〇黒
　　これはフィクションかも知れないし、
　　ノンフィクションかもしれない
　　あるいは、もしかしたら
　　作者自身の話かもしれない

〇ストーカーの部屋
「ただいまー」

〇ストーカーの部屋
サイリ「ふふっ。やっと手に入った」
サイリ「案外良い香水使ってるのね。ブランドを特定するのに苦労したわ」
サイリ「今日からあなたの香りに包まれて寝られるなんて」
サイリ「最高に幸せ」
　　私には好きな人がいる。
　　一目惚れだった。

〇テーブル席
サイリ「──ってことがあってね、そしたら彼が」
ゆり「・・・」
サイリ「「あなたの顔を見ると、頑張れる。愛してる」って」
サイリ「もう私も大好き!!って感じでさ〜」
ゆり「・・・あのね、サイリ」
サイリ「うん？どうしたの？」
ゆり「言い難いんだけど、これ以上彼のことを追うのは辞めた方が良いと思うわ」
ゆり「戻れなくなるわよ」
サイリ「──は??」
ゆり「友人としての忠告よ。そうなる前に、もう少し現実を」
サイリ「はぁっ・・・」
サイリ「そんなの別に私の勝手でしょ？私がゆりに迷惑をかけたの？」
サイリ「私が私のお金で何をしようと私の自由じゃない」
ゆり「それはそうだけど、最近のお金遣いの荒さは流石に目に余るわ」
サイリ「彼氏がいるゆりには分かんないよ。分かってもらいたくもないけど」
ゆり「サイリ、私は身を滅ぼすくらいのやり方は間違えてるって言いたいだ──」
サイリ「黙れ」
サイリ「もう良いわ。私と彼の邪魔をする奴は友だちなんかじゃない。さようなら」
ゆり「あっ、サイリ！」
ゆり「──あなたのそれはもう、『異常』なの・・・」

〇ストーカーの部屋
「くそっ!!!!!!」

〇ストーカーの部屋
サイリ「ぁあああああああぁあああああああぁあああああああぁあああああああぁあああああああぁあああああああぁあああああああっ!!!」
サイリ「ふざけんなクソが!!!!!!!!!!!!自分は彼氏いるってマウントかよ!!!!!!??????」
サイリ「知ったような口を聞くなっ!!!!!!私には彼さえいればいい!!!!!彼は裏切らない」
サイリ「だって彼は私のこと愛してるって言った!!!毎日毎日お金だって貢いでる」
サイリ「彼と私は相思相愛なの」
サイリ「だから」
サイリ「・・・そうだ。だから、」
サイリ（何を失っても怖くないんだった）
サイリ「お金、稼がないと」

〇ラブホテルの部屋
客A「はぁ、はぁっ」
客A「いやー今日も楽しかったよ 制服姿も最高だね」
サイリ「それならよかった。じゃあ次もよろしくね」
客A「勿論!!はい、今回の分のお金！」
サイリ「──ありがとーう」

〇ラブホテル
客A「今日も楽しかったよ！それじゃあまたね！」
サイリ「バイバーイ」
サイリ「ちっ」
サイリ（また次もお願いしようと思ったけど、コスプレサービスしてあの額は流石にないわ）
サイリ（女の「バイバイ」は、次は会うつもりはないって意味だと知らずに可哀想）
サイリ（──とはいえ、こんな額じゃ彼を満足させられない。もっと稼がないと）
サイリ「私が稼いで養わないと。私のお金が必要なんだから。私が彼を──」
サイリ「・・・もしもし、りょーくん？今ヒマー？ねぇ、これから──」

〇ストーカーの部屋
「・・・ただいま」

〇ストーカーの部屋
サイリ「はぁっ・・・流石にあの後に２人はキツかったな」
サイリ「でも、おかげでお金はちょっと稼げたよ」
サイリ「この部屋に来ると、私が身体を売って稼いだお金があなたに流れてるんだって実感できる」
サイリ「嬉しいなぁ。やっぱりあなたには私が必要だものね」
サイリ「あっ、大変！そろそろSNSチェックしないと」
サイリ「──えっ」

〇SNSの画面
　　【季節イベント】ピックアップガチャ
　　⭐︎５ ミント『あなたのための歌』
　　CV 真中　聖
　　
　　ガチャを回してゲットしよう！

〇ストーカーの部屋
サイリ「──は？」
サイリ「ミントくん次イベ最高レア・・・?? 嘘でしょ？」
サイリ「絶対に凸らせる!!!!!!」
サイリ「ガチャは明後日からだよね!?それまでにお金たくさん貯めないと!!」
サイリ「描き下ろしの表情最高すぎ!!!!!」
サイリ「新しいグッズも出たから、そっちも買って支えないとね！」
サイリ「好きな人にお金貢いでる時が最高に幸せ！」

〇電脳空間
　　そう、私の愛する彼は
　　『アプリゲームのキャラ』である

〇ストーカーの部屋
サイリ「とりあえず魔法のカードは10枚くらい買っておこうかな」
サイリ「運営に「このキャラは人気ないからお金にならない」なんて認識されたら」
サイリ「これから出番減るかもしれないし」
サイリ「でも大丈夫。私がそんなことにはさせない。お金は稼げばいくらでも作れるもの」
サイリ「さて、周りの反応でも見ようかな」

〇SNSの画面
百瀬❤️10/30 47a コス参加予定「今回のミントくん本当にカッコ良いから絶対に手に入れたい✊❤️」
もやし　ホワラブ沼「今回のカード狙いすぎて草。ミント推しは過激派多そうだし同担拒否ガチ恋イメージ強くて無理」
Ta-cha「ミント最高レアかー！排出率えぐいし天井ないから無料分で出なかったら諦める」
　　【天井】ゲーム内のガチャにおいて
　　一定の条件を満たすと欲しいカードが
　　手に入るシステムのこと。
　　【天井がない】と、極端な話
　　100万円を使っても欲しいカードが
　　手に入らない可能性もあるのだ

〇ストーカーの部屋
　　ブロック
　　ブロック
　　ブロック
サイリ「彼を好きな奴も、彼の悪口言う奴も、無課金勢も」
サイリ「全員いなくなればいいのに」
サイリ「彼には私だけがいればいい。私が１番彼を愛してる。他はいらない」
サイリ「特に無課金勢は価値すらない。 乞食どもが足引っ張るな」
サイリ「お前らみたいなやつがミントくん好きってだけでこっちは気が狂いそうだわ」
サイリ「私はあいつらとは違うのよ」
サイリ「さて、明日からも頑張らないと！」

〇ラブホテル

〇ネオン街

〇シックなバー

〇ストーカーの部屋
「ただいまー！」

〇ストーカーの部屋
サイリ「ついに今日からガチャ開始！とりあえず15万円分は用意したわ」
サイリ「あれから結局これくらいしか集められなかったけど・・・」
サイリ「待っててねミントくん!!今迎えに行くわ」

〇ストーカーの部屋
　　10分後

〇ストーカーの部屋
サイリ「お、おかしい。嘘でしょ」
サイリ「まだ１枚も出ないなんて・・・」
サイリ「もう200連よ？他のキャラの高レアや恒常なら出てるのにこんなにすり抜ける？」
サイリ「物欲センサーふざけんな！さっさと彼を出せ!!!」
サイリ「──いや、まだ大丈夫。15万円あれば凸れるはず」
サイリ「彼も私を愛してるんだから。恥ずかしがってるだけよ」

〇ストーカーの部屋
　　更に５分後

〇ストーカーの部屋
サイリ「やっっっっっっと出た!!!!!!!!!!!!」
サイリ「途中本当に実装されてるのか心配になり過ぎてSNS開こうと思ったけど」
サイリ「それでひいてる人がもしも目に入ったら憎くてどうにかなりそうだから堪えたのよね」
サイリ「あぁっ最高・・・ずっと眺めてられるわ大好き愛してる」
サイリ「まだまだあと４枚は出すから待っててね」
　　ガチャに必要な石が足りません
サイリ「えっ、もう？さっき課金したばっかりなのに」
サイリ「えっ、待って。今既に10万近く使ってる？」
サイリ「息を吸うようにお金を入れてたわ」
サイリ「もしも残り５万で４枚来なかったらどうしようかしら。またホテルに行って、バーで働いて」
サイリ「あっ、ブランドのバッグとかコートも売ればいっか。それで10連分くらいにはなるかな」
サイリ「お金になりそうなものは売っていかないと！沢山私が貢ぐ程、彼への愛が確かめられる」
サイリ「愛しい愛しいミントくん」
サイリ「どうかこれからも、沢山貢がせてね」

〇ストーカーの部屋

〇渋谷のスクランブル交差点
　　近年のアプリゲームはまさに戦国時代。
　　売り上げが悪いゲームは、
　　問答無用でサービスが終了する。
　　ゲームソフトとは違い、
　　終われば手元になにも残らない
　　パターンも珍しくはない。
　　そうならないため１番有効的な方法は、
　　「課金をすること」だ。
　　推しに少しでも長く活躍して欲しかったら、
　　お金を使うこと。
サイリ「だから私は課金をする。彼が生きた証を作るために。彼がこれからも生きるために」
サイリ「どんなにガチャで出なくても。どんなに酷い運営でも。どんなにお金がなくなろうと」
サイリ「何を失っても」
サイリ「私は今、最高に幸せなのだ」

〇黒
　　これは、◯百万貢いで末、
　　ゲームのサービスが終了した
　　とある女の子の話である。
　　なお、この物語は

〇白
ゆり「100%のフィクションではない」
　　次回へ続く