黄金の蟻

ジョニー石倉

エピソード2(脚本)

黄金の蟻

ジョニー石倉

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〇川沿いの道
  撮影機材を持ったスタッフたちが、忙しそうに準備を進める。
  その横に数名の男女が集まっている。
丸山祐子「上田さんね。はい、その服OK」
丸山祐子「次はっと、円城寺」
  ・・・・・・
丸山祐子「円城寺! どこ!?︎ いるなら返事して!!」
  ・・・・・・
丸山祐子「まさか・・・、また遅刻?」
「はいはいはーい!」
円城寺敏郎「円城寺ここにいまーす!」
丸山祐子「あいつ・・・」
円城寺敏郎「セーフ」
丸山祐子「セーフじゃないわよ!」
円城寺敏郎「でも、まだ9時になってないっす」
丸山祐子「10分前集合っていつも言ってるでしょ」
丸山祐子「それより、何よその恰好(かっこう)は! 地味なカジュアルって言ったじゃない」
円城寺敏郎「え? 何言ってんすか丸マネ」
円城寺敏郎「俺にとっては、これがカジュアルですけど?」


〇土手
円城寺敏郎「ダッサイ服。なんだよ地味なカジュアルって」
上田修一「はは。仕方ないよ。 目立っちゃ駄目なんだから端役(はやく)は」
円城寺敏郎「そんなの誰だって出来るじゃないですか。 いったい、いつまでこんなこと・・・」
上田修一「君は何年目だい?」
円城寺敏郎「3年目っすけど」
上田修一「まだまだだね。 急にすごい役なんて回ってこないよ」
上田修一「少しずつ経験を積まなきゃ」
円城寺敏郎「マネージャーみたいなこと言いますね・・・」
上田修一「はは。僕も長いからね。この業界」
円城寺敏郎「おじさんは何年目なんすか?」
上田修一「僕は今年で27年目になるよ」
円城寺敏郎「まじっすか・・・。 で、これまでどんな役をもらったんですか?」
上田修一「聞いちゃう?」
円城寺敏郎「教えてください!」
上田修一「『無法者』は見たかい?」
円城寺敏郎「もちろんですよ。『無法者』といえば、 篠宮裕次郎(しのみやゆうじろう)さんの 代表作です」
上田修一「ふふ。ボクはあの時の興奮を忘れられないよ」
円城寺敏郎「すごい! どんな役だったんですか?」
上田修一「冒頭の関ヶ原の戦い。僕は開始20秒目の シーンで、篠宮さん扮する宮本武蔵に・・・」
  刀を振る動作をする上田。
上田修一「バッサリとやられる」
円城寺敏郎「斬られ役ですか・・・」
上田修一「そう、足軽。 だけど、台詞(セリフ)はあったよ」
上田修一「「母ちゃんの味噌汁、飲んでおくんだった・・・」」
上田修一「ってね。評判だったんだから」
円城寺敏郎「・・・おじさんは悔しくないんすか? こんな目立たない役ばっかりで」
上田修一「君はまだ若いから分からないんだよ」
円城寺敏郎「歳なんて関係ないっすよ」
上田修一「そうだ。君にいいものを見せよう」
円城寺敏郎「男前っすね。誰すか?」
上田修一「若い頃の僕だよ。 こう見えて、僕だって、銀幕のスターを夢見てこの世界に飛び込んだんだ」
円城寺敏郎「そうなんすか。意外っすね」
上田修一「学生の頃、少しばかり演劇をかじってね」
上田修一「今思えばあの頃は酷いものだったよ。 自分の実力を過大評価していたしね」
円城寺敏郎「俺が、勘違いしてるって言いたいんすか?」
上田修一「そうではないよ」
上田修一「ただ、その人にはその人なりの役割がある。 僕は、たまたまこの仕事がそうだったって話さ」
円城寺敏郎「・・・・・・」
上田修一「確かに僕たちは、主役ではない。 けど、主役を輝かせるという大役があるんだ」
円城寺敏郎「僕たちって・・・。 俺、おじさんみたいになるつもりないっすから」
上田修一「まぁ、まだ先は長いんだ。頑張りなよ」
上田修一「ところで君。食べないの? そのロケ弁食べないなら僕が——」
円城寺敏郎「あ、そうだった」
上田修一「何してるの?」
円城寺敏郎「チェキスタっす」
上田修一「何だねそれは?」
円城寺敏郎「おじさん、チェキスタグラム、知らないんすか?」
円城寺敏郎「イマドキの有名人はみんなやってますよ」
上田修一「そんな、有名人でもないのに」
円城寺敏郎「事務所に入ってる以上、俺たちだって立派なプロの役者じゃないっすか」
上田修一「はは。まぁ、養成所だけどね。 じゃあおじさんも始めてみようかな」
円城寺敏郎「絶対やったほうがいいですよ。 マネージャーにアカウントだけ報告すれば OKなんで」
円城寺敏郎「あ! 早速コメント入った」
円城寺敏郎「この弁当、有名なんだ」
上田修一「鳥兵衛を知ってるとは、さては業界人かな?」
上田修一「CircleYって誰? その人は知り合い?」
円城寺敏郎「知らない人っす。 でも、いつもコメントくれるんすよね」
円城寺敏郎「まぁ、最初のフォロワーなんで、 俺のファン第一号ってところすかね」
上田修一「そのフォロワーっていうのがファンなのか」
上田修一「すごい! 君にはファンが28人もいるのか」
円城寺敏郎「・・・せめて一言」
円城寺敏郎「たった一言でいいから、台詞さえ貰えれば、 俺の実力を世の中に知らしめることができるのに」
円城寺敏郎「あ!」
上田修一「どうしたの?」
円城寺敏郎「ちょっとトイレ行ってきます」
上田修一「僕も行こうかな」
円城寺敏郎「あ、おじさんは大丈夫です」
上田修一「え?」
円城寺敏郎「え、あ、そうじゃなくて。 トイレに弁当持ってくの嫌だから。 ここで見ててくれないかなーなんて」
上田修一「でも・・・」
円城寺敏郎「お願いします! 1個、唐揚げ食べていいんで」
上田修一「本当に? まぁ、それなら」
円城寺敏郎「じゃあ、よろしくお願いします」

次のエピソード:エピソード3

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