黄金の蟻

ジョニー石倉

エピソード1(脚本)

黄金の蟻

ジョニー石倉

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〇雑居ビル
「すっごーい!!」

〇居酒屋の座敷席
円城寺敏郎「しー。声でかいって。 どこに関係者いるかわかんないでしょ」
安田美紀「ねえ、本当なの? 円城寺君。 本当にハマジュンと知り合いなの?」
円城寺敏郎「浜崎淳(はまざきじゅん)さんね。 まあ、知り合いっつーか、同志ってやつ?」
安田美紀「いいなあ。ねえ、写メとかないの?」
円城寺敏郎「そういうのは、この業界では御法度」
  円城寺敏郎(えんじょうじとしろう)は得意げに髪をいじる。
  合コンに集まった他の男性2人は、その様子を冷めた目で見ているが、円城寺は気付く様子がない。
女子大生A「美紀ばっかりずるいよ。 ねえ、他には誰と知り合いなの? 円城寺さん」
女子大生B「私、遠野くんのサイン欲しい!!」
円城寺敏郎「ああ、遠野久(とおのひさし)さん? 明日、今撮ってるドラマで共演するよ」
安田美紀「え! それって君恋?」
円城寺敏郎「そうそう。君恋」
安田美紀「私、毎週欠かさず観てるよ! 今日もずっと時間が気になって」
円城寺敏郎「そうなの。じゃあ後で一緒に観よっか」
円城寺敏郎「こっそり裏話教えてあげるよ」

〇古いアパート

〇CDの散乱した部屋
安田美紀「待って! 始まるよ。君恋」
円城寺敏郎「ああ、後で観よ。録画してあるから」
安田美紀「駄目」
円城寺敏郎「え?」
安田美紀「リアルタイムで観たいの」
円城寺敏郎「・・・どうしても?」
安田美紀「どうしても」
安田美紀「だって円城寺君の活躍するところ、一緒に観たいじゃん」
円城寺敏郎「しょうがないなあ」

〇CDの散乱した部屋
円城寺敏郎「この日めっちゃ暑くてさ。 遠野さん、青いシャツだろ?」
安田美紀「うんうん。それで?」
円城寺敏郎「脇汗でシーン繋がらなくなっちゃって、大変だったんだよ」
安田美紀「おもしろーい! そんなことがあったんだ」
安田美紀「ねえねえ、そろそろ?」
円城寺敏郎「うん。たぶん」
安田美紀「たぶん?」
円城寺敏郎「出た!!」
安田美紀「え?」
円城寺敏郎「あ、また出た! 見た?」
安田美紀「え? え? どこ?」
円城寺敏郎「仕方ないなー。録画で良かったよ」
  リモコンを操作してピッと画面を止めると、モニターに近づいて指差す。
円城寺敏郎「ほら! これこれ! これだよ。これ、俺!」
安田美紀「・・・・・・」
円城寺敏郎「見て! このシーン!」
円城寺敏郎「これなら、俺だってはっきりわかるでしょ?」
安田美紀「・・・・・・」
円城寺敏郎「他にないかなー」
安田美紀「帰る」
  美紀は立ち上がり、バッグを手に取る。
円城寺敏郎「え? なんで?」
安田美紀「こんなんじゃない」
円城寺敏郎「ちょっとちょっと、一緒に観ようよ」
安田美紀「私は円城寺君が観たかったの。 あんな後ろ姿の男の人じゃなくて」
円城寺敏郎「・・・・・・」
円城寺敏郎「あ! じゃあ」
円城寺敏郎「こっち観ようよ。 こっちなら顔がバッチリ映ってる」
安田美紀「映ってる? 台詞(セリフ)は?」
円城寺敏郎「・・・えっと」
円城寺敏郎「じゃあ、こっち!」
円城寺敏郎「こっちなら、逃げるときに俺の叫び声も入ってる」
安田美紀「・・・・・・」
  玄関へと歩く美紀。
円城寺敏郎「待ってよ」
  円城寺がとっさに美紀の腕をつかむ。
安田美紀「離して!」
円城寺敏郎「俺、今はこんな役ばっかりだけど、そのうちすごい役やってみせるから」
円城寺敏郎「だから、ね? せめて、エッチだけでも」
円城寺敏郎「っつ」
安田美紀「何が役者よ! あんたなんて、ただのエキストラじゃない!」
  バタンと扉を閉め、部屋を出て行く。
円城寺敏郎「・・・・・・」
円城寺敏郎「あ、そうだ」
  スマホを手に取り、テレビに映る自分をカメラで撮影する。
  SNSアプリを立ち上げ、撮影した写真に短い文を添えて投稿する。
円城寺敏郎「これでよし」

  黄金の蟻

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