ある遊園地の悲嘆

爬虫類

ネバーランドに囚われた(脚本)

ある遊園地の悲嘆

爬虫類

今すぐ読む

ある遊園地の悲嘆
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇明るいリビング
  朝起きて、両親に元気な挨拶を。
椿「おはよう!」
  そして面白い話題を。
椿「聞いて、起きたらスマホ充電できてなかった。寝相悪すぎてコード蹴っ飛ばしちゃったのかも」
  すると両親は面白いほど笑ってくれる。
  うちの両親は喧嘩をしない。
  "お喋りで口数が多い"──そんな私の話で笑うのに忙しいから。
  今朝も私は1分たりとも口を閉じぬまま、朝の支度をする。
  そして、行ってくる、と朗らかに言って学校へ向かう。

〇教室
  今日はテスト返却日。
  私は学級唯一の満点。
  『凄い、また?』
  『いつもの事だな』
  皆そう褒めてくれる。
  また?
  いつもの事?
  うん。また満点なの。
  私を天才だと思う?
  違う。私はただの子供。
  いつものように満点を取る為、今回も私がどれだけ机に齧り付いた事か。
  でもそれを知られたらこう言われるかも。
  『少しは手を抜け』って。
  でもそれだけは無理。絶対に。
  だって──あの惨めな中学時代に戻りたくない。"できない子"に戻りたくない。
  私は天才とは対極だ。
  だからそれを避ける為、皆の何倍も努力する必要がある。
  そう。私はただ落ちこぼれない為、当然の事をしているだけ。
  逆戻りへの不安を抑えるには、私は"当然の努力"を続ける他ない。

〇おしゃれな教室
  夜。塾の授業後。
  友人が語りかけてきた。
  先程の授業で分からない所があった。解説が欲しい。
  彼女はそう口にし、私の目を見る。
椿「──」
椿「あー、ごめん。塾終わったらすぐ帰ってこいって親に言われてて。あまり遅い時間に外歩かせたくないのかな」
  真っ赤な嘘で断った。
  だが彼女は信じてくれたらしい。
  こうして人を誤魔化し、煙に巻いて。
  でも、私にはそうしてでも守りたい"秘密"があるのだ。

〇遊園地の広場
椿「──」
椿「・・・私、別に変な儀式とかやってないんですけどね」
道化師「此処はそういうので入れる場所じゃないからねぇ。この遊園地はもっと理不尽だ」
椿「そうですか」
  ──私は、どうも数ヶ月前にこの遊園地に"目をつけられた"らしい。
  最初は眼前で連発される超常現象に私も困惑したが、ある時目の前にこの道化師が出現。
  彼はこの遊園地のキャストらしい。
  真名すら忘れるほど、その魂まで愉快な"道化師"に染まっているが。
  ああ、そうだ。
  ──此処は、戦時中の金属供出の影響により、施設として成立しなくなって廃園に追い込まれた遊園地である。
  敷地を探索すれば、自ずとそれは分かった。
  現存せぬ筈の夢の国が、眼前で堂々と在りし日の栄光を湛えている。
  それは紛れもなく怪異。
  超常現象。科学への叛逆。
  ──しかし私はこの場所を嫌悪できない。
  だって帰りたいと願えば帰してくれる。嫌な事もされない。
  だから、此処は私にとって真の意味で夢の国だったのだ。
  故に私はこの場所の存在を隠す。私だけの秘密として。
道化師「そういえばさ。もう道化になるのは止めたの?初めて会った頃はどうでもいい事ばっか喋ってたのに」
椿「・・・」
椿「貴方達に対してはそうする必要無いですから」
椿「だって、私ができない子でも、酷い事言わないでしょう?」
  微笑を浮かべると、道化師は頷く。
道化師「うん。俺たちは人に夢と笑顔を贈る存在。なのに酷い事なんて言わない」
椿「良かった」
  塾帰り、毎夜私は此処に居る。
  特別な事はない。ただ瞬きしたらもう此処なのだ。
  しかしこうも甘い夢に溺れると、やはり現実が辛くなる。
椿「──ずっと此処に居たいな」
少年「僕もそれを推奨するよ」
椿「あ・・・」
少年「もう道化を演じたくないでしょう?」
  ──何処からか、いつものあの少年が姿を現した。
少年「成長すると、大人になると」
少年「そんな風に無用な苦労ばかりだ」
椿「──」
少年「大人になるから人は傷つき、傷つける」
少年「ね、君も"小さなあの頃"に戻ろう!此処は魔法の遊園地。願えば叶うんだ!」
  少年は笑い、道化師と2人で腰掛けていたベンチから私の手を引いて立たせた。
  一方の道化師はただ、昏く陰鬱な笑みで此方を眺めるばかり。
少年「ねぇ。いつだったか──"僕"から持ち去られた金属の類、アレどうなったと思う?」
椿「"僕"──?」
  少年の言葉にある予感が浮かぶ。
  ああ、この少年、まさか。
少年「僕の一部は銃弾になった。爆弾になった。そうして悲鳴を生んだ。笑顔の代わりに悲鳴を」
  『僕は、人に夢と笑顔を与える存在。その筈だったのに』
  囁くように少年は零す。
少年「だから。生み出してしまった悲鳴の分、僕は皆を笑わせて、幸せにしなきゃならないんだ」
道化師「うん、その通り」
  背後で道化師がくつくつと嗤っている。
  眼前の少年の瞳には善意しかない。
椿「幸せに、してくれるの」
  久々に、本心が伴った台詞を紡いだ気がする。
  零れた言葉。
  その簡素な問いを、彼らは、遊園地は、肯定した。
  ──少年に掴まれる私の手が、次第に縮んでいく。
  視界も下がり、複雑な思考、隠してきた本音すらも、全てが幼い姿に"戻る"。
少年「──」
少年「椿ちゃん、こんばんは!──君も今日からここでずっと遊べるよ!」
少年「まずは道化師の芸を見よう。面白いよ!」
道化師「オッケー、任せてよ──終わらない夢を見せよう」
  ──わたし、は、もう大人になれない。
  でも、すごいなあ!
  心はふわふわ、世界はきらきらだ!
  だから良いや!
  よく分かんないけど、"幸せ"だから!

コメント

  • ある意味椿ちゃんにネバーランドが存在していて良かったと思います。人は全力で何かに立ち向かいながらも、疲れた翼を休ませる場所が必要です。椿ちゃんが最終的にそのバランスを崩してしまったとしたら、何かを決断する時だったのかもしれませんね。

  • 何だか少し切なくなりました、彼女が必死にもがきながら成長しようとしている姿が心苦しく、また応援したくなりました。いいストーリーで最後まで楽しく読ませて頂きました。

  • 椿ちゃん自身もまだ大人ではないのに、それを強いられているのがかわいそうでした。
    必死になればなるほど終わりは近くなるんですよね。
    また遊園地自身も抱えているものがあって…それで椿ちゃんを受け入れたのかと思います。
    椿ちゃんは遊園地にとどまって幸せになれたのなら嬉しいです。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ