エピソード1(脚本)
〇教室
夕立ちかと思われた雨は夜のとばりが降りても勢いを弱めなかった。諦めて帰ったものが多い中、教室には二人の少女の姿があった。
沙知「先生と長話しちゃった。待たせてごめんね」
恵美「流石にもうそろそろ帰ろうぜ。雨止みそうにないしさー」
友子「さっき調べたけど、もうそろそろで止みそうよ。よかったら学校散策しない?私、面白い話を知ってるの」
恵美「お、なになに?何の話?」
友子「この学校、幽霊が出るの。私も昨日、実際にみたわ」
沙知「やだっ、怖いよ。やめようよ。さっさと帰ろうよ」
恵美「お、面白そうじゃん!行こうぜ行こうぜ。ちなみにどこ行けばいい?トイレ?音楽室?」
沙知「恵美ちゃん、やめようってばー・・・・・・!」
友子「屋上よ。屋上で少女がずっと泣いているらしいわ。それだけなんだけど、昼でも夜でも見たって人がいるの」
恵美「じゃあ私たちも会える可能性大ありってことじゃん!うは、こりゃ行くしかないっしょ。友子、早く早く!」
沙知「恵美ちゃん、止めようってばー・・・友子ちゃんも、なんでそんなこと言うの?怖いよぉ・・・」
友子「はいはい。恵美は慌てないの。沙知も泣かないで、大丈夫だから。ほら、行くわよ」
一人教室に残された沙知は雨音が大きくなったような気がした。突風が窓を揺らす。ガタガタガタガタッ!
沙知「ひっ・・・・・・ま、待って!おいて行かないで!」
〇学校の屋上
恵美「幽霊さんいますかー!」
屋上に続く扉を開けると同時に恵美は叫んだ。雨は友子が言ったように小降りになっている。
友子「恵美、待ちなさいったら。・・・どう?幽霊はいた?」
沙知「本当に、本当に幽霊いない?入っても大丈夫?」
小走りで屋上を見回した恵美は、扉まで戻ると服についた雨粒を払った。雨はもう気にならないぐらい弱まり、雲は途切れはじめた。
恵美「いないみたいだわ。なーんだ、一回でいいからあってみたかったんだけどね」
友子「そう。でもこれから怖い思いをしなくていいとわかって喜ぶべきじゃないかしら?」
沙知「私にも見えてないみたい。よかった、ほんとうによかった・・・!」
恵美「私はできたらお話ししたかったなー。そしたらさ、いろいろ教えてもらえるじゃん?あの世のこととか、あの世の流行とか」
恵美「お、雨あがってきたんじゃね?」
〇学校の屋上
するすると雲は散って満月の光が屋上を照らした。今にも落ちてきそうなほど、大きくて丸い満月だった。
恵美「まあこうして綺麗な満月が見れたし、いっか」
沙知「大きいね。こんなに大きくて妖しかったら、狼男が変身する気持ちもわかるな」
恵美「月が綺麗ですね・・・なんてな。さー、友子と二人でお月見デートもできたし、帰るかー。行こうぜ」
沙知「え、二人・・・?や、やだぁ恵美ちゃん。怖がったからって私のこと無視しないでよ」
友子はため息をついた。そして、沙知を殴った。
沙知「・・・!?」
友子の手は沙知の体をすり抜けた。友子の手が通るたび、映像が乱れたように体の線が消え、友子の手が通り過ぎると元に戻った。
沙知「え、え!?なに、なんで!?!?」
友子「あなたが、幽霊なの。ちゃんと自覚しないと、これから傷つくばかりよ」
沙知は自分の体を殴った。何度も何度も。自分は自分の体に触れられるのに、満月は沙知の体の影を作ってはくれなかった。
沙知「・・・また、一人だぁ・・・・・・」
まったくの予想外な展開でした。幽霊が幽霊をいちばん怖がっているのもそうですし、彼女の守ってあげたくなるような雰囲気もあって幽霊の存在が愛おしく可愛く思えてきますね。
沙知さんが幽霊だとは思いませんでした!
自分が幽霊と知らずに、幽霊を怖がるっていうのがかわいくて、読み終わった後ちょっと「くすっ」としました。
かわいいお話でした。
一番怖がりで幽霊に怯える沙知が、まさかの幽霊という展開。最初に読んだ時の微かな違和感が、繰り返して読んだときにはっきり浮かび上がってきました。