いかないで、私の王子さま

蒸気

3話 夢を見ていたいだけ(脚本)

いかないで、私の王子さま

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〇ビルの裏通り
ロリータちゃん「珠莉って・・・」
ロリータちゃん「あの性悪ですよね・・・?」
ロリータちゃん「私は違います!」
ロリータちゃん「千明様に対してSNSであんな暴言を吐いて、一体何様のつもり・・・」
ロリータちゃん「・・・ごほん・・・千明様の前で取り乱してしまい失礼しました」
速水 千明「いや、別に・・・」
速水 千明「君は珠莉じゃないんだね?」
ロリータちゃん「もちろんです!」
ロリータちゃん「あの珠莉って人は、ガチ恋の同担拒否みたいですが・・・」
ロリータちゃん「私は<あきすみ>派ですから!」
速水 千明(<あきすみ>って、前にまどかが言っていた、私とすみれの組み合わせのことか)
速水 千明「助けてくれたのに、君のことを珠莉だと疑ってしまってごめん・・・」
ロリータちゃん「いえ、そんな!」
速水 千明「良ければお詫びにお茶でもごちそうさせて」
ロリータちゃん「え、でも・・・」
速水 千明「この後予定でもある?忙しい?」
ロリータちゃん「いえ、居酒屋のバイトまでは時間あるので」
速水 千明(ロリータちゃんがまさかの居酒屋でバイト!?)
ロリータちゃん「・・・これ、夢ですか? それともドッキリですか?」
速水 千明「ははは・・・違うから安心して」
  呼んだ車が到着し、私とロリータちゃんは車に乗り込んだ

〇店の入口
  運転手さんに頼んでお店の前まで運転をしてもらった
速水 千明「ここは知り合いが経営しているお店なんだ」
速水 千明「ここなら人目気にせずにお茶ができるからね」
ロリータちゃん「千明様みたいな有名人はやっぱり大変なんですね・・・」
ロリータちゃん「看板が準備中になってるんですが、いいんですか?」
速水 千明「彼には連絡済みだから大丈夫だよ」
速水 千明「昼はカフェ、夜はダイニングになるんだ。今の時間はちょうどお店を閉めてる時間なんだ」
速水 千明「さあ、どうぞ」
  扉を開き彼女を先に店内へとエスコートした

〇カフェのレジ
速水 千明「お邪魔します」
田淵 優斗「アキちゃん!」
田淵 優斗「電話すぐに気づかなくて、ごめん。 体調は大丈夫?」
田淵 優斗「休んでなくて平気?」
速水 千明「ヒロくん・・・」
速水 千明「心配してくれてありがとう。 だいぶ良くなったから大丈夫」
速水 千明「休憩中なのにお店開けてくれて、ありがとう」
田淵 優斗「そんな心配しなくていいよ! アキちゃんは優しいね」
速水 千明「そんなこと・・・」
速水 千明「はっ!」
速水 千明(ファンの前で、なんて醜態を・・・!)
速水 千明「ヒロくん、この子がさっき僕のことを助けてくれたんだ。えーと名前は・・・?」
ロリータちゃん「平子理子といいます」
田淵 優斗「アキちゃんのことを助けてくれてありがとう」
田淵 優斗「夜の営業までは貸しきりだからゆっくりしていって。今お茶用意するね」
ロリータちゃん「ありがとうございます」

〇レトロ喫茶
  ヒロくんが紅茶を運んできてくれた
速水 千明「平子さんは紅茶は苦手だったりしない?」
ロリータちゃん「大丈夫です。紅茶は好きなので」
ロリータちゃん「・・・」
ロリータちゃん「千明様にこんなことお聞きしていいか、わかりませんが・・・」
ロリータちゃん「千明様はやっぱり妊娠されてるんですか?」
速水 千明(あんな体調悪い姿を見せて、もう隠し通せないだろう・・・)
速水 千明「そうだよ」
ロリータちゃん「そう、なんですか・・・」
ロリータちゃん「先ほどの方が旦那さんですか?」
速水 千明「そうだね。正式にはまだ入籍してないけど、退団後に入籍する予定だよ」
ロリータちゃん「聞いておいてなんですが、そんなに色々聞いちゃって平気ですか?」
速水 千明「助けてもらった恩人を騙すのは忍びなかったから・・・」
速水 千明「妊娠していると知って幻滅させてしまったかな?」
ロリータちゃん「・・・」
ロリータちゃん「妊娠しているとお聞きして、幻滅とまではいかないけどショックでした」
ロリータちゃん「わたし、千明様とすみれ様の<あきすみ>が好きなんです」
ロリータちゃん「二人はわたしにとって理想のカップルでした」
ロリータちゃん「でも、やっぱりそれは舞台上の話だったんだなって・・・」
速水 千明「ごめんね、君の夢を壊して」
ロリータちゃん「謝らないでください!」
ロリータちゃん「千明様は役者さんだけど、ご本人の人生があるのはあたりまえじゃないですか!」
ロリータちゃん「そのことにただのファンが口を挟む権利はありません」
ロリータちゃん「夢を見たいなんて私のワガママですから」
速水 千明「そんな、ワガママなんて・・・」
速水 千明「お客様に夢を与えるのが役者の務めだから」
ロリータちゃん「それに、千明様が幸せでいてくれるならわたしは幸せなんです」
ロリータちゃん「妊娠おめでとうございます」
速水 千明「ありがとう・・・」
速水 千明「平子さんみたいな素敵なファンがいて私は幸せ者だよ」

〇コンサートの控室
  数日後──
  終演後の楽屋
  千秋楽まで2週間を切っていた
  珠莉のアカウントはあれからまったく呟いていない
  しかし、安心していいのかわからない
  珠莉が沈黙している理由がわからないからだ
速水 千明(珠莉は私に対してあれほど怒っていたのに)
夢咲 すみれ「千明、ちょっといいかしら?」
速水 千明「ん?どうしたの?」
  すみれは人がいない楽屋の隅に私を呼んだ
夢咲 すみれ「今度の休演日空いている?」
夢咲 すみれ「良かったらお祝いのプレゼントもってお邪魔したいんだけど」
  おそらく妊娠祝いということだろう
速水 千明「わざわざありがとう!」
速水 千明「今度の休みなら空いているよ」
夢咲 すみれ「良かった!それならお邪魔させてもらうわね」

〇綺麗なダイニング
  千明の自宅
速水 千明「すみれ、いらっしゃい! わざわざ来てくれてありがとう」
夢咲 すみれ「お邪魔します!」
夢咲 すみれ「妊娠おめでとう。 大したものじゃないけど受け取って」
速水 千明「ありがとう!」
夢咲 すみれ「まさか千明が妊娠で退団するなんて思ってもいなかったわ・・・」
速水 千明「そうだね・・・」
速水 千明(かなり前からヒロくんと同棲はしていたけど、結婚や出産は退団してからの予定だった・・・)
速水 千明(先に妊娠してしまうなんて予想外だった)
夢咲 すみれ「旦那さんと幼なじみなんだっけ?」
速水 千明「うん、小学校からの知り合いで・・・ 再会したのは大人になってからだけどね」
夢咲 すみれ「今日は家にいらっしゃるの? せっかくならご挨拶したいわ」
速水 千明「お店の方があるから、帰ってくるのは遅くなると思うよ・・・」
速水 千明「桜丘を退団したら、ヒロくんのお店の手伝いもしようと思ってるんだ」
夢咲 すみれ「千明が?」
夢咲 すみれ「お芝居はもうやらないの?」
速水 千明「機会があればまた舞台には立ちたいけど」
速水 千明(これからの出産、子育てのことを考えるとだいぶ先になるだろう)
速水 千明「ヒロくんずっと自分のお店持つの夢だったから」
速水 千明「ヒロくんの夢を応援したいと思ってる」
夢咲 すみれ「千明の実力を考えたらもったいないわ」
速水 千明「でも、ヒロくんの夢はわたしの夢でもあるから」
夢咲 すみれ「そう・・・」

〇綺麗なダイニング
夢咲 すみれ「桜丘の先輩怒らせたの覚えてる?あの時の千明といったら・・・」
速水 千明「すみれだって、ロミオとジュリエットの初日のときに・・・」
  だいぶ遅くまで私たちは昔話でもりあがってしまった
夢咲 すみれ「あ、もうこんな時間!遅くまでごめんね」
速水 千明「気にしないで!すみれと話すのが楽しくて気づかなかった!」
速水 千明「すみれ、良かったらうちに泊まっていく?」
夢咲 すみれ「えっ?」
速水 千明「すみれの家よりうちの方が劇場に近いから。明日も劇場に向かうの楽だと思うし」
速水 千明「着替えとかも貸すよ。ヒロくんも泊まるのオッケーしてくれると思うし」
  そこに、ヒロくんがちょうど帰宅した
田淵 優斗「ただいま!」
速水 千明「ヒロくんおかえりなさい!お疲れさま!」
速水 千明「ヒロくんに紹介したいんだけど、 こちら、夢咲すみれさん。妊娠のお祝いもって来てくれたんだ」
夢咲 すみれ「はじめまして、夢咲すみれと言います」
田淵 優斗「田淵優斗です。すみれさんの話しはアキちゃんからよく聞いています。 お祝いもありがとうございます」
速水 千明「あと、時間も遅いから、彼女にうちに泊まってもらってもいいかな?」
田淵 優斗「大丈夫だよ!」
田淵 優斗「すみれさんは、ロミオとジュリエットで、ジュリエットを演じていた方ですよね?」
夢咲 すみれ「ロミオとジュリエットを観たんですか!? だいぶ前の公演なのに!?」
田淵 優斗「妹に連れられて初めて見た桜丘がロミオとジュリエットなんです。だから実は、はじめましてじゃないんです」
田淵 優斗「俺、その時のロミオに魅了されてしまって・・・」
田淵 優斗「まさか、そのロミオが幼なじみのアキちゃんだったなんて知らなくて・・・」
田淵 優斗「初恋だったアキちゃんにまた一目惚れしたんです。これって運命だと思いません?」
速水 千明「ヒロくん、その話しはいいから・・・」
田淵 優斗「だって、凄くない?」
夢咲 すみれ「素敵な話ですね・・・」
  すみれとヒロくんの関係は良好に見えた
  大好きなすみれとヒロくんが仲良くしてるのが嬉しかった
  だから、まさかあんなことになるとは思わなかった

次のエピソード:4話 悪意の正体

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