死活問題

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇シックなバー
  カランカランと来客を知らせる鈴が鳴る。
アメリア「いらっしゃい」
パセル「やあ、マスター。目覚めの赤ワインをもらえるかい?」
アメリア「あら、パセル。起きたばっかりなの? 相変わらずお寝坊さんね」
  パセルが椅子に座る。
パセル「よいしょっと」
アメリア「くすっ。親父くさいわよ」
パセル「うるさいなぁ。最近、鉄分が足りないせいでふらつくんだよ」
  アメリアがパセルの前に、コップを置く。
アメリア「お待ちどうさま」
パセル「・・・あれ? これ、トマトジュースだよ? 赤ワイン頼んだんだけど」
アメリア「鉄分不足なんでしょ?」
パセル「いや、俺、鉄分は・・・って、まあ、贅沢言ってる場合じゃないか。ありがたく、もらうよ」
  トマトジュースを一口飲むパセル。
パセル「うわ! すごい美味しい! 全然、トマトジュースっぽくない!」
アメリア「ふふっ! 本物っぽいでしょ?」
パセル「ああ、すごいな。飲み比べてもわからないんじゃないかな? 再現率がヤバいよ」
アメリア「ありがと。その分、普通のお客さんには出せないけどね」
パセル「あー、だろうね」
アメリア「それより、パセル。あと30分でお店閉めるから、他に注文があるなら、早めにお願いね」
パセル「ええ!? もう閉めるの? いや、どっちかと言えば、これからの時間が本番でしょ?」
アメリア「・・・パセル、ニュース見てないの? 例の感染症でお店は20時までなのよ」
パセル「え? ホント? ・・・あー、だから夜に町に人がいないのか・・・」
アメリア「・・・パセル。もう少し、テレビとかネットとか見た方がいいわよ」
アメリア「昔と違って、私たちも情報が命の時代になってるんだから」
パセル「うーん。面倒くさい時代になったよなぁ・・・」
アメリア「あら、そうでもないわよ。使いこなせれば、とっても便利なんだから。パセルも使ってみるべきよ」
パセル「・・・考えておくよ。けど、マスターはどうしてるの、飯の方は?」
アメリア「一応、作り置きして、保存してるわ。味は落ちちゃうんだけどね」
パセル「えー! 準備いいね。俺、なんも準備してねーや」
アメリア「だから、ニュースは見た方がいいって言ってるのよ」
アメリア「ニュース見てれば、一か月くらい前からこうなるって予想は出来たわよ」
パセル「・・・ニュースか。見ないとな。・・・で、マスター、相談なんだけど・・・」
アメリア「分けてあげないわよ」
パセル「えー! そんなこと言わないで! ね? お願い! 今度、何か奢るから」
アメリア「はあー。奢ってもらうより、ツケを払ってほしいわ」
  コトンと瓶を置くアメリア。
アメリア「一つだけよ。大事に飲みなさい」
パセル「さすが、マスター! 大好き!」
アメリア「はいはい。お世辞はいいから、毎月、ツケの利子分くらいは払ってね」
パセル「けどさー、国もエグイことしてくれるよな。20時以降、お店を閉めろだなんて」
アメリア「どちらかというと、20時以降は外に出ないようにって感じだけどね」
パセル「うっ! もっとヤバいじゃん」
アメリア「だから、前もって準備が必要なのよ」
パセル「でも、20時はエグイな。仕方ない、明日からは早起きするか」
アメリア「遅くても18時には起きないとね」
パセル「きっついなー。夏だったら、まだ明るい時間だよ」
アメリア「その分、早く寝ればいいじゃない。3時とか」
パセル「早寝、早起きか・・・。健康になっちまいそうだな」
アメリア「くすっ。いいじゃない。この機会に少しは生活習慣、見直してみたら?」
パセル「考えておくよ。・・・けど、他のみんなどうしてるんだろ?」
パセル「マスターみたいにみんな、準備してるわけじゃないでしょ」
アメリア「そうね・・・。仕事帰りの人とか、それでも夜に出歩いてる悪い子を狙ってるんじゃないかしら」
パセル「ははは。出歩ている悪い奴はまさしく罰が当たるって奴ね」
アメリア「仮に狙われても、本人は覚えてないけどね」
パセル「俺たちにしてみれば、その方がいいよ。反省して家に閉じこもられたら困るし」
アメリア「ふふ。そうね」
パセル「しょうがない。俺もその辺狙うか」
アメリア「それがいいわね。あ、でも、ちゃんとルールは守りなさいよ。あと、仲間と喧嘩もしないように」
パセル「ははは。マスターは俺のお母さんみたいだな」
アメリア「失礼ね。私はパセルみたいな出来の悪い息子を持った覚えはないわよ」
パセル「へいへい。出来が悪くて悪うござんした」
アメリア「さてと、そろそろ閉店の準備しようかしら。パセル、他に何か注文ある?」
パセル「ん? いや、いいや。今から何か作ってもらうのも悪いし」
アメリア「そう。それじゃ、片付け始めちゃうわね」
  アメリアが色々と片付け始める。
パセル「さてと、俺もそろそろ帰るかな」
  パセルがコップを置いて、立ち上がる。
パセル「明日はもっと早い時間に来るよ」
アメリア「ええ。待ってるわ」
パセル「・・・・・・それにしてもさ」
アメリア「なに?」
パセル「ヴァンパイアには住みづらくなったよな」
アメリア「そうね」
パセル「それじゃ、早いけど、お休み」
アメリア「お休みなさい」
  ドアが開くと同時に、カランカランと鈴が鳴り、パセルが出ていく。

コメント

  • そもそも対策なのか政策なのか今となってはよくわからない夜営業への規制、こんなところにもその影響を受けているものがいたんですね!・・かわいそうに、早起きするバンパイアなんてちょっと拍子抜けしますが、頑張ってほしいですね。

  • ”食事”などの布石の後の、このサラリとしたオチの感じ、とても好きです。あの施策で最もワリを食ったのは彼らなのかもしれませんね。朝活ヴァンパイアなんて想像したらw

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