エピソード2(脚本)
〇実家の居間
美羽「・・・お、父様・・・・・・」
美羽の父「久しぶりだな、美羽」
美羽「どうして、ここに・・・」
美羽の父「家出したバカ娘を連れ戻しに来たに決まってるだろう。 じゃなきゃ、こんな馬臭い所にわざわざ足を運ばん」
和馬(馬臭い・・・?)
和真父「・・・・・・」
美羽の父「さあ、帰るぞ。美羽。 こんな所にいたら、体が弱いお前のことだ。すぐに埃か何かの菌が入って、体調崩すだろう」
美羽「そんなことはないです!! ここに来てから、まだ一回しか熱出してませんし!大丈夫です!」
美羽の父「一回熱出ただけで、もう充分だ! 今のお前は、新しい環境でハイになっていて、弱ってることに気付いてないだけだ!」
美羽「そんなことありません!自分の体のことは、自分がよく分かってます!」
美羽「・・・とにかく、私は帰るつもりはありません!お父様だけ、どうぞ帰ってください!!」
美羽の父「美羽っ・・・・・・!」
和馬「・・・あの、美羽さんのお父さん。 ちょっといいですか」
美羽の父「なんだね?」
美羽の父「・・・ああ、娘を保護してくれた報酬か。 それなら、また後日支払おう。それでいいだろ」
和馬「・・・いえ。そういう話しじゃないです」
美羽の父「なんだね。私は忙しいのだよ。余計なことで時間を割いてる暇はない」
和馬「・・では、手短に話すために、言わさせてもらいます」
和馬「・・・娘さんを、しばらく俺のところに預けてもらえないでしょうか」
美羽「えっ・・・!?」
美羽の父「何を言い出すのかと思えば。 それは、つまり、あれかね。このバカ娘を嫁にもらいたい、と、そう言いたいのかね?」
美羽「よ、嫁・・・!!?」
和馬「・・・・・・」
和馬「・・俺は、彼女の意思を尊重したいんです」
和馬「彼女が、今すぐ自分の家に帰りたいというのなら、俺は止めません。 黙って、送り出します」
和馬「だけど、ここに居たいというのなら、俺はここに居させてやりたい。居てもらってもいいと、俺は考えています」
美羽「・・・和真さん・・・・」
美羽の父「・・ふぅ、全く。 君は、この子の体の弱さを知らないから、そんなことを言っていられるんだな」
美羽の父「この子と一緒にいるということは、この子の看護も担うということだ」
美羽の父「この子の看護というのは、並大抵の、普通の子が風邪を引いた時の看護とは違う。 大きな忍耐力、体力気力共に必要になってくる」
美羽の父「しかも、それをやってのけたとしても、その努力を仇で返すように、またすぐに体調を崩す」
美羽の父「日々、それの繰り返しだ。 君にそんな日常が耐えられるのかね?」
和馬「・・・・・・」
和馬「・・正直、分かりません。 俺が、ちゃんと彼女を看護できるのかどうか」
美羽の父「ならば、もう答えは出たな。 美羽、帰るぞ」
和馬「だけど!!俺は、美羽を・・!彼女を見守りたい!!一生涯かけて!!この気持ちは、気持ちだけは・・・!責任持って言える!!」
美羽の父「・・・・・・」
美羽「和真さん・・・」
美羽の父「・・・気持ちだけじゃ、どうにもならん」
美羽の父「帰るぞ、美羽」
震える拳を握り締めたまま立ち尽くす和真を尻目に、美羽の父親は、美羽を引っ張って、その場から出ていこうとしたが─
美羽「・・・・・・」
美羽の父「美羽!!!!」
美羽「・・和真さん」
和馬「・・・?」
美羽「私、嬉しいです! 一生涯かけて、こんな私のことを見守るって言ってくれて。とってもとっても、嬉しいです!」
美羽「そんな優しいあなたに出会えた私は、世界一の幸せ者ですね」
美羽「・・私にとって、和真さんは大切なお友達・・・、ううん。大切な人です。正直、ここでお別れなんて、したくありません」
和馬「じゃあ・・・、」
美羽「でも、それはダメです。私の我が儘で、和真さんの人生を無駄にして欲しくないですから」
和馬「無駄だなんて、俺は・・・!」
美羽「分かってます。 私の世話をすることは無駄じゃない、負担なんかじゃないって、優しいあなたなら、そう言うと思ってました」
美羽「でも、これも私の我が儘なんです。 和真さんに、余計な負担をかけさたくないって」
和馬「・・・美羽、」
和真が何か言いかけるのを遮るように、美羽は、深々と頭を下げた。
美羽「御世話になりました。和真さん。 短い期間でしたが、一緒にいられて楽しかったです」
美羽「本当にありがとうございます。 お互い体に気をつけて。 さよならです」
和馬「・・・美羽!!!!ちょっと・・!ちょっと待ってくれ!!!!」
美羽の後を追いかけようとする和真の前に、美羽の父が立ち塞がった。
和馬「っ!!!」
美羽の父「あの子が帰りたいと言うのなら、黙って見送るんじゃなかったのかね?」
和馬「・・・・・・」
美羽の父「・・これは、美羽を保護してくれたお礼だ」
美羽の父「後日、残りの金を送らせてもらう。 足りなかったら、また連絡したまえ。 それでは。失礼した」
和馬「・・・あ・・・」
和馬「・・・・・・」
和真父「・・・和真」
和馬「・・・っ」
和馬「っ美羽・・・・・・」
〇広い公園
叔母?「・・・と。いう感じで、私は和真さんにお礼を言って、泣く泣く別れました」
「って、ちょっと待ってぇえぇえぇーーーー!!!」
叔母?「あら。嵐ちゃん。あの時のかずまさんと同じ反応。やっぱり親子ねえ」
「ねえ!ちょっとさ!叔母さん!そこで別れちゃったら駄目じゃん!!そのままだと、オレ、生まれないよね!?」
叔母?「えっ?」
「このまま父ちゃんと母さんが別れたままだと、"オレは一体誰との間の子供なの?"って疑問が出てきちゃうんですけどッ!!?」
叔母?「ふふっ。大丈夫よ。嵐ちゃん。 ちゃぁ〜んと、この後二人はくっつくから❤️」
「ホントにっ?・・・ああ、良かった。」
「でも、完全に別れたっぽいのに、どうやって、また付き合いだしたの?」
叔母?「ふふっ。それはね・・・」
〇風流な庭園
─これは、後で和真さんのお父様から聞いた話しなんだけどね。
私と別れた後の数日間の和真さんは、ご飯もろくに口にしないまま、ずっと庭を見ていたそうよ。
和馬「・・・・・・」
〇風流な庭園
和馬「・・・・・・」
和真父「・・・和真。 夕飯、できたぞ」
和馬「・・・・・・・・・」
和真父「和真」
和馬「・・・・・・」
和真父(・・・こりゃ、重傷じゃな)
〇風流な庭園
和馬「・・・・・・」
和真父「・・和真よ。 今日はサッカーの練習日じゃろ?行かなくていいのか?」
和馬「・・・練習日・・・・・・ああ、そうだな・・・・・・行かなくちゃ・・・・・・」
─と。立ち上がろうとしたが、すぐに大きくふらつき、畳に膝をついてしまった。
和馬「・・・っ!!」
和真父「和真。少しでもいいから、何か食べろ。 お前、ここ数日何も口にしておらんじゃろ」
和真父「ほれ。これでも食べて、少し英気を養え」
和馬「・・さんきゅー、親父。 でも、悪ぃ。もう時間もないし、食欲もないから、俺、もう行くよ」
和真父「和真!!!!」
呼び止める声も虚しく、和真は、足元覚束ないまま、出て行ってしまった。
和真父「・・・・・・」
和真父「・・・あのままだと、本当に危ないぞ。なんとかしなくては」
と。テーブルの上に置いてある名刺が、ふと目についた。
和真父「・・・行って、みるか」
〇城の会議室
一方、美羽家の食卓では。
会話がないまま、ただただ食器の音だけが広い室内に響いていた。
美羽の父「・・・・・・」
美羽「・・・・・・」
美羽の父「・・・美羽よ。 最近は、脱走もせず、部屋で大人しくしてるようだな」
美羽の父「以前のお前からは想像もつかない程の変わりようだ。 あそこの家に居て、よっぽど疲れたか」
美羽「違います。 むしろ、疲れるのは、ここの家で生活してる時です」
美羽「私が部屋で大人しくしてる理由は、外に出たら・・・」
美羽「・・外に・・・・・・出たら・・・・・・、あそこのお家に・・・・・・行っちゃいそうだから・・・・・・」
美羽「けじめ・・・つけたのに・・・。ちゃんと、和真さんに、さよならしたのに・・・・・・」
美羽「・・・会いに、行っちゃいそうだから・・・・・・。だから・・・・・・あえて私は外に出ないんです・・・」
美羽の父「・・・・・・」
美羽の父(あの若造と会って、本当に美羽は変わったな)
美羽の父(私が何度言っても聞かなかった言葉を、あの若造が一言言っただけで、すんなり言うことを聞いた)
美羽の父(それ程までに、人に影響力を与える人間なのか?そんな大層な人間には見えなかったが・・・)
美羽の父「美羽、聞きたいことがある。 あの若造・・・飯沼和真といったか。お前にとって、飯沼和真はどういう人間なんだ?」
美羽「え、どうって・・・・・・」
美羽の父「答えたくないのなら、答えんでいい」
美羽「え、えぇっと、和真さんは・・・、とっても優しくて、笑顔が素敵で、」
美羽「一緒にいるだけなのに、なんだか胸のあたりがぽかぽかして・・・。 春の陽だまりのような人です!」
美羽の父「!!!! ・・・美羽、まさかお前・・・・」
─コンコン
美羽家の執事「お食事中、失礼致します。旦那様。美羽お嬢様」
美羽の父「なんだ」
美羽家の執事「旦那様に、お客様がお見えになられております」
美羽の父「客だと?まだ商談には早いが?」
美羽家の執事「はい。 御仕事のお客様ではなく、飯沼家のお方がお見えになっておられます。 お会いになられますか?」
美羽「えっ!!?」
美羽の父「・・・分かった。今、行く」
美羽「あ、あのっ、お父様・・・!」
美羽の父「お前は、まだ会わん方が良いだろ。 ここで待ってろ」
美羽「え・・・・・」
美羽「大丈夫かな・・・」
〇おしゃれな居間
和真父「お久しぶり〜。お元気?」
美羽の父「・・・・・・ああ、おかげ様でな。それで?いくら欲しいんだ?」
和真父「ほっほっほ!全く、いきなりですなあ」
美羽の父「金が足りなかったら連絡しろと私は言った。 あんたがここに来る理由は、それ以外はないはずだろう?」
和真父「はてさて。それは、どうでしょうかなあ」
そして、和真の父は、勿体ぶるように、ゆっくりとお茶を口に運ぶ。
和真父「うぅ〜ん、美味い! さすが、美羽さんの家で出されてる紅茶だ。高級な茶葉を使ってるんじゃないんですか?これ」
美羽の父「私はこの後仕事が入ってるんだ。 他に用があるというなら、早くしてもらいたいのだがね」
和真父「なら、言ってしまいますが・・・・・・。 美羽さんをうちで"療養"という形で、預からせてもらいませんかな?」
美羽の父「・・・やはり、そういう話しか」
和真父「答えは、やはり"NO"。ですかな?」
美羽の父「・・なぜ、そこまで、うちの娘に拘る?お宅の息子さんなら、顔も良いし性格も良いだろうから、候補はいくらでもいるだろう」
和真父「・・ああ見えて、恋とかにはとくに鈍くてのう。 過去に好意を寄せてくれる人は確かに何人もいたのだが・・、」
和真父「"どうせ、からかって遊んでるだけだって"と、全く相手にしてこんかったよ」
和真父「しかし、美羽さんに出会って、和真は変わった。本人はまだはっきりと自覚はないようだが」
和真父「あいつは生まれて初めて、"恋"というものを知った。・・・こればかりは、美羽さんに感謝をしないといけんのう」
美羽の父「・・変わった、か。 それは、うちの美羽にも同じことが言えるな」
和真父「と。言いますと・・・?」
美羽の父「いかんせん癪だが、あの若造に、美羽も心を奪われたようだ」
美羽の父「若造のことを話す時の美羽は、本当に恋する乙女の顔だったよ。 あの二人は、相思相愛の仲と言えよう」
和真父「・・・ならば、我々親は、黙ってその背中を押してやればいいのではないですかね?」
美羽の父「・・・・・・」
和真父「先程のあなたの言葉を繰り返すようで悪いのですが。 なぜ、そこまで娘さんに拘るのですか?」
和真父「大事な一人娘だから、というのは分かりますが・・・、」
美羽の父「・・・美羽はな、生まれつき体が弱く、医者にも、この子は長くは生きられないと言われた」
和真父「・・・・・・」
美羽の父「そして、責任感が強い私の妻は、"大事な跡継ぎなのに、強い子を生んでやれなかった"と非常に悔やみ、」
美羽の父「やがてそれが大きなストレスになったのだろう。床に伏せるようになることが多くなり、やがて・・・」
美羽の父「この世を去った」
和真父「・・・もしや、拒んでいるのは、同じ悲しみを和真に味わわせてやりたくないから・・。と?」
美羽の父「ふっ。どうだろうな。 私はそこまで、あの若造を想ってはいないが」
美羽の父「ただ、あの子が長くは生きられないというのは避けられん事実だ。 あの若造、和真より、いや、」
美羽の父「私達、年寄り達よりも、先に逝ってしまうだろう」
美羽の父「その覚悟が、あの飯沼和真にあるのか?」
和真父「その答えは、もうあなたに言ったはずだと思いますが?」
美羽の父「・・ふっ。一生涯かけて、とかいうやつか?」
美羽の父「その時にも言ったが、一時の気持ちだけでは・・・」
和真父「わし、思ったのじゃが」
美羽の父「?」
和真父「短い人生を、広い部屋で一人、なぁんにも感じず、ただ静かに過ごすというのは、どうなんじゃろうな」
美羽の父「・・私に説教か。面白い」
和真父「そう、じゃな。これは、いい大人が、いい大人に説教してます」
和真父「だが、聞いて欲しい。 大事な娘さんの人生の話しじゃ。このままで、本当にあなたは良いと思っているのですか?」
美羽の父「・・・・・・」
和真父「───短い人生だから、せめて死ぬ時は美しく羽根を羽ばたかせるように逝って欲しい」
美羽の父「何をっ・・・・・・!?」
和真父「良い名前ですよな。美羽、という名前。 あなたがおつけになったのでしょう?」
美羽の父「・・・そうだが?」
和真父「・・私達に、その、美しく羽ばたかせるための手伝いをさせてはもらいませんか」
美羽の父「また、何を言い出すのかと思えば・・・・・・」
和真父「ほっほっほ!では、もっと言いますと、」
和真父「あなたの、哀しみ苦しみを半分分けてもらえませんか?」
美羽の父「・・・・・・」
美羽の父「・・ふっ、ふふふ・・・」
美羽の父「あっはっはっは!」
和真父「・・・なにか、可笑しかったですかな?」
美羽の父「・・いや、失礼。 あまりにも、うちの娘を引き取るのに必死で、あれやこれやと言うもんだからね。つい、笑いが出てしまった」
和真父「・・・・・・」
美羽の父「では、先の話しをしましょうか、和真のお父さん」
美羽の父「もし、あなたの説得が成功し、二人は晴れて結ばれたとしましょう。しかしその数年後、美羽が亡くなったとしたら?」
美羽の父「あなたの大事な息子さんは、もしかしたら、悲しみに打ちひしがれ、壊れてしまうかもしれませんぞ?」
美羽の父「それでも良いと言うのならば、もう私は何も言わないでおこう」
和真父「・・確かに。 美羽さんが死んでしまったら、和真は壊れてしまうかもしれません」
美羽の父「ならば、もう話は終わりですな。 ・・・おい。お客様はお帰りだ。見送りを、」
和真父「・・・だが、このままだと、二人とも会わずして、近いうち死んでしまうやもしれない」
美羽の父「・・・は?どういうことですか?」
和真父「和真は・・・・・・、美羽さんと別れてから、ここ数日ずっと何も口にしておりません」
和真父「このままだと、本当に美羽さんより早く先に逝ってしまうかも・・・・・・」
その直後だった。
バタン!と大きな扉の開く音がして、美羽が部屋に転がり込むように入ってきた。
美羽の父「なんだっ!!?」
美羽「っ和真さんが・・・・・・!和真さんが、数日間何も口にしてないとは本当ですかっ!?」
美羽の父「美羽っ!!またお前は、勝手に・・・!!」
美羽「答えて下さい!!和真さんのお父様!!! さっき言ったことは、本当のことなんですかっ!!?」
和真父「・・・本当じゃ。 今朝も、立ち上がるだけで、膝をついていた。もう、思うように力が出ないんじゃろう」
美羽「!!!!!!」
美羽「行かなくちゃ・・・・・・」
と。どこかへ駆けて行こうとする美羽に、父の声がとんだ。
美羽の父「美羽!!!!!どこへ行くっ!?」
美羽「決まってます。和真さんの所に」
美羽の父「もう、あの若造とは決別したんだろう?お前が行く必要はない」
美羽「いいえ!行かなくちゃ・・・!会わなくちゃ、いけないんです!!!」
美羽の父「美羽!!こら!待ちなさい!!」
美羽の父「・・・・・・」
美羽の父「・・・・・」
浮きかけていた腰を、美羽父は、重い深いため息と共に、ソファに落とした。
和真父「大変ですなあ。聞き分けの悪い子を持つというのは」
美羽の父「・・・成る程な。 あんたは、最後の切り札を使って、二人を引き合わせることに成功したわけか。まんまと、してやられたわ・・」
和真父「はて。なんのことでしょうな?」
美羽の父「・・・・・。 もう、こうなってしまっては、美羽が逝き、和真が壊れてしまうという、最悪の未来は変えられんぞ」
和真父「・・・人は、どうあがいても、死ぬ時は死ぬ」
美羽の父「・・・・・・」
美羽の父「・・・何とも投げやりな・・・・・・。いや、無慈悲というべきか」
美羽の父「案外、私より性格が悪いな、あなたは」
和真父「ほっほっほっほ!」
〇開けた交差点
美羽「・・はぁ、はぁ・・・・・・」
美羽(・・・息が、苦しい・・・・・・心臓も、すごいバクバクバで・・・・・破裂しそうです・・・・・・・・・)
美羽「だけど・・・・・・、こんなことでッ・・・!へこたれてなんか、いられません・・・!!」
〇実家の居間
美羽「・・・和真さんッ!!!!」
美羽「・・・あれっ?誰も、いません・・・・・・」
〇ボロい家の玄関
美羽「一体、どちらに行ってしまわれたのでしょう・・・・・・」
美羽「・・・こうなったら、探し回るしかありませんね!!」
〇厩舎
美羽「和真さん!?」
ブルゾン「・・・!!!?」
美羽「・・・いない・・・・・・」
ブルゾン「・・・ヒヒン」
〇川に架かる橋
美羽「かぁーーーずーーーまぁーーーさぁーーーん!!!?いますかぁーーーーー!!!!??」
美羽「・・・・・・」
美羽「・・・ここら辺にも、いないんでしょうか・・・・・・」
雨の中、和真を探す美羽の姿を、一台の高級車の持ち主が捉えていた。
伊藤「・・・おい、爺。 なんだあれは」
〇タクシーの後部座席
伊藤家の執事「如何されましたか?坊っちゃま」
伊藤「女が一人、雨の中傘も差さずに、何やらウロウロしているぞ。 あれは、何をやっている?」
伊藤家の執事「あれ、本当ですね。必死に何かを探してるように見えますが」
伊藤「・・・まあ、俺には関係ないことだ。 出してくれ。そろそろ行かないと遅刻だ」
伊藤家の執事「よろしいのですか?」
伊藤「あのじじい共は、自分達は平気な顔して遅刻して来るくせに、俺らが遅刻すると、うるせえからな」
伊藤「今は他人に構ってる暇はねえ。出してくれ」
伊藤家の執事「承知しました」
伊藤「・・・・・・」
伊藤「・・いや。ちょっと待て、爺」
伊藤家の執事「はい?」
伊藤「気が変わった。 じじい共に、遅れると電話しとけ」
〇土手
美羽「和真さぁぁーーーーーん!!いますかぁーーーーー!!!!?」
軍人1「・・・?」
美羽「和真さっ・・・・・・、うわっ!びっくりしました」
軍人1「・・・・・・」
美羽「あ、あのっ、すいませんっ!ここら辺で、和真さ・・、身長は私より少し高くて、髪は横分けになってて、笑うと優しい感じでっ、」
美羽「そういう感じの男の人、見かけませんでしたかっ!?」
軍人1「・・・・・・」
軍人1「・・・・・・」
美羽「・・あ、あの、」
すると、どこからか、ブーブーと振動音が響いた。
軍人1「hello?」
※ここからは、実際はドイツ語で喋ってますが、日本語訳で表示します。
電話の主「そろそろ雨での訓練は引き上げて、家に戻ってこい。オレの彼女が、皆のためにケーキを焼いて待っているぞ。」
軍人1「ja. あの、それで、一つご相談があるのですが。よろしいですか?Jr.様」
Jr.(電話の主)「何だ?何かトラブルでも起きたか?」
軍人1「はい。雨の中、女性の方が一人傘も差さずに歩き回っているのを発見致しまして。 如何なさいましょう?」
Jr.(電話の主)「何!?雨の中傘も差さずにだと?大変じゃないか!そのままだと風邪を引いてしまう。速やかに保護しろ。」
軍人1「ja.」
そして、電話を切り終えると、恰幅が良い軍人は、美羽の方に体を向け、じり、とにじり寄るように近付いてきた。
美羽(な、なんですかっ!?この迫り来る気迫は・・・!)
軍人1「・・・・・・」
美羽(なんだかよく分かりませんが、逃げろと私の中で警告が鳴ってます!ここは・・・、)
美羽「逃げるが勝ちです!!!!」
軍人1「!!!!」
軍人1「Warten!!(待て!)」
美羽「ひぃい・・・!!追いかけてきました!!!」
美羽「・・・ヒッ!!!怖いです!!恰幅のいい軍人さんが、アスリート走りで追いかけてきてます・・・!!」
などと言っている間にも、段々と距離は詰められ、そして遂に─
美羽「きゃっ!!」
軍人1「Erfassung(捕獲)」
首根っこをがっしりと捕まれていた。
美羽「離して・・・!離してくださいッ!!」
軍人1「・・・・・・」
美羽「離してください!!!!私は・・・!私は、探さなくちゃいけない人がいるんです!!」
軍人1「・・・・・・」
しかし、そんな美羽の訴えなど、知らぬ顔で、軍人はそのまま美羽をどこかへ連れて行こうと引っ張り出した。
美羽「離して・・・!イヤッ・・・!!和真さ・・・!」
美羽「和真さぁーーーん!!!」
「ちょいと、そこの軍人さんよ。お嬢ちゃん泣いてんじゃねえか。離してやれや」
美羽「・・・ほえ?」
??「どういう事情があるのか知らんが、女性が嫌がってんのに、それを無理矢理連れてくってえのは、なんか間違ってねえか?」
美羽(ど、どちら様でしょうか・・・?この方は一体・・・)
軍人1「?」
??「あぁっと、日本語通じねえか」
??「あー、ウォーマン?イヤイヤ、ノー!ソレ、ジャパン、ダメ、ダメ!」
軍人1「??」
??「ダメか・・・。どうすりゃいいんだ」
美羽「・・・あ、あのっ、スマホとか、お持ちじゃないですか?」
??「え?ああ、持ってるが・・・、どうするんだ?」
美羽「私のお父様が、外国の方と商談とかする時に使ってる方法を試してみようかと」
??「?」
そして、美羽は、通りすがりの男のスマホで、外国翻訳機なるものを使い、なんとか軍人を説得して、帰ってもらった。
まあ、少々納得してない様子ではあったが・・・
美羽「・・ふぅ。なんとか、切り抜けました」
??「すげえなあ!嬢ちゃん!あの軍人を説き伏せるたあ、大したもんだぜ!」
美羽「あ、いえ。 切り抜けたのは、あなたのスマホのおかけです。ありがとうございました」
美羽「それで、あのっ、すみませんが、私、急いでいるので!ここで! 声をかけて下さり、ありがとうございました!」
??「待ちな」
美羽「はいっ?」
??「あんた、さっき、和真の名前、叫んでなかったか?」
美羽「もしかして、和真さんを知っているのですかっ!!?」
??「ああ、よく知ってるぜ。 なんてたって、わしは和真と同じサッカーチームに所属しているからな」
美羽「!!!!本当ですかっ!!!!」
美羽「あ、あのっ、でしたら!教えて欲しいです!今、和真さんはどちらにいらっしゃいますかっ!!!?」
??「なんだ。お嬢ちゃんは、和真を探してるのか?」
美羽「はい!知っているのなら、居場所、教えていただけますかっ?」
??「・・・・・・」
??「・・・今日、和真はな。サッカーの練習に来たんだが、あいつ、最初っからヘロヘロな状態でな」
美羽「・・・・・・」
??「目も虚ろだし、全然練習にも身が入ってなくてな。そいで、見かねた監督が、和真をもう帰したんだが・・・」
??「答えてくれ。和真があんなんなっちまったのは、お嬢ちゃんが関係してるのか?」
美羽「・・・はい。そう、だと、思います・・・・・・」
??「・・・そうか」
??「・・・」
美羽「・・・・・・」
美羽(これは、もしかして、教えてもらえないのでしょうか・・・。 この人にとって、私は、和真さんの毒でしかない・・・?)
??「ちょっと待ってな。 和真のとこに、かけてみる」
美羽「えっ!!!?」
??「・・・・・・」
??「・・・駄目だ。出ねえな」
??「すまねえ、嬢ちゃん。 練習場から、和真がどこに行ったのか分からねえわ。電話かけ続けてみるけど、あの状態だからなあ」
??「考えたくはねえが、どっかでの垂れ死んでるのかもしれねえ。 嬢ちゃんの方でも、引き続き探してみてくれねえか?」
美羽「は、はい!もちろんです!」
??「頼んだぜ!あいつのこと!」
美羽「っはい!必ずや!見つけ出してみせます!」
??「・・・・・・」
??「和真の野郎。いつの間に、あんな可愛い彼女できたんだか・・・。今度、ちゃんと紹介してもらって、この件の恩を、」
熊山「って!わし、あの子に"熊山"って名乗ってなくねぇかっ!!?しまったぁぁあー!!!!」
〇ボロい家の玄関
美羽「・・・はぁ、はぁ・・・・・・。 ダメです。居ません・・・・・・」
美羽「もしかして、家に帰ってきているやも、と思ったのですが、ハズレでした・・・・・・」
??「すみませーん、回覧板・・・・って、」
??「だ、大丈夫ですかっ!?すごく、ずぶ濡れですけど!」
美羽「ほえ?」
??「い、一体、何があったのですか?そんなずぶ濡れで・・・。和真君とお父さんはっ?いらっしゃらないのですか?」
美羽「あのぅ〜・・・」
??「あ。私、近所の稲荷寺の者です。 回覧板を届けに来て」
美羽「ああ!そうだったのですね!ご苦労様です」
稲荷「いえ、」
稲荷「って、そんな悠長に会話してる場合じゃないですよ!体、早く拭いて!着替えないと!そのままだと、風邪を引いてしまいます!」
美羽「お気遣い、ありがとうございます」
美羽「だけど、私!今すぐ、和真さんを見つけ出して、会わなくちゃいけないんです!でないと、」
美羽「・・・でないと、和真さんに、一生会えない気がするんです・・・・・・」
稲荷「・・・・・・」
稲荷(こんなに必死に和真君を探してるなんて・・・。よっぽどの事情がおありなんですね・・・)
稲荷「・・・・・・」
稲荷「分かりました!私も、和真君を探すのお手伝いさせて下さい!」
美羽「えっ?い、いいんですか?」
稲荷「はい。 和真君とは、実は小学生からの知り合いでして。 大体、行く所は把握してるつもりです」
美羽「・・・え。小学生からの知り合い・・・、ということは、お二人はもしかして恋人同士なのでしょうか・・・?」
稲荷「あ。いえ! 和真君とは一つ年が離れてて・・・・・・。そうですね。どちらかというと、姉弟といった感じです」
稲荷「当てもなく探し回るよりかは、行きそうな場所とかに行ってみて探した方が、早く見つかりますよ、きっと」
美羽「そうですね。ありがとうございます!」
稲荷「いえ!えっと、それじゃあ・・・・・・、」
稲荷「・・・ご、ごめんなさい。お名前、何でしたっけ?」
美羽「あ!まだ名前、名乗ってませんでした!」
その後。名乗ってから、稲荷から和真が行きそうな場所を何ヵ所か教えてもらった。
美羽「教えていただきありがとうございます! それでは早速、行ってみますね!」
稲荷「あ!でも、その前に、お風邪を引いてしまいますので、一度家に、」
稲荷「・・・って、もう行ってしまいました・・・」
稲荷「・・・・・・」
稲荷「・・・"恋人同士なんですか?"、か・・・・・・」
稲荷「・・・そうだったら、良かったのにな」
稲荷「なんて、ね♪」
〇神社の本殿
美羽「・・・っはぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
美羽「・・・和真さん・・・・・・いますか?はぁ・・・」
美羽(ここにもいない・・・。せっかく稲荷さんに教えていただいたのに、はずれでした・・・・・・)
神主見習い 里渡「おや。トゥー神様が外に出てみろと騒がしいから、出てみれば・・・。これはびっくり。本当にお客さんがいた」
美羽「あ・・・。ここの神主さん・・・?」
神主見習い 里渡「あ。いえ。 正確には、まだ・・・。私はここのトゥートゥー神社の"神主見習い"をやらせて頂いております、里渡です」
神主見習い 里渡「ところで、何かお困り事があるとお見受け致しますが・・・」
美羽「は、はい!お困り事、大ありです! あのっ、人を探しておりまして!!和真さんっ・・・・・・、身長は私より少し高くてっ、」
神主見習い 里渡「和真さん・・・・・・。もしかして、飯沼和真さんのことでしょうか?」
美羽「あ、はい!そうです!その飯沼和真さんのことを探しているのですがっ!あのっ、ここに来てたり、見かけたりしていませんかっ!?」
神主見習い 里渡「今日は、残念ながら、見かけてないですね・・・。というより、ここ数日、和真さんのお姿を拝見してないんですよ・・・」
神主見習い 里渡「毎朝ランニングのついでに、ここに来て、お参りしてくれていたのですが・・・・・・」
神主見習い 里渡「あの、余計なお世話なのかもしれないのですが、和真さんの身に何かあったのでしょうか?」
美羽「・・・私のせい、なんです・・・・・・」
神主見習い 里渡「え?」
美羽「和真さんが、ここ数日、ここに来なくなったのは、私のせいなんです・・・・・・」
神主見習い 里渡「・・・・事情を聞いても?」
─それから、美羽は、里渡に数日前に起きた事を話して聞かせた。
神主見習い 里渡「なるほど。そんなことが・・・」
美羽「今でも、まだ鮮明に残ってるんです。和真さんが、悲痛な声を上げながら私の名前を呼んでいたこと・・・」
美羽「和真さんは、ここに居たいなら、ここに居てもいいと言ってくれたのに、私はそれを振り払うようなことをしました・・・」
美羽「・・・わた、私っ、私は・・・・・・和真さんに会う資格など・・・・・・ない、と、自分でも、分かっています・・・・・・」
美羽「・・・それでもっ・・・、あれから和真さんが何も口にしていなく、体調が思わしくない状態だと聞いたら、」
美羽「いてもたってもいられなくなって・・・・・・」
美羽「会いたくなって・・・・・・、すごく、すごく会いたくて・・・・・・」
美羽「・・・会いたい、です・・・・・・!和真さんに・・・!会いたい・・・・・・!!!!!!」
神主見習い 里渡「・・・・・・」
神主見習い 里渡「ならば、会えばいいじゃないですか」
美羽「・・・・・・」
神主見習い 里渡「ひどい態度をしてしまったから、会う資格などないなどと、そんなのはつまらない言い訳です」
神主見習い 里渡「会いたいのなら、会えばいいんです。ね?」
美羽「・・・っはい・・・・・・」
神主見習い 里渡「よし。ならば、まずは和真さんを見つけなくてはいけませんね」
美羽「・・・でも、どこにいるのか、さっぱりで・・・」
神主見習い 里渡「では。この子に協力してもらいましょうか」
美羽「ほえ?」
緑の鳥「トゥッ」
美羽「うわぁ〜!可愛いです!小鳥さんです!」
美羽「あれ?でも、この子どこから・・・」
神主見習い 里渡「飯沼和真さんのところまで、このお方を導いてくれますか?」
緑の鳥「トゥー!」
神主見習い 里渡「美羽さん」
美羽「あ、は、はい!」
神主見習い 里渡「この子が、和真さんの所まで案内してくれますので。この子の導く通りについて行ってみて下さい」
美羽「え・・・」
神主見習い 里渡「大丈夫。必ず会えます。だから信じて」
美羽「・・・・・・」
美羽「分かりました! 鳥さん!よろしくお願いします!」
緑の鳥「トゥー!!!」
「神主見習いさーん!ありがとうございましたー!!!」
神主見習い 里渡「神のご加護があらんことを」