
ライリー(そんな、暇を持て余していた私の所に、リゾート地にある洋館への招待状が届く)
ライリー(そこで余暇を楽しもうと思っていたのだが、事件は私の引退を許さないらしい。洋館内で、二名が殺害されてしまった)
ライリー(その二つの事件は共に不可能な殺人。つまり、時間的密室を作り出されていた。時間的密室)
ライリー(つまり、殺しをする時間がどうしても足りない。おそらく、犯人はなにかしらのトリックを使ったのだろう)
ライリー(私は今、そのトリックを暴くため、そして、第3の犯行を防ぐために、ここに座っている・・・)
ルーク「・・・さん。ライリーさん!」
ライリー「ん? ああ、ルークくんか。すまないね、考え事をしていたんだ」
ルーク「この補聴器、ライリーさんのですか?」
ライリー「ああ、すまないね。ありがとう」
  ライリーが補聴器を耳に着ける。
ルーク「それで、どうですか? 謎は解けそうですか?」
ライリー「はは。そうそううまくはいかないさ。これは計画的な犯行だ」
ライリー「犯人はかなり、考えた上で計画を立てている」
ルーク「名探偵と呼ばれた、ライリーさんでも難しいんですか・・・」
ライリー「はは。そう、暗い顔をするな。私が必ず、犯人を捕まえてみせるさ」
ルーク「はい、楽しみにしてます」
ライリー「そういえば、ルークくん。君はこんな夜更けに何をしているのだい?」
ライリー「私は部屋を出ないようにと言ったはずだが」
ルーク「いえ。ライリーさんの手伝いをしようかと」
ライリー「私の手伝い?」
ルーク「ああ、いえ、考えていただく時間を作るというか・・・」
ルーク「とにかくですね、見張りを交代しようかと思いまして」
ライリー「ありがとう。だが、大丈夫だ」
ルーク「寝不足では考えもまとまらないのではないですか? そんなことでは解ける謎も解けませんよ?」
ライリー「・・・ふむ。確かに、私ももう若くないからな。実は言うと少し辛かったんだ」
ルーク「僕がライリーさんの代わりにここに座って、見張りをしておくので、どうぞ寝てください」
ライリー「では、お言葉に甘えて、30分ほど仮眠を取らせてもらうよ」
ルーク「え? 30分ですか? もっと寝ていても大丈夫ですよ?」
ライリー「いやいや。30分も寝れば、頭の冴えも戻って来るんだ。じゃあ、頼んだよ」
  ライリーが歩いて、ドアを開け、部屋に入る。

〇ダブルベッドの部屋
ライリー「・・・私も年だな。一晩の徹夜もできなくなってしまったとは」
  ドサリとベッドに倒れ込むライリー。
ライリー「では、30分ほど寝かせていただこう・・・」
  ドンドンドンとドアが叩かれる音。
ルーク「ライリーさん! 起きてください! ライリーさん!」
ライリー「ん? ・・・まだ25分しか経ってないようだが」
ルーク「また、犠牲者が!」
ライリー「なんだって!」

〇洋館の一室
ライリー(またしても、時間的な密室状態を使っての犯行だった。部屋も荒らされていないし、凶器も見つからない)
ライリー(被害者と犯人はおそらく顔見知りだろう。だが、この洋館に集まっている人たちには共通点が見当たらない)
ライリー(おそらく、私の知らない裏の事情があるのだろう。それを突き止めるのは難しい)
ライリー(・・・だが、しかし。犯人は致命的なミスを犯した。普通の人間なら見落としてしまうほどの些細なミス)
ライリー(これで、犯人は一人に絞られた)

〇洋館の一室
  部屋には宿泊客が集まっている。
ルーク「ライリーさん。全員、集まっていただきました」
ライリー「ご苦労様。おほん! では、この事件の真相をお話します」
ルーク「解けたんですか!?」
ライリー「ええ。気付いてしまえば、単純なことでした」
ライリー「私にそのことを気づかせてくれたのは、第3の犯行でした。あれは、私が起きていた時に行うことは不可能です」
ルーク「どうしてですか?」
ライリー「私が昨夜、座って見張りをしていた場所は、全員の部屋のドアが見える。誰かが部屋から出れば、一発でわかります」
ルーク「・・・ですが、その・・・ライリーさんが見落とした、ということはないんですか?」
ライリー「なるほど、このおいぼれの目は信用できないと?」
ルーク「いえ、そういうわけでは。僕は単に、見落とす可能性もあるのではと・・・」
ライリー「気持ちはわかります。ですが、それはあり得ないのです」
ルーク「どうしてですか?」
ライリー「私の補聴器ですよ。これは特別製でしてね。これがあれば、どんな些細な音も拾い、知らせてくれるのです」
ライリー「例え、見逃したとしても、音で気付けるというわけですよ」
ルーク「な、なるほど・・・」
ライリー「では、話を戻しましょう。つまり、私が起きていたときの犯行は無理、ということです」
ライリー「見張りをしていたときは、物音一つしませんでしたから。なので、残る可能性は一つになります」
ライリー「それは・・・私が寝ているときです」
ルーク「・・・へ?」
ライリー「私は30分ほど、仮眠を取りました。そして、その間、見張りを代わっていただいたのです」
ライリー「・・・ルークくん。君にね」
ルーク「え? え? え? ちょ、ちょっと待ってください!」
ルーク「僕がやったっていうんですか?」
ライリー「見張りをしているあなたであれば、誰にも見られずに、犯行を行えます」
ルーク「いやいやいやいや! そんな単純な犯行じゃありませんって!」
ライリー「真実とは得てして単純なものです」
ルーク「えっと・・・その、じゃあ、共犯説はどうですか?」
ルーク「僕の気を逸らせているうちにもう一人が部屋を出て、犯行を行ったとか」
ライリー「もし、そんなことがあったなら、最初に言うでしょう。・・・物音がした、とね」
ライリー「だが、君は何も言いませんでした」
ライリー「つまりは、そんなことはなかった、仮に共犯者がいたとしても、黙っていた君がグルであることは明白です」
ルーク「それなら、共犯は誰ですか? わかってないんじゃないですか?」
ライリー「そんなことは、君を締め上げれば済むことです」
ルーク「じゃ、じゃあ、第一と第二の犯行はどうですか? 謎、解けてないですよね?」
ライリー「それも、君を締め上げればわかることです」
ルーク「例えば・・・この館には秘密の通路があるとか、考えられませんか?」
ルーク「それを使えば誰にだって、犯行を行えるとか」
ライリー「仮に、そんな通路があったとして・・・持ち主である君が知らないわけはない」
ライリー「そして、知っていたとしたら、なぜ、この土壇場まで黙っていたんですか?」
ライリー「黙っていたこと自体、あなたが犯人であることを示すことになりますが?」
ルーク「それは・・・」
ライリー「諦めなさい。君しかいないんだ」
ルーク「いやいやいやいや! 待ってくれって! 確かに犯人は僕だよ!」
ルーク「だけど、そんな単純な犯行じゃないんだって! 芸術的なトリックを使ったんだよ!」
ルーク「そのトリックを、解いてくれって!」
ライリー「・・・犯人がわかっているのに、トリックを解く必要はありませんね。君を締め上げれば済むことです」
ルーク「嫌だー! めちゃめちゃ考えたんだって!」
ルーク「凄いトリックだったんだって! ちくしょー! ちくしょー!」

〇豪華な部屋
ライリー(こうして、事件は解決した。・・・しかし、ルークくんが言っていたことが気になる)
ライリー(トリック・・・。念のため、あの後、調べたが、秘密の通路などなかった。それなら、私の目を盗んで部屋を出るというトリックか?)
ライリー(いや、考えにくい。視覚的なトリックを使って、私の目を欺くことはできても、耳までは誤魔化せない)
ライリー(なにより、補聴器のことはみんなに黙っていた。つまり、私が言うまでルークくんも知らなかった)
ライリー(だから、音の考慮までは気が回らないはずだ。そして、断言できる。私が見張りをしていたときは、物音ひとつしなかった)
ライリー(仮に考え事をしていたとしても、音がすれば補聴器が知らせてくれる)
ライリー(この補聴器は本当に優れもの・・・)
ライリー「・・・・・・」

〇洋館の廊下
ルーク「この補聴器、ライリーさんのですか?」
ライリー「ああ、すまないね。ありがとう」
  ライリーが補聴器を耳に着ける。

〇豪華な部屋
ライリー「あっ!」
ライリー「・・・・・・」
ライリー(・・・私の名前はライリー。数々の事件を解決し、多くの犯人を逮捕してきた名探偵だ)
  終わり。

コメント

  • この読後の肩透かしを食らった感は楽しいですね。何だか、動機や人間性を排除してトリックの斬新さのみを求めるミステリ小説へのアンチテーゼみたいですねw

  • ルークが犯人だとは気づいても、トリックについての謎解きはなく、ちょいぴり残念でした。ルークがトリック明かしてもらいたがっていたので絶対の自信を持っていたんだろうな

  • ルークが怪しいのはすぐに見当がつきましたけど、彼がどうしてここまでこの探偵さんにトリックを認めてほしいと懇願していたのかは不思議です。彼の能力を一番認めている犯罪者みたいですね。

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