第7話 イニシャルエス(脚本)
〇電気屋
エラ「おまえは勘違いしている」
エラ「わたしがミメイを恨み、殺したい理由は、あいつがわたしを戦闘用機械人形にしたことではない」
エラ「戦場に行くことはなんとも思わない」
エラ「わたしが機械人形であるように、相手も機械人形だ。金属の塊同士でドンパチしていただけだ」
ビストライト「いや、いくら機械人形同士といっても、戦うのは怖いだろ?」
ビストライト(見た目がこうだから俺が勘違いしているだけで・・・エラを女の子だと思うのは間違いなのか?)
エラ「わたしはこの通り強いし、負けたことがない。なので恐怖もない」
エラ「それに、当時のことはあまり覚えていない」
エラ「わたしは気がつけば、あの静かな荒野にいて、ミメイを探してさまよっていた」
ビストライト「・・・」
エラ「ミメイへの殺意だけがわたしの原動力だ」
エラ「それがなければわたしはとうの以前に、自爆して自分の存在を終わらせているだろう」
ビストライト「・・・なあ。それって、つまり・・・」
エラ「創造主への恨みなどひとつに決まっている」
エラ「ミメイの罪。ミメイの罰」
エラ「それは、わたしを創ったこと」
ビストライト「つくったこと・・・」
エラ「わたしは誕生したくなかった。ミメイが勝手に創った。ミメイの都合で、ミメイのエゴで」
エラ「わたしはうまれたくなかった、そしてこんな感情のようなものを持ちたくなかった」
エラ「感情がなければ苦しむこともなかった」
エラ「すべてあいつのせいだ!」
エラ「人間は全員、一人残らず、すべて嫌いだが、ミメイはもっと嫌いだ」
ビストライト「予想よりシンプルでずっと明瞭な理由だったよ」
ビストライト「・・・なあ。君は、楽しいって思ったことないの?」
エラ「ない。あるわけないだろう」
ビストライト「一度も? ほんとうにこれまで、ただの一度もなかった?」
エラ「機械人形にやすらぎなどない。人間に都合のいいようにこき使われ働かされ、壊れたら棄てられる」
エラ「それだけの存在だ」
ビストライト「そうか。俺は君といて、けっこう楽しいけどなぁ」
エラ「急に何の話だ?」
ビストライト「いや、いいんだ。少し寝るよ」
エラ「泊まっているところに戻らないのか」
ビストライト「君に逃げられたら元も子もないからな」
エラ「・・・わたしはどこにもいかない。ほかに行くところもない」
エラ「それに本当に逃げようと思えば、おまえが寝ている間に行く」
ビストライト「気分の問題だよ。俺がここにいたいだけ」
ビストライト(そういえば、もうGPSでいつでも居場所を辿れるんだったっけな)
〇商店街
そして数日が経った。パスワード入力作業は地道に続いていた。
〇電気屋
ビストライト「ねえ、なんかヒントない? ヒント」
エラ「・・・」
ビストライト「CINDERELLAS01、CINDERELLA、MIMEI・・・大文字小文字の組み合わせ」
ビストライト「思いつく限りのワードはもう入れたけど、うんともすんとも言わない」
ビストライト「もう限界だ・・・。なあってば聞いてる?」
ビストライト「あ、そういえばさ、前から思ってたんだけど、シンデレラS01の「S」って・・・なに!?」
エラ「・・・・・・」
ビストライト「なにかの頭文字? それがパスワードじゃない!? 俺冴えてる。ひらめいちゃったよ」
エラ「・・・・・・」
ビストライト「おいさっきから無視すんなよ!もうパスワードの話じゃなくてもいいからさ、なんか話してくれない!?」
エラ「うるさい気が散る。喋るな。お前も殺されたいのか」
ビストライト「そんな・・・。こっちは喋って気を紛らわせないとやっていけないんだけど」
ビストライト(孤独の耐性が低いのが人間の弱点なんだよなぁ)
ビストライト「はあ、腹も減ったし宿に戻ってなんか食べてこようかな」
エラ「・・・まて。シンデレラS01の「S」だと?」
エラ「シンデレラの「S」に決まっているだろう」
ビストライト「え?」
ビストライト「シンデレラのつづりは「CINDERELLA」・・・頭文字はCだけど」
ビストライト「いや、まさか・・・まさかな・・・?」
パスワードの入力画面に、「SINDERELA」
と、打ち込んで、エンターキーを押した。
すると──
ロックが解除されて、テキストファイルが開かれた。
短い文のあとには、座標値が書かれていた。
その数値は「惑星」の、広大な荒野を指し示している。
以前、エラがさまよっていた場所よりも、さらに遠く、もっとなにもない、
この世の、地の果てだ。
ビストライト「ここに・・・博士がいるのか」
エラ「ミメイの居場所・・・ついに・・・わかったんだな」
ビストライト「たぶんね」
エラ「やっと、ミメイを、この手で 殺せるのだ」
ビストライト「俺も」
エラ「おまえは来るな」
エラ「邪魔だ。わたしがミメイを殺すのを止めるつもりだろう」
ビストライト「え? ちょっとまってどこ行くの?」
エラ「座標がわかればあとは行くだけだ。ミメイのところに決まっている」
ビストライト「落ち着いてよ、こっちには色々と旅の準備ってもんが──」
慌てて腕をつかんで引き留めようとするが、腕力で彼女にかなうわけがなかった。
ビストライト「うわっ!」
エラ「軟弱な人の足でわたしに追いつけまい。じゃあな」
ビストライト「マジ~!?」
〇商店街
エラからマイクロメモリを抜き取れば一時的に活動停止させられるが、もちろん、そんな隙はどこにもない。
ビストライト「待て、たのむ! 俺もいっしょに──」
ビークル「まってほしいのはこっちです」
ビークル「話は把握しています」
ビークル「あなたは死ぬ気ですか。ご主人さま」