奇妙な1話 温泉旅館のトイレ食堂 (脚本)
〇テクスチャ
キヨミ「どーも、こんにちは キヨミです」
キヨミ「えっと、この話のタイトル見ました?」
キヨミ「そうなんです・・・ あたし、「奇妙体質」なんです」
キヨミ「なんだそれ、って今思ったでしょ あたしもそう思う」
キヨミ「まーつまり・・・ 行く先々で奇妙なものに 巻き込まれるっていう体質でして・・・」
キヨミ「・・・信じてないでしょ、その顔」
キヨミ「いいよ、じゃあ勝手に話すから これは半年くらい前の話でぇ・・・」
〇寂れた旅館
その日、あたしは温泉旅館に出かけたの
まぁ彼氏もいないし、おひとり様でね
ちょっと山の中だけど
湖が見えて、景色のいい温泉旅館・・・
でもそこにはひとつ
問題があって・・・
〇古いアパートの廊下
キヨミ「どういうこと!?」
仲居さん「ええ、ですので お食事はこちらで取っていただき・・・」
キヨミ「ここで、って・・・ でも・・・」
キヨミ「ここ、トイレでしょ?」
仲居さん「はい」
キヨミ「いやいやいやいやいやいやいや はい、じゃなくない!?」
仲居さん「これは失礼いたしました 左様でございます」
キヨミ「いや敬語の話はしてないけどね!?」
仲居さん「・・・ええと なにかお気に召さないことでも・・・?」
キヨミ「お気に召さないよ! なんで食堂がトイレなの!?」
仲居さん「うちは創業よりその形で やらせていただいておりますから・・・」
キヨミ「「山の幸をふんだんに使った豪華料理」 って書いてあったから来たのに・・・」
仲居さん「それについてはご安心ください 最高のものをご用意しております」
キヨミ「トイレに!?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「えっと、それじゃこの 「希少・根曲がり筍の天ぷら」も・・・」
仲居さん「ご用意しております」
キヨミ「トイレに!?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「それじゃこの 「舌でとろける桜肉のトロ刺身」も・・・」
仲居さん「ご用意しております」
キヨミ「トイレに!?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「「メインデッシュの桜鍋は 秘伝のタレ仕立て」ってのも・・・」
仲居さん「お運びします」
キヨミ「トイレに!?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「えーと・・・? 頭痛くなってきたわ・・・」
仲居さん「あ、ビールはどうなさいますか?」
キヨミ「その話はいいの!」
キヨミ「だから待ってよ・・・だいたい トイレの中でどうやって食べるの?」
仲居さん「そのことでしたらご安心ください」
〇黒
〇旅館の和室
仲居さん「この通り 中は改装してございまして・・・」
キヨミ「う、わあ・・・」
仲居さん「広い畳の上で ごゆっくりおくつろぎいただけます」
キヨミ「あー・・・えっと?」
キヨミ「でも・・・トイレなんでしょ?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「その・・・便器とか・・・ あるわけでしょ?」
仲居さん「ああ、それについてはですね 嫌がるお客様も多いので 取り外してございます」
キヨミ「え・・・え?」
仲居さん「床の下の下水管も 工事の上で外しておりますので 匂いについてもご心配いりません」
キヨミ「待って? 待って待って待って待って待って?」
キヨミ「でも・・・ここはトイレなのよね?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「入り口に思いっきり トイレの表示をしてるのよね?」
仲居さん「はい!」
キヨミ「あー・・・うん? あれ?」
仲居さん「なにか問題がございますか?」
キヨミ「なんだろう・・・ないような気もするし 問題しかないような気もする・・・」
仲居さん「それでは、お食事をお運びしますね」
キヨミ「待って! ちょっと待って!」
仲居さん「まだなにか・・・?」
キヨミ「なんでそんな 心底不思議そうな顔ができるの・・・?」
キヨミ「えーっと、だからぁ・・・ そうだ、部屋食にはできませんか!?」
仲居さん「ああ、もちろん可能でございますよ」
キヨミ「ぃよっしゃぁぁぁ!! これで勝つる!」
仲居さん「それじゃ、お部屋の方のトイレに お運びいたしますね」
キヨミ「待って待って待って待って待って!!!!」
仲居さん「まだなにかあるんですか?」
キヨミ「・・・へ、部屋のトイレに・・・ 便器は・・・?」
仲居さん「ございます」
キヨミ「いやあああああああ!!!」
キヨミ「やめ! 部屋食はやめで!!」
仲居さん「・・・お客様・・・ いい加減にしていただけませんか?」
キヨミ「え・・・」
仲居さん「私共は客商売でございますが・・・ お客様の奴隷ではございません」
キヨミ「あ・・・えっと?」
仲居さん「良いサービスを提供するには お客様との信頼関係こそが大事と存じます」
仲居さん「私共は、部屋や食事でなく 「体験」に対価をお支払いいただくのです」
キヨミ「な、仲居さん・・・!」
仲居さん「ご用意した空間への参加意識がなければ 「体験」の提供は叶いません・・・」
仲居さん「私共はお客様に 楽しんでいただこうとその一心で・・・」
キヨミ「そんな・・・あたし・・・」
キヨミ「すいません、仲居さんの気も知らず・・・」
キヨミ「・・・ってなるかー!! だからなんでトイレなのよ!?」
仲居さん「・・・そこまで言うなら 致し方ありません」
キヨミ「・・・え?」
〇黒
〇旅館の和室
キヨミ「え、ちょっと? なんで戸を閉めて・・・?」
仲居さん「私共にも意地というものがございます」
仲居さん「腕によりをかけ、ご用意した食事・・・ ひと口でも食べていただかねば ここから帰すことはなりません」
キヨミ「・・・なッ!?」
仲居さん「さあ、食べていただきます この桜肉でも、根曲がり筍でも!」
キヨミ「・・・で、でも・・・! ここはトイレなんですよね?」
仲居さん「左様でございます」
キヨミ「うう・・・ッ!」
キヨミ(落ち着け・・・ 落ち着くのよキヨミさん)
キヨミ(こんな時はイグアナが首を振って 求愛行動をする姿を思い浮かべて 落ち着くの・・・)
仲居さん「さあ、なにになさいますか?」
キヨミ(ここは畳が敷かれたくつろぎの空間・・・ 便器だって取り外されていて・・・)
キヨミ(でも・・・ 入り口にはトイレの表示が・・・ッ!!)
仲居さん「さあ、お客様・・・ッ!!」
キヨミ「・・・・・・ッッッ!!!!!」
〇テクスチャ
キヨミ「・・・「便所飯」という言葉が 話題になったことがあったよね・・・」
キヨミ「様々な事情から トイレで食事をとる人がいることは あたしも知ってる」
キヨミ「でも・・・高いお金を払って トイレで食事をしてきたのは あたしくらいでしょうね・・・」
キヨミ「あたしは奇妙体質のキヨミさん 高いお金を払って トイレで食事をしてきた女・・・」
キヨミ「めっちゃ美味しかったわ、桜鍋・・・」
キヨミ「・・・」
キヨミ「・・・はぁ」
キヨミ「・・・じゃーね」
〇黒
<つづく>
入口に表示がしているだけならセーフ……なのか!? これはすごく困惑するシチュエーションですよね。部屋食にした場合はガチの便所飯になるのだと思うと……(^▽^;