真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

02/星木ミウ/願望会の娘(脚本)

真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」

不安狗

今すぐ読む

真夏の人間日記「僕達は悪魔で機械な青春が死体!」
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇学校の部室
  その視線の先、バケツに入っていたまあまあ汚れた水を頭から被って尻もちをついていたのは、
  噂をすれば、噂の生徒会長立候補者星木ミウだった。
星木ミウ「いえ、こちらこそすみません。私が立ち聞きしていたせいですから・・・・・・」
宮浦先生「いや、その、着替え、着替え取ってきます!」
  宮浦先生は床の水で滑ってこけそうになりながらも、一目散に教室を飛び出して行った。
  「・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・」
  彼女は落ち着き払った様子で立ち上がると、残されていたもう一つのバケツの上で濡れたスカートを絞った。
  右目の眼帯は、小さい頃に参加させられた願望会の儀式か何かでケガをした、という噂を聞いたことがある。
  「・・・・・・これ、使います?」
  僕はまだ使っていなかった新品の雑巾を差し出した。
  彼女は一枚受け取ると、それで顔を拭いて近くの机の上に置いた。
星木ミウ「・・・・・・ありがとう」
  「・・・・・・顔位洗ってきますか?」
  「ここ四階だし、人も滅多に来ませんし」
  前からこの空き教室は、よく宮浦先生と雑談する時に使っていた。
  人が滅多に来ないので、いわゆる秘密の隠れ家にはぴったりだったからだ。
  すると彼女は近くにあったパイプ椅子に座ってから、靴下を脱ぎ捨てた。
星木ミウ「・・・・・・人が来るとまずいの?」
  「え、いや、その格好、あんまり人に見られない方が良いと思いますけど・・・・・・」
星木ミウ「それって私が、願望会の、娘だから?」
  「・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・違うの?」
  僕はそんなこと一言も言っていないのだが、彼女はまるで聞き飽きたかのように吐き捨てる。
  願望会の娘。今の一言でわかった。
  彼女は自分が願望会教祖の一人娘であることにあまり、良い感情を抱いていないようだ。
  「いや、確か生徒会長立候補者の、ミウさんですよね?」
星木ミウ「生徒会長立候補者って・・・・・・コハク君もそうでしょ?」
  どうやら、さっきの話を聞かれていたらしい。
  「それは・・・・・・その、予定ですけど」
星木ミウ「・・・・・・」
  彼女は黙ったまま、制服のネクタイを外して机の上に投げると、代わりに雑巾を手に取って僕に背を向けた。
  「・・・・・・あ、僕廊下に出ときますね」
星木ミウ「・・・・・・何で敬語なの?」
  「敬語・・・・・・?」
星木ミウ「・・・・・・やっぱり私が願望会の」
  「いや、初対面・・・・・・ですよね?」
星木ミウ「・・・・・・え?」
  彼女の手から力が抜け、その手を離れた雑巾はそのまま、運悪く真下にあったバケツの中に吸い込まれた。
  新品の雑巾が、ゆっくりとバケツの中に沈んでいく。
  「いや・・・・・・・・・え?」
  まさか、初対面じゃなかった? いや、だとしたら僕が覚えていないわけがない。
  彼女は転校生で、僕は存在感の無い一クラスメイト。
  転校生だけが覚えていて一クラスメイトの方が忘れているなんてこと、あるのか?
星木ミウ「・・・・・・」
  「・・・・・・あ、もう一枚ありますよ、新品のやつ」
星木ミウ「あ、ありがとう。でも、それより私達、クラスメイトじゃないの?」
  「え、はい、そうですけど・・・・・・?」
  彼女の言いたいことがよくわからないまま、僕は最後の一枚を手渡す。
  ゆっくり近づいてきた彼女は腑に落ちない様子で、僕を見つめている。
星木ミウ「・・・・・・よく話していたから、話したことくらいあると思った」
  「はあ、そう、なんですか・・・・・・?」
星木ミウ「・・・・・・」
  やっぱり言っていることがよくわからない。僕が彼女と話したことは、多分一度も無いはずだ。
  「いや、でも僕からしたら、ミウさんなんて高嶺の花みたいな感じ、でしたし」
星木ミウ「・・・・・・それは、私が願望会の」
  「でも、僕も生徒会長に立候補するし、別に良いのか?」
  僕は咄嗟に、彼女の言葉を遮った。
星木ミウ「・・・・・・」
  「・・・・・・」
  目を丸くしたまま僕の方を見ていた彼女は、何かに納得したのか軽くため息をついた。
星木ミウ「・・・・・・うん。良いんじゃないかな」
  「・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・」
  彼女は黙ったまま、制服のボタンを外しながら僕に背を向けた。
  「・・・・・・流石に、廊下に出とくんで」
星木ミウ「宮浦先生が戻ってきたら教えて」
  「ああ、うん・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・宮浦先生とは、仲が良いの?」
  「え、まあ・・・・・・?」
星木ミウ「宮浦先生の家とか知ってる?」
  「家? いや、流石に家までは、知らないけど・・・・・・」
  僕は廊下に出ようとしているのだが、会話も彼女の手も止まらない。
  しかし宮浦先生なんかの家の場所を知って、一体どうするつもりなのだろうか。
星木ミウ「じゃあ宮浦先生が、食事してるところ見たことある?」
  「しょ、食事?」
星木ミウ「お昼とか、一緒に食べたりしない?」
  「いや、それは無いな・・・・・・」
  僕はお昼もこの空き教室で食べているのだが、お昼時に宮浦先生に会うことはほぼ無い。
  会ったとしてももう食べ終わっていたり持ってくるのを忘れていたりで、確かに宮浦先生が食事をしているところを見たことは無い。
  でも、だから何なんだ?
星木ミウ「じゃあ・・・・・・」
  「あ、でもそういえば休みの日に一回、家の近所でなら会ったことあるかも」
星木ミウ「それ、どこで・・・・・・!」
  「え」
星木ミウ「あ」
  振り向いた拍子に、彼女は残されていたもう一つのバケツに躓いた。
  そしてそのステンレス製のバケツの倒れる耳障りな音と共に、彼女は盛大にすっ転んだ。
  「・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・」
  「・・・・・・あー、ごめん、言いづらいんだけど、もう新品の雑巾、無い」
  すると彼女は諦めたように両手を挙げて、びしょびしょの床にそのまま寝転がった。
星木ミウ「最悪・・・・・・」
  「・・・・・・」
星木ミウ「・・・・・・それで、宮浦先生をどこで見たの?」
  彼女は寝転がったまま、気怠そうに僕を見上げる。
  「え、ああ。近所のコンビニだよ。バイト中に見かけて」
星木ミウ「コンビニ・・・・・・え、うちの学校バイト禁止じゃなかった?」
  やべ。
  「・・・・・・宮浦先生は、見逃してくれたよ?」
星木ミウ「・・・・・・」
  「自分も昔、よくやったからって」
星木ミウ「・・・・・・昔?」
  「うん」
星木ミウ「・・・・・・ふーん、昔、ねえ」
  流石に今はやってないだろう。教員にそんな暇無いだろうし。
沖谷ナナコ「みーぽーん、新しい服持ってきたよー」
  丁度良いところで戻ってきたのは、宮浦先生ではなく生徒二人だった。

次のエピソード:03/三人目の立候補者

成分キーワード

ページTOPへ