あなたが好きなんです

いりうわ

第1話 狂気の始まり(脚本)

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〇墓石
佐々木みえ「忘れないわ」
佐々木みえ「あなたのこと・・・」

〇黒

〇黒

〇オフィスのフロア
部長「おい佐々木君!」
佐々木みえ「なんですか?」
部長「いい加減アポイントのひとつくらい取ってきたらどうだ」
佐々木みえ「取ってきても、どうせ毎回つぶされるんですよ」
部長「それは、うちの見込み客にならないという上の判断があるんだよ」
佐々木みえ「だったら、契約までのクロージングも私に任せてもらえませんか?」
部長「無理言うんじゃないよ」
部長「営業の才能はあるんだから、契約できそうな客を見つけることだけに専念してくれ」
佐々木みえ「・・・」
部長「いいね」
佐々木みえ「はーい」
部長「次、金村! ちょっと来い」
金村ゆきお「は、はい!」
上村なぎこ「大変ですね 朝から部長のお小言」
佐々木みえ「いい加減、うんざりだわ」
佐々木みえ「どうして上司に気に入られている女の案件ばかりが成約するのよ」
佐々木みえ「おかしいと思わない?」
上村なぎこ「ええ、まぁ・・・」
富田かなえ「あら、それって私の事?」
佐々木みえ「別に」
富田かなえ「社内でうまく立ち回るのも仕事のうちよ」
富田かなえ「自分の力不足を人のせいにしないでよね」
佐々木みえ「くっ」
松田さくじ「富田さん、ちょっといいかな」
佐々木みえ「ま、松田さん」
富田かなえ「ええ、すぐ行きます」
松田さくじ「佐々木さん、楽しくお話していたのにすまないね」
佐々木みえ「いいえ、全然」
松田さくじ「じゃ、富田さん 向こうで」
富田かなえ「は~い」
佐々木みえ「何が「は~い」よ 尻がる女が!」

〇備品倉庫
佐々木みえ「なんで富田が松田さんと一緒に営業に出て、私が備品の整理なのよ!」
上村なぎこ「仕方ありませんよ 富田さんは営業成績トップですし、エリートの松田さんとはお似合いです」
佐々木みえ「どっこが!」
上村なぎこ「富田さんって前職のキャリアを認められて上層部からうちに引き抜かれたそうですよ」
上村なぎこ「完璧な女性は人柄もきっと素敵ってことなんでしょうね」
佐々木みえ「上村、ひとつ教えといてあげる」
上村なぎこ「はい?」
佐々木みえ「教師は聖職だけど先生になる人は必ずしも聖人じゃないのよ」
上村なぎこ「はぁ・・・」
佐々木みえ「だから、人の価値を計るのに前職のキャリアや肩書なんて何の意味もないってことよ」
上村なぎこ「まぁ、そうかもしれません」
佐々木みえ「ちなみに、あんた前は何やってたの?」
上村なぎこ「私は小さな病院の看護士です」
佐々木みえ「へー、見かけによらないのね」
上村なぎこ「佐々木さんは富田さんのことが苦手なんですね」
佐々木みえ「苦手というか大嫌いだわね」
佐々木みえ「あいつさえいなければ、松田さんにも私の想いを伝えられるのに」
佐々木みえ「「あなたが好きなんです」 なんてね」
上村なぎこ「はぁ・・・」
佐々木みえ「・・・」
佐々木みえ「もういいわ 上に行って少し休みましょう」

〇オフィスの廊下
佐々木みえ「そういうわけで、富田かなえとはいつか勝負しなきゃならないのよ」
佐々木みえ「人の恋路を邪魔する女は必ず排除してやるんだから」
佐々木みえ「元看護士のあなたにはわからないでしょうけどね」
上村なぎこ「どういうことですか?」
佐々木みえ「医者が誰かの命を救うとするじゃない」
佐々木みえ「今度はその救われた命が、また多くの命を救うかもしれないわよね」
上村なぎこ「その通りです」
佐々木みえ「でもね、戦争は逆なのよ」
上村なぎこ「戦争?」
佐々木みえ「1人の兵士を殺しそこなえば、そいつがこの先多くの命を奪うってこと!」
上村なぎこ「恋愛は戦争・・・なのですか?」
佐々木みえ「そうよ、私にとっては戦争も同じよ!」

〇大企業のオフィスビル

〇オフィスのフロア
上村なぎこ「おはようございます 佐々木さん」
佐々木みえ「おはよう上村 何だか朝から騒がしいわね」
上村なぎこ「実は、会社中に富田さんの写真がばらまかれていて朝から大変なんです」
佐々木みえ「写真?どんな」
上村なぎこ「見ての通り、富田さんと男性がホテルから出てくる写真です」
佐々木みえ「うわっ」
佐々木みえ「あ、この人知ってる~、どっかの重役だわ」
富田かなえ「そんな、課長 何かの間違いです!」
部長「ならこれをどう説明する? 誓ってこういうことは全くないと?」
富田かなえ「全くない・・・ことはありません」
富田かなえ「でも、それは飲みに行ったり、デートに付き合う程度で、それ以上のことは何も・・・」
部長「私はよくても、取引先や君のお得意さんはそれを信じてくれるかね?」
富田かなえ「・・・」
富田かなえ「部長、それでも私は・・・」
富田かなえ「信じてください お願いします部長!」
部長「今日中に退職願を出したまえ」
富田かなえ「部長!」
部長「残念だよ、富田君」
富田かなえ「はっ!」
松田さくじ「・・・」
富田かなえ「さくじさん、待って!」
富田かなえ「くっ・・・」

〇オフィスの廊下
佐々木みえ「終わったわね、富田かなえ」
上村なぎこ「でも、なんだか少し可哀そう」
佐々木みえ「ふん、いい気味よ」
???「ねぇ!」
富田かなえ「きたない真似してくれるわね」
佐々木みえ「一体、何の話よ」
富田かなえ「しらばっくれないでよ どうせあなたの仕業なんでしょ」
佐々木みえ「変な言いがかりはやめなさいよ!」
富田かなえ「あなたしかいないのよ!」
上村なぎこ「ま、待ってください 佐々木さんはそんなことしてません」
富田かなえ「・・・いいわ」
富田かなえ「何を言ったところで、今さらもう遅い」
佐々木みえ「さようなら、富田さん お元気で」
富田かなえ「ふん、あなたもせいぜい気を付けなさい 明日は我が身よ」
佐々木みえ「あはは、負け犬の遠吠えね」

〇オフィスのフロア
佐々木みえ「さてさて、帰りますか」
佐々木みえ「何だか今日は気分がいいわ」
金村ゆきお「佐々木さん、お先です」
佐々木みえ「あら、金村君 お疲れさま」
上村なぎこ「佐々木さん、私もお先に失礼します」
佐々木みえ「あら、そう?お疲れ様」
上村なぎこ「お疲れさまでした」
佐々木みえ「相変わらず愛想がないわね ま、悪い子じゃないんだけど」
松田さくじ「佐々木さん」
佐々木みえ「ま、松田さん! 何か?」
松田さくじ「うん、今度の営業で手伝ってほしいことがあるんだけど、頼めるかな?」
佐々木みえ「え、わ、私に!? も、もちろんです」
松田さくじ「よかった じゃ、こんど改めて連絡するから」
佐々木みえ「はい、待ってます」
松田さくじ「それじゃ、お疲れ様」
佐々木みえ「お疲れさまでした」
佐々木みえ「・・・」
佐々木みえ「やったー!!」
佐々木みえ「あら?金村君 まだいたの」
金村ゆきお「・・・」
佐々木みえ「忘れ物かしら」

〇マンションの共用階段
佐々木みえ「やっと、私にも運が向いてきたんだわ、ふふ」
佐々木みえ「このチャンス、必ずものにして見せるわ」
佐々木みえ「もう誰にも邪魔させるもんですか!」
佐々木みえ「え?」

〇田舎の病院の病室
佐々木みえ「うう・・・」
佐々木みえ「ここは・・・?」
上村なぎこ「佐々木さん、気が付きましたか」
佐々木みえ「上村・・・? つつ、頭が痛いわ」
上村なぎこ「まだ動かないでください」
上村なぎこ「あなたは階段から落ちて大けがしたんです」
佐々木みえ「何ですって!いたた」
上村なぎこ「ですから、当分の間はお仕事もお休みです」
佐々木みえ「なんてこと これからって時に」
佐々木みえ「・・・」
佐々木みえ「ねえ、上村」
上村なぎこ「はい」
佐々木みえ「私、突き落とされたの」
上村なぎこ「何を言い出すんですか」
佐々木みえ「いいえ、確かよ ハッキリと思い出したわ」
上村なぎこ「誰が佐々木さんを階段から突き落とすというんです?」
佐々木みえ「決まってるじゃない! 富田かなえよ」
上村なぎこ「まさか・・・」
佐々木みえ「あいつに決まってるじゃない!」
佐々木みえ「きっと、何もかも奪われたあいつに逆恨みされたのよ」
上村なぎこ「考えすぎですよ」
佐々木みえ「見てなさい、ただじゃおかないわ」
上村なぎこ「佐々木さんの思い違いですよ」
佐々木みえ「なによ、やけに富田の肩を持つじゃない」
上村なぎこ「だって・・・」
佐々木みえ「だって何よ?」
上村なぎこ「佐々木さん突き落としたの私ですもの」
佐々木みえ「はぁん?」
佐々木みえ「あんた気は確か?」
上村なぎこ「あっ、そうそう」
上村なぎこ「ついでにもう一つご報告が」
上村なぎこ「さくじ!」
松田さくじ「やぁ、佐々木さん このたびは災難だったね」
佐々木みえ「ま、松田さん!?」
上村なぎこ「私たち、お付き合いすることになりました」
佐々木みえ「な、な、」
上村なぎこ「さくじは外で待ってて」
松田さくじ「ああ、 じゃあ、佐々木さんお大事に」
佐々木みえ「上村、あんた!」
上村なぎこ「佐々木さん、私も幸せになりたいんです」
佐々木みえ「あんた、ふざけんじゃないわよ!」
上村なぎこ「私もいろいろ忙しくって、今日はこれで失礼しますね」
佐々木みえ「待ちなさいよ!」
上村なぎこ「無理しないでください まだ動けませんから」
上村なぎこ「あっ、それと」
上村なぎこ「上村さんは、このままゆっくり休んで会社もクビになってください」
佐々木みえ「なにを!!」
上村なぎこ「富田さんの時みたいに、事はうまく運んでいますので」
佐々木みえ「なっ?」
佐々木みえ「まさか、富田かなえもお前が・・・」
上村なぎこ「はい、私の仕業です」
佐々木みえ「・・・」
上村なぎこ「ふふ、もう行きますね さくじが待ちくたびれていますから」
佐々木みえ「待て、こらー!」
上村なぎこ「お大事に、佐々木さん」
佐々木みえ「・・・」
佐々木みえ「初めて見た・・・」
佐々木みえ「あいつがあんなに笑ってるとこ」
佐々木みえ「殺す・・・」
佐々木みえ「殺してやるあの女ー!!」
佐々木みえ「絶対、絶対、ころ・・・し・てや」

〇黒背景
  佐々木さん
  起きてください
  佐々木さん

〇備品倉庫
上村なぎこ「やっと気が付きましたね、佐々木さん」
佐々木みえ「上村・・・」
上村なぎこ「気分はどうですか?」
佐々木みえ「最悪よ ここはどこなの?」
上村なぎこ「会社の備品庫です 私と佐々木さんゆかりの地」
佐々木みえ「ちっ」
佐々木みえ「大事な松田さんを奪うわ、人を突き落として拉致するわ、あんた一体なんなのよ!」
上村なぎこ「松田さん?」
上村なぎこ「ああ、安心してください 私、あんなの全然興味ないですから」
佐々木みえ「ど、どういうことよ だって、あんた・・・」
上村なぎこ「お付き合いしましたけど、もう別れました」
佐々木みえ「え!?」
上村なぎこ「今頃はさっきの病院で、眠ってるんじゃないかしら」
佐々木みえ「あんた、何をしたの・・・」
上村なぎこ「ふふ・・・」
上村なぎこ「佐々木さんって、本当に何もわかってないんですね」
佐々木みえ「どういう意味よ」
上村なぎこ「私が何故こんなことをするのかってお話ですよ」
佐々木みえ「是非、教えてほしいわね」
上村なぎこ「富田さんの退職も、松田さんの失踪も全部あなたの為です」
佐々木みえ「だから、なんでそんなことしたのよ!」
上村なぎこ「決まってるじゃないですか」
上村なぎこ「あなたが好きなんです」
上村なぎこ「邪魔者は全て排除しましたよ」
上村なぎこ「これで、私だけのものになってくれますよね?」
佐々木みえ「・・・冗談やめてよ」
佐々木みえ「いや!」
佐々木みえ「近寄るな!」

〇大企業のオフィスビル

次のエピソード:第2話 失踪者

コメント

  • 大人しい後輩かと思いきや、色んな意味でヤバイオンナだった!
    サスペンスミステリーの始まりですね!
    私も現在、長編ミステリーを執筆中ですので、勉強させてくたさい。

  • まさかの展開でした。上村さんの冷酷さ、愛憎深さが最後のシーンでいやというほど伝わりました。まるでターゲットを仕留めるための狩りの順序みたいで、お話のスピード感も心地よかったです。

  • (具体的なことはここには書けませんが…)そういうことですか…何か途中からそんな予感はありましたが。ただの恋愛話ではなさそうですね…

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