とある転生前の過ごし方

篠也マシン

弱気な少年と天使が織りなす、転生直前のストーリー(脚本)

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〇西洋の街並み
小山「ついに転生したぞ!」
  目の前に広がる街並みは、まさにファンタジーの世界。
  胸を高鳴らせた瞬間──
  目覚まし時計の音が鳴り響く。

〇男の子の一人部屋
小山「やっぱり夢か・・・」
  僕はため息をつき、起き上がった。

〇教室
工藤「おい、小山。カレーパン買ってこい」
小山「うん」
  この男はクラスのリーダーである工藤。
  僕をパシリ扱いする嫌な奴だが、従うしかない。
小山(彼みたいになりたくないしな・・・)
  大林君が寂しそうな表情で教室を出ていくのが見えた。
  彼は先代のパシリで、工藤に逆らったことで「ぼっち」となった。
小山(さっさと買ってこよう)

〇教室
工藤「おい、カレーパンじゃねえぞ」
小山「売り切れだったから・・・」
工藤「ちっ、金は払わねえからな」
小山「え」
工藤「何か文句あるのか?」
小山「べ、別に」
  僕は反論できず、顔を伏せた。

〇街中の道路
  この世界にいても良いことなんて何もない。
小山(ラノベのように、異世界に転生できたらな)
  目の前の道路には、車が激しく往来している。
小山(一歩踏み出せば、別の世界へ行けるかもしれない)
  そう考えた瞬間、誰かに肩を掴まれる。
「残念だけど、君が転生するのは今じゃない」
  振り返ると、怪しい男が立っていた。
小山(この人、なぜ僕の心を?)
天使「私は天使だからね」
  男が背中を向けると、そこには真っ白な翼が生えていた。
  僕はぽかんと口を開けた。
天使「君が転生するのは四日後だ」
天使「軽はずみな行動はしないように」
  この男、どうやら本当に天使らしい。

〇男の子の一人部屋
小山「それで、さっきの話は本当?」
  僕以外に天使の姿は見えないようだ。
  天使は、家族にも怪しまれることなく部屋までついてきた。
天使「もちろん」
天使「私はこの世界が嫌になった人間をスカウトし、別の世界へ転生させるのが仕事でね」
小山(こんなチャンスが巡ってくるとは!)
小山「転生後の僕はどんな人になるの?」
天使「転生先の世界では今のステータスが反映されるから──」
天使「ひ弱なモンスターだろうね」
小山「そこは勇者とかになるんじゃないの!?」
天使「残念ながら」
小山「嘘だろ・・・」
  喜んだのはほんの一瞬。
  僕は肩を落とした。
天使「まあ、方法がないこともない」
  男は悪魔のような笑みを浮かべた。

〇教室
工藤「小山。今日もカレーパンな」
  転生三日前。
  いつものようにパシリ扱いを受ける僕。
  昨日、天使が語った言葉を思い出す。

〇男の子の一人部屋
天使「転生するまでに、なるべくステータスを上げればいいのさ」
天使「どうせ生まれ変わるのだから、思い切りやればいい」

〇教室
小山(天使の言う通りだ)
小山(今までのうっぷんを晴らしてやる!)
  僕は大きく息を吸い込む。
小山「──急いで買ってくるよ」

〇学校の廊下
天使「やれやれ、結局言いなりじゃないか」
小山「うるさい」
小山「簡単に変われるなら、苦労しない!」
天使「その通り、よく分かってるじゃないか」
  何も言い返せなかった。
  たしかに今変われないのなら、転生しても結局同じ。
小山(よし、明日こそは!)

〇教室
  転生二日前。
工藤「おい、小山。今日も昼飯を──」
小山「ごめん・・・ちょっと用事があって」
  とはいえ、いきなり性格が変えられるはずはない。
  これが僕にできる精一杯の抵抗だ。
工藤「てめえ、俺の頼みより大事な用事があるのかよ!」
小山「まあ、その・・・」
工藤「いい度胸だ。お前も大林みたいに「ぼっち」で過ごすといいぜ」
  胸を押され、僕は床に転げた。
  クラスメイトたちが笑う中、僕は教室を飛び出した

〇学園内のベンチ
  天使がラッパを取り出し、ファンファーレを吹く。
  ゲームに出てくるレベルアップの音みたいだ。
天使「頑張ったじゃないか」
小山「見てたのなら、助けてくれよ」
天使「僕が手助けしたら、君のステータスは上がらないからね」
  大した抵抗はできなかったけど、少し強くなった気がする。
小山「これで転生後は勇者になれるかな?」
天使「残念! 村人ぐらいかな」
  僕は苦笑した。
小山(ん? あれは・・・)
  裏庭の隅。
  ベンチで一人寂しく昼食をとる大林君の姿が見えた。
小山(こんな所にいたんだ)
  この裏庭は人も少ないし、時間をつぶすのに良さそうだ。
  工藤にちょっかいをかけられないように、明日はここで過ごすか。

〇教室
  転生前日。
  僕は工藤たちから無視され、晴れて「ぼっち」となった。
  ずっとクラスで孤立するのが怖かったが、いざなってみると──
小山(案外気楽だな)

〇学園内のベンチ
  昼休み。
  裏庭に向かうと大林君の姿があった。
  僕は彼に不思議な親近感を覚え、近づく。
小山「僕もぼっちになってしまったらしい」
大林「そうなんだ」
  しばらく無言で、お互いに昼食を口へ運んだ。
  時折、僕が何かつぶやくと、彼が短く答えた。
  少しずつ言葉は長くなり、リズミカルなキャッチボールが行われるようになった。
小山「あ、もう昼休みも終わりか」
  予冷が鳴った。
  思ったより、早く時間が過ぎたことに驚く。
大林「なあ、明日も一緒に昼飯を食べないか?」
  僕は少し悩んで答える。
小山「いいよ」
  様子を見ていた天使がファンファーレを吹いた。
  それは仲間が増えたことを示す温かなメロディー。
  僕は心の中で、約束を守れないことを詫びた。

〇男の子の一人部屋
  もうすぐ時計の針が十二時を回ろうとしていた。
小山(ついにこの世界ともお別れか)
小山「なあ、このまま眠るだけでいいの?」
天使「ああ、それだけでいいよ」
小山「本当かよ・・・」
天使「この数日間で君はレベルアップし、仲間も増えた」
天使「きっと、これからも大丈夫さ」
小山「どういう意味?」
  天使は優しい笑みを浮かべた。
天使「さあ、眠るんだ」
天使「次に目を開けた時、君は四日前より少し良い世界で目覚める」
  僕は眠る。
  そして次に目を開けた時、僕は四日前より少し良い世界で目覚めた。

コメント

  • サブカル魔王に出てくるラノベ勇者とどこか通ずるものがありますね。異世界転生せずとも、気持ちを入れ替えれば今の世界でもやっていける。そんな、ちょこっとだけ変われる、成長できるストーリーが心地良いです。

  • 結局のところ自分を変えられるのは、自分だけなんですよね。
    天使のおかげでそれに気づいてよかったです。
    嫌な人に仲良くしてもらうより、自分と気が合う人を探す方が絶対楽しいですよ!

  • 自身んの取り巻く現状が嫌なものだったとしても、それを変えようとするには、きっかけや思い切りが必要になりますよね。天使は別の意味でも"天使"のような存在ですね。
    ラストを含め、読んでいてとても清々しい気持ちになりました。

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