名ばかり

あくたん

エピソード1(脚本)

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〇レストランの個室
牧野 あかり「なんか・・・・・・すごいお店だね。こんな格好で来てよかったのかな」
高城 凌太「いやいや、俺の服見てから言ってよ」
牧野 あかり「高城くんは別にどうでもいいけどさ」
  友人も妹も、気付いたら結婚していた。
  30を過ぎても彼氏すらいない。そんな人、結構いそうなのに意外と周りにはいない。
  でも、そんな日々が変わるかもしれない。

〇おしゃれな受付
牧野 あかり「・・・・・・おはようございます。」
牧野 あかり「・・・・・・おはようございます。 どのようなご用件でしょうか」
  立派な大学に入ったなあ、と親戚たちから
  褒められたのが最後の晴れ舞台だった。
  卒業はできたけど、就活はボロボロ。
  それ以来、派遣で大企業の受付を転々としている。もう10年もそうだ。
  恋愛も仕事も上手くいかない。
牧野 あかり(こんな生活が死ぬまで続くのかな。)
  そんな時に現れたのが、彼だった。
牧野 あかり「おはようございます。 どのようなご用件でしょうか?」
高城 凌太「今日からここで働く、高城・・・・・・ あれ?」
牧野 あかり「た、高城!?」
高城 凌太「牧野!?」

〇レストランの個室
  中学時代の同級生、高城凌太。
  学生時代は変な遊びをして先生に怒られて
  ばっかりだった高城だけど
  天才肌というかなんというか・・・・・・
  高校も大学も私の方が全然賢いところに
  行ってるのに
  今では大手企業に引き抜かれたエリートと、その会社に派遣された受付。
高城 凌太「アクアパッツァだって。海賊の名前みたい」
牧野 あかり「何言ってんの。どこがよ」
  正直、再会して彼の経歴を聞いたときは
  劣等感に苛まれた。
  でも、高城は私を馬鹿にすることなんて全くなくて。いつも優しくて。
  いつの間にか毎週会う関係になって──
高城 凌太「・・・・・・ほんまっじい?ねえ牧野、 さっきシェフの人、なんて言ったの? ほんまっじい?」
牧野 あかり「フォルマッジィよ。あとさっきの人はシェフじゃない。ウェイターよ」
  いつも私が車を出すし、高城は口を開けば
  変なことばかり言う。
  でも、そんな時間が温かくて好きだった。
  にしても、今回は明らかに様子が違った。
  毎週会っていたのに、10月はたった1日しか会えないから、どうしてもその日は絶対に開けてくれと言う。
  その日は今日、10月2日、私の誕生日だ。
  お店だっておかしい。いつもは庶民的なファミレスとかラーメン屋なのに。
  アクアパッツァを海賊とか言う人が来るお店じゃない。
  フォルマッジィを知らない人が誘うお店
  じゃない。

〇レストランの個室
  私たちはいつの間にかデザートを食べ終えている。
牧野 あかり「美味しかったね」
高城 凌太「ね!美味しかったなあ」
  「ね!」じゃないでしょ、と思った。
  こんな日に、こんな場所に連れてきといて。
  もう食べ終えてしまったじゃん。
  これからどうするのよ。
  少なくともおめでとうくらい・・・・・・。
高城 凌太「あかり」
  高城が、私のことをあかりと呼んだ。
  下の名前で呼ばれたのは初めてだった。
  私は平然を装いたかった。
  なんとなく負けたくなかった。
  でも、心臓は高城に聞こえそうなくらい
  大きな音を鳴らしながら、揺れて、揺れて、
  全く言うことを聞かなかった。
牧野 あかり(何よ。)
牧野 あかり(言うなら早く言ってよ。)
牧野 あかり(どうせ準備してたんでしょ。)
牧野 あかり(だったら早く・・・・・・)
高城 凌太「あかりって良い名前だよね」
牧野 あかり「・・・・・・ありがとう」
  思い返せば、何年も人から褒められていな
  かった。
  高城も優しいけど、今まで私を褒めたことは一度もなかった。
  それが素直に嬉しくて、少しでも劣等感を
  抱いていたことが馬鹿みたいで。
牧野 あかり(やっぱり私は高城のことが・・・・・・)
高城 凌太「高城あかり」
  あまりにも不意打ちだった。
  彼は今、彼の姓に私の名を合わせた。
  高城あかり。
  想像を遥かに越える言葉だった。
  もはや心臓が暴れていることなんて、
  どうでもよかった。
  むしろ、もっと暴れてほしいと思った。
  早く、触れたい。
  早く、もっと、近くで──
牧野 あかり「そ、それって・・・・・・」
高城 凌太「俺さ、誰かとの子どもができたら、 あかりって名前、付けてもいいかな」

〇黒
  高城あかりは、私ではなかった。
  高城と誰かの、子どもだった。

〇渋谷のスクランブル交差点
  想定より何時間も早く、私は高城を車に乗せて家に送っていた。
  街はまだ人口の光で溢れかえっている。
  車も人も好き勝手に動いていて、変に酔いそうになる。
  赤の信号。私は横断歩道の直前で止まる。
  助手席の方を見ると、いつものように高城が寝ている。
  私はため息と一緒に何かを吐き出してしまいそうになる。
  窓を少し開ける。
  こんな街でも、意外と風は心地よい。
  車の排気ガス、エンジン音。
  人の吐息、楽しそうに騒ぐ声。
  それら全てが私の車を通り抜けていく。
牧野 あかり「高城。」
牧野 あかり「気持ちいいね。」
  少し肌寒くなってきたが、そんなことはどうでもよかった。
  フロントガラスの白い汚れが、やけに鮮明に見える。
  ハンドルを握る手はカラカラに乾いている。
  私は、赤いライトに照らされたままで微動だにしない高城の顔を見ながら
  思い切りアクセルを踏んだ──

〇黒
  私の想いは、最後まで秘密のままだった。

コメント

  • 期待した分悲しい思いをしてしまった彼女がかわいそうでした。
    でも、期待したのは彼女ですが、彼自身はどう思ってるのかが謎ですね。

  • なんか高城さんの方が計算でやってるのか?ってくらい腑に落ちませんでした!
    気があるから誘うのか…?それともからかってるのか?!
    なんかむかむかしてしまいました笑

  • えー。そこで、そんなこと言う?と、なりました。ただ、あかりちゃんが、高城にかけてる期待度が、彼の思いと合ってなかったりするんだろうな。でも、切ない。

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