5話 この愛は嘘じゃない(脚本)
〇大会議室
出会った時から千明は王子様だった
樹莉亜(学生時代)「どうしよう・・・」
樹莉亜(学生時代)(タイツを鞄に入れたはずなのに見つからない)
当時の私は18歳
桜丘音楽学校を受験する最後のチャンスだった
桜丘音楽学校の受験の年齢制限あり、18歳までと決まっていた
樹莉亜(学生時代)(折角、三次試験まで残ったのに!)
樹莉亜(学生時代)(こんなミスするなんて!)
樹莉亜(学生時代)(なんて私はバカなの!)
亜紀(学生時代)「どうかした?」
背が高く美しい子が私に声をかけてきた
樹莉亜(学生時代)「その・・・タイツを家に忘れてきちゃって」
亜紀(学生時代)「タイツなら予備あるから、よかったら貸すよ!」
樹莉亜(学生時代)「ライバルなのに、いいの?」
亜紀(学生時代)「ライバルなんて・・・」
亜紀(学生時代)「あなた去年も受験してたよね? 私もなんだ」
亜紀(学生時代)「憶えていない?」
樹莉亜(学生時代)「ごめん・・・」
亜紀(学生時代)「ううん!わたし去年は一次で落ちちゃったからおぼえてないの仕方ないかも」
亜紀(学生時代)「18歳だから今年が最後のチャンス」
樹莉亜(学生時代)「私もよ」
亜紀(学生時代)「だからお互い頑張ろう!」
樹莉亜(学生時代)「ありがとう・・・」
千明のおかげで私は三次試験を受けることができた
そして、桜丘音楽学校の入学式で私たちは再会した
〇劇場の舞台
ステージ上の千明はいつも輝いていた
千明は公演を重ねていく度にファンを増やしていった
千明が演じる男性はそこら辺にいる男性より何倍もかっこ良かった
夢咲 すみれ(千明は優しくて、かっこいい理想的な王子様)
夢咲 すみれ(きっとみんな彼の恋人になりたがるだろう)
夢咲 すみれ(でも千明は私だけの王子様)
夢咲 すみれ(私だけのもの)
そのことに優越感を抱いていた
わたしと千明が恋人関係にあるのは、舞台の上だけの世界だとは知らずに
〇綺麗な部屋
速水 千明「実はわたし妊娠してるんだ」
ある日、千明が大切な話があるとうちに訪れた
待っていたのは千明の予想外の告白だった
速水 千明「桜丘も辞めようと思っている」
速水 千明「でもファンを傷つけたくなくて、しばらくは妊娠は隠しておこうと思うんだ」
千明に告白されて頭が真っ白になった
夢咲 すみれ(千明が妊娠している?)
夢咲 すみれ(冗談じゃなくて?)
速水 千明「すみれをビックリさせたよね・・・」
夢咲 すみれ「う、うん・・・」
速水 千明「前から交際している男性がいて、同棲していたんだ・・・」
夢咲 すみれ(やめてよ・・・)
速水 千明「退団してから入籍する予定だったんだけど、先に妊娠してしまって・・・」
夢咲 すみれ(そんな話聞きたくもないのに・・・!!)
速水 千明「でも、すみれには嘘をつきたくなくて」
速水 千明「すみれは親友だから」
夢咲 すみれ(そんなこと知りたくもなかった・・・!!)
〇綺麗な部屋
千明が帰ったあとわたしは怒り狂った
夢咲 すみれ「千明に裏切られた!」
夢咲 すみれ「なんでよ!わたしのこと愛してるって言ったじゃない!」
夢咲 すみれ「それなのに、男がいて、妊娠もしているなんて!」
夢咲 すみれ「裏切り者!大嫌い!」
嘘だ
千明に交際している男性がいること
本当は気づいていたのに気づかないふりをしていた
千明のスマホの待受にいる男性の姿
楽しそうに千明が誰かと電話している場面
そう言ったものを全て見てないふりをした
ずっとわたしだけの王子様でいてほしかったから
夢咲 すみれ「絶対に許さない!」
〇ホテルのレストラン
夢咲 すみれ「そうよ・・・私が珠莉よ・・・」
速水 千明「どうして・・・」
夢咲 すみれ「どうしてかって?」
夢咲 すみれ「千明が憎いからに決まってるでしょ?」
速水 千明「・・・!」
夢咲 すみれ「ファンに夢を与える?嘘じゃない!」
夢咲 すみれ「ファンのこと裏切るようなことして、どうしてそんなこと言えるの?」
夢咲 すみれ「だから痛い目みればいいと思ったのよ」
夢咲 すみれ「SNSで呟いたのも炎上すればいいと思ったし、優斗さんとの仲も悪くなればあなたが不幸になると思ったからよ」
夢咲 すみれ「あなたが目障りなのよ!」
夢咲 すみれ「・・・今日はごちそうさま」
夢咲 すみれ「お先に失礼するわね」
私は勢いよく席を立った
速水 千明「待って!すみれ!」
逃げるようにその場から去った
〇結婚式場の廊下
夢咲 すみれ「うっ・・・ぐず・・・」
夢咲 すみれ(千明の前では泣かないつもりだったのに)
速水 千明「待ってよ!すみれ!」
千明は私の腕を掴んで引き留めた
夢咲 すみれ「離してよ!」
速水 千明「すみれを傷つけたなら本当にごめん」
速水 千明「すみれの言う通りだよ」
速水 千明「嘘をついたままファンからも愛されようなんて、本当に欲張りだった・・・」
夢咲 すみれ「・・・だったの」
速水 千明「えっ?」
夢咲 すみれ「本当に好きだったの!千明のことが!」
夢咲 すみれ「演技なんかじゃなくて心のそこから千明が好きだったの」
夢咲 すみれ「それなのに!どうして!」
夢咲 すみれ「SNSに書き込んだのも、優斗さん陥れたのも千明がわたしを置いていくのを止めたかったから!」
夢咲 すみれ「あんな男より誰よりわたしが千明のことを愛しているのに」
夢咲 すみれ(千明にわかってほしかった)
夢咲 すみれ(千明に気づいてほしかった)
夢咲 すみれ(本当にわたしが千明を愛していると)
速水 千明「ありがとう・・・すみれ」
速水 千明「そんなに私のことを想ってくれて」
速水 千明「でも、すみれの想いには応えられない」
夢咲 すみれ「わかってる・・・わかってるわよ」
夢咲 すみれ「でも、今夜だけはわたしの恋人でいてよ・・・」
私は千明の胸にすがって泣いた
千明の胸の中は暖かかった
誰がなんと言おうと私の愛は本物だった
〇コンサートの控室
そして、千秋楽の当日
幕が上がる