05/強盗(脚本)
〇シックな玄関
コロン「どうも、こんばんは」
コロン「お邪魔してすみません」
コロン「お食事中でしたか?」
七月七日、夜の十時前。
家で一人晩御飯を食べていると、呼び鈴が鳴ったので僕は寝間着のまま、慌てて玄関の扉を開けた。
小雨が降り始めていたようで、客は折りたたみ傘を畳むと真っ黒なコートのポケットから取り出したビニール袋にしまった。
僕は一応、手で口を覆って会話を始めた。
「・・・・・・えっと、まあ、はい。そうですね」
コロン「これは納豆の香り、ですか?」
「ええまあ・・・・・・食事中でしたので」
コロン「私も納豆は好きです」
コロン「とても・・・・・・こう・・・・・・」
コロン「スタイリッシュで」
「あー、それは・・・・・・どうも」
この人はつまり、納豆の訪問販売の人なのだろうか。
見た感じ、僕と年はそんなに変わらない気がする。
でもうちの学校は訪問販売に限らずバイトは禁止されていて、髪を染めるのも禁止されているのだが、この人はどう見ても金髪だ。
だとすると、他校の生徒だろうか。
コロン「ああそれと、そこに掛けてあるのは上着掛けですか?」
訪問者はそう言って、玄関に入ってすぐの二階へ続く階段の手すりにかかっていた、白いハンガーを指さした。
「これは・・・・・・洗濯物を取り込んだ時にちょっとかけておいたのを、片付け忘れたんだと思います」
コロン「そうですか。お借りしても? このコートにはシワをつけたくなくて」
コロン「お気に入りなんですよ、コレ」
「・・・・・・」
客は上着を脱ぐとそのまま渡してきた。
その中には制服を着ていたようで、客は片手で襟を正す。
初夏の夜間とは言え、暑くないのだろうか。
というかやっぱり同級生なのか?
仕方なく僕は、そのままコートをハンガーにかける。
コロン「それで、あなたが虎丸コハクさん、ですか?」
「え、はい、そうですけど・・・・・・」
訪問者はわざとらしく手を後ろで組んで、ニッコリと微笑んだ。
コロン「お初にお目にかかります」
コロン「私はコロン」
コロン「あなたの力を、借りに来ました」
「・・・・・・えっと、何?」
コロン「あなたの力が、必要なんです」
コロン「力を貸して、頂けますよね?」
「・・・・・・え」
一瞬で訪問者は、僕の眉間に銃口を突きつけていた。
金色の銃が、目の前で鈍い光を放っている。
僕は反射的に両手を挙げた。
初めて見た、本物の銃。
これは、納豆の押し売りどころの話ではない。
これじゃあただの、強盗だ。
コロン「・・・・・・入っても?」
僕は静かに頷いて、少しずつ後ろに下がる。
強盗犯も、銃を構えたまま少しずつ前に進み、玄関の扉を閉めて手早く鍵をかけた。
そして銃を構えたまま靴を脱ぎ捨てると、折りたたみ傘の入ったビニール袋を床の上に落とした。
「・・・・・・」
コロン「では、失礼します」
そう言った次の瞬間、金色の銃が床に落ちる音とともに、目の前にいた強盗犯は消え失せた。
「・・・・・・は?」
強盗犯なんて最初からいなかったかのような静寂の前に、僕は一人立ち尽くしていた。
僕は今、寝ぼけているのだろうか。
「・・・・・・何だったんだ」
頭が追いつかず、考えることをやめた。
でも狐につままれたわけではないということは、残されたコートと靴とビニール袋と、金色の銃を見れば明らかだった。
やはり強盗犯は、さっきまでそこにいた。
そして、消え失せたのだ。
外から聞こえる雨音が、段々大きくなっていく。
雨はいつの間にか、本降りになっていた。